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「ふう・・・。」


水の音がする。外からも。すぐ傍の浴室からも。


「あ・・・ああ・・・ああああああああ・・・!!」


あたしこと、城沢海はベッドの上で頭を抱えていた。

どうして!?心の準備もまだなのに、水島と一緒にラブホテルにいるのよ!あたしはあああああああ!!!!






[ ソレは油断したらやって来る。 ]






「水島!今夜のディナーはどうする?」

「・・・・・・どうするって・・・無理矢理連れて行く気なんでしょう?」

「・・・なんですって?」

「あ、いえ・・・お供します・・・。」


そう言って、会社帰りの水島を捕まえた・・・までは、計画通り。

計算外だったのは・・・


”ザア――――――――ッ”


「・・・ゲリラ豪雨って奴ですね・・・。」

「・・・そうね・・・。」


水島の言葉にあたしは力なく答える。

・・・何もこんな夜に突然降り出す事ないじゃない!最低!!

傘も持ってないから、当然ずぶ濡れ。


「・・・・・・。」

黙って水島が自分のスーツの上着を脱いで、あたしの頭の上にかぶせる。


「ちょ・・・っ!?」

「濡れますから。」


(何よ・・・さり気ない、その優しさは・・・!)


しかも。水島はもう既に雨でビシャビシャに濡れて、Yシャツが透けて・・・ブラが・・・透けて・・・


(・・・う、薄い・・・水色・・・!?)


水島らしいチョイスと言えば、らしいけれど!

待って!女の下着が透けて見えてるだけで、なんであたしがこんなに動揺してるのよッ!?


”――ザバアッ!!!”


「・・・車って、色んな意味で凶器ですね・・・。」

「・・・そうね・・・。」


水島の言葉に、力なくあたしは答える。

追い討ちというか、ダメ押しで猛スピードで走行する車に水を頭から掛けられる。

これで、もう二人共、びしょ濡れだ。最低の上に超がつく。


「・・・もう、ダメですね・・・。」

「・・・そうね・・・。」


水島が髪をかきあげ、いつもより淀んで荒んだ目で空を見ていた。

諦めて、あたし達は歩く事にした。


「・・・とはいえ、いつまでも、このままという訳には・・・あ。こっち。」

「え・・・?」


不意に水島があたしの腕を引っ張った。

雨で冷たくなったあたしの手を、まだ温かいままの水島の手がしっかりと掴む。

掴むのは良いとして・・・いや!良くない!!


「な、な・・・なによ!?」

「入ります。」


「入るって・・・!そこ、どこだか解って言ってるの!?」

「・・・ええ。」


水島が真っ直ぐ向かっていく”そこ”とは、ラブホテルだった。・・・作者は余程ラブホテル展開が好きらしい。

 ※注 失礼な。


水島は淡々と入室手続きを済ませて、あたしをぐいぐい引っ張っていく。

(水島・・・?)


こういう強引な水島、初めてかもしれない。

いつも、びくびくしてるのに、なんで今日はこんなに堂々としてるの・・・?ここ、ラブホテルよ?

なんだろう・・・ドキドキ・・・する、かも・・・。


扉を開けて、水島に中に入るように左手で誘導される。

意外と普通の部屋・・・もっといやらしい感じなのかと思ったら、最近のラブホテルって香里の部屋より綺麗なんだ。

 ※注 海お嬢様の庶民の基準は、主に伊達さんか水島さん。 


部屋は暖かいけれど、とにかく、濡れたこの服どうにかしなくちゃ・・・。


「・・・先にシャワーどうぞ。」


また、不意を突いてくる水島の言葉。

シャワー?水島が一緒にいる、この空間で浴びろって言うの?


「え!?え・・・いや、あの・・・・・・・・・・・・・い、いい。」


濡れた服の裾を掴んで、あたしは目を逸らした。


「でも・・・風邪、引きますよ?」

「い、いいったら!!だったら、水島が先に入ってよ!!」


片手でシッシッと追い払うように、あたしはそう言った。

すると、水島は浴室からタオルとバスローブをベッドの上に置いて言った。


「・・・じゃあ・・・お先に。せめて・・・これに着替えておいた方が良いですよ。」


やけに落ち着いた水島の声。

・・・動揺してるのは、あたしだけ?

ぽつんと残されたあたしは、ようやくのぼせ上がった頭を冷やし、服を脱いだ。

ちらりとみると、水島の服を脱いでいるのがうっすら曇りガラスの向こうに見える。

・・・ヤバイ・・・ここは、本当にラブホテルなんだ・・・と改めて脳に叩きつけられる。


水の音がする。外からも。すぐ傍の浴室からも。


「あ・・・ああ・・・ああああああああ・・・!!」


あたしこと、城沢海はベッドの上で頭を抱えていた。

どうして!?心の準備もまだなのに、水島と一緒にラブホテルにいるのよ!あたしはあああああああ!!!!


(か、考えすぎ・・・そうよ。あの水島が、あたしをラブホに連れ込んだ勇気だけは褒めてやるとしても、よ

この先、あたしをどうこうしようとなんてする訳ないじゃない!)


水島は、人嫌い。嫌と言うほど知ってる。

だから、水島からあたしに触れる事は無い。


『だけど、さっきは触れたじゃない。しかも、強引に、ホテルに連れ込むなんて。』


もう一人のあたしが囁く。


『今日の水島は半ば自棄を起こしてる。幸運な事故って事で、襲っちゃえば?』


(な・・・何、考えてんのよ!!)


『早く襲って欲しいのに、このまま、ず〜っと待ってるつもり?』


(うるさいっ!あたしは・・・)


あたしは、水島が自分のスーツを脱いで、あたしに被せて雨から守ってくれたあの優しさが嬉しかった。

雨の中、二人で仕方ないねという感じで半笑いで歩いている時間が嬉しかった。

強引でも、あたしを気遣ってくれて、連れ込まれたのがラブホテルなのだとしても、嬉しかった。


「・・・海ちゃん?」

「ひゃう!?」


バスローブに身を包んだ水島が頭を拭きながら、静かにこちらにやって来る。気配くらい、もっと出しなさいよ!!


「風邪、引きますから。」

「わ、わかった。わかったから・・・!お願いだから・・・あっち、向いてて。」

「え?」

「うっすら透けて浴びてるの見えるのッ!ばかっ!」


あたしがやっとそう言うと、水島は面倒臭そうな顔をしながら「あー・・・はい。」とだけ答えた。


バスローブを脱いで、熱いシャワーを浴びる。

考えるのは、これから、どうするのか。


きっと、水島は何もしないだろう。だから、変な安心感がある。

きっと何も起こらない。だから、あたしが変な事を考えて突っ走る必要なんて無いのだ。


冷え切った身体がどんどん熱くなる。


(水島は、どうしてるのかな・・・。)


曇りガラスの向こうで、何かを吸っているような動作。・・・タバコだ。

・・・まったく。禁煙しろって言ってんのに。


(ていうか、くつろいでるじゃないの・・・。)


なんだ、意識し過ぎなのは、あたしだけか。肩透かしを喰らったような気分で、備え付けのドライヤーで髪を乾かす。


「ふう・・・安いホテルも清掃が行き届いていれば、雨宿りには最適かもね。」


あたしはすっかり上機嫌でベッドに座った。

水島は相変わらずタバコを吸っていた。タバコは嫌いだけど、タバコを吸ってる水島の横顔は・・・好きだ。


「・・・女同士でラブホテルに入ってパーティーして帰る人もいますからね。片付けしなくてもいいから。」

「そうなの?」


「・・・まあ、私達は別ですけど。」

「・・・え・・・?」



咥えタバコのまま、水島があたしにそう言った。


「・・・雨宿り。」

「・・・うん。そうよ?他に何があるの?」


平常心。

そうだ。目的は、雨宿り。


「・・・ドリンク、何か飲みます?」

「あ・・・うん、お茶でいい。」


いささかぎこちない会話だとは思えど、疑問を感じたら負けだと思って、あたしは水島からお茶を受け取る。


「雨が止んだか、どうかがわからないのが、ラブホテルの難点ですね。」

「そうね・・・早く出てディナー行きたいもんね。」


当初の目的は、一緒に食事する事。

一緒の時間を過ごす事。

・・・いや、後者の目的はもう達成してるか・・・。


「・・・・・・私は、別に。」

「・・・え?」


「いや、ディナーが嫌って訳じゃなくて。」

「じゃあ、何よ・・・?」


水島がタバコを吸って、灰皿に押し付けて火を消して、こちらの目をじっと見た。


「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」


な、何よ・・・この沈黙・・・。

何、変な空気出してんのよ!?水島!!


「ちょ、ちょっと・・・何よ・・・いきなり黙り込まないでよ・・・変な空気になるでしょ!?」

「変?」


どんどん、あたしは墓穴を掘る。

それもこれも全部、水島のせいだ。


「水島は・・・なんとも思ってないかもしれないけどね!あたしは・・・あたしは・・・結構・・・いや、何でもない・・・もう嫌ッ!」

「・・・・・・。」


水島が無言であたしを抱きしめた。

「ちょ・・・!」


あたしは、それ以上の言葉を失う。

水島の右手が、あたしのバスローブの紐を解く。胸がはだけて、あたしは思わず足を閉じる。それを割って入るように水島が覆いかぶさる。


「・・・・・・海ちゃん・・・大人のお姉さんを舐めちゃいけないよ。」


そう言って、水島があたしの上に覆いかぶさったまま、ニッと笑った。


「・・・な・・・!?」


鎖骨から、胸をなぞる水島の指。

あたしは・・・あたしの身体は、どんどん熱くなって・・・熱くなって・・・



「――――はあッ!?」



「・・・お嬢様・・・起床のお時間で・・・んまあ!すごい汗!!」


あたしはベッドの上にいた。自分のベッドの上に。

・・・夢オチかよ・・・。ぐったりしながら、あたしは乳母が慌しく駆け回るのを黙ってみていた。

やはり、というかなんというか、あたしは風邪を引いていた。

結構、熱が高くて、頭がグラグラして気分が悪い。医者に注射を一本打ってもらって楽にはなったけれど、やっぱり身体はだるかった。

それに・・・あの夢・・・。


「ちゃん・・・。」


そうだ、あの夢のせいだ。馬鹿水島・・・。


「・・・海ちゃん。」


瞼を開けると、水島がいた。あたしの寝顔を覗き込むように。


「・・・水、島・・・!?」

「会長から、これ持って行くように言いつけられまして。」


そう言って、カゴからマンゴーを取り出して見せた。


「事務課って、何でもやるのね・・・。」

「・・・はい。基本、言われた事で出来る範囲内であれば。」


「・・・ふうん。」

大変ね、とねぎらいの言葉を言おうとしたあたしに向かって、水島は言った。


「会長は、早く海ちゃんの風邪が治るように祈ってる、とおっしゃってました。」

「・・・わかった。ちゃ〜んと治すわよ。」


要するに、会長に言われなきゃ水島は来なかったんでしょ?という言葉をあたしは飲み込んだ。


「・・・だから・・・移して下さい。」

「・・・・・は?」


「・・・私に、風邪を移して下さい。」


そう言って、水島はあたしに顔を近づけてくる。


「ちょ・・・ちょっと!?うつすって・・・!?」

「・・・私に風邪を移して、早く良くなって下さい。」


そう言って、水島は強引にあたしの唇を塞いだ。




「―――はぁッ!?」


「・・・お嬢様・・・起床のお時間で・・・んまあ!すごい汗!!」




・・・もう、嫌・・・ッ!!!(泣)



[ ソレは油断したらやって来る。・・・END ]



あとがき

水島さんのキャラ崩壊が著しいですが、夢なので仕方ないんです。

夢オチ。・・・大好きです。