私の名前は、水島。


悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。


性別は女、年齢25歳。

ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない、本当に普通のOL。


ただ・・・呪われている事以外は・・・。




『は〜い!今年も残りわずかになりましたね〜!

 ここ、徳島の会場では、今まさにバンジー餅つきが、開始されようとしています!

 バンジージャンプで、餅をつく事で、勢いをつけよう!とそういう企画です!』


『おいおい、大丈夫なの〜?小学生が考えたような企画じゃないの。』



「・・・ふー・・・」

TVから流れてくる年末特番に、少々ウンザリしつつも私は、ほんわかと幸せを感じていた。

タバコの煙を吐きながら、私は日本人の典型的な『こたつ に みかん』の幸せを満喫していたのだ。



日本人の年越しはTVを見てうだうだ&ゴロゴロするか

人ごみにもみくちゃにされて、疲労やおみくじの吉凶に振り回された精神を背負って帰ってくるしかない。


人嫌いの私にとっては、人ごみへ行くなど、自殺行為に等しい。



だから、ストーブで温かくされた部屋で、コタツに入り、みかんを喰らう。

これが私の年末スタイルだ。




『はい、徳島からの中継でした〜!ところで、原見さん…年賀状出しました?』

『なんだよ、ヤブから棒に…出しましたよ。ぼかぁね、毎年500通出さないといけないんですから!忘れたいくらいですよ!』

『そんな原見さんに、ぴったりの年賀状があるんですよ!北海道の森さ〜ん!!』




『はーい!北海道からは、スルメで出来た年賀状をご紹介しま〜す!』



(…年賀状か…)


TVから聞こえた単語に、私はぴくりと反応した。



普通、年賀状を元日に配達される為には、25日までに出す事になっている。

私は、上司である人物や毎年くれる人には、元日に届くように出している。

それでも、出す年賀ハガキの枚数は、10枚以内だが。


他は、私の元に届いてしまった年賀状へ返信するという形で出している。


こういうものを、すすんで自分からは出したくないのが本音だからだ。




(あぁ・・・そういえば・・・)





…私は、年越し前に嫌な事を思いだした。






[ 水島さんは年またぎ中。 ]





それは、年末休暇前の事。

年明けに仕事を残さないように、事務課は精力的に動いていた。

※注 ちなみに、事務課の精力的な仕事ぶりが見られるピークは、クリスマス前等イベント前である事が多い。


あまりの精力的な仕事ぶりに、私へのプレゼント(おしつけ仕事)も減る。

FAXの音に電話の音が、鳴り響く事務課に、そぐわない人物が、入ってきた。


彼女は、ツカツカと、事務課の通路の真ん中を歩き、まっすぐ私の所へ来ると、私の机に手を置いた。





「ちょっと、水島。」





(・・・うげ。)



その言い方と、立ち振る舞いで、わかります…。



「・・・何か、御用でしょうか?海お嬢様。」


ひきつり愛想笑いで、応対するしかない。


彼女、城沢海は、私の勤めている会社の会長の孫娘なのだ。


でも、キーボードの上に手は置いたまま、首だけを向ける。

この年末のクソ忙しい時に、事務課の女とマトモに話せると思わないで欲しい。

大体、いくら会長の孫娘だからって、会社内をうろうろされるのもどうかと思う。


※注 このお話はフィクションです。実際の会社とは全く関係ありません。




「水島、前に言わなかった?あたし、その言い方、嫌い。」


海お嬢様は、自分がお嬢様であると自覚しているだけに、お嬢様扱いされるのを嫌う。

しかし、敬意を込めないと、もっと怒る(ような気がする)。

※注 敬意を込めず、お嬢様扱いしない例: 「おっ!久しぶり〜この”物好き前髪ぱっつんヘアー”♪何しに来たんだ?」



「何か御用でしょうか?・・・海ちゃん。」


・・・とは聞くものの、あまりすすんでは聞きたくない。


仕事中に女難に遭っている場合じゃないのだ。


というか、仕事中に女難に遭う事事態ねえよ!!(一人ツッコミ)


・・・ところが、私の問いに何故か海お嬢様は、目を逸らし、途端に黙り込んだ。


「・・・・・・・・・・。」


「あの…?」


む・・・私の態度が露骨過ぎたか?

仕事させてくださいとは思っているが…露骨過ぎれば、常識的に考えて、失礼だ。


私は手を止めて、首だけじゃなく、身体の方向を、海お嬢様の方へ改めて向けた。


海お嬢様は、黙り込んでいる訳ではなく…何かを躊躇っているようだった。

やがて、右手を引っ込めたりし、出したりしていたが…ギギギと錆びてしまったロボットの腕のようにそれは差し出された。


「……………これ。」


手渡されたのは、紙切れ。


「・・・・?」



よく見ると、その小さな紙切れには、住所が書き込まれていた。

…習字でも習っていたのだろうか、綺麗な字体だった。


「・・・それ、あたしの家の、住所だから。」


「・・・はあ・・・。」



海お嬢様の説明に、私はマヌケな返事を返した。


・・・それ以外に、返事のしようもなかったのだが。


それだけ渡すと、海お嬢様は事務課から出て行った。

事務課のドアには、いつかの背の高いボディーガード風の男性が立っており、ドアを開けていた。

そして、私と目が合うと、軽く会釈をした。


・・・・・・なんなの?(汗)




とにかく。



事務課の面々も、海お嬢様に挨拶をする間もなく、彼女は私に住所を渡して去っていったのだ。

それだけをしに、海お嬢様は、この事務課に来たのだろうか。



・・・・・・それから・・・・・・・。



「あの…水島さん、終わりました?」


後輩・門倉さんがやって来た。

このピリピリした空気の中、唯一事務課でのほほんオーラを発しているのは、彼女だけだ。


「いえ…まだ他にファイル残ってました?」


私は、自分の抱えているファイルで手一杯だったが、仕事とあらば、多少の協力はしようと思っている。

それで、事務課全体に気持ちの良い年末休暇が訪れるならば…


・・・・・・自分の為にもなるのだし。


「いえ…あの、水島さん…コレ…」


そう言って、PCに向かう私の後方から伸びてきた手は、そっと机に小さい紙切れを残し、視界から消えた。


「・・・・・??」


続いて、後方から

「私の、住所です。じゃあ…すみませんでした。仕事戻りますね」

というひそひそ声がした。


2枚目の女性の住所GET!に、同性のしかも女難の呪いを持つ私が、浮かれる筈もない。


むしろ、不安になった。

何ゆえ、知りたくもない他人の住所を渡されなくてはならないのか。


私は、一言でも聞いたか? ”貴女のお家は何処?”と!!

聞いてなどいない。私は仕事をしていたのだ。




その後。



まるで、当然の事のように…花崎課長・阪野さん等からも住所が記された紙切れを渡され。


※注 ”等”で省略されていますが、一応君塚さんも含まれています。


そして・・・口説かれ・・・逃げて・・・。



帰りの駅の改札口では、樋口さんの待ち伏せを受け、紙切れと新作MDを渡された。

そして、歌われて、逃げて・・・。




(あーもう…住所なんて知ったら、途端に訪問しなくちゃならないイベント的な女難が…)



面倒な事になるな〜とは思いつつも、私はそれらをカバンのポケットの中に入れた。

面倒でも、個人情報だ。


こういうモノは、きちんと…然るべき処理をしなくては。






・・・と思いながら、今日、大晦日を迎えた訳だが・・・。






「・・・もしかして・・・」



私はおそるおそる通勤用のバックから、あの入れっぱなしで放置していた…女性達の住所を取り出した。


※注 水島さん、他人の個人情報を大放置。



『という訳で、食べられる年賀状で〜す!では、早速・・・ん〜♪美味しい!噛めば噛むほど、味が出ますね♪』


『おいおい、今食べちゃ、年賀状にならないだろうに!つーか、25日までに出せっての!』




TVの話題で思い出したが・・・


これら、渡された紙切れ達は…もしかして…年賀…


「・・・・・・・。」


…考えたくない。面倒くさ…いや、考えたくないんだ…



これ・・・年賀状出してね♪的な・・・意味を含んだ・・・あの・・・

いや、違うかもしれないじゃない?

大体、これ…そんな意味じゃないかもしれないじゃない?

これは・・・アレだ。うん。


えーと…ほら、住所を教える事で、私の地域自慢を…いや、違うか…

ほら…この住所達を繋ぎ合わせると、宝の場所を示す暗号が…いやいや、コナ〇じゃあるまいし。

ほら、コレ…住所じゃないよ。コレは、みんな…紙切れで”しりとり”をしてるんだ。うん…違う。


・・・・年末が近付いて、住所を渡される意味は・・・他に・・・・





”…年賀状は、お早めに。 by 花崎”




ダメ押しの紙切れのメッセージに、私は結論を出さざるを得ない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと・・・・・・・・・・・・・・










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





"ジー…"

部屋着の上からコートを羽織る。防寒対策はバッチリだ。




私は、礼儀はちゃんとしておきたい主義。



…というか、しないと年明けに”何故、年賀状をくれないの?”等と詰問されてしまうかもしれない。

それに対し、素直にめんどくさかっただなんて、言えない。


それに…彼女達は、盲腸の時お見舞いに来てくれたのだし…ここはやはり出しておくのが、礼儀…





「…現在時刻…20:35…」




コンビニへ行って、年賀はがきを買って…住所を書き、ポストへ…



・・・間に合う。


年越しのカウントダウンには、一人でこの温かい部屋にいたい!!




それが、私の過ごし方!!





私は、すばやく財布を持ち、部屋から飛び出した。


外へ飛び出すと…空からはチラチラと白い雪が舞っていた。



「…あぁ…雪か…」




シーンと空気が張り詰めるような、寒さ。

雪は、掌に落ちると、ジワリと融けた。



……私も…このまま、融けてしまったら…。


なんて、感傷にひたっている暇は無い。

というか、こんな事思うはずもない。



ハガキを買う!年賀状を書く!出す!終わり!それでいい!!




「はぁ…はぁ…はぁ…!」


私は走った。

コンビニへと走った。




”ピンポーン”

「っしゃいせ〜 ンばんわ〜…」



「はぁ…はぁ…はぁ…!」


息切れをしながら、店内を見渡すと…レジ待ちの客の長蛇の列が…ッ!!

レジは2台あるが、2台とも列が出来ている。


この大晦日に、暇人大量生産か!!


うぅ…ちくしょー…紅白とか見ておけよ…

しかし、ここは並ばないとなるまい。


私は、カウンター近くのハガキ売り場から、ハガキをすばやく選ぶと、列に並んだ。



・・・が。


”・・・チクン!”


(・・・・う、そ・・・・!!)



私の頭に、いつもの…”いつもの痛み”が…。

あの…女難の前触れを知らせる、頭の奥の痛みが…!





「オイ、チンタラしてんじゃねえよ!サッサと打てよ!年、明けちまうじゃねえかよ!」



私より3つ前に並んでいる男が、口汚く罵り始めた。

大分イライラしている。男の持っている籠には、大量の酒とお菓子がある。

…多分、友人らと家で飲んでいて、酒がなくなり、買出しを命じられたか、じゃんけんで負けたのだろう。


しかし、私はそんなもんに関わっている場合じゃない。

女難が…女難が来てるってのに!!



「おい!サービスなってないぞー!!」



(…ピリピリしているのは、オマエだけじゃない…黙れ!)


私は周囲を見回す。

女性は確かに2,3人いるが・・・私の事を見てはいない・・・。

レジ打ちをしているのも、若い女性だ。

油断は出来ないが、早くコンビニを出れば良い話だ。

逃げ足には、自信がついた一年だ。この足で、振り切ってみせる。



・・・あ、研修中って書いてある・・・不運だなぁ…大晦日まで研修中とは…。



「おい!テメエ!お客様だぞ!!」


(うるさいなぁ…)

…私は、ハガキを握り締めたまま、男の方を見た。



黙って待っていたら、自分の順番は来るだろうに…。

時間がなくて、イライラしているのは、私だって同じだ。


やがて、男の番が来た。しかし、男の気は治まらない。


”ピ…ピー…カチッ…ピ…ピ…”


なんだか、レジの調子でも悪いのか…音がおかしい。

エラー音が出ては、店員が操作している。


「…チッ………チッ……」


そして男は、30秒に1回のペースで舌打ちをしている。

どうやら、レジ打ちが遅いらしい。

それはそうだろう、あれだけのエラー音だ。店員のやり方が悪いのか、レジの調子が悪いのだろう。


「…6025円頂戴いたします。」


店員の声の後に、男の”いよいよキレるぜ”の意味を含んだ声がした。



「・・・オイ!テメエふざけんなよ!!」


「いや…その…」


「人を散々待たせてなんなんだよ!その態度と物言いはよ!ああ!?」


(…さっさと金払って、どけ…私は、ハガキを買って帰るんだ…この後も作業残ってるんだ…!)


しかし、男は止まらない。


「…そらよッ!!」


店員へ金を投げつけ、小銭が、あたりに飛ぶ。


”・・・チャリーン!ジャラジャラ……!”


…そして、私の額に、10円玉が当たった…。


「・・・痛・・・。」


地味に呟きながらも、私は足元の10円を拾った。

店員は慌てて、小銭を拾い集めている。


・・・・・・・・・・・多い・・・小銭が多すぎる・・・!!


(おいおいおいおい…6025円で、どうしてこんなに小銭が散らばるんだよ!!)


いや、ツッこみを入れている場合じゃない。


…私は、ハガキを買って…書いて、ポストへ…!!



(・・・イカン・・・このままでは・・・カウントダウンに間に合わない・・・!!)




「・・・オイ!拾えよ!!」


店員は、レジカウンターの中で慌てて拾っているのだろう。

私はなんだか悲しくなってきた。


なんで、大晦日にこんな事に…。

・・・私も、店員も、そう思っているだろう。



そして、私は足元にある小銭を数枚拾った。


しかし、それが仇となった。



「・・・ぅおい!!お客に小銭拾わせんなよ!…アンタも拾うなよ、店員の仕事なんだからよ。」



その男の大声と、イライラした私の肩に無造作に置かれた手に、私は顔を上げて男を見た。


・・・何?その、微笑み。

『姉ちゃん、空気読めよ』的なその笑顔。

拾うな、と?私はオマエと同様急いでいるんだよ。


・・・私は・・・オマエの報復行為に手を貸すつもりはない。


私は無言で、そのまま小銭を拾い上げると、レジの横に静かに置いた。

「すいません、ありがとうございます…」

レジ打っていたのは若い女の子で、なんだか、ほっとしたように笑って、私にお礼を言った。



「・・・チッ。」



その私の横で、男の舌打ちが聞こえたが、私は無視を決め込んだ。

とっとと会計を済ませて、帰らないとならないんだ。


「…ありがとうございました。」


なんとか男の会計も終わり、私の番になった。

男はまだ不満なのか、ぐちゃぐちゃと不満を口にしている。


・・・私は大人だ、余計な事は言わない。



が。


「・・・オイ、ここの店長どこにいるんだ?」

男は、私の横からずいっと身体を押し付けて、店員にそう言った。

・・・酒臭い。

酔っている。

なるほど、この男・・・今、酔いに任せて怒ってるんだな…


「・・・はい?」


店員はそう言った。

そりゃ、そうだ。

私もそう思う。



というか、私の会計の番だもの!!



「おい!店長出せ!!」


散々待たされた上…この上、ここでレジが中止にされてしまっては、かなわない…


「…あの…」


私の早くしてくれ〜という顔をみた店員は、私の年賀ハガキを受け取り、レジで打ってくれた。


「あ…お待たせいたしました…」

「…あぁ、袋要らないです。」


”ぴ…ぴ…”


「…800円です。」

「はい…800円、ちょうどで。レシートはいいです。」

「はい、ありがとうございます。」


無視を決め込み、事務的な会話をする私と店員に、男は切れ、レジのテーブルを叩きながら、吼えた。


「オイッ!テッメエ…マジでムカつくな!オイッ!!」


”べシッ!”


ハガキを受け取ろうとする私の腕に、店員の胸倉を掴もうとする男の腕があたった。


「痛ッ!」

「…痛ッ…テメエ…!」


・・・どうでもいいが、この男・・・テメエ以外に、他に何か言えないのだろうか・・・。

と心の中でツッコミながら、冷静に私は男を見ていた。


というか…私の腕へのダメージも結構酷い。単純に地味に痛い。


しかし。

男の標的は、店員ではなく…



「…オイ、イイ格好してかっこつけたいの?正義の味方か?あ?」


私になった。



(・・・・・なんでー!?)


む、無関係!私は無関係だろ!?私の腕に手が当たっただけの話じゃないか!!

それは、不可抗力!!つーか、オマエ急いでたんなら、もう帰れよーッ!!!



と心の中でツッコむ小心者の私。



「・・・ハガキ?ハガキ今更買ってどうするの?アンタなんかに年賀状なんか来ねえよ!」

「・・・・・・・・・・・。」


(…出来るなら、そうであって欲しいよ。)


と思いつつ、私はハガキを受け取ろうと再び、手を店員に差し出した。


が。

それより先に、男がハガキを店員から奪い取った。


「…うわ…こんな柄選んでやんの…くあははははは!!」


私の選んだハガキの柄がよほど、ツボに入ったのか、ゲラゲラと笑っている。

罵られると同様に、これは、心にぐさぐさと言葉ならぬ、笑い声が刺さる。


男が酒に酔っている、と解っている。彼にも、普段抑圧された何かがあるのだろう。


うん、解ってる。解っては、いるのだが…



・・・・いや・・・さすがに・・・ね・・・



「オイ、こんなの大晦日に買いに来て、アンタ空しくないの?一人でコンビニで、寂しさ紛らわせ…」




・・・・・・・・・・ぷち。


私は、ゆっくりと日向小次郎のように…右の足を後ろへ…勢いをつけて、男の尻へめがけて放った。



(”タイガー…ショット!!”)



”スッパーンッ!!”



放った自分でもビックリするほど、鞭で叩いたような音がした。

男は、左の尻をかばうような格好で、崩れた。



男を見下ろしながら、私は低い声で言った。



「…るせえな、さっきから。」



その一言に全てを込める。



…すると、誰かがぽそりと言った。



「…カッコイイ。」


・・・あ、そ、そうですか?・・・いや、心の中で照れている場合じゃない。


店内の…周囲の女性の目が…なんだか…


「すごーい…」「勇気あるよねー…」

「なんか…」「…うん、なんか…」


隣のレジに並んでいる女性達がチラチラとこちらを見ている。


・・・・・・・・・・・。



(・・・・・・・こ、これは、イカン!!)


女難サイレンの言うとおりになる前に、ココを出なくては!!


私の用事は、済んだのだ。早くハガキを持ち帰って…書いて…ポストに出す!!


では、そのハガキは・・・どこだ?


先程、男に取り上げられたハガキを探す私。


(あれ?私のハガキは…)


だが、見つからない。


「…あれ?ハガキは?」




すると、店員さんが、気まずそうにハガキの場所を指差してくれた。



”ぐつぐつぐつぐつ…”



・・・・・・・・・・あらぁ・・・私のハガキ・・・美味しそうに煮えてるわね・・・大根と一緒にグツグツと・・・。




「って・・・なんじゃこりゃあああああああああ!!!」


私の購入したハガキは、なんと・・・おでんと一緒に煮込まれていた。


(ああ、何てことだ。大晦日にこんな事…)



・・・やはり、住所を渡されたくらい無視して、礼儀を放り投げてでも、一人、家で年越ししておけば良かった…!


ハガキなんか、別に1日以降でもいいじゃないの…!

どうせ、25日に出さないと1日に届かないんだから…!


おでん鍋で煮える私のハガキ10枚を見つめて、私は呆然と立ち尽くしていた。


「・・・あの・・・お客様、良かったらどうぞ。」


店員は、私に先程購入したハガキと同じ新品のハガキを私に手渡した。



「…え、これ…え?」


思わず戸惑う私。


「こちらで、交換しておきますから。これ、どうぞ。」

「・・・・あ・・・助かります・・・。」


私は、店員からハガキを受け取った。


良い事?して良かった…!



「あの・・・ありがとうございました。………あと…カッコ良かったです、お姉さん…」


「・・・・・・・・・・・・。」



あぁ…その赤く染まった頬…熱がこもった視線…は…!!


(・・・・ハッ!?)



気が付けば、私の周囲にいた何名かの女性(店員含む)の状態が、皆その表情ではないか。


「あの…お姉さん、一緒に年越ししませんか?」

「私も、一人なんです。良かったら、一緒に…」

「あ、あたしと…これから初詣に行きませんか…?」



「・・・・・・・・・・・・・。」


ああ、コンビニで、恋の花咲く事もあるのねぇ…

って、咲かすなああああああああああああああああ!!!






「「「これも、ご縁ですから・・・ね♪」」」


ないよ!どんなご縁だよっ!無理矢理なんだよっ!!


「・・・・・・・・・・・・。」



「「「あ…メアド交換しませんか?」」」



あ、そうですね?


年末とか、関係ないんですね?この呪い…!


あーそうですか!そうなんですね!!


よし!







逃げよう!!!










私は、逃げた。


追いかけられた。




また逃げた。




そして。



「・・・・・ここは・・・・どこだ・・・・・!!」





・・・迷った。


何やってんの!私!!(泣)




出かけた先は、近所の筈なのに、まったく見知らぬ土地!!!


「お姉さーん?」

遠くで追っ手の声がする。

私は走った。


一体、私は何をしに来たのだろうか…!!

あ、ハガキ買いに来たんだわ…



いや!!そんな事よりも…!!





「じ、時刻は・・・!?」


走りながら、私は時計を確認する。




































「あ。」











・・・A Happy New Year ・・・♪












[ 水島さん 見知らぬ土地の道路の真ん中で、年を越す。 ]











今年も一年…こんな感じです…。お父さん。



そういえば…お母さんとどうして離婚したのかなぁ…ま、いいや。新年だもの。



「あ、いた!」
「お姉さ〜ん!」


「げっ!?」

もう、お前ら帰れよ!私なんか、まっすぐ帰れないんだぞー!!!


私は、くしゃくしゃになったハガキを握り締めながら、再び走り出した…

今年こそ…この女難の呪いから逃げ切ってやる!!(泣)






END




というわけで、今年もよろしくお願いいたします!!