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私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。

年齢は25歳。性別は女。

事務課のOLだ。普通を絵に書いたような女だ。


私は普通の人間だ、目立たずにひっそりと生きていこう!

・・・と思っていたのだが


ある日、私の周囲が激変し、平穏な日常は崩壊した。


私は呪われて、女難トラブルに遭い続ける”女難の女”になってしまった。


その日から全てが変わった。


・・・呪われている、なんて周囲の人に言ったら「はあ?頭大丈夫?」と言われるに決まっているし

こんな恥ずかしい内容の呪いなんか、誰にも言えるわけがない。


どんな内容の呪いかというと。

次から次へと私の目の前には女性が現れて、ややこしいトラブルばかりに遭い続け、挙句・・・女性達に好意を持たれてしまうという・・・。

しかも、その女性達は押しも意思も私なんかより、ずっと強い、ときたもんだ。


・・・小心者で人嫌いの私にとって、この人間関係が続くのは辛い。

人間関係に悩まされるのが嫌だからこそ、人を避けてきていたのに、これじゃあ本末転倒だ。


本当に辛いのだが・・・・・・なんだか・・・。


なんだか、なぁ・・・。


心境は複雑なままで、私自身、私の心境を上手く言葉に出来ない。

だが、この状況に自分が慣れてきているとは思いたくない・・・。


「やれやれ・・・。」


自室で色彩豊かで個性爆発な女性達からの”年賀状”を眺めて、私は溜息をつく。

去年の私には、届かなかった代物だ。


年を越しても、なお私の周囲は変わり続けている。

それも、とてもややこしい状況へと、だ。

・・・こんな状態で大晦日もお正月も過ごしましたともさ。
 
 ※注 水島さんの大晦日・お正月の悲劇は『水島さんは年またぎ中。』『水島さんからの年賀状&水島さんは初詣中。』をご覧下さい。


実家に帰っても、母親はいないし、父親は混乱しているし、娘の私は呪われているし・・・こんな状態で帰省する訳にはいかなかった。

自分の地元にまで、女難トラブルが現れたら大変だからだ。

近所のおばさんに噂話でも垂れ流されて、知り合いの耳にでも入ったりしたら、もう実家には帰れない。



(・・・今年こそ、平穏に過ごせますように。)


本当に、去年は色々あった。色々と。

だが、今年こそは女難から逃げ切り、必ずや呪いを解く方法を見つけるぞ!・・・あの馬鹿儀式以外の方法で!!


とはいえ・・・


「何の情報も無いんだよなあぁ・・・」


溜息と共に情けない声を出して、机に額をつける。



まず、私の呪いを解く為には・・・


その1・女性と[ピー]な儀式をする。


・・・これは即却下。


その2・縁の力を使って、縁の力の暴走を止める。


・・・これは、縁の力の使い方がわからないから却下。


「せめて、縁の力の使い方ってのが、わかればなぁ・・・。」


手を振ってはみるものの、手から光が出るとか、ロケットパンチみたいに手が飛んでいく・・・訳がない。

というか、そんな事になって一体何の得があるのか。そんな自分、気持ち悪いっ!


「はぁ・・・ダメだー・・・。」


私はソファに体を投げ出し、天井を見上げた。


(・・・くそう・・・一体、これは何の罰ゲームなんだ・・・)


そう、まるで性質の悪い罰ゲームだ。

人嫌いで人を避けて生きてきただけで、何故こんな目に遭わなくてはいけないのか。

一体、私が何をしたというのか!



・・・・・・・・・・・・・。



・・・いや、何もしてないからこそ、呪われたんだけどさ。まあ、それはいいや。

私は縁の力が優れている、と縁の神様に言われたが、だが縁の力なんてモノは一体、何の役に立つというのか。


色々考えてみた。


正しい縁の力。

その力の使い方。


私が本来、関わるべき人間との縁を大切にする。

他人と積極的に関わって、いつも笑顔で円満な社会生活を送る。



・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・おぅえええええええ・・・・・・(吐)。



自分のもしもの姿を想像して、私は少しげんなりした。


・・・そんなの、私じゃない気がする。


大体、私には人間関係なんて物事に貢献しようだなんて考えは、今も全く無いのだ。

好きだ嫌いだ、気に入った気に入らない、良い悪い、その他もろもろ全部ひっくるめて、どうぞ皆様、勝手にやってて欲しい。

私は他人に関わる気は無いし、私だって他人に関わって欲しくは無いのだ。


「自分が楽な生き方、か・・・」


そう、その楽な生き方を貫いた結果・・・私は呪われた。

普通は反省すべき、なのだろうが、私は自分の生き方を全否定されたといってもいい。

そして私の生き方を私自身、直そうという気は、これまたなかなか起きない。

生き方を直す、という事は・・・他人との関わりを増やさなくてはならないのだから。

しかし、いつまでもこのままこのふざけた呪いに呪われている、という訳にもいくまい・・・


「あーもう、知るかッ!!」


私は休日を良い事に、不貞寝に励もうとした。

考えに煮詰まった時は、寝るに限る。眠って、一旦考えをリセットするのだ。


”ピリリリ・・・ピリリリ・・・”


「んー・・・誰だ・・・?」


薄目を開けて、携帯の画面を見る。


『火鳥』


「・・・火鳥?」


正直、電話に出ようか無視しようか迷った。

なにせ、相手はあの火鳥だ。

昨年刺された怪我人とはいえ、相手は・・・あの火鳥だ。

一応、呪いを解く為に一緒に対策を考えよう、とは言ったが・・・こっちには何の手がかりも情報も無い。

お・・・怒られるだろうか・・・。

 ※注 25歳が25歳に怒られる事を心配してどうする?水島さん。


というか。


(・・・面倒臭せぇ・・・。)


正直、休日に誰かと話す事自体、面倒なのだ。

パーカーにジーパンのゆったりスタイルで、今日は一日ゴロゴロ平和に過ごしていたい。

そう・・・こういう時はアレだ。一旦、留守番電話にしておいて、様子を伺おう。うん、それがいい。

二度目の電話がかかってきたら、それはそれなりの用事があるって事で・・・。

 ※注 そもそも、用事があるから電話がかかってきているんですよ、水島さん。


電話が切れてから、私は留守番電話のメッセージをすかさず聞いた。



『・・・もしもし。水島サン?』


怒りを抑えた低いドスの効いた火鳥の声だ。


『ちょっと試したい事があるから・・・居留守使わずに今度は電話に出なさいよ?5分後よ、いいわね?

・・・3度目は、無いわよ・・・水島ァ!!』


「・・・・・・・・!」

(ひいい・・・!!ば、バレてるーッ!?)

さすが、同じ人嫌いで女難の女。いや、感心している場合じゃなくて。


「・・・・・・・。」


・・・私はソファの上で正座して、火鳥からの電話を大人しく待った。

新年早々、我ながら情けない姿だと思う。小心者は今年も健在か・・・あーあ・・・。


だが、火鳥のいう、ちょっと試したい事とは一体なんだろうか・・・?

5分後、私の携帯が鳴った。


「・・・も・・・もしもし?」

『もしもし?やっと出たわね、水島サン。』


怒られる・・・。と少し電話越しにげんなりしていた私だが、その前に確認しておきたい事があった。


「あ・・・えっと・・・傷は・・・その、もう・・・良いんですか?」


私は腫れ物にでも触るように恐る恐る、そっと聞いた。

昨年のクリスマス・・・火鳥は、女性に刺された。

それも女難だ。

恐ろしい事に、これは他人事ではない。

思い出すだけでも、血の気が引く思いがする。

だから、あんなコトが二度も起こる前に、一刻も早く呪いを解かなくてはいけないのであって・・・

その為に私と火鳥は手を組もう、という話し合いをし、お互い合意したのだ。

私の”傷の具合はどうなのか?”という質問に、火鳥は落ち着き払ったようにふうっと息を吐いてゆっくりと言った。


『ん?ああ、大丈夫よ、日常生活に問題ない程度まで回復したから。』

「ああ、そうですか・・・。」

(良かった・・・。)

何はともあれ、その後、経過は良好なようで安心した。思ったよりも元気そうだし。

大体、こんなフザケたSS内で死人が出たら、もう洒落にならない。

 ※注 オイ、どういう意味だ?主人公。



『で、話は変わるけど・・・水島、今から指定するホテルに来て頂戴。』

「・・・ほ、ホテルッ!?」


その不穏な単語に、私の体は嫌でも反応してしまう。

しかし、火鳥は何もかもわかっているかのように、溜息をついてゆっくりと私を諭すように言った。


『うるさいわね・・・ホテルに過剰反応しないでくれない?

・・・安心しなさい。場所は、ホテルのレストランよ。そこに来てもらえる?』


(あ・・・なんだ・・・。)


だが。


”チクン・・・!”

(・・・ハッ!!)


安心しなさい、と言われた矢先に、もう悪い予感と痛みが頭を掠める。


「あ、いや・・・でも・・・。」

『・・・いい?たとえ嫌な予感がしても、来て頂戴。アタシが責任をもつ・・・フッ・・・まあ、貴女に悪いようにはしないわ。』

「・・・・・・・。」


やけに自信たっぷりな火鳥の言葉。

・・・何度も私は火鳥に騙されたり、ハメられてはいるが。

(なんか、変だな・・・。)

その経験上からいって、よ〜く考えれば、火鳥が私を騙そうと思えば、もっとマシな嘘を付く筈である。

こんな”警戒して下さい!これから貴女を騙しますわよ!”と言わんばかりの策略など、この女はしない。


・・・それに私と火鳥は手を組んでいる。

今更、お互いを騙まし討ちしても、何の利益も無いし、むしろマイナス地獄であるのは解りきっている事であり

火鳥がそんな危険を冒すような人間じゃないのは、私が知っている。


いや、それ以上に・・・意外だったのは。


『・・・頼んだわよ、水島。来て頂戴ね。』


その声は、やけに自信たっぷり、その上、落ち着いていた。


「・・・わ・・・わかりました。」

『じゃ、2時に・・・場所は、ロイヤルスターホテルのレストランね。』


指定されたホテルは高級ホテルだった。

火鳥の試したい事、というのは恐らく私達の呪いの事に関係する事だろう。

だとしたら、とりあえず、ここは行ってみるしか無いだろう。


「・・・はい。」


私の返事を聞くと、火鳥からの電話は切れた。

電話を切ってから、私はもう一度、携帯電話を耳に押し当て、聞き返したくなった。


(ん?待てよ・・・?)


「・・・火鳥が、”頼む”だって・・・?」


そう・・・恐ろしい事に、あの火鳥の口から”頼んだわよ”なんて言葉が・・・。

私は、もう一度携帯電話を耳に押し当てた。


「・・・火鳥が、”頼む”だって・・・!?」


 ※注 大事な事なので2回言いました。




・・・一体、何があった!?火鳥!!!







 [ 水島さんは困惑中。 ]






「どれにする?」

「私、苺のタルト!」

「私、ザッハトルテにしよっかな・・・いや、あっちのロールケーキも・・・」

「あーん!迷っちゃうー!」

「美味しい〜!今日だけはダイエット忘れるわ!」

「幸せ〜!」


甘い匂い。


果物や飾りが織り成す、芸術的な見た目。


その華やかなスイーツに女性達が群がり、己の自制心と葛藤し、その戦いに負けてもなお、幸せそうな顔をしている。


だが、私は緊張で背中にうっすらと汗が滲み始め、不幸せを噛み締めていた。



(・・・一体どういう事だ・・・!?)



「・・・まあ、せっかくだから軽く食べながら話しましょうか。」

スーツに身を包んだ火鳥は、皿を持ってゆっくりと立ち上がった。

少し伸びた髪の毛をかき上げ、余裕たっぷりに笑っている。


「いや、いいです・・・!早く話進めて、とっとと帰りましょうって・・・!」

私は立ち上がり、火鳥の動きを制止した。


「あぁ、甘いもの苦手?あっちに、お好み焼きあるわよ?」


ああ、確かに甘い物ばかりだと塩ッ気のある物が欲しくなるわよね・・・でも何故、お好み焼きが・・・って、そんな場合か!!


「こんな時に粉モノ食ってる場合ですか!ていうか、なんでこんな時に、二人揃ってケーキのバイキングなんか・・・!」


私が問題にしているのは、何故・・・

何故、女性が密集するに決まっている日曜のケーキバイキングに、女難の女2人で乗り込んでいるのか!?・・・である。


これでは、女難集まれ!と言わんばかりだ!

ケーキの前に、私達が女性達の餌食になるに決まっている!

女難の女一人ならなんとかなるだろうが、私の目の前に座っている女もまた女難の女。

女難の女×2は危ない!って、いつになったら火鳥は認識してくれるのだろうか・・・!


私達の周囲は、甘い匂いと共に、女難になり得る危険を秘めた女性で埋め尽くされている。


「マズイですって!帰りましょうって・・・!」

私は小声で火鳥に向かって”早く帰ろう”と急かすのだが、火鳥は表情を崩さず、何故か落ち着いていた。


「不味くは無いわよ、ここのケーキはなかなか・・・。」

「ケーキで頭一杯か!!」


周囲に動じる事無く、ケーキを取りに行こうとする火鳥に、私はツッコミを入れるしかない。


「まあ、気持ちは解るけど、落ち着きなさい。何の策も無しにアンタをここへ呼んだわけじゃないわ。」

「電話で言ってた試したい事ってなんですか!?早く用件を・・・」


話を進めて、一刻も早く脱出しなければ・・・と焦る私に対し

「まあ、まずケーキ取ってこないと周囲に不審がられるわ。取りながら話しましょ。」

火鳥は横目で一人、ケーキの世界に旅立ってしまっている。

「・・・どんだけケーキを熱望してんですか・・・ッ!」


コイツ、ただ単にケーキバイキング楽しみに来ただけなんじゃ・・・!

火鳥の浮ついた目を見ていると、そんな気がしてならない・・・。


やっぱり来るんじゃなかった―ッ!

・・・と後悔しても、もう遅い。



こうなったら・・・!






「・・・ガトーショコラに、パンナコッタ、杏仁豆腐・・・」

開き直って・・・いや、半ば自棄になって、私は皿にケーキを一つ一つ丁寧に置いていく。

あんまり取り過ぎると貧乏人か意地汚い人だと思われるし。

いや、本当に種類が豊富で、目移りしてしまう・・・。


「水島、こっちにチーズケーキあるけど?」

火鳥がケーキを山盛りにした皿を片手にそう言った。

「・・・レアですか?ベイクド?」

「両方あるわ。」

ほう、それは良い事を聞いた。

「いただきましょう。・・・ていうか、火鳥さん、盛り過ぎじゃないですか?食べられるんですか?」

「・・・季節のジェラートか・・・」

「ちょっと、人の話聞いて・・・」


『お客様にお知らせです。只今、パティシエが皆様に作りたてのクレープを・・・』


「「それ、ください!」」


 ※注 完全にスイーツに魅了された女難の女2人。






「で・・・話は戻るんですけど・・・(モグモグ)。」

美味い。

しっとりとした生地に、この甘すぎず、くどくない生クリーム、少し酸味のある果物が口の中に広がる。

これら、ほど良い甘さがコーヒーとよく合う。


・・・しかし、私は元々スイーツを楽しみに来たわけじゃない。

話を本題に戻さなくては・・・うーん、このケーキは後でもう一個取って来よう。

いや、話を本題に戻さなくては・・・。


「ん?(モグモグ)ああ・・・そうだったわね。」

火鳥は少しほくそ笑みながら、フォークを咥えながら、私に向けて左手の小指を見せた。

・・・小指がどうかしたのか?


「・・・”コレ”見える?」


火鳥の意外と長い小指を見つめ、私は正直に答えた。

「”女の人”?」


火鳥はフォークでフルーツタルトをブスリと刺すと一言鋭く・・・

「馬鹿。」

と言い、タルトを口に運んだ。


くそう・・・馬鹿って言ったら、私も馬鹿って言うぞ!こだまじゃないぞ!誰でも言うんだぞ!?

いや、正直、自分でもこの回答はどうかと思ったけれど、仕方ないじゃないか。

それ以外に、その小指にどういう意味があるんだか私には、わからない。

ただ小指を見せられたから、見えたままを答えただけだ。


すると、火鳥が紅茶を飲んでゆっくりと聞き直した。

「アタシが言ってるのは、アタシの小指にひっかかっているモノよ。どう?・・・見える?見えない?」

私は目を細めたり、開いたり首をかしげたり、火鳥の左手の小指を色々と見てみたが・・・

「見えないです。」と正直に答えた。

「・・・そう。」

静かにそう言って、火鳥は紅茶のカップを置いた。

これまた妙な事を聞くな、と思ったが私は少し考えて質問してみた。


「それ・・・呪いと・・・何か関係があるんですか?」


すると・・・火鳥は真剣な顔で聞いてきた。


「・・・ねえ、そのゼリー、どこから持ってきたの?」


”かくんっ”と脱力する私を尻目に、火鳥は私の取り皿の上のゼリーを凝視している。


「・・・どんだけ甘い物求めてるんですか!?あげますよ!ゼリーくらい!」

・・・甘い物を前にすると、この女、ダメだッ!

「そう?」


私はゼリーを火鳥の取り皿の上に置くと、小指の事を再び聞いた。

「で、呪いと関係あるんですか?」


フォークからスプーンに持ち替えた火鳥は、自分の小指で何かを引っ掛けるような動作をしてみせた。

「じゃなきゃ、アンタを呼ばないわ。・・・アタシ・・・少し前から、変なものが見えるようになってね。」

「変なもの?」

「赤い紐のようなものよ。」

「紐?」


紐と言われて、私は改めて火鳥の小指をまじまじと見つめてみた。

・・・やはり、何も見えないし、気配も無いし、何かが見える気もしてこない。


「まあ、アタシが見えているこの紐は、誰にも見えていないみたいだし・・・アンタが見えていなくても、まあ、仕方がないかもしれないわね。」

そう言うと、火鳥は黙り込み、小指で何かを引っ掛けては引っ張るような仕草を始めた。

(何をしてるんだろう・・・?)

見えない紐でもいじっているのだろうか?

しかし、肝心のその紐が私は見えない為、ただの妙な手癖に見える。

火鳥の表情は、どことなく虚ろな感じで・・・ああ、それは目の前のスイーツのせいか。

・・・という事は、やはり、去年刺されたショックか、それとも後遺症か・・・。


「そう・・・アンタは見えないのね・・・でも、もしもアンタに見えたのなら、この紐は呪いと関わりがあるって確信が持てたんだけど。」

「は、はあ・・・。」


曖昧な返事をしながら、”しかし、妙な手癖だな”と思ってみていた。

妙な呪いに続き、妙なモノが見えるだなんて・・・。

私には全く見えないというのに。

もしかして、呪いとは関係が無いんじゃないんだろうか、と私は火鳥の小指をジッと見ていた。

すると。


(・・・あれ?)


うっすらと光る”何か”が一瞬見えたような気がした。


(ん・・・?)


それはピアノ線かなにかか。

一瞬だったが、火鳥の小指にうっすらと・・・何かが・・・見えたような・・・気のせいのような・・・。

険しい顔をしている私に、フッと笑った火鳥が言った。


「まあ、いいわ。とにかく、こんな非現実的な話・・・

アタシと同じ非現実的な災難に見舞われているアンタでもない限り、信じてくれないと思ってね。

一応、アンタに聞いて欲しかっただけよ。」

「・・・そうですか・・・。」


今でも十分信じているとは言いがたいが・・・。とは言えずに私はコーヒーを飲んだ。

でも、確かに。

私には見えないとはいえ、その謎の紐の存在は、ただの気のせいで片付けられそうもない。

とにかく、この馬鹿馬鹿しい呪いを解く為の突破口が欲しい私は、火鳥の紐の話をとりあえず、信じる事にした。

そうだ。非現実的な毎日を送っている私は、見えない紐の存在だろうがなんだろうが、信じるしか無いのだ。


「で・・・その紐って、何ですか?」

「詳しくは、わからない。ただ、アタシは”コレ”を、縁の力とやらに関係するモノだと考えているのよ。」


「え・・・?」

「アタシ、さっきから何をしてると思う?」

くいっと小指をこちらに向けて火鳥はニヤリと笑った。

「・・・何って、ただの・・・」

火鳥の新しい手遊びじゃ・・・。とは言えなかった。


「今ね、その紐を”切ってる”の。アタシの指に絡まっている・・・紐をね。」

「・・・切ってる・・・?」


紐の存在は未だに見えない。

だから私の目には火鳥が単なる手遊びをしているかか、電波な遊びにハマってしまったかにしか見えない。

しかし、火鳥にしては、やけに冗談が過ぎる。

というか、そんな冗談や作り話をこの火鳥がこの状況で言うとは、とても思えない。

女難がいつ襲ってくるかもわからない・・・この状況で、そんな悠長な冗談飛ばす程、火鳥も私もお互い精神的余裕は無いのだ。


「ええと・・・その紐を切ると・・・一体どうなるんです?」

「そうね・・・それは今にわかるわ。」


なんだそりゃ、とツッコミを入れようかと思った、その時。


”チクン・・・!”

(・・・痛ッ!?ま、まさか・・・!)


まさか、ではない。

毎度お馴染みのあの痛みだ!!


「か、火鳥・・・私、嫌な予感がする・・・!早く出よう・・・!」

しかし、火鳥は言った。

「・・・大丈夫よ。責任はとるわ。」

「責任って、女難に責任で対抗できてたら苦労は・・・!」

そうだ、責任云々の問題ではない!逃げなければ、対処が遅れてしまうのだ!


「あの・・・。」

「ハッ・・・!?」

声のする方向をみると、女性が立っていた。

ワンピースを着た、セミロングの茶髪の女性が立っていた。

とにかく、女性だ。

さっきまでスイーツに夢中だった筈の女性の一人が、頬を赤らめながら私を見ている。

その熱のこもった視線は、お馴染み。自意識過剰ですよ、なんて言われようとも、私には解る。

女難だ!

私は、パクパクと鯉のように口を開け閉めし、逃げようかどうしようか迷った。


「あの、良かったら・・・お席、ご一緒してよろしいですか?なんちゃって・・・きゃっ♪」

本当になんちゃって、で済んだらどんなに良かったんだが。

「・・・・・・・・・・・・。」

逃げよう!

しかも女性は椅子を持って、こちらのテーブルに来ようとしている。

なんて図々しい積極性!!他に生かして!その積極性!


(ほら、来たー!!言わんこっちゃない!!)


私はすぐに席を立とうしたが、火鳥に手首を掴まれ、無理矢理、席に座らされた。

「なッ!?」

何をするんだ!手遅れになるだろ!?と目で訴えるが、火鳥は私の手首を離してくれない。逃げられない。


「水島・・・大丈夫だって言ってるでしょ?」

「そんな保障どこにあるんです・・・!?」

「今・・・”切る”から。」


悠長に、不思議な事を言っている火鳥。

しかし、もう限界だ。何故って、これ以上、女難が増えたら困るからだ!


「何を・・・言ってるんですか・・・」


”・・・ブチッ!”


かすかだが、私の耳にそんな音が届いた。

何かが切れる音。

もしや・・・紐?紐の切れる音か?


すると、女性の態度が急に変わった。

熱っぽい視線は、急に冷めたものにかわり、私を二度見、三度見すると頭を振った。

「・・・・・・・・・・・。」

まるで、悪夢から覚めたような態度だ。

なんだか失礼な人だな。と思って私が女性を見ていると女性はハッと我に返って言った。


「あ・・・あ、なんかすみません。あの、お2人で来ているのに、突然、馴れ馴れしく話しかけてしまって・・・私、一体どうしたのかしら・・・。

あ・・・すみません、じゃあ、私はこれで失礼しますね!」


慌てて、早口でまくしたてて、そそくさと私と火鳥の座っている席からあっという間に離れて行ってしまった。

そして、あっさりと私の頭痛は・・・女難の気配は無くなった。


「・・・どうなってるんだ?」


私は思わず、ぽかんと開けた口からそう呟いた。


女難は去った、のか?

え?こんなにあっさりで良いの?

このシリーズ始まって以来のさっぱり感!

でも、あっさり過ぎやしないか?・・・これ、嵐の前の静けさとかいうオチじゃないでしょうね・・・!?

安心から一転、次の女難に怯え、構える私に向かって、火鳥は再びフォークを持ち、言った。


「安心しなさい。今、アタシがアンタの紐を切る事で、あの女との”縁を断ち切った”のよ。」

「・・・何だって?」


縁を断ち切った、だと?

どういう事だ、と私が聞く前に火鳥が喋り始めた。


「まだよく解らないんだけどね、始めは赤い紐が見え始めた。

他人と他人と結ぶように繋がる赤い紐。・・・まるで、”赤い糸”のような。」


「赤い、糸・・・」

なんとも不吉な響きである。

自分で口にしてみて、ぞっとする。

赤い糸なんて私は信じてもいないが、火鳥にはそれが見えると言うのだから、驚きだ・・・。


「次は、紐に触れるようになって・・・触れると言っても、小指だけよ。

それでアタシは、自分の小指についている赤い紐を切れるだけ切ってみたのよ。

そしたら・・・あぁら不思議。」


そこで、火鳥はニヤリと笑った。


「紐が切れると同時に、その紐に繋がっている女との縁が切れて・・・女難に遭う機会が減ったの。ザマアミロって感じ?」


黒い。

黒い笑みとコメントだ。

でも・・・

おかえりなさい!!いつもの火鳥!やっぱり貴女は、そうでなくちゃ!!


いや、それはひとまず置いといて。

整理しよう。

まず、火鳥が見えて、私に見えない紐とは・・・。

「つまり、その紐は・・・他人と他人を結ぶ縁で・・・」


もしも、その紐が”縁の紐”ならば、それを切るということは・・・。

「そして、それを切れば、縁は結ばれずに済む・・・という事は、余計な女難に遭わずに済む、ということに・・・?」

「まあ、今のところアタシは、そう考えているわ。」


私は今、自分で口にした事が夢ではないかと思った。

縁の紐を切るだけで、女難がこんなにも簡単に去っていく!

これで・・・これで全てが終わる!!

火鳥に私にくっついている縁の紐を全部切ってもらえば、私に関係している他人との縁なんて無いも同然だ!!

嬉しさで身震いがする。


「・・・切って下さい!私の縁の紐・・・全部、切って下さい!お願いします!!」

私は勢いよく小指を差し出して言った。

「・・・言われなくても、さっき切れるものは切っといたわ。目障りだしね。」

「うわ!!ありがとうございます!やった!」


25歳にもなって、やったやったとガッツポーズをとって私は喜んだ。

来て良かった!火鳥と手を組んで本当に良かった!!


・・・しかし、火鳥はそんな私を冷めた目で見ていた。

ふと、私は急に恥ずかしくなってきた。


「な・・・なんですか、その目は・・・悩みが解決して嬉しいんですよ。こっちは。」


良いじゃないか、少しくらいはしゃいでも・・・。と言うように火鳥を見ると、火鳥は溜息をついてから、こう言った。


「浮かれるのは早いわよ、水島。・・・他の紐は、ダメだった。」

「はあ!?他のって・・・まだ私には、紐付いているんですか?とって下さいよ!」


「別に嫌がらせで切らない訳じゃないわ。・・・切れないのよ。」

「な・・・!?」


き、切れない?


「アタシが紐を切れるようになって日が浅い。

アタシにもまだ切れない縁の紐がアンタに何本かついてるわ。どうやら、関わりがあるだけ紐が堅く、重くなるみたいね・・・。

しかも、アタシは紐に小指しか触れられないから、余計切れないのよ。」


憂鬱そうに肘をついて、火鳥はそう言って、左手の小指をストレッチするように曲げたり伸ばしたりした。


「そんな・・・!」


私は、そこから先の言葉を失った。

逆転ホームランの後、ホームランを無効にさせられた挙句、退場になった気分だった。

ようやくこのふざけた呪いの突破口が見えた!と思ったのに・・・。

紐が堅い・・・つまり、縁の結びつきが強い・・・ややこしくて切れて欲しい縁ほど、切れないという訳だ。


なんてこったい!!!


・・・ああ、そうか、火鳥の落ち着いていて、どこか虚ろな雰囲気はこのせいだったのか、と私は納得して、虚ろな目で火鳥を見た。

それにしても短い春だったな・・・。

私はがっくりと肩を落とすと、目の前の小さなエクレアを口にした。

自棄食いだ、チクショウ・・・!


「それに、さっきも言ったけれど、アタシがこの紐を切れるようになったのは数日前。まだ解らない事も多い・・・。

だから今日、アンタを呼んだのよ。もしかしたら、アタシと同じように・・・いや、それ以上の事が出来てるんじゃないかって思って。」


残念ながら、私はその紐すら見えていない体たらくである。


「・・・まあ、その期待は泡となって消えたけどね。」


”なんか、すいません。”と心の中で言ってみる。

さっきまで、私は火鳥に頼りきってしまおうと考えていた。

そんな自分の姿勢がなんだか今、とてつもなく情けなく思えた。

しかし、火鳥にあって、私になんの変化もないとは・・・どういう事だろうか。


「でも、まあ無いものは仕方ないわ。」

「・・・すみません。」


火鳥に向かって、私は素直に頭を下げた。

女難から逃げるのは私の方が上でも、やはり、逃げているだけじゃダメなのだ。


縁の力、だ。


どんな形で具わったのかは不明だが、火鳥にはその力が具わっていて、彼女はそれを使いこなそうと努力している。

一方、私は何もしていないし、何の力も無い。情報だってさっぱりだ。

それどころか火鳥から連絡が無ければ、今日だって不貞寝しようとしていた女だ。

楽な生き方をしているだけでは、本当の楽は手に入らないのだ。

自分の姿勢を改めて反省する。


すると、火鳥が口を開いた。


「まぁ、実はアンタをこんな女だらけの場所に呼び出したのは・・・ワザと女難を発生させる為だしね。」


・・・ちょっと待て!今の言葉、聞き捨てならんぞ!


「・・・な・・・なんだとぅ!?」


「他人の縁の紐を切っても、どうやら人体に影響が無いみたいだし。」

「影響って・・・さっき、始めに自分の紐も切ったって・・・!!」


「ああ、アレ?嘘よ。」


ケロリと、平然と、火鳥は言い切った。


「アンタの紐を切ってから、さっき自分の紐を切ったわ。

自分の小指についている謎の紐の正体も解らずに切るなんて、出来る訳ないじゃない。」

「・・・・・・・・・・。」


という事は、私はやっぱりモルモット?


「・・・まあ、これで必要な事は大体わかったわ。ご協力どうもありがとう、水島サン。

でも、アンタの縁の紐を切れるだけ切ったのは本当よ。お互い、余計な縁は消えて良かったわね。」


余計な縁を散々増やしたのはアンタだろ、とは私は言わなかった。

言いたかったけれど、縁の紐を切ってもらった手前、何も言えなかった。

・・・だけど、切れたかどうか確認する目を私は持っていない。ていうか、見えないもんは、やっぱり見えない。


「アンタも早く能力が目覚めると良いわね?」

肘を突きながら、火鳥はニヤリと笑ってそう言った。

そっちはいいよ・・・縁を好きに切れるんだから。私は見えないし、触れないし、切れもしない。


「・・・本当に、黒いな・・・。」


その一言に尽きる。

私は、年が明けても貴女のモルモットか。

本当に、色々な意味でお帰りなさい・・・火鳥さん。やっぱり、貴女はそうでなくっちゃ・・・。

しかし、私にその微妙な内容の能力とやらが身につくのは一体、いつなのだろう?

火鳥と同じように”縁を断ち切る”事が出来たとして・・・私は・・・


私は、今まで出会った人達を断ち切る事が・・・


・・・・・・・。


いや、切るよ。切るに決まってるじゃないか。

切って当たり前!

だって、そもそも呪いのせいで、腐れ縁みたいなもんで、結びついているだけなんだもの。

何を迷う事がある?

私に元々関係の無い人達は・・・さっきみたいに、何事もなかったように去っていく筈だ。

そう、悪夢から目が覚めたように、ぱっぱとあっさりさっぱり去って行ってくれる筈だ・・・

いや、そうでなくちゃ、困る。


困る?困るのは・・・・・・ん?なんでだ?


「あのぉ・・・お2人共、よくココへくるんですかぁ?」


”チクン・・・。”


幾分、テンション高い女性の声と頭痛に、私はハッと現実に引き戻される。


また、女難か・・・!

さすが、スイーツバイキング。女難に困らない場所だ。だから、嫌な予感しこたましたんですけど!!


しかし、私と火鳥は目を合わせる。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


フッと目で笑い合う。

・・・そうだ。落ち着け。今、焦る必要などまったく無いのだ。

ここには、火鳥がいる。

ただの火鳥ではない。余計な縁を切る事が出来る万能ばさみならぬ、火鳥がいるのだ!


火鳥の女難だろうと、私の女難だろうと・・・

よほど結びつきが強い、ややこしくて切れて欲しい縁でなければ、火鳥がすぐに縁を切ってくれる!

新たに生まれた女難など、恐れる事は無い!!


私達は振り向いて、女難を迎え撃つ!そして、縁を断ち切ってやる!


「なーんちゃって♪・・・で、みーちゃん、何やってるの?」

振り向くと、見知った顔が。

「・・・・・・・。」


そう・・・結びつきが強くなければ・・・ややこしくて切れて欲しい縁でなければ・・・切れる・・・。

そう、切れるはず・・・なんだけど・・・。


「・・・だ、伊達さん!?」


振り向くと、私のマンションのお隣の伊達香里さんが満面の笑顔で立っていた。

その隣には・・・


「火鳥さん♪何やってるの?」

「・・・は!?瑠奈!?」


・・・どうやら、伊達さんの隣にいる女性は火鳥の女難らしい。

まさか、自分の身近にいる女難がこんなに都合よくいるとは・・・。


「か、火鳥・・・!」


私は、チラリと火鳥を見た。

火鳥はコクリと頷き、小指で何かをくるくると巻き、そして勢いをつけて引っ張・・・



「・・・ぐはぁっ!?」




間の抜けた声を出しながら、”ズターン!”と肘から火鳥は机に崩れ落ちた。


「火鳥ーッ!?」


何かに押しつぶされるように突然、机に突っ伏した火鳥に声を掛ける私。

(な、なんて情けない姿だ・・・!)

先程まで余裕で黒い笑いを振り撒いていた火鳥が、今は、つぶれた蛙のようだ。


「・・・どうしたの?火鳥さん、今日は面白いね?」

と火鳥に向かって、女性が意味ありげに微笑みながら火鳥の太腿を撫でる。

・・・いやっ!?公衆の面前で怖い!この女!!


「みーちゃんもバイキング来てたんだ♪ていうか、みーちゃんの友達面白いね♪」

と言いながら、伊達さんはすでに椅子をこちらのテーブルに持ってきている。

怖いよ!早いよ!なんなの、この女達・・・!!


「あ・・・あぁ・・・!そんな・・・予想外だわ・・・どうしてアンタと一緒だとこうなるの・・・!?」

テーブルに突っ伏しながら、恨み言を言う火鳥に向かって私は小声で言う。

「火鳥、しっかりしろ!頼むから立って!」


そして、とっとと縁を切ってくれ!

ぐだぐだと文句を言い合っている場合ではない。

私達のテーブルには、甘い菓子達と共に女性が・・・女難が並んでいるのだ。


「ちょ、ちょっとケーキ取ってくるわ!水島!行くわよ!!」

「あ、ああ・・・はい・・・!」


火鳥に引き摺られるように私はテーブルを後にした。

皿を片手に私達はコソコソと相談し合った。


「・・・どうして、アンタの女難が来てるのよ!」

と火鳥が私を肘で小突きながら言う。

「そっちこそ、女難が来てるじゃないですか!切れないんですか!?」

と私は肘で小突かれながら、そう言うしかなかった。


「無理よ・・・!堅くて、重くて・・・アタシの小指が折れるわ!」

「なっ!?そんなに!?」


「とにかく、店を出るわよ・・・!」

そう言った火鳥の手には、お会計に必要な伝票が。

「あ・・・いつの間に!」


しかし、ありがたい。

これで、脱出しよう!


”チクン・・・!”


「「・・・ハッ!?」」


振り向くと・・・そこには・・・。


「あの・・・私、何か取りましょうか?」

「え・・・!?」


私の腕を軽々しく取る女性が、声を掛けてきた。

女難だ!新しい女難だ・・・!

さすが、スイーツバイキング・・・!というか、ここを待ち合わせ場所に選んだ火鳥よ!今こそ責任を取れ!全力で!!


(でも、火鳥・・・!これなら・・・今、発生したばかりの女難なら、縁を切れるだろう!?)


そう思いながら、私が見ると・・・


「このケーキ美味しいですよ?おススメです♪」

「な・・・っ!?」


火鳥の腕をこれまた軽々しく取る女性がいた。

しかし、火鳥がキッと睨みつけると小指で何かを絡め取り・・・そして・・・!



「ぐはぁーッ!?」



”カシャーン”という音を立てて、皿が割れ、火鳥は床に突っ伏した。

小指を立てながら床に突っ伏す女なんて、挙動不審にも程がある。


「何やってんだーッ!?火鳥ーッ!ソレ気に入ったのか!?どうなの!?」

「そ、そんな・・・馬鹿な!?切れない・・・!?」

「な、なんだと!?」


出会って間もない女難なのに・・・結びつきが強くもないのに何故、縁が切れない!?

さっきは縁を切れるだけ切ったとか言って余裕ぶっこいてたのに、火鳥のくせにざまあない姿だが・・・


いや・・・待てよ・・・まさか・・・!


「・・・まさか・・・その力・・・回数制限があるんじゃ・・・!?」


私がボソッとそう言うと、火鳥は床に突っ伏したまま、私を見上げていた。


「な・・・なんですって・・・!?」


そう、火鳥の縁を切る能力は最近目覚めたばかり。

先程まで縁の紐を調子ぶっこいて切っていた女が急に不調になった事を考えると・・・

なんらかの制限・・・回数制限があってもおかしくは無い。

自分の能力の限界くらい自分で調べて来い!!と心の中で私は大いに叫んだ。

 ※注 先程、その能力に全力で頼ろうとした女・水島さん。


「詳しくは解りませんけど・・・けど、その力はまだ万能じゃないんですよ・・・ッ!!」

「クソッ・・・!!」


周囲は女性だらけ。

頭痛の種は、どんどん増えていく・・・。


・・・状況は、最悪。


私達は目を合わせた。

まずは互いに足首を回して・・・よし、いつでも行ける。




私達は再び見つめ合い、コクリと頷いた。




位置について。





・・・よーい・・・





・・・ドン!!




私達は逃げた。


「あの!一緒に食べませんか!?」

「いや、遠慮しま・・・うっ!?ちょ、ちょっと!離して!お願い離して!」

「マジで超綺麗なんですけど!超ご一緒したいんですけど!!」

「断るに決まってんでしょッ!!」


だが、スイーツに群がる女性達が、みるみる私達に群がってきて囲まれた。


火鳥の新しい能力だかなんだか知らないが、女難はやってくるし、逃れられない事が身に染みて、よくわかった。

縁をブチブチ切っていても、応急措置でしかないのだろう。

やはり、早急に呪いを解く必要があるのだ。

そうじゃなければ・・・


「うわあああああああああ!?やっぱり、ダメだあああああ!!」

スイーツバイキングに来てまで、女性にもみくちゃにされることなどないだろう。


「みーちゃん!?なんでそんな女の人にモテるの!?」

プリンを食べながら、伊達さんがのんきに聞いてくる。私の女難なら、少しは助けていただきたい・・・。

「知るかああああああああああ!!!(泣)」


「触るな!ケーキ食ってなさいよ!!」

「火鳥さん!?なんで他の女とくっついてるのよ!?」

「アタシだって好きでやってるんじゃないわよおお!!」

・・・火鳥も大変だな・・・。




この状況・・・他人から見れば非日常的な光景だと思う。

だが・・・女難の女にとっては・・・



「「認めない!こんなのが日常だなんて認めないわよおおおおおお!!」」



そう、絶対に認めない。絶対に、だ。

・・・トホホ・・・。




 ― 水島さんは困惑中。・・・END ―








あとがき


はい、第三部(笑)の始まりです。そして、UP後の修正も終わりました。

能力が目覚めようとも何があろうとも、この2人は変わらないような気がします。

根本が2人共アレですからね〜(笑)

水島さんは全く目覚めてませんが、これから目覚めるかもしれませんし、全く目覚めないかもしれません。

いや・・・女にじゃなくて、能力の話ですよ?