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~ 水島さんは出席中。前編のあらすじ ~
おっす!オラ、水島!
ひょんな事から自分の住んでる地域の祟り神に呪われてしまい、女難の女になったんだ!
以来、オラの周りには縁も所縁もないややこしい美女ばかり!
そんな状況を打破する為に、火鳥が「祟り神に関する資料を持つ金持ちのパーティーに参加しろ」と言ってきた!
上手く資料を回収して、呪いを解く為の手がかりを見つけるぞ!
だが、パーティー主催者の性根は腐りきっていた!
オラ達に「ドレスを引き裂き、脱がしあって、最後までドレスを着ていた奴に好きな景品をやる」って言い出したんだ!
てぇへん(大変)な事なっちまったが、仕方ねえ!これもチャンスだ!こうなったら、脱がしまくってやるぞぉー!
・・・卍解!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・嫌だ―――ッ!!現実逃避してみたけど、やっぱり嫌だ―――ッ!!
前編のあらすじ紹介で気を紛らわせていたけど、やっぱり無理ィ――――!!
そして、何故、少年漫画のアニメ風にあらすじ紹介したんだよ、私――ッ!
あと、卍解はアニメ違うよ!って、知らねえよッ!もう!!
こんなネタばっかりだから早く終われって言われるんだよ――ッ!!
[ 水島さんは出席中。 ~後編~ ]
金持ちの豪邸の地下室の秘密のパーティー。
蝋燭の灯が、極上の芸術品と・・・ドレス姿の女性達を怪しく照らす。
聞こえが良いのか悪いのかはともかく、今、私が置かれている状況は、最悪だ!!
・・・なんか毎回、私は最悪だと叫んでいるような気もするが・・・。
私と火鳥を囲み、今にもドレスを引き裂いて脱がそうとする女達が、こちらをじっと見ている。
こんな勝負、何のメリットがあるんだ?女同士脱がせて喜ぶのは、あのバ金持ちしかいない。
脱出しようにも、出入り口には門番がいる。ドレスを脱がしあい、勝利者が出るか、混乱に乗じて脱出するしか無いが・・・門番の存在で、後者は難しい。
大勢の前で裸に剥かれるのは、屈辱的だ。
しかし、脱がせ合いが始まり、裸になった者が増えてくれば、脱がされたショックも”ああ、周囲と一緒になった”くらいに収まり、多少は和らいでしまうだろう。
・・・私にとっては、多少でも和らぐ事は無いのだが。
つまり!今、一番損するのは・・・一番始めに脱がされた”弱者”であるという事。
その他大勢の安堵の為に、デモンストレーション的に全裸に剥かれる訳にはいかないのだ!!
参加している女性達も逃げられないと知るや、もはやヤケクソ気味。
一番始めの晒し者候補(獲物)が決まってしまえば、膠着状態をどうにかする為に”とりあえず”犠牲者を出して様子を見ようという、そんな所だ。
そして・・・どうせやるなら、先程から騒いでいた、私達を狙っているに過ぎない
・・・と信じたい。何も無いと信じたい!これは、女難じゃないって信じたい!!
「脱がす・・・」 「脱がさなきゃ・・・」 「見てると・・・ムラムラしてきちゃった・・・」
・・・今、聞こえちゃいけない小声が聞こえた・・・!!
諸悪の根源の金持ちこと、加藤フーズの社長は私達を高い所から金色の玉座に座って、ニヤニヤといやらしい顔で見下ろしている。
こんな事してまで・・・そんなに女の裸が見たいのか!?
「水島・・・来るわよ!」
火鳥が大声で私に警戒を呼びかけ・・・襲い掛かってきた女性の手を取り、引き寄せ、背中のドレス部分を掴む。
「簡単に、このアタシを剥けると思ってんじゃないわよ!!」
”ビリイイイッ!”
布の引き裂かれる音と共に、火鳥は女性をそのまま引き倒した。
(ほ、本当に脱がせた!?)
火鳥に躊躇という文字は無い。
「あぁ・・・脱げちゃっ・・・た・・・♪」
下着まで露になった女性が、何故か幸せそうな表情を浮かべ床に横たわる。
・・・火鳥はフンと鼻で笑って、邪悪な笑みを浮かべ、構え直した。
「…さあ、剥かれたい女は来なさい…剥いて全裸にしてやるわっ!」
いつの間にか、火鳥はノリノリだ。指までコキコキ鳴らして・・・完全に変な世界の住人になってる・・・!
貴女、当初は、そんなキャラじゃなかったじゃない!!
しかし、その火鳥の迫力に周囲の女達は激しく動揺し、動きを止めた。
「う・・・!手が出せない・・・!」 「敵う訳が無いわ!私、インドア派なのよ!?」
「貴女、行きなさいよ!」 「嫌よ!脱がされちゃうわ!」
「ううう・・・っ!・・・でも、それも良いかも・・・!」「ぬ、脱がせてッ!むしろ貴女の手で脱がせてッ!」
ま、麻痺してらっしゃる!完全に、この会場にいる女性は常識が麻痺している!
ここは、もっと違うリアクションを取るべきだろう!
それにしても、火鳥も火鳥だ・・・!本当に他人のドレスを躊躇もせず、引き裂くとは・・・!
(うわぁ・・・高そうなドレスだなぁ・・・弁償しなくていいのかな・・・。)
訴えられたらどうしよう?弁護士費用高そうだし・・・
あ。
弁護士の女難が来れば、大丈夫・・・な訳あるか!バカタレ!!
訴えられる事よりも、目の前の脱がしあいに集中しなければ!
「か…火鳥…。」
「・・・容赦しないわ。目的の為なら他人の羞恥心など知ったこっちゃ無いわ。」
火鳥はニヤリと笑って、左手で次の犠牲者を誘った。
(むしろ・・・その羞恥心を極限まで引き出して、逆らえないように調教しかねない・・・!)
嗚呼、こんな邪悪で卑猥な火鳥を蒼ちゃんが見たらと思うと・・・本当に、この火鳥は未成年の教育にすこぶる悪い!としか言いようが無い。
しかし、私の周囲で味方に分類できる人間は、もはや同じ”女難の女”の火鳥だけ!
「す、隙ありいいいいい!!」
後ろの火鳥を気にしすぎて、私は自分の事を忘れてしまっていた。
「っと!危ねぇッ!!」
いきなり、私のドレスに触れようとする女性の腕を私は寸でのところで避け、腕をはたき、バランスを崩した女性の背中を押し、群集に戻す。
”ビリイイイッ!”
「い、いっやーん!!」
押し戻された女性は群集の中で転び、周囲のハイエナにドレスを引き裂かれた。
自分の手を汚す事無く、私は一人を羞恥心の沼に沈めた。
「あ、あの女もやるわね・・・!」 「しかも自分の手で脱がさないなんて・・・!ある意味、鬼だわ!!」
「いっそ脱がせて欲しい、というこっちの気持ちを知った上で、他人の手で脱がす・・・!なんという鬼畜な所業・・・なんというドSなの!?」
「そっちの気持ちなんか知らねーよ!!」
思わずツッコんだが、情けない事に私はドSでもなんでもなく、避けるだけで精一杯だったのだ。
女性を裸になんか出来るわけが無い。
それに避けるにしても、限界がある。会場は広いとはいえ、地下室だ。
走って逃げ回るには少し狭すぎるし、狙われている人数が多すぎる。動き回るのは危険だ。
かといって、いつまでも避けているだけでは、私の体力が尽きてしまうし、今のように群集に押し戻す方法も二人以上に攻め込まれたら、OUTだ。
私も、いい加減に覚悟を決めて、女性のドレスを脱がせにかかった方がいいのだろうか。
「ふっ!」
「ああーッ!」
(後ろは後ろですげーな・・・。)
後ろでは、火鳥の瞬間脱衣ショー開催中だ。
こんな状況になってしまっては、自分が脱ぐより、誰かを脱がせた方がいい、とはわかってはいる。
だが、私は、あいにく普通のOLだ。私の背後にいる、どっかの火鳥のようにポンポンと関節技や衣服を脱がせる行為などに長けていない。
第一、私は・・・心の底から女性を裸にひん剥きたくはない。
大体、他人に関わるのが嫌な人間なのに、いきなりコミュニケーションの過程も何もかもすっ飛ばして、いきなり衣服を脱がせるだなんて、高等テクニックを何故、今ここで発揮しなければいけないのか!
こんな事をして一体、誰が得をするのか!?
この会場内で得をするのは、あの金の玉座に座る嫌な金持ち(雄)だけだ!
繰り返すが、あのオッサン以外、衣服を脱がせあって得をする人物はいない!
脱がしあって勝利者を決めたとして、手に入るのは・・・たかだか”本”だ。
いや、大事と言っては大事なのだが、大勢の女性の尊厳を奪い、私達の精神力をギリギリまで削ってまで手に入れる価値があるかどうか・・・
本の中身を確認していないから”未知数”なのだ!
しかし、やらねばならない!やらねば・・・まず、私が裸にひん剥かれるだろう。
つまり、私のドレスが引き裂かれる!
それは、ダメだ!
これは・・・火鳥に買ってもらったとはいえ・・・
これは・・・42万円もしたんだぞ!このドレス!!
※注 貧乏性の意地。
だから!
「絶対に!私は脱がんッ!」
人様から買い与えてもらった高価なドレスを引き裂かれる上に、こんな変なパーティーで全裸になる訳にはいかない!!
しかし、そんな私の意思を押し倒す勢いで、女性達が襲ってくる。
「脱ぎなさいよおおおおおおお!!」
「嫌だってつってんだろおおおお!!」
必死に避ける私に伸びる複数の腕。
振り払っても、振り払っても・・・腕が伸びてくる・・・!
体勢を崩した一人が、無防備になった背中を向ける。
「・・・・・・っ!」
女性のドレスに伸ばしかけた腕を・・・
(これを・・・脱がす・・・脱がす・・・脱が、す・・・!)
妙に綺麗な背中・・・。
・・・くうぅ・・・い、嫌だあああああああああああぁ!!(泣)
私は、やはり女性の背中を押した。群集に突っ込む女性に巻き込まれ、2,3人が転ぶ。
転んだ女性達にやはりハイエナ達が手を伸ばし、ドレスが破れる音と悲鳴が聞こえる。。
私を見る女性達の目に、冷ややかなモノが混じり始める。
ああ・・・解っている。私は、己の手で誰一人、脱がしていない。
私は、さっきから・・・汚い!!
(わ、私の・・・意気地なし!!)
「水島!避けてばかりしてないで、女を脱がせなさい!」
私の背中で火鳥はそう言うが・・・!
「い・・・嫌だあああああああ!!」
構えたものの、私はやっぱり、どうにもやりたくない。
女性を脱がせるなんて、気色の悪い事をしでかしたくない。
「今、アンタに脱がれるワケにはいかないのよ!とっとと女を脱がせなさい!」
火鳥!日本語、おかしいぞーッ!?・・・という私の心のツッコミは置いといて。
「でも・・・!」
「でももヘチマも無い!避けるだけじゃ、体力が減るだけよッ!」
私達の目的は・・・今、女性のドレスを引き裂き、脱がして・・・そして、狙いの資料を手に入れる事。
・・・でも、どうなの?それ!”人”として!!
「どうした?そこの地味な女!豪華な賞品が欲しいんだろうッ!?脱がせてみせろ!ほれほれほれほれほれほれほれ!」
躊躇い続ける私を刺激するように、嫌な金持ちが玉座から立ち上がり、フハハハと下品な笑い声を上げた。
(ム、ムカつく―――!!)
「そういう事よ、水島・・・アタシ達は、やるしかないのよ!」
「きゃっ☆いやぁん☆」
火鳥が真剣な顔で女性のドレスを引き裂きながら、私を説得する。
・・・だが、その行動で説得力はゼロだ!そして、何故脱がされた女性はちょっと嬉しそうなんだ!!
何コレ!本当に、何コレ!!私は今、何をしているの!?
「はっはっは!最高な眺めだ―ッ!もっとやれ!もっと脱がせ!さあ!ボイン(死語)をワシにみせろ!!」
「・・・・・・・。」
やはり、私は・・・女性達のドレスを脱がし、あのバ金持ちの色欲を満足させるだなんて、そんな事したくない!
(とはいえ・・・これは・・・!)
しかし、周囲の女性達は、休む事すら許してはくれない。ひとたび油断すれば、私が丸裸!
「さあ、貴女が脱ぐ番よ―ッ!」
ピンク色のドレスを着た、見るからに私より背が高く、横幅もある女性が向かってきた!
体格的に私は不利だ!あの『樹齢何十年ですか?』ってくらいの腕を叩き落とすなんて出来ない!
かといって、避けるのも難しい。避けるか、手を叩き落し、体のバランスを崩してから背中を押す方法が、目の前の猛牛には通用するとは思えない。
しかも、私のすぐ後ろは火鳥だ。避けてしまえば、火鳥の背中がガラ空きになってしまう上、猛牛の餌食になってしまう!
※注 聞こえていないと思って言いたい放題の水島さん。
火鳥が脱がされてしまっては、攻撃して私の背中を守っている人間が消えてしまう!
(こうなったら・・・!)
「火鳥!背中貸して―ッ!」
「は!?」
私は素早く火鳥と後ろで腕を組み、背中から火鳥の背中に乗り、勢いよく足をぶん回した。
「うりゃああああ!!」
キックは空を切ったが、ピンク色のドレスの女性は急激な私のアクションにたじろいだ。
背中から降りた私は、そのままクルリと回転し、火鳥と場所を交代した。
「・・・うむ、よし。」
着地も完璧だ。
自分でも、ほれぼれする。
「アンタはジャッキー○ェンか!人の背中で何やってんのよ!?」
火鳥が、私の背後から突っ込む。
「や、やりたくてやってるんじゃない!こちとら必死なんだよ!」
良い気分に水を差された私が言い訳のような台詞を口にすると、火鳥は怒った。
「だったら、必死こいて女を脱がせなさいよ!さっきから避けてるばっかりじゃない!脱がせてるの、アタシばっかりじゃない!」
「だって、やりたくないんですもん!ていうか、出来ないんですよッ!!」
「ガキみたいな事言ってんじゃないわよ!いい?水島!こうして、掴んで・・・一気に脱がせるッ!!」
”ビリィーッ!”
「きゃぁん☆」
まるでテーブルクロス引きのように、女性をサッサと脱がせていく火鳥。
職人芸とでもいうべきか・・・。その手つきはとても素早くて・・・でも、見習いたくは無い。人として。
しかし、火鳥の言う通りだ。いつまでも逃げてばかりもいられない。
この大人数で、この狭い会場内で、集中的に狙われている私と火鳥、時間が経てば経つほど、絶対的不利になる。
会場の人数を減らさなければ・・・このバカイベントはいつまでも終わらない!
だけど・・・興味も無い他人を脱がせたくなんかない!
「もう、辛抱たまりませんわああああぁ!お脱ぎになって!!」
「わあああああああああ!?」
私も違う意味で辛抱できない!もう我慢できない!
また大きくて太・・・体格の良い女性が襲ってきた。
女性誌では『ぽっちゃり系』だの『マシュマロ系女子』・・・挙句の果てにファッショナブルな大きい女を『おしゃカワ テディさん』と呼ぶ!!
しかし、目の前から来る女は、正直・・・『グリズリー』だ・・・!女子はあえて、つけない!
コイツは、冬眠明けの『グリズリー』だ・・・!!
・・・そして、どうして、さっきから私に襲い掛かってくる女性は皆、ガタイがいいのだろうか。
って、そんな事言ってる場合か!もう一回、火鳥と連携を・・・と思ったのだが。
”ビリイイイッ!”
「きゃっはーん☆」
「次!!」
火鳥は別の女性を脱がせているから、さっきのジ○ッキープロペラキックは使えない!!
「くっ!」
グリズリーの長く太い腕を振り払い、なんとか指がドレスにかかるのを避け続けるが・・・そろそろ限界かもしれない。
(・・・やはり・・・隙を見て、脱がせるしか無いのか!?)
ああ、しかし・・・しかしだ。いくらグリズリーでも、だ。
ここで、やってしまったら。
女難の女が、女を脱がせてしまったら・・・!!
当然・・・
「ああ、脱がされてしまったわ・・・いっそ、あの赤いドレスの方に抱かれたい・・・」
――半裸の美人Aが起き上がって、別の意味の仲間にして欲しそうに火鳥を見ている!
「あの手で、もっと・・・あっちこっち触れられたい・・・!」
――半裸の美人Bが起き上がって、物欲しそうに火鳥を見ている!
「このまま、踏まれたい・・・!」
――半裸の美人Aが起き上がって、性欲を満たして欲しそうに火鳥を見ている!
「・・・ええい!脱がされたならあっち行きなさいよっ!邪魔よクソ女共がァ!!」
・・・ホラね?案の定だよ!ああなっちゃうから嫌なんだよ!脱がされたのに、惚れちゃうってどういう事なの!?
「ああっ!トドメは貴女が刺してッ!」
「うるっさい!!」
女難重傷者 多数出現ッ!頑張って!モンスターばあさんこと、後ろの火鳥ッ!!
もう、だから嫌なんだよ!このSSシリーズの主人公やってると、本当にロクな事ないんだからッ!!
大体、パーティーに参加しただけでこんな目に遭うなんて、やってられるか!
脱がしても地獄。脱がされなくても地獄・・・!!
グリズリーの腕を払っても、今度は勢いが半端無い!遂に、グリズリーの指先が私のドレスに触れた・・・!
「よおおおおし!!脱げええええええ!ふんがああああああ!!」
「お願い!人間語を発してええええええ!!」
涙目になって、必死に身体を引いてはみるが、もうだめだ・・・!
と思った瞬間!
グリズリーの腕が急に上がった。・・・いや・・・誰かに掴まれている!?
(あれ?)
「・・・あら、ネイルが剥げてるわね?こんな手で、この人を脱がせようだなんて・・・この私が許さないわよ。」
「さ、阪野さん!?」
阪野さんが、間一髪の所で私を助けてくれた!というか、こんなパーティーにまだいたのか!?
いや、それより!今だけありがとう!エロ秘書!今だけ!!
ピンチを脱し、ほっとしている私に対し、私に手を出そうとしたグリズリー・・・いや、女性の腕を阪野さんはニコニコ笑顔で締め上げる。
「うっ!?すごい馬鹿力・・・!い、いたたたたた!!」
「秘書はね・・・全てにおいて完璧でなくちゃいけないの。これは、馬鹿力じゃなくて・・・純粋なる腕力よ。」
(・・・それを一般人は”馬鹿力”というんですよ!阪野さん!)
笑顔でギリギリと女性の腕を掴みながら、講釈をしている万能エロ秘書に、私は感謝をしつつも恐怖も感じる。
何はともあれ、ひとまずピンチは脱した。
「水島さん!」
「大丈夫?水島!」
その声の方向、つまり阪野さんが来た方向を見ると、見慣れた2人がいた。
「え!?花崎課長に海ちゃんまで!?ていうか、3人共、どうしてココに!?」
海お嬢様を警護するように、花崎課長が周囲を警戒しながらやってくる。
「契約の話をしたいから、秘密のパーティーに参加してくれって・・・すっかり騙されたわ・・・こんなの・・・!」
あ、あの~・・・地下室に案内された時点で気付きましょうよ、花崎課長!
仕事に釣られてこんなところに来ちゃダメでしょ!
「絶対に許さないわ!おじい様に言って、この会社に徹底的に圧力かけて、あの社長を路頭に迷わせてやるんだから!」
はい、権力者らしい一言いただきました・・・。
「きゃああん☆」
「はい、お次のお嬢さんは?」
阪野さん・・・爽やかだ・・・やっている事はとってもエゲツないのに、無駄に爽やかだ!阪野さん!!それから、脱がされる女性の叫びのイラつく事・・・この上無いわッ!
そして、貴女がやってきた道をよくよく見ると、複数の女性が裸になって転がっている・・・!!
何、卑猥ロード作り出しちゃってるの!?耳を澄ませば、女性の悲鳴しか聞こえない!!
阪野さん・・・こんな所で、その万能ぶりを発揮すべきじゃないわよ・・・!
「まあ、幸い私達は、あのエロ秘書・・・じゃなかった、阪野さんのお陰で、なんとか無事だけど。」
花崎課長が、やや憂鬱そうにそう言った。
”仕事しに来たのに、なんでこんな事になっているのか”、と言いたげな渋い顔をしている。
”ビリイイイ!!・・・ビリビリイイイ!!”
(・・・それにしても、すげーな・・・あの秘書・・・。)
エロ秘書・・・いや、阪野さんは、私の周りでスピーディーに女性のドレスを脱がしている。
その技術たるや・・・恐ろしい。まるで流れ作業だ。
「阪野が今は味方で良かったわねぇ。・・・よーし!阪野!その調子で他の女をガンガン脱がしてしまいなさいッ!城沢には勝者しか要らないのよ!」
海お嬢様が仁王立ちで悪の帝王のような笑いを浮かべているのに対し、阪野さんはお仕事モードだ。
「はいはい、了解です、お嬢様。あ、よいしょ。」
「ああ~ん☆」
(私、とっても怖い会社に勤めてたんですね・・・。)
しっかし!こんな卑猥な仕事あってたまるか!!
まるで家庭菜園のトマトを収穫するかのように、あっさりとドレスを脱がすなーッ!!
「それにしても、水島さんまでこんな所にいるなんて・・・一体どうしたの?仕事、じゃないでしょ?」
花崎課長が私に歩み寄り、そんな質問をしてきた。
「え!?えっと・・・それは・・・!」
私は思わず口篭る。ここで、馬鹿正直に真の目的を口にする訳にはいかない。
女難の呪いを解く鍵である古文書を貰いに来た、なんて言えない!
何故なら、女難の呪い云々なんて、怪しくてアホっぽい目的なんか信じてくれる筈もないし・・・
第一・・・!
『アタシが恐れているのはね、女難の女達が、アタシ達が呪いを解くのを邪魔しにくることよ!』
そう、火鳥の言うとおり、女難チームが全てを知れば、私達が呪いを解くのを妨ごうとするかもしれないからだ。
呪いを解いたら、彼女達の私に対する想いは消えるだろう。
その為には、祟り神や呪いに関する資料を手に入れる事が最優先だ。
「・・・水島さん、このパーティーに・・・何か、他に目的でもあって来たの?」
花崎課長、こういう時だけ意外に鋭い・・・!誤魔化し切れるか?
「あ、いや・・・その・・・!」
花崎課長の質問にたじろいでいると、今度は突然海お嬢様が大声を出した。
「あー!さっきの赤いドレスの女!なんで、また一緒なのよ!?どういう事なのよ!」
海お嬢様の視線の先には、火鳥がいた。
「あー・・・そこの話題に今、食いついちゃいます?」
私は話が逸れて良かったけど、これはこれで面倒臭いな、と思う。
「あぁ?げ!?水島!自分の女難の面倒くらい、ちゃんと見なさいよ!」
あー・・・なんかゴメンナサイねー。あーこりゃこりゃ、どっこいしょっと。
※注 只今、水島さんはあまりの面倒臭さに無気力になっております。ご了承下さい。
花崎課長が火鳥に噛み付く。
「ちょっと!貴女!他人の事指して、じょ、女難ってどういう意味よッ!?まるで、私が水島さんのトラブルの種みたいな言い方!」
(実際、その通りなんだけどな・・・。)
「フン、そのままの意味よ!邪魔しないで!こっちはこっちで忙しいのよッ!」
「~っ!あ、貴女ねえッ!」
そのまま、火鳥と花崎課長が言い争いを始める。
あー!!もう!見ているだけでも面倒臭いッ!!
「ちょっと、花崎さん?状況を考えて、少しは冷静になりなさいよ。」
そう言って、花崎課長をなだめよう?としている阪野さん。
しかし、その手は次々と女性のドレスを引き裂いている。
冷静に状況を見極めれば、真っ先に異常な行動をしているのは、阪野さんだ。
「阪野さんは黙って脱がせる作業に集中して頂戴!こっちには、こっちのプライドがあるのよ!」
どんな作業を強いられてるんだ、阪野さんは・・・。
「そんな余計なプライド捨ててしまいなさいな、楽になるわよ。ねえ?水島さん?」
知らんわ!!
「わ、私に意見を求めないで下さい・・・。」
どうやら花崎課長は、かなり我慢をしていたようだ。
ここにきて、抱えていた不満が一気に爆発した。
「こっちは仕事で来てるの!貴女だってそうなんでしょ!?それなのに、仕事のしの字も出ないまま、こんな馬鹿げたゲームに参加しなくちゃいけないなんて!
こんな非常識な内容のパーティーなんか、社会的に・・・いえ、人として貴女はどうかと思わないの!?火鳥さん!」
花崎課長が火鳥に食い下がる。
火鳥は、心底うざったそうに答えた。
「うるさいわね!だったら、自分でドレス脱いで畳んで、会場の端っこで座って終わるの待ちなさいよ!こっちはね!アンタのお好きな仕事以上に大事な用事があるのよ!」
花崎課長の言う事はもっともだ。
しかし、私と火鳥にも事情があるのだ。
こんなややこしい状況を作り出さない為に・・・とっととこの呪いを解く鍵を手に入れるという、大事な事が・・・!
ふと、海お嬢様が私のドレスをついっと指でつまんで引っ張った。
「・・・仕事以上に大事な用事、水島にもあるワケ?」
海お嬢様は、私の顔を見ないように、そう言った。
「え?いや・・・その・・・」
言えない・・・!
「・・・あの・・・ちょっとは、力になってあげてもいい、わよ?」
そう言って、そっぽをむく海お嬢様だが、気のせいか頬が赤い・・・ように見えるのは、私の気のせいだと思い込もう。
「え、えーと・・・。」
言えない!貴女達を遠ざける為の作戦だなんて、とても言えない!
すると、戸惑って動きを止めていた私の肩を誰かが後ろから”ぽん”と叩いた。
「ぎゃー!?脱がせないでー!!・・・あれ?」
叫びながら、振り向くとまたしても見慣れた顔に出くわした。
「ぜはー・・・ぜはー・・・ど、どうも・・・みなさん・・・」
それは、苦笑混じりの忍さんだった。肩で大きく息をしながら、乱れた髪を少し整える。
「忍さん!?」
「ちょっと!忍ねーさんまで!?ここで何してんのよ!?」
火鳥が、忍さんの登場にぎょっとしている。
まさか自分の従姉妹が、こんな非常識極まる秘密のパーティーに参加しているとは思わなかったのだろう。
「あ・・・なんかちょっと楽しそうだったから参加してみようかなって・・・でも、私・・・生憎、体力がないのよね・・・逃げるのに必死で・・・。」
また、動機がとんでもないというか・・・ある意味、忍さんらしいというか・・・。
「好奇心に任せて、なんでもホイホイ参加してんじゃないわよッ!」
そ、そうだそうだ!火鳥の言うとおり!
「りりったら、そんなに怒らなくたって良いじゃない。現に、今、私すごく楽しいわよ?脱がせ合いだなんて、ちょっとアクティブなイベントよね~。」
忍さんはそう言って、ニッコリ笑った。
「あ、アクティブ・・・?」
こんな泥沼みたいな状況を”ちょっとしたアクティブ”で片付け、心から一番楽しんでいるのは、この人くらいだ!
「知らないわよ!アタシ達はちっとも楽しくないし!」
そう言い返しながら、火鳥は襲い掛かってくる女性を脱がせている。
阪野さんも私の前に立ち、さっきから脱がせに行ってくれている。
「し、忍さん!危ないから、とにかくこっちに!」
「あー・・・疲れたぁ・・・完全に運動不足ね。テニスか水泳でも始めようかしら。」
(・・・のん気だ・・・緊張感がまるで無い・・・。)
「し、忍?」
花崎課長が呆気にとられた様な顔で、忍さんを呼んだ。
「あ、翔子?久しぶり!」
対して、忍さんはこれまた暢気に笑顔で花崎課長に返事をした。
「ひ、久しぶりじゃないわよ!何やってるのよ!?」
「あー・・・寄付金集めと・・・暇つぶし?」
ああ、そうだった・・・花崎課長と忍さんは、顔見知りというか、友人関係だった・・・!!
あーここまで来て、ややこしい!!もう逃げたい!!
すると、私の後ろで海お嬢様が、忍さんを睨みながら口を開いた。
「まーた、増えた。ていうか・・・あの女、以前連れてた女ね・・・水島、アンタ、あの女と付き合ってるの?ああいうのが好きなの?」
「え!?いやいや!・・・この人は、単に私の担当のお医者さんで・・・!」
同性見たら私とくっついてるって発想しないでいただきたい!確かに、女性に好かれる事は多いけれど、私は興味なんか無いんだ!
「あ、私、烏丸忍といいます。花崎翔子とは、高校の同級生。それから、水島さんと親しくさせていただいてます♪」
「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」
私は心の中で『あちゃー』と思った。
嗚呼・・・忍さん・・・もっと他に無難な自己紹介の仕方があったでしょうに・・・!!
「「「ふうん・・・へえー・・・親しいんだー・・・。」」」
突き刺さる三人の冷たい視線!ご、誤解だ!そういう意味で、私はこの人に興味なんか無いんだ!
忍さん!これ以上、マグマ大使達にハイオクガソリンぶち込まないで!!
「本当に、水島さんの周りってば・・・女性ばっかりね!それにしても、まさか忍までこんなところにいるなんて・・・!」と腕組をして、花崎課長がわなわなしながら言った。
「ち、ちが・・・!」
「本当に、水島さんって奥手そうな振る舞いをしておいて、裏で結構色々やってるのね?ま、私は良いわよ?その位、やんちゃしてくれた方が。」と、意味ありげな笑みを浮かべて阪野さんがそう言った。
私のやってる事は”やんちゃ”で片付けられるのか・・・。
いやいや、そもそも何も!何もしてないぞ!?私は!
「・・・だ、だから・・・違うって・・・。(好きでこんな事になったんじゃない・・・!)」
「こらあああああああ!!そこの女達!何を無駄話に花を咲かせている!?やる気が無いのかあああああ!?」
その怒鳴り声にハッとして、周囲を見回せば、すっかり女性達が私達を遠目から見ていた。
私達を囲んで見ている女性達に、こちらに挑もうとする意思は感じられない。
それもそうだ。
さっきから、火鳥と阪野さんのアクティブエロス担当・2トップが最前線に立ち、女性達を次々と剥いていたのだから、彼女達の戦意が失せるのも無理は無い。
「「「「「元からやる気なんか無いわよッ!こんな腐ったゲーム!!」」」」」
熱くなる女難チームの後ろで、私は援護に回る。
「そーだそーだ。(棒読み)」
「うぬぬ!景品が、わしのコレクションが欲しくないのか!お宝だぞ!?」
加藤フーズの社長は、よほど頭がイッちゃっているようで、子供のような事を言って駄々をこねている。
そんな、いい年ぶっこいたオッサンに、忍さんが静かに言った。
「・・・おじ様、残念ですが・・・どんなお宝でも、参加者全員に戦う意思が無ければ、このゲーム、成立しないんじゃないですか?」
忍さんの言葉に、会場内の女性がざわつく。
「そ、それも・・・そうよね?」
「大体、どうして脱がなきゃいけないのかしら?」
さっきまで、脱ぐか脱がされるかの勝負に興奮していた熱気が、どんどん冷めていく。
「・・・むむう・・・!よぉーし!わかった!金だ!金を出すぞ!!」
あのオッサン、全然わかってないよッ!空気読めよッ!
「「「「そういう問題じゃない!!」」」」
「・・・水島、これ、マズいんじゃない?これで、このゲームが有耶無耶になってしまったら・・・あの古文書をどうやって手に入れるのよ?」
「あ、そっか・・・!」
火鳥に言われて、ハッとする。
確かに、このままゲームが終了してしまい、あの資料が手に入らなかったら、わざわざこのパーティーに参加した意味が無い。
いつ女性に脱がされるかわからない、女性に強制的に関わらなくてはいけない、こんなゲームはとても嫌なのだが、あの資料は手に入れたい。
(どうしたら・・・?)
まだ参加者はゴロゴロいる。
それに、火鳥と阪野さんに頑張ってもらっても、生き残るのは一人だけ。
あまり考えたくは無いが、このままこのゲームを続行したら、間違いなく私は女難チームを脱がせなくてはならなくなる・・・というか、脱がされる可能性の方が高い。
・・・何度も言うが、そんなの私はちっとも求めちゃいない!
女同士で脱がせゲームはしたくないが、あの本は欲しい。
しかし、この流れを止めてしまえば、あのバ金持ちの機嫌が悪くなるのは目に見えている。本は手に入らないだろう。
(どうにか・・・上手い事、この勝負を自分の土俵に持ってくれば・・・。)
とにかく、考える。
出来る限りの事を考える。
いつも、そうしてきたように。
考えるのをやめてしまったら、私は前に進めない。
逃げて、流されるだけの女難の女のままじゃ、いつまで経っても最終回を迎えられない。
すると、地下室の扉が開く音がした。
その方向を見ると、先程の奥様が息を切らせて立っていた。
慌てて、執事らしき男達が奥様を取り囲み、扉を閉めた。
それにも負けず、奥様は金の玉座にズンズン進んでいき、旦那に向かって大声で言い放った。
「あなた!もうこんな卑猥な事やめてッ!」
ああ、まだ常識が残っている人物がいた・・・と私は少し安心した。
「お前!わしの趣味を邪魔するなと言っただろう!女は男の趣味に口を出すな!引っ込んでろ!」
社長は立ち上がり、明らかに不機嫌な顔をして、後妻さんを怒鳴った。
「い・・・嫌よッ!」
「何だと?誰のお陰で今の生活が出来ると思ってるんだ!・・・ははぁん、そうかそうか、確か、お前の知り合いとやらがここにいるんだったな?」
奥様の知り合い・・・ああ、火鳥の事か。
「そ、そうよ!だから、やめて!もう犯罪に完全に片足突っ込んでるような、安いエロゲーみたいな真似はやめて!」
「う、うるさい!これが、男の趣味じゃあああああ!!」
・・・なんでもそれで片付くと思ったら大間違いだぞ、と思う私の背後で、女難チームの皆さんが声を揃えて言った。
「「「「くっだらない趣味よねー・・・。」」」」
「う、うるさい!女にわかるか!!」
外野がうるさいが、私は目を閉じ考え続けた。
このままでは、ゲームがグダグダになって終わってしまう。
(ん?待てよ・・・?)
そこで、私はあるアイデアを思いついた。
私の提案に、あのバ金持ちが乗ってくれるかが問題だが、やってみるしかない。
「ちょ、ちょっと、待って下さい!」
「むう?なんだ、そこの地味な女!」
おのれ、ここまで生き残ったのに、まだ地味と呼ぶか・・・!ちくしょー・・・ムカつくなぁ・・・。
※注 水島さんは何もしていません。
「あの・・・わ、私と1対1で勝負して下さい!」
私がそう言うと、全員がギョッとした表情で私を見た。
「み、水島!?」
一番驚いていたのは、さっきまで脱がせくそみそテクニックで、私の度肝を抜いた火鳥だった。
私の言葉を聞くなり、加藤フーズの社長は、興味深そうに私を見て笑った。
「何?わしと、お前でか?地味な女の分際で、男のわしと勝負だと?ふははは!笑わせるな!女が男に勝てる訳が無い!!」
そう言って、私を馬鹿にするように笑った。
確かに、腕力は敵わないだろう。
だが、私は女難の女。
女性と関わりたくはないし、相手が女性だと落ち着かないし、行動もままならない。
女性と何をどうこうは出来ないが、男性相手ならば何も気にする事無く、自由に振舞える!
相手がどこかの社長でも、どうせ出世は期待していないし興味もない。今の仕事をクビになる以外、恐れる事など何も無い!
それに、相手は一般OLの私だと思って、完全に舐めきっている。
そこに漬け込めば、勝てる!
つーか、勝つ!絶対に勝つ!!
それに、私は・・・男性になら徹底的に好かれない自信があるッ!!
・・・うう、自分で言ってて、悲しくなってきた・・・。
いや、気を取り直して!交渉開始だ!
「勿論、ただで、とは言いません。もし、あなたが私を脱がせる事が出来たなら・・・ここにいる全員がしっかり全部脱ぎます!」
私は至って真面目に言った。
その一言に、その場にいた全員が口を揃えて叫んだ。
「「「「な、何言ってんだ―――!?」」」」
そのツッコミはごもっともだ、と心の中で私は思う。
もし私が彼女達と同じ立場なら、同じツッコミをして、意地でも止める。
「ほう・・・?面白い!地味すぎて、イマイチそそらないが・・・全員が脱ぐと言うならば、やってやろうではないか!」
ぃよーしッ!乗ってきたぞ!さすが、単純バ金持ち!そして、やっぱりムカつく!!
「ま、待って!こっち来なさい、水島!勝算はあるの!?」
私の腕を取り、火鳥はやや焦ったように私に聞いた。
「・・・相手が男性なら、少しは。」
私は素直に勝算を口にした。
「”少し”じゃ困るのよ!相手はドレスじゃない!タキシードよ!?脱がせられるの!?
どうせなら、確実に勝てそうな・・・あの、何もかもデカくてエロそうな女にしなさいよ!」
そう言って、火鳥は必死にいかにも勝てそうな、何もかもデカくてエロそうな阪野さんを指差す。
「・・・それ、私の事かしら?」
笑顔だが、阪野さんは火鳥に良からぬ感情を抱いているのは、雰囲気とこれまでの付き合いでなんとなくわかる。
確かに、完璧なお人形こと、阪野さんが、あの社長と1対1で戦えば、私より勝率は上がるとは思う。
だが、あの社長が自分に不利になるかもしれない勝負を易々と引き受けるとは思えない。
「ダメだダメだ!その地味な女が勝負を挑んだんだ。ワシは勝負するなら、その地味な女としかやらんぞ!」
・・・ほら、やっぱり。
「ちょ、ちょっと水島さん!?あの社長と勝負って・・・本気なの!?ダメよ!危ないわ!全員で抗議しましょう!?これは、何度も言うけど犯罪よ!」
花崎課長がそう言って、私を引き止めた。
「ムッツリスケベの花崎さん、ちょっと待って。どうやら、水島さんは勝つ気みたいね?」
阪野さんがそう言って、花崎課長を止めた。
「ちょっと、もう少し言い方を工夫出来ないのッ!?」
「うん、良いんじゃない?水島さんがやりたい、というなら。」
忍さんが皆に笑顔でそう言った。
その言葉に、海お嬢様も頷いた。
「そうね、わかったわ。やるならやりなさいよ。あたし達、アンタが勝つ方に賭けるわ。」
「ちょ、ちょっと!水島さんがあんなオッサンに脱がされても良いの!?危ないわよ!」
まだ私を止めようとしてくれる花崎課長に感謝をしつつ、私は全員の前で、しっかりと決意を口にした。
「大丈夫、勝ちます。あのオッサンを脱がせて、中年特有の汚ッい背中を晒してみせます!!」
※注 全ての中年の方の背中が汚いとは限りません。中年の皆様、申し訳ありませんでした。
「はあ・・・ったく。・・・死んでも勝ちなさいよ、水島。」
火鳥に微妙なプレッシャーをかけられたが、私は力強く頷いた。
部屋の中央で私と社長はお互いの顔を見合った。
相手が私、という事で余程安心しているのだろう、社長はニヤニヤしていた。
「ふははは・・・見た目も雰囲気も地味な女だが、その度胸だけはかってやるわい。
しかし、この加藤フーズ代表取締役のわしに無謀な勝負を仕掛けた事を後悔させてやろう!」
そう言って、社長は両腕を振りながら、指をグニグニと握ったり開いたり、いやらしい動きをしてみせた。
私は特に何も言う事はなかったので、黙って構えた。
「行くぞー!!」
笑いながら、こちらに向かってくる社長を軽く避ける。
相手はお世辞にもスリム、とは言いがたい体型。
動きのキレも、いつもの必死過ぎる女難の皆さんの勢いに比べたら、何の事は無い。
「む?すばしっこいな・・・しかし、避けるだけでは、わしの特注のタキシードは脱がせられんぞ!!」
私は、鼻で笑って手招きをしてみせた。
「ぐぬぬううう・・・!!」
こんな安い挑発に簡単に乗ってくれるんだから、ありがたい話だ。
社長は顔を真っ赤にして、私の後を追いかけてきた。
私は満面の笑みで、社長から逃げ回る。
「ま、待てええええええ!!ハアハア・・・ゼエゼエ・・・!!」
「待てと言われて、待つ訳ないでしょう!」
「くっそー暑い!ええい!こんなものこうしてやる!シャツさえ脱がなければ、ワシの勝ちじゃいッ!!」
見る見るうちに社長は汗だくになり、タキシードのタイを外し、上着を脱いだ。
(やはり・・・。)
私の思ったとおりの展開だ。
こうして逃げ回って、相手を疲労と暑さを与えれば・・・私が脱がせなくても、相手が勝手に脱いでくれる。
これぞ・・・名付けて!・・・『太陽と北風作戦』!!
・・・自分で言ってて恥ずかしいけど・・・私は、これで勝つ!!
「ぬうううううううん!!逃げるなああああ!!」
私を捕まえられない社長は、駄々っ子のようにうねうねと身をよじる。それに対し、私は自分のペースを貫いていた。
まともに組み合っては、力の差で負ける。
ならば、ギリギリまで相手の体力を減らし、シャツ一枚になった所を確実に脱がせる!
(相手は、相当バテてきてるぞ・・・!)
良い調子だ。私の計画通り!!私にはまだまだ余力が残っている!
このまま、足腰立たないまでに一気にズタボロにしてやる―ッ!フハハハハハ!!
※注 女難ではない男性なので、多少気が大きくなってしまっている水島さん。
「・・・くうう!よしッ!誰でも良い!その女を捕まえろ!ワシに協力したら褒美を・・・褒美を出すぞ!!
金だ!金をやろう!誰か!その女を捕まえろ!1秒拘束で100万だ!」
「な、何ッ!?」
その社長の一言で、会場内で私と社長の勝負を黙って見ていたギャラリーの女性の顔つきが変わった。
ま、まさか・・・そんな手段を売ってくるとは、さすが金持ち!どこまでも汚い!!
「100万?」
「1秒拘束で100万・・・!」
「10秒拘束で、1000万!」
「捕まえてやるううう!!」
快調に走っていた私の元にみるみる内に、目が血走った半裸の女性が駆け寄ってくる。
「うわあああああ!?」
彼女達は先程、脱がしあいバトルロワイヤルで火鳥や阪野さんに負けた人間だ。
すでに何かを失ってしまっているので、もう恐れる事も無ければ、半裸で動き回る事も平気なのだろう・・・。
金に釣られて、次々と半裸の女性達が私を捕まえようと手を伸ばす。
避けて逃げるが、後ろからはヘロヘロ社長が迫る。
「水島さん!?」
「マズイ!アイツが捕まったら・・・!!」
有利になったかと思えば、途端に数の暴力により大ピンチ!
「わああああああああ!!」
タイマン勝負だったのに――!!
こんなの、こんなの・・・反則だあああああ!!
「みんな!水島さんの援護に行くわよ!」
花崎課長がすかさずリーダーシップをとり、私の援護を提案した。
そうだ!こうなったら、助けて!みんな!!
しかし。
「お待ち下さい、元はあの地味な方がご主人様と1対1の勝負を挑んだはずです。あなた方が勝負を邪魔する権利はないかと思いますが。」
増岡という執事を筆頭に、その場にいる男性達が花崎課長の行く手を阻む。
そして、執事にまで”地味”と呼ばれる私って・・・!!
「ふざけるんじゃないわよ!あのオッサンだって、女を買収して仲間にしてるじゃない!アレは反則でしょ!」
海お嬢様が怒りを露にするが、執事達はあくまで、あのオッサンの味方をする。
「いいえ、コレも、ご主人様の実力です!」
キッパリと言い切りやがった・・・。
「そんな実力あってたまりますか!本当に汚いわね!!」
花崎課長が更に執事に詰め寄るが、執事は微動だにしない。
「・・・なんとでもおっしゃって下さい。私はご主人様の味方です。」
だ、だだだ・・・大ピンチ!!
「ぐふふふふふぅー!これで、これでワシの勝ちじゃあ!金は実弾!それを持たない、お前など所詮は、ただの地味な女だ!あははははは!!」
く、悔しい・・・!!
こんな奴に負けたくない・・・庶民として、負けたくない!
考えろ・・・何か、何か考えろ!!
「水島―ッ!下!!」
火鳥の声がした。
「・・・え?」
気が付いた時には、もう遅かった。
左足首をしっかりと掴まれた私は、バランスを崩した。
(しまった・・・!捕まった!)
「よっしゃー!100万ゲットーーー!!」
半裸で人の足首を掴んで、喜ぶ女を見下ろしながら・・・私は思った。
・・・金は、人を変える、と・・・。
「はあはあ・・・待ってろ!地味女!今、脱がせてやるわああああああ!!ゼエゼエ・・・!」
既にヨタヨタ走りになっている社長を見つめながら、私は必死にもがき、考えた。
もはや、相手は何でもありだ。
仮に、今私があのオッサンを脱がせて勝ったとしても、相手が素直に負けを認めるとは、思えなくなってきた。
『ワシの服は、皮膚までだ!』とか言い出しそう・・・。
確実に、あのバ金持ちを打ち負かすには・・・!
「ワシはなあ・・・勝つ為なら、なんでもする・・・
女だってそうじゃ・・・どんな手を使ってでも、手に入れる・・・ワシはそういう男じゃあああ!」
「そんなの知るかああああああッ!!」
「あなた!もう、もうやめて!!」
いつの間にか、後妻さんが社長にすがりついて止める。
「黙ってろ!お前はワシの妻!妻は家長である夫に従えッ!口答えは許さんッ!」
社長の怒号に、後妻さんはワナワナと震えだし、震える声で言った。
「もう、我慢できないわ・・・!私は、これも夫婦の縁だと、信じて自分をごまかしてきたけれど・・・!もう、我慢できない!私の命の恩人に、そんな事までするなんて!」
後妻さんの一言に反応し、私はもがくのを止め、考えた。
「・・・縁・・・?」
私は、その言葉を反芻し、考え・・・目に力を入れる。
(・・・”縁”・・・そうか!まだ手はあるぞッ!!)
もはや足は封じられ、腕だけが使える状態の私に出来る事は・・・これしか、無い!
相手が”金”という武器を使った。
私には金は無いが・・・私にしかない”力”がある!
(頼むから・・・こんな時に、回数制限で使えないとかいうオチはやめてくれよ・・・!)
そして、私の視界に、大量の縁の紐が踊り出てくる。
(・・・よし!見える!・・・アレと、アレと・・・よし!よし!これはイケるぞ・・・ッ!!)
私は、ターゲットを目視してから、右手を伸ばす。
狙いのソレが引き寄せられるように、私の手に飛んでくる。
(よーしよし。後は・・・!)
ソレを掴み、私はしっかり、何度も何度もキッチリと結んだ。
「フンッ!ワシがいなければ、今頃どうなっていたかもわからん女が、偉そうに”我慢していた”だと!?ふざけるなよ!
お前との腐れ縁など、いつでも切ってくれるわッ!!」
いくら興奮しているとはいえ、自分の妻に対してあまりの物言い。
他人事ながら、私も少しばかり腹が立ってきた。
だから、今自分がやった事に私は後悔なんかしないだろう。
”本当の腐れ縁”って奴を、みせてやろうじゃないか・・・!
(しっかり結んでやったんだ。・・・切れるもんなら、切ってみろ・・・!)
作業が終わり、私は口を開いた。
「・・・”ふざけるな”って言葉は、あなたにそっくりそのままお返ししますよ。社長。」
私の言葉に、社長はこちらを見て笑った。
「ほう?そんな偉そうな口を叩けるのも今の内だぞ?すぐにお前を素っ裸してや・・・な、何が可笑しい!?」
私も私で、一段と意地の悪い笑みを浮かべていた。
「・・・さあ?なんでしょうね?」
私の視線の先には、タキシード姿の男性達がいた。
社長は、抵抗を止め笑い続ける私を不審に思ったようだが・・・もう遅い。
社長はもう、私の罠の中にいる。
「な、なんだ気味の悪い笑い方をして・・・ん?ま、増岡!?貴様、な、何をしている!?離せ!ワシは、あの女に用があるんだ!!」
社長を後ろからそっと抱きしめたのは、増岡という名の執事の男性だった。
まるで、愛しい恋人を抱きしめるように優しく・・・。
その危なげな雰囲気は、さすがの後妻さんも感じ取ったようで、すぐに距離を取った。
「ご主人様・・・もう、もう・・・女なんか相手にしないで下さいッ!裸なら、私がなります!!」
「・・・は?」
ポカンと口を開け、社長は増岡さんの顔を見た。
増岡さんは、決意を固めたようなキリリとした顔をしながら、自分のズボンを一気におろした。
「この私が一番、ご主人様を想っているのです!ホラ、こんなにもいきり勃って・・・!」
「う、うわあああああああああああああああ!!な、なななな、ナニをしてるんだああああああああ!?」
「ご主人様のせいで・・・私のフライドポテトがこんなに熱をもって・・・!」
「な、何言ってるんだ!?お前、そんな奴じゃなかっただろうが!しっかりしろ!増岡!!」
突然の執事の反乱に、主人はすっかりパニック状態。
そんな彼を更に、たくましい体の青年達が囲む。
「増岡さんばっかりずるい!ぼ、僕も、ご主人様に愛されたかったんだッ・・・こんなにも、僕のフライドポテトが・・・!」
「や、やめろ・・・我が社の目玉、神聖なるフライドポテトを例えに出すな!その棒を収めろ!わ、ワシに近付くなッ!!」
「俺のフライドポテトも見て下さい!」
「俺のポテトもこんなに熱く・・・!」
「やめろと言ってるだろおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
頭を抱える社長を熱っぽい視線で見つめたおそうとする青年達。
「さあ、ご主人様のフライドポテトを見せてください・・・」
「さ、触るな!ワシに触るあああああああああああ!!」
青年達が社長の服に手をかける。
「社長。」
「な、何をした!?ワシの執事に何をした!?地味女ァッ!」
「何もしてませんけど。ただ、私もね・・・貴方とは違いますけど、勝つ為なら手段は選ばないんですよ。・・・そういう女です、私は。」
「ふ、ふざけるな!お前みたいな無礼な女にやる物なんか、一つもないぞ!!」
「いいですよ。」
「ふぁッ!?」
もはや、私が手を下すまでも無い。
「・・・これから、貴方は”大事なモノを失う”んです。私は、それを見ているだけで良いです。」
自然と私は笑っていた。
その瞬間、社長は何かを察し、真っ青な顔になった。
「ま、待ってくれ・・・!望みの品をやる!だから!!今すぐ、こいつ等を止めてくれッ!!」
私は後妻さんの肩に手を置いて、言った。
「・・・どうします?」
「え!?わ、私?」
私はコクリと頷き、夫の未来の選択権を妻に与えた。
「貴方・・・!」
迷ったように私と社長を交互に見る後妻さん。
何も言わずに彼女の答えを待つ私に対し、社長は余計な口を開いた。
「お、おい!わ、わかってるよな!?助けてくれよ!庶民だったお前の面倒をここまで見てやった、このワシの頼みだぞ!」
その瞬間、彼女の迷いはサッパリと消えた。
「・・・水島様。」
「はい?」
女という生き物は、決断すると途端に強くなる生き物である。
迷っている時は甘い言葉や強い命令口調に屈してしまう事が多いのだが・・・。
自分の生きたい方向を決めてしまうと、女は強い。
「・・・お願いします。私にも、この人が失う所を見せて下さい。」
私は再び社長の方を向き、首を傾げて見せ”・・・ですってよ?”と口パクで伝えた。
社長の顔には絶望の二文字がクッキリと浮かび、執事達はウットリとした表情で社長のシャツに手をかけ呟いた。
「ああ・・・性別の壁を越えて愛し合え、という声が聞こえます・・・!」
「ヒイッ!?」
私はそんな事を言ってはいないが、そういう風になるようにしっかりとやる事はやらせてもらった。
「社長さん。庶民へ向けて商品を提供する立場なら、庶民の・・・いや、人の気持ちを考えて、モノを言わなきゃダメですよ。」
私がそう言い終わると同時に、執事の手により強引にシャツが引き裂かれ、ボタンが飛び散った。
「ヒイヤァッ!?や、やめてえええええええええ!ワシ、こんなの嫌ああああああああああ!!!」
悲痛な叫び空しく、社長のシャツがバサリと床に落ちた。
後妻さんは、無表情でそのおぞましい光景を直視していた。
会場の女性達も皆、静かで冷め切った表情で、社長と青年達を見つめていた。
「ちょっと・・・何よ、コレ・・・。」
「やだ・・・女女って言ってた割に、結局男が好きなんじゃない・・・」
「やあねぇ・・・。」
「オジサン受か・・・アリっちゃアリね・・・。」
「あ、私も好き~☆デュフフフ。」
よし。これで、いい。
気が晴れた。
・・・名付けて・・・『BL作戦』・・・成功!
※注 只今、ご覧の百合含有サイト内のSSにおいて、不適切な展開がありました事を深くお詫び致します。
「・・・よし、勝った。」
私は満足感でいっぱいになりながら、見慣れた顔の元に戻った。
「水島・・・アンタ、やったわね?」
火鳥が低い声でそう言った。火鳥も同じ力を持っているから、私が何をしたのか解っていたようだ。
私は、あの馬鹿社長と執事達の縁を強く強く・・・時間が無かったから、ややグチャグチャに、キツく結んでやっただけだ。
結び方の影響か、結んだ回数の影響かはわからないが・・・執事達の恋心は第3者の目から見ても、熱狂的である。
仲良き事は美しきかな、と昔の人が言ってた。
あの社長は、異性より同性と仲良くなった方が世の中の為だ。
「先に反則ワザ使ったの、あっちですから。」
そう言って、私はニヤッと笑って見せた。
火鳥はなるほどね、と納得したように笑った。
「じゃ、とりあえず、この騒動に紛れて、資料をいただきましょ。」
さすが火鳥はちゃっかりしてるな、と思いながら私達は、景品の並ぶテーブルへと向かった。
「あった?」
「いえ、そっちは?」
「や、やめてええええええええええッ!!棒は・・・棒はいやあああああああああ!!」
主人の悲鳴をBGMに私達は、狙いの資料を探した。
「見落としてない?無いわよ?」
「あれ?確かに、テーブルに・・・ありましたよね?」
「いやあああああああッ!!ワシ、こんな所で・・・こんな格好・・・いやああああああああっ!!」
おかしい。(あの社長は、どうでもいいとして。)
先程まで、確かにあの本は、ココにあったのに。
テーブルの上には、あの資料の影も形も無かった。
せっかくココまで来たのに・・・肝心のアレが無かったら、今までの苦労は・・・!!
「・・・何探してるのよ?」
(ヤバッ!!)
いつの間にか、海お嬢様が仁王立ちで私達の後ろにいた。
「あー・・・いや、勝ったんで、景品貰おうかな、と。」
そう言って私は笑ってごまかしたのだが、海お嬢様は目を閉じて溜息をついた。
「ふうん・・・なるほど、そういう事ね。最初から、それが狙いだったのね。」
「あ・・・。」
バレた・・・。景品(古本)目当てにパーティー参加したのが、バレた。
「ちゃんと言ってくれたら、協力してあげるって言ったのに!欲しいものがあるなら、あたしが手に入れてあげるわよ!」
・・・ちゃんとって、どこまで?と私の頭に、そんな質問が浮かんだが、すぐに揉み消した。
「いや・・・私は、別に海ちゃんに、そこまでしてもらわなくとも・・・!」
女難の呪いを解く為の本が欲しいんだ、と言って、海お嬢様が素直に手に入れて、私に差し出してくれるか・・・。
「そんなに・・・そんなに、他人の力を・・・あたしの力を借りるのは嫌なの!?自分は、いつも他人の味方して助けてくれるクセに!あたしには全然頼ってくれないわけね!」
「いや・・・あの・・・私は、そういうつもりじゃ・・・!」
必死に言い訳をするが、なんだかややこしくなってきた・・・!いや、なんで私が言い訳をしなくちゃいけないんだ?
別に、私が何を手に入れようと必死になっても・・・
・・・貴女達には・・・
「じゃあ!どういうつもりなのよッ!」
答えを渋る私に、海お嬢様はガンガン寄って来て、ガーガー責める。
「いやー・・・えーと・・・」
「こんな無茶までして・・・あのオッサンとの馬鹿げた勝負で万が一負けてたら、アンタどうなってたか、わかんないじゃない!」
「でも、勝ったし・・・」
「そういう問題じゃないのっ!信じてはいたけれど、こんな無茶なんかして欲しくないに決まってるでしょ!?」
「う、す、すみません・・・。」
海お嬢様の勢いに押され、困り果てている私を、いつの間にか、花崎課長、阪野さん、忍さんがジッと見ている。
皆、何か言いたげに見えるが・・・黙って口を閉じている。
「・・・皆、同じよ。皆、困ってるアンタの力になりたいって思ってるのに・・・アンタは、ちっともあたし達を信じてくれないし、頼ってもくれない!
もっと正直に話をしてくれても良いじゃない!いつも水島は逃げてばっかり!あたしは、それが嫌なのッ!」
「・・・・・!」
海お嬢様の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
力になろうとしてくれるのは、ありがたいとは思う。
だけど・・・何故、こんな事まで言われなくてはならないんだ?
・・・だって、そうではないか。
私が、何を必死に頑張ろうと・・・
・・・他人の貴女達には、全く関係ないじゃないか。
しかし、このまま怒られ続けるのもなんだし。
なんだかわからんが、とりあえず謝ってしまおう。と私が思った矢先、私の隣で火鳥が口が開いた。
「くだらない。」
吐き捨てるように、火鳥はハッキリと言った。
バッサリと、その容赦の無い一言で斬って捨てた。
「!?・・・なんですって?」
海お嬢様の表情が固まり、目の奥からは怒りが噴出しそうだ。
周囲の女性達も、表情が険しい・・・!
や、やめてー!!わ、私が謝るから!それで丸くおさめよう!?ね?平和が一番!!
だが、そんな私の思いを無視して、火鳥は恒例の長台詞を放つ。
「だから”くだらない”って言ったのよ。頼って欲しい、信じて欲しい・・・所詮は、アンタ達の願望であって、こっちには関係ない。
水島みたいな人嫌いはね、他人に借りなんか作りたくないの。自分の事を自分で解決して、何が悪いの?
一度頼れば、そこに漬け込む馬鹿がいるから!隙を作れば、アンタ達みたいな下心をもった奴が、迫ってくるから!
だから、信用も頼る事も出来ないの!そんな単純な事もわからないの!?」
火鳥の言葉に、海お嬢様は傷ついた表情を浮かべ、私を見た。
・・・私は・・・。
「・・・あの・・・えと・・・・・・・。」
・・・私は・・・何も、言えなかった。
火鳥の言葉のチョイスは悪いが、思っている内容は・・・ほぼ合っていた。
借りは作りたくないし、自分の事は自分でしたい。
彼女達を自分の問題にこれ以上巻き込みたくないし、他人が関わって、これ以上ややこしい事態になるのも嫌だった。
それに、彼女達が私に好意を寄せているならば・・・この私の弱みを利用しないとは言い切れない。
「・・・わかった・・・水島の気持ちは、よく・・・わかった!もう、いい!」
そう言って、海お嬢様は駆け出して、出口から出て行ってしまった。
何も言わずに、花崎課長と阪野さんも海お嬢様の後について、出て行ってしまった。
「・・・正直に気持ちを出すのも良いけれど、少しは彼女達の気持ちも考えなくちゃ。下心だけじゃないって、わかってるんでしょ?水島さん。」
忍さんが、諭すようにそう言った。
『人の気持ちを考えて、モノを言わなきゃダメですよ。』
さっき社長にドヤ顔で放った言葉が、ブーメランのように返って来た。
考えて、モノを言わなきゃいけなかったのは、私なのに・・・。
「・・・・・・。」
それでも尚、私は何も言えなかった。忍さんの言葉にも、言い訳すら言えずにいた。
私は・・・誰にも頼りたくは無い。
相手が私に好意を持っているなら、尚更・・・頼りたくなんか無い。
まるで、その気持ちを利用しているような気持ちになるから。
でも、それを他人にわかってもらうなんて、可能なのか?
「・・・わかってるみたいだから、私ももう行くわね?じゃあね?・・・りり、後で電話しなさい。」
「説教ならゴメンよ。」
火鳥がそっぽを向いて、子供みたいにそう言うと、忍さんの口から聞いた事も無いような低くて怖い声が聞こえた。
「・・・りり。(怒)」
一言。
ドンと重くのしかかる一言。
キラキラネームを短く呟いただけなのに。
その、たった一言に、恐怖が詰まっている。
・・・怖ッ!忍さん・・・滅茶苦茶怖ッ!!
「・・・チッ・・・わかったわよ!」
舌打ちをしながらも、火鳥はすぐに降参した。それが賢明だ。
忍さんとパーティーの参加者は、ゾロゾロと出口に向かって歩きだす。
こんなパーティー来るんじゃなかった、ところで帰りの服はどうしよう等と口々に零しながら。
部屋の中央では、まだパーティーの主催者が卑猥なフライドポテトの品評会を開催していた。
・・・しばらく、フライドポテトは食べられないな・・・。
気を取り直して、火鳥と二人で本を探した。
先程紹介された、どうでもいいのに無駄に高価な品が並ぶ台をくまなく探したが・・・本は、無かった。
「はあーあ・・・一体、私は何してるんだろう・・・。」
私はそう呟いて、玉座に座った。
「これが・・・ご主人様のフライドポテトか・・・!」
「やめてーッ!ワシの棒を刺激しないでーッ!!」
「祟り神に最後まで抵抗するんでしょ?しっかりしなさいよ、水島。ここで負けたら祟り神の思う壺よ。」
玉座に寄りかかりながら、火鳥がそう言った。
「ご主人様の・・・オニオンリングも・・・僕、見たいな・・・☆」
「いやあああああああああああああ!見ないで!ワシを見ないでえええええ!!」
「それにしても・・・あの資料、どこに行ったのかしら・・・?」
「無い、ですね・・・他のどうでもいい商品はあるのに。。」
これだけ探しても無いだなんて・・・。
既に誰かが持ち出したのか?いや、あんなマニアックなもの、価値があったとしても、一体誰が欲しがるんだ。
「あの、水島様・・・」
ふと、後妻さんが話しかけてきた。
「あの、お探しの品の事・・・私、知ってます。」
後妻さんの言葉に火鳥が身を乗り出した。
「なんですって?どこにあるの!?」
火鳥の顔を見て、後妻さんは顔を背けつつ首を横に振った
「あの・・・お話するのは・・・水島様だけに・・・」
「はあ?なんですって!?」
「ま、まあまあ・・・」
火鳥をなだめつつ、私は後妻さんの話を聞く事にした。
後妻さんと火鳥は、以前出会い・・・不倫寸前までいった、気まずい仲。
ここは、私しか動ける人間はいない。
「わかりました、お話を聞きましょう。」
私の答えに、後妻さんはホッとしたように案内を始めた。
「では、こちらに・・・。」
場所を変えるのか・・・。なんか引っかかるけど、手に入れる為には仕方あるまい。
私は、素直に後妻さんについていくことにした。
「水島!気を許したらダメよ!」
(本人がいるのに、大声で言わなくても・・・。)
背後から火鳥の警告が飛んできて、私は思わず苦笑した。
地下室を出て、階段を上がり2階の奥の部屋に案内された。
やはり、この屋敷は、どこに行っても、広い部屋ばかりで落ち着かない。
夫婦の写真が飾ってあり、いかにも女性が好みそうな天蓋付きのベッドが奥に見えた。
高そうな絨毯の上をそっと歩きながら、私は後妻さんに言われるがままに、椅子に座った。
後妻さんは余裕たっぷりで、私に背中を向け、何やら準備をしている。
かと思ったら・・・いきなり、纏めていた髪を下ろした。
・・・要らない。要らないよ、そのセクシー動作。要らない。本だけ頂戴。と私は思ったが、本人を目の前にしてそれは言えなかった。
「で、あの・・・早速なんですけど・・・」
「まあ、先程は逃げ回ってお疲れでしょう?飲み物でもいかがですか?お話は長くなりますから。」
そう言って、後妻さんはシャンパングラスを差し出した。
「はあ・・・」
賞品の場所を言うのに長くなるなんて、不思議だなとは思いつつも。
丁度、喉が渇いていた私は、素直にソレを飲んだ。
さっき、火鳥に言われた言葉を、すっかり忘れて・・・。
『水島、気を許したらダメよ!』
「で・・・私がお聞きしたいのは・・・本・・・の、事・・・なん・・・ですけ・・・あ、れ・・・?」
喉が熱くなったと思ったら、呂律が回らない・・・それどころか、瞼が重い。
グラスから残ったお酒が零れ落ちる。
「あ・・・ドレスが・・・!!」
酒がドレスにかかってしまった瞬間と同時に、私はそのままソファに倒れこんだ。
・・・こ、このパターンは・・・!
また、私は一服盛られたのか・・・!
指を突っ込んで、吐き出そうにも、もう起き上がれやしない。
「水島様・・・やっと、この時を迎えられる・・・。
ずっと、想ってましたのよ・・・あの日、私を屋上から助けてくれた・・・あの時から。」
良い人にみえた後妻さんの笑顔が・・・徐々に、ぼやけてくる。
「え・・・?」
助けた、とは言われても全く身に覚えのない事に、私の頭はこんがらがったまま。
「水島様・・・」
横たわる私に後妻さんが近付き、横髪をさらりと指先で払った。
「・・・・・・・・・・・・・。」
何も抵抗できないまま、私の唇はあっさりと後妻さんに奪われる。
(ヤバイ・・・これは、マズイ・・・!)
そうは思っても、腕が上がらない。
一旦唇は離された。
が、声を出そうと私が口を開けると、後妻さんはうっとりしたような顔で、ごく当たり前のように・・・舌を押し込んできた。
ぬるりと絡みつく感覚だけが、いやによく伝わる。
(が・・・がはぁ!?・・・やめろぉ・・・!)
必死に抵抗をするも、腕も声も上がらない。
私の意識は、すうっと吸い込まれるように真っ暗な底に落ちていった。
私は今、目を開けた・・・。
どうやら、眠っていたようだ。
”どうやら”という表現はおかしい、と思うだろうが、私自身もどうして眠っていたのか、眠る前の記憶が曖昧なのだ。
いや、それよりも・・・。
(ここは・・・どこだ・・・?)
どこだ?
ここは自分の部屋じゃない。
目を開けると同時に襲ってきたのは、世界が揺れているような気持ち悪い感覚。
やけに、スベスベした布地の感触を背中に感じる。
私はとりあえず、身体を起こす。
・・・なんだか、すごくだるいな・・・。
「・・・どっ・・・こいしょ・・・ぉっと。」
おばさんのような言葉を出しながら、私はゆっくり起き上がった。
(・・・あれ?)
私は、自分の視界の中に入った、自分の姿に驚き、目を見開いた。
何も・・・何も着てない!!
ブラジャー・パンツに至る、下着の類も、一切身につけていない・・・!
素っ裸だ!
素っ裸で、私はベッドの上にいる!
(な、なんだ!?一体何が起きた!?ここ、どこ!?)
慌てて、周囲を見回す。
でかい窓に、白いレースのカーテン、外は真っ暗だ。多分、今は夜だ・・・正確な時刻はわからない。
白い壁に、大きな裸婦の絵が飾ってある。・・・私に、芸術はよくわからないが、額縁を見る限り、かなり高価そうだ。
暖炉らしきものまである。その上には、金色の置き時計がある。
・・・時刻は、1時・・・?午前1時?
何故か、どんどん背筋が寒くなってくる。
とても、とても、とっっっっても!嫌な予感がして。
それに、さっきから、私が知らない・・・やや強い香水の匂いがする。
知らない。
知りたくない。
知るのが怖い・・・!
とにもかくにも・・・
「ここは、一体どこだッ!?」
誰に向かって問いかけているのか解らないまま、頭に浮かんだ疑問を口から放つ。
「・・・お目覚めですのね、水島様。」
すぐ傍で声がした。
むくりと起き上がったのは・・・女性・・・!
そのシルエットを見るや否や、誰かどうかもよく思い出せないまま、私は、さあっと血の気が引いた。
何故なら、よく見ると目の前の女性も私と同様、”裸”だったからだ。
裸の女二人が同じベッドにいる。
これだけで、不安を感じない方がおかしい。
「・・・あ・・・あ・・・!!」
私は、動揺のあまり、声が出なかった。
「先程は、素敵な時間をありがとうございました。・・・こんな夜は・・・初めて。」
そう言って、女性は汗で肌に貼り付いた髪を意味ありげにかき上げた。
衝撃的すぎる目覚めだ。
今、置かれている、この状況は・・・一体・・・!?
あれ?なんだか、自分も汗ばんでいるような気が・・・。
(ここはどこ!?私は、一体、この女性と何をしたの!?どうして汗ばんでるの!?)
汗ばんだ肌の上から、冷や汗がたらりと流れる。
考えたくは無い。
考えたくは無いが・・・普通に考えたら・・・!
も、もしかして・・・
わ、私・・・
・・・私、とうとう・・・”ヤッちゃった”・・・!?
・・・そして、現在に至る訳で・・・。
ちゃんと確かめようか?いや、どうやって?
聞く?
私達、ヤッちゃいました?ドッキングしました?創聖合体しました?・・・ってか?
どれも聞きたくないよ!!
「あの・・・私・・・あの・・・あの・・・」
上手く言葉に出来ないままの私に対し、後妻さんはゆっくりと電気をつけた。
明るくなった室内で、私は必死に自分の身体を見る。
キスマーク的なものは無いか・・・!?
痛みは!?・・・主に股の痛みは?・・・・・・無い。
でも、個人差があるって聞いたし・・・!痛みも血も出ない場合もあるって・・・!
わかんない!ナニをヤッたのか、わかんない!!
「・・・こんな形になってしまいましたけど・・・私、満足です。」
ふと、後妻さんがそう言った。
「は・・・!?」
いいいいいいいいいいやああああああああああ!!相手側が、満足してらっしゃるうううううううう!!(泣)
どうしたの!?何を満たしたの!?
私に何をしたの!?それとも、私を使ったの!?
いずれにしても、嫌ああああああああああ!!
い、意識が無いのが、一番嫌だ!!
何をしたのか、生々しく覚えているのも嫌だけど・・・!!
「主人は、まだ執事達と戯れているみたいだし・・・私達は、私達の時間を楽しみましょう?」
そう言って、私の肩に頭を傾けてくる後妻さん。
「い、いやいや!!」
楽しめない!私は楽しめないから!!
「水島様、やっぱり気分、お悪いんですか?」
悪いよ!あなたのせいで!すっごく悪いよ!!
「あ、あの・・・私は・・・貴女と・・・?」
私の問いに、後妻さんはニッコリ笑ってから、頭を下げた。
「改めまして・・・水島様、今日は・・・本当に素敵なお時間をありがとうございました。」
「す、素敵な・・・お時間・・・?」
どの時間帯の事?私が気を失っている間のゴールデンピンクタイムの事!?
「はい。あの、私・・・主人と別れます。今までは・・・主人の言うとおり、この生活を捨てるのが怖かったんです。
でも、私の幸せはココには無い。だから・・・やり直してみせます。」
いや、これからどうするとかいう、未来の話を聞きたかったのではなくてね・・・!
過去の話!私と貴女が何をしたのかを、ですね!こっちは聞きたい訳なんですよッ!!
「それもこれも貴女のお陰です。・・・貴女に、もう一度会えなかったら・・・貴女に庶民として生きる楽しさを思い出させてもらっていなかったら・・・。
きっと、私・・・こんな風に吹っ切れなかったと思うんです。」
吹っ切れすぎて、今とんでもねえ事したって気付いて!!
私に薬盛って眠らせて、何かしでかしたかもしれないのよ!?
「私、忘れない・・・今日の事・・・」
「・・・・・・。」
忘れて・・・!マッハの速度で忘れて頂戴!!
というか、美しい思い出にしようとしてるけど、私同意してないんですけど!?
ど、どうして、こんなことに・・・!?
あっ!そうだ!資料!資料の場所を・・・!
「あの!私、聞きたい事があったんですけど!?(今、もう一つ聞きたい事が増えたけど!)」
「あ、はい・・・コレが、欲しかったんですよね?ちゃんと取り置きしておきましたわ。」
後妻さんがニッコリ笑って、棚の中から何かを取り出そうとしている。
ベッドから降りた後妻さんの裸を見た瞬間、私は枕で上半身前面を隠した。
やがて、振り返った後妻さんは満面の笑みで、それを差し出した。
「はい!滝壺廉太郎の眼鏡!」
・・・・・・・・・・。
「違ッああああああああああああああう!!」
私は全裸でベッドの上で立ち上がり、力の限り叫んだ。
「あら?違いましたの?コレをずっと見てませんでした?だから、私てっきり・・・」
「違いますよおおおおおおおおお!うわあああああああああん!」
もうダメだ!(泣)
立ち直れない・・・!!
「か、身体を投げ出して(?)まで払った代償(?)が・・・眼鏡・・・!!」
その場に私は崩れ落ちた。
ショック過ぎる・・・。
「み、水島様?どうしました?」
そのあまりの他人事の発言に、私は思わず、頭に・・・ぷちっときた。
「”どうしました?”じゃないわよッ!?私に薬盛ってナニしたんだよッ!?」
「え?薬なんて盛っていませんが?」
「だって、飲んだ途端・・・意識が・・・!」
「ああ、確か・・・あのお酒、少し度数が強めでしたね・・・私は飲み慣れちゃってましたけど。でも、まさか、水島様がそんなにお酒に弱いとは思わなくって。」
「あ、あれ・・・シャンパンじゃなくて?」
「加藤フーズの系列の会社の新商品ですわ・・・『酔う為のカクテル~嫌な事は飲んで忘れよう~』 ・・・アルコール度数25%」
「高いッ!!そして、商品のコンセプトが酷すぎる・・・ッ!!」
「只でさえ、お疲れなのに、度数の強いお酒を飲んだから・・・気を失ってしまったんですね。うふふふっ」
それは、まるで”可愛い人ね”と言うような、軽いノリで・・・後妻さんは笑っていた。
「いや、笑ってるけど、ソレ飲ませたの貴女ですからね!?あと、コレ!何故、裸なんですか!?私も貴女も!!」
「あ・・・。」
最後の質問で、後妻さんは”流石にごまかしきれんかァ”という顔をした。
「水島様のトロ~ンとした表情が、何とも言えず・・・」
「酔っ払ってただけですけど・・・?」
「お口がぱくぱくと、物欲しそうに動いていたので・・・」
「いきなりキスされて、怖かったんですけど・・・?」
「・・・はしたない女だとお思いでしょうけど・・・私にとって、ここからは攻めていきたい人生の幕開けだったので・・・」
「知らねーよ!攻めるも守るも知らねーよ!!貴女の人生の幕開けに、私を全裸にする必要なんか無いでしょうが!!」
「でも・・・そうしないと・・・ドレスが皺になってしまうし・・・」
「え?」
ここに来て、ドレスの話?
「大事そうにしてましたでしょう?すぐ脱いで、シミを取らないとって思って・・・だけど、水島様は寝てしまうし。」
「・・・・・・・。」
後妻さんはそう言って、ドアの傍にかけてある、私の42万円のドレスを持ってきた。
「早めに拭き取りましたけど・・・一応、クリーニングに出した方が良いですよ。赤ワインじゃなくて良かった。」
後妻さんはそう言って、私にドレスを差し出した。
だが、私は誤魔化されんぞ・・・!
「私を脱がせた理由は納得しました・・・他に、何かしてませんか?」
私は、低く落ち着き払った態度で聞いた。
「え?そ、そんな!寝ている水島様に、性的悪戯なんか、しししし、してません!大体、私・・・抱かれたい派です!!」
しどろもどろすぎる。これは、絶対何かやったな。
「・・・私の体には・・・触ったんですね?」
「え・・・あ・・・まあ・・・ドレスを脱がせる為に・・・」
「手で脱がせて・・・後は?」
「べ、別に何も・・・!」
「・・・本当は?」
「あ、あとは・・・・・・・・・あの・・・口で・・・」
「口で・・・何を?」
「え・・・いや・・・それは・・・その・・・ぺろぺろ・・・」
「ペロペロ!?ぺぺ・・・ペロペロだとッ!?」
ついに・・・ついに水島シリーズに・・・18禁要素が・・・!(泣)
ダメだ・・・私、次回からどんな顔して、女難に立ち向かえば良いんだ・・・!
読者には「前回、人妻にペロペロされた穢れた主人公」という位置づけをされて、読まれてしまう・・・!!
どんな状況下でも、一線を越えなかったのが誇りですらあったのに・・・!!
ぺ、ペロペロされてしまったら・・・!!
「ち、ちなみに・・・どこを・・・?」
何を聞いてるんだ!?これ以上、深く墓穴を掘るな!私!墓穴は、どこまで掘っても墓穴よっ!
「はい・・・あの・・・私・・・お恥ずかしいんですが、肩甲骨と脇が好きで・・・そこを・・・。」
「・・・・・・・・・!!」
これまた、マニアックな場所をペロペロ・・・されてしまったか・・・!
ついに、私は・・・ペロペロされてしまったのか・・・!!
「でも、ちゃんとペロペロした後は・・・デオドラントシートで拭いておきましたわ。」
「そういう問題じゃない!!」
そういう気配り出来るなら、最初からペロペロしなきゃ良いんだがな!!
「でも、水島様・・・眠っている間、かなりうなされてましたわね・・・口にするのも、女性の名前ばかり・・・。」
「・・・・・・。」
その悪夢に、今日から貴女も仲間入りよ・・・!!
「さあさあ、水島様、ドレスです。シミもホラ、目立ちませんわ。後・・・ここ、少し縫っておきましたから。」
「ん?」
後妻さんが次に私の目の前に持ってきたのは、私の青いドレスだった。
「縫った?」
「はい・・・ここ、破れていましたから・・・勝手とは思ったんですけど・・・貴女が眠っている間に。」
そう言って、後妻さんは、よくよく見なければ分からないような場所を指差した。
確かに縫われている。
「・・・え?ど、どういう事ですか?」
私が聞くと、後妻さんは照れくさそうに答えた。
「激しく戦ってましたでしょう?元夫だけじゃなく、沢山の女性達と・・・多分、その時に少し綻びたと思うんですけど・・・ちょっと、縫わせてもらったんです。
貴女がそうやって戦ってくれなければ・・・今、私はここにいないんですから。これは、小さなお礼ですね。」
「あ・・・それは・・・すみません。ありがとうございます。助かります・・・。」
42万円・・・良かった・・・。
「あ・・・はい・・・☆つ、ついでに・・・ペロペロして・・・私、貴女の腕枕も体験しちゃって・・・んもう、ドキドキしちゃってそれ以上の事、とても出来ないわッきゃっ☆」
・・・つまり・・・ヤッてないのね・・・。
私は再び裸で立ち上がった。
「だから!ややこしい事してんじゃないわよッ!わざわざ、全裸にしないでよ!パンツやブラは関係ないでしょうが!!
てっきり、ヤッちゃったかと思ったじゃないかああああ!シミ抜きならシミ抜き!縫うなら縫う!って言ってよおおお!!」
気を失う前にガッツリキスされてるし、全裸にされてるし、勘違いもするでしょうよ!
「・・・それは・・・眠りに落ちる寸前の水島様があまりにも、官能的な表情をするから・・・つい☆」
「”つい”でしないで!もうややこしい事、この上無いわッ!」
「それに、全裸にして良かったですよ?水島様ったら、夢にうなされて大量の汗をかかれたから・・・ちょっとしょっぱかったかも・・・
それに・・・ヤッちゃう、のは・・・これからの話ですし・・・!」
「これからは無いッ!パンツ返してッ!私の味の感想も言わないでッ!!それから!これから私が脱水症状を起こしても、全裸にだけはしないで!!(泣)」
そして、後妻さんから下着類を返してもらい、私はサクサクと着替えをすると、部屋を出ようとした。
「あの、水島様!」
「ん?」
「お探しの品、私が探しておきます。見つかったら、間違いなくお渡しします。で、探しているお品は、何ですか?」
「・・・この地域に伝わる神々の歴史の書。」
私がそう言うと、後妻さんは少し考え込んでから言った。
「あ…それなら…もう既にどなたか、確か、女性が持っていきましたが…。」
「・・・な・・・何ですってええええええええええ!?」
私の悲鳴が、屋敷中に響き渡る。
狙いの品は、既に何者かの手に落ちていた・・・!
一体・・・なんだったんだ・・・今日一日の私の苦労は・・・ッ!!(泣)
※注 水島さんの苦労 = 無駄。
一方。
古い表紙を撫でる指は、紙と空気を行ったり来たりしていた。
彼女は、溜息をつきながら想い人の名前を呟き、眠れない夜を過ごしていた。
「ごめんなさい・・・水島さん・・・ごめんなさい。」
彼女の手には、ライターが。
彼女は思った。
これさえ、燃やしてしまえば・・・と。
― 水島さんは出席中。・・・END ―
あとがき
えーイロモノSSを最後までご覧いただき、ありがとうございました。
水島さんの縁の力が、初めて主人公っぽく役に立ったとはいえ、百合含有サイトであるまじき展開になってしまいました。
そういう意味で、百合含有サイト内のSSでのいわゆる禁じ手?を使わせていただきました。
なんというか、いつもしょっぱい百合で申し訳ないです。