私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。


性別は女、年齢25歳。

ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない、本当に普通のOL。


…現在、私は…呪われている。

”縁切り”という名の呪いのせいで、私は”ややこしい女性”に好かれやすい傾向にある。

ただの女性にではない、頭に”ややこしい”が、つくのだ。





「あ、気付いた…おはよう、水島さん」



「…ココは…?」



気が付くと、薄暗い部屋に私はいた。

更に、私は椅子に縛られ、目の前には見知らぬ女性が立っていた。


微笑を浮かべながら、私を見つめている。

動こうとするが、縛られている上、頭が少しグラグラして、視界がおぼつかない。

そんな私の『ここは?』の問いに、女性の声は答えた。



「私達の、お家♪」



・・・・・・・・・・・。



…いやいや、おかしいおかしい。ちょっと、迷っちゃったけど、違う違う。



「…いや、違います。私はもっと狭くて、電気の明るい家に住んでます。それから、初めまして…ですよね?」


私がそう言うと、”もうしょうがない人ね”というニュアンスを含んだ言い方で、女は喋り始めた。


「いやね…私、知ってるのよ?貴女の事、ずっとみてたから知ってるの。

 貴女も、私を知っているのよ?今は思い出せないだけ。 私と貴女は前世から、こうなる運命なの。私は貴女を助けに来たの!

 何も言わなくていいのよ、私わかってるから。」


いや、違うから。

何も解ってないから。

私は、貴女も、前世も、オーラの色も知らないから!


一体、これはどういう事だ!?状況を…現在の状況を確認しなければ…!


周囲を目で観察していると、薄暗い部屋に目が慣れてきたのか、良く見えるようになってきた。

ふと右方向の壁を壁を見て、私は目を見開いた。


(う・・・!)


壁には”私の写真”が、複数飾られており、何枚かは額縁に入っていたからだ。

通勤時…帰宅時…コンビニに寄り道…全て私が写っている。


…その内の一枚は、『風呂上りに腰に手を当てて、牛乳を爽やかに飲み干す、私の姿』だった。


…3日前に、確か自宅のベランダでやった覚えがある…。


これは…盗撮…!?


つまり、これは…この女は…!



・・・コイツ、ストーカーだ!! 



「水島さん、頑張りましょうね♪この国は、私達の愛で守っていくのよ!」



・・・しかもコイツ、ストーカーな上、勝手な設定作ってる!!!!




『水島さん只今の状況 → 危険人物に監禁されている。』




よーし、自分の置かれている状況は、なんとなくわかった。


とりあえず、やる事はやっておくとしよう。





・・・せーの・・・





「たあああああぁすけてぇえええええええええええええ!!!」







         [水島さんは監禁中]




私の”一生に一度”の叫びもむなしく、部屋には誰も来なかった。


大都会ならでは、世間の冷たさと孤独感を噛み締めている場合では、ない。


スト子さん(仮名)は、意気揚々と、私にバーベキューの鉄串を向けながら、話し始めた。


…何故、そんな細い凶器を…


「…貴女を一目見た時、前世の記憶が蘇ったの。

現世では、お互い女性として、転生してしまったけど…それはダークネクロマ星人から、身を守る為仕方なかったのよね…」


前世の記憶?転生?ダーク…星人?


・・・・・・・えーと・・・。



私は、とりあえず情報の整理を試みる。


彼女のいう”妄想ポケットの中の宇宙戦争”は、前世から続いていたものらしい。


…大体、前世にそんなモンと戦ったのなら、歴史の教科書に載るだろうに。

それに地球人が来世に転生するまで、侵略に手間取るなんて、宇宙人も、随分スケールの小さい侵略者だ。


・・・・・・ダメだ、ツッコミしか思い浮かばない。



「もう大丈夫…貴女がいれば、私は負けない。

 ダークネクロマ星人の侵略から…私と貴女の愛で、結界を張り、この日本を守りましょう!」


「・・・・・・。」


・・・・・・・えーと・・・。



どうして”宇宙の侵略者”に、昔ながらの純和風技「結界」で応戦しようとするんだ!お前は!

ジャンルが違うだろう!ジャンルが!

せめて結界をバリアと言うか、敵を鬼とか妖魔とか言って、ジャンルを統一しろ!

それから、どうして宇宙侵略者が、ピンポイントで小さい島国なんか狙うんだ!

前世から侵略始めてるはずなのに、どんだけ、ダークネクロマ星人の侵略能力低いんだよ!?


…あーもう!宇宙人の名前覚えちゃったよッ!!


・・・・・・ダメだ、ツッコミしか思い浮かばない。


「…水島さん…」


うっとりとした表情で、私を見つめるスト子(仮名)。

私の頬を鉄串の先で、ツンツンとイタズラするように触っては、笑っている。


・・・地味に痛い。


彼女もOLなのだろうか。

グレーのスーツ姿で、黒い髪の毛を後ろで束ねている。

メタルフレームの眼鏡の奥からは、危険な程、熱を帯びた視線を私に送ってくる。


・・・これも、地味〜に痛い…。



私は、油断していた。

目に見える女性だけに気を取られていた…。


…まさか、今度はストーカーとは…!


自分なんかは見られていない、という油断が招いた失態だ。

見ているヤツは、見ている…というヤツだ。



どこで、私に引っかかったのかは知らないし、彼女から聞きだす事は、到底無理だし、諦めた。



とりあえず、対策を考えなくては…



私が”縁切りの呪いにかかっている”と言った占い師のオバサン曰く。


人は、すれ違うだけでも、縁ができるらしい。


ただ、それは一瞬の縁で、その縁が強く結ばれるか、そのまま薄れて切れてしまうかは

その相手と自分の行動により決まる、らしい。


つまり…


相手との縁を強く結びつける為には、自分自身も縁を強めるように、行動しないといけないのだ。

また、その逆もしかり。


ただ、ここで注意しておきたいのは…


縁を結ぶか結ばないかは、お互いの意思で決定されるという事である。


…だから、スト子さん(仮名)が私を監禁しようと、私が拒めば、縁は完全に結ばれたりはしない。

ココで私が彼女との縁に『好きにしやがれ』と屈してしまえば、縁は完成してしまうのだ。


…勿論、このような縁の結びつきは、とても歪んでいるため

破滅(この場合、飼い殺し。)に向かって一直線だという事は、私じゃなくても解る事だろう。


…スト子(仮名)と縁を結ぶ訳には、いかない。


それに、私が生き残るため行う縁結びの儀式は、私が心から愛する人と……オエッ…


・・・失礼。


『愛する人』なんて、不慣れな言葉を使って、ちょっと、えづいてしまった…。


とにかく、私にも…その…

…アレをするにはーぁ…選択権がぁー…あるのだぁー…。あーぁ・・・。



 ※注 現在、水島さんの精神が、著しく荒れております。しばらくお待ち下さい。













私は、縁に関しての力が強い人間らしく、人の運命を変えるほどの影響力があるという。

(…そして、悲しきかな…女性を惹きつける力も…強い。)


…なんか、凄い事をしそうな字面で、いかにも私が『特別な人間』のように

感じている人がいれば、ココで誤解は解いておきたい。


私は、人と関わる気が無い。


男性、女性、関係なく、関わる気は無い。


一切無い。


…繰り返すが、無い。


だから、私は…この状況をなんとしてでも、乗り切らねばならない。



こんなフザケた女難などに屈して、たまるかーッ!!(本音)



…しかし、縛られていては何も出来ない…まずは、体の自由を手に…


「ねえ、水島さん」


突然、スト子(仮名)の顔が私の目の前にズズイと現れた。

「…ッ!?」

頭の中で、ひたすら考えを巡らせていた私に、不信感を抱いたのだろう。

彼女の目は、鋭く…その瞳の奥には、殺意的な感情がチラチラと見える。

しかし…意外な事に、彼女は近くで見ると、美人だった。


こんなマネしなくても、他の人間とちゃんとした恋愛出来たはずなのに…。


…それに美人だからといって、ストーカーが成立するわけではない。


スト子(仮名)の鉄串が、私の喉元にあてがわれる。


「私の事、裏切らない…わよね?」


低い声で、彼女はそう聞いた。いや、私に”確認”したのだ。



裏切るなら、お前をバーベキューにしてやるぞ、と。


……なんかイマイチ、怖くない字面ね…。


「…裏切る?誰がです?」

私はそうスト子(仮名)に聞き返した。『ハイ』と素直に返事はできない。


なぜなら、私は、裏切る気、満々!だからだ。

スト子は、しばらく私の目を覗き込んでいた。

心でも、読もうとしているのか、じっと、見つめている。


…仮に、心が読めたとしても、この女が”私を理解する事”は、ない。


人の気持ちを理解できる人間は、監禁なんてしないからだ。


「・・・まあ、いいわ・・・水島さん、何食べたい?」

突然、私はスト子(仮名)から食事のリクエストを聞かれた。

とてもじゃないが、食事できる気分じゃない。

だが、答えないと、私がオカズのバーベキューになって、大変な事に…。


…しまった。


”オカズ”で思い出したが…

このままでは、私はスト子と”夜の営み”まで強制される危険性がある!

 ※注 水島さんの連想能力に関しては、ツッコまないで下さい。


この場合、私は、受け身か?…いやいやッ!受け攻めを考えている場合じゃない!


考えろ…!


考えろ…!!


・・・・・・・。

「…そうですね…アレがいいな…。」

「…アレって?」

私は、賭けに出た。

「…わかってるクセに…アレって言えば…『もなぐろーす』ですよ…」

「も、もな…?な、なんですって?」


勿論、そんな料理ある訳も無い。

しかし、こう付け加えるだけで良いのだ。


「…あれだけは覚えてるんです。『前世でよく食べた』でしょう?」

……長い沈黙。

やはりダメか…!麺料理っぽく言えば、良かったか…?

しかし、スト子(仮名)は、手をポンっと叩いて言った。


「……ああ、アレね!美味しいわよね!『もなぐろーす』!」



・・・乗ったー!!(私の話に)



「で、材料…なんだったかしら?」

スト子(仮名)は、材料を私に確認してきた。そりゃそうだろう、知らないんだから。


「…結構、具沢山でしたよ。

 野菜は、キャベツとトマトだけだけど…変わりに、貝類が妙に多くて…肉は、鶏肉と羊肉で…」


私は、人生で一度あるかないかの、大嘘を並べている。

…それでも、意外と冷静なのが、自分でも怖いくらいだ。


スト子(仮名)は、ご丁寧にふむふむと、メモを取っている。


…彼女、普段はマメな人なんだな…

そして、これからが肝心だ。


「そうそう……何と言っても… 『スイカの皮』をあんなに美味しく食べれる料理は無いですよね?」


「スイカの…皮…?」



今の季節、スイカの皮は…ほぼ無理だ。

勿論、このまま下手にスイカを買わせようとすれば、時間稼ぎだという事は、すぐにバレる。


だから、こう言えばいい。


「…あ、そうですよね…無理、ですよね…いいですよ、きゅうりで。 ホント、全然、気にしませんから。」



……どうだ!?押してだめなら…引いてみる作戦!!


…ああ、何がいい歳して…『作戦!!』だよ…自分が情けなくなってきたわ…。


スト子(仮名)は、私の前で両膝をついて、私の太腿に手を置いた。


そして、優しい笑顔で

「…何言ってるのよ…2人の再会の日に…そんな手抜き出来ないわ…。」

と、これまた優しく言ったのだ。



・・・乗ったー!!



意外と、このスト子(仮名)良い人なのか?

…ストーカーなんぞに成り下がった経緯が、知りたい…!


そして、スト子(仮名)は、私を上目遣いでずっと見ていた。


彼女の中の私が、どれだけ美化されているのかは知らない。知った事ではない。

彼女の前世の話が、本当だったとしても。


今の私は、ただの水島だ。


そして、前世の相手だろうと、なんだろうと、私はこの縁を…断つ!



「じゃあ、スイカ買いに行って来るから、待っててね…」


そう言うとスト子(仮名)は私の顔に近づき、一旦は私の唇をチラッと見てから

…額に、控え目にキスをした。


・・・意外と、このスト子(仮名)純情乙女なのか・・・?

…監禁なんて大胆行為をやろうと思った、動機が知りたい…!


そして、私の耳元で囁いた。



「…続きは、今夜…ね?」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・。









わ、私はこの縁を…断つ!

もう絶対、絶対断つッ!断たないと、大変ッ!!!(泣)




”バタン”


扉が閉まって、靴音が遠ざかるまで、私はジッとしていた。

やがて、靴音が聞こえなくなると私は…



「ふッ!…ふんぬっ!ぬぎいいいいいいいいいいーッ!!!」




全力で、縄を外しにかかった。

しかし、事はそうは簡単に行くはずもない。


足首巻かれたタオルは、なんとか取る事は出来たが…肝心の体、及び手首の紐が取れない。


何度やっても、紐が食い込むばかりで、私の体力だけが失われていく。


やはり、刃物でなければ…


私は、部屋を見回した。


何もない部屋だ。

私の写真と、フローリングの床。時計も何もない部屋。

窓からさす月明かりだけが、今は夜だと教えてくれる。


・・・窓・・・。


窓!そうか…!窓ガラスだっ!



「うあああああああああ!!!」



私は、必死だった。

椅子ごと這って、窓までたどり着くと、窓ガラスに、何度も体当たりと椅子を食らわせた。




”ピシっ…カシャン…!”


「よしっ!次は…っ」


私は、窓ガラスの割れた部分に紐をあてがい、切った。


勿論、只ではすまない。

何度も、何度も腕や、手を切った。

しかし、そんな事、今はどうでもいい。


今、私を動かしているのは……『自由』と『夜の営みの回避』だ。


「…ハァ…ハァ…ッ…よし、次は……」

私は、部屋から出ようとノブに手をかけたが…思いとどまった。

もし、玄関で鉢合わせでもしたら、大変だ。


…私は、ノブから手を離して、窓へ向かった。

そして、窓を開けてベランダへ出ると、私は身を乗り出した。


・・・ここは、4階だ・・・飛び降りるのは無理だな・・・。


人通りも少ない…。


私はふと、隣を見た。


左隣の窓からは、電気がついていないが、右隣は電気がついている。


・・・・・・・人がいる!


私は、ベランダを仕切っている非常用の扉を勢いよく、蹴破った。

”ドカッ!!”


『え?何?』

部屋からそんな声が聞こえた。


私は、すかさず窓に張り付いて、助けを求めた。


「すみません!怪しいもんじゃありません!助けて下さいッ!!」

右隣にいた人物は、顔パック中の中年の女性だった。


『…え?ええ!?お、おとーさん!おとーさんっ!!』


うろたえる女性に私は、必死に助けてを繰り返した。

そして、ゴルフクラブを構えてやって来た「おとーさん」にも、私は助けてと繰り返し、訴えた。


私の手から流れ、窓に付いた血液を見て、夫婦はやっと、鍵を開けてくれた。


「大丈夫?今、警察と救急車を呼びましたからね!」

「なんて事だ…隣の人が…そんな人だったなんて…!」


事情を話すと夫婦は、何度も私の背中をさすってくれ、応急手当だが、傷の手当もしてくれた。



(…助かった……!)

私は、そのまま突っ伏して、息を吐き出した。



・・・・・・が。




『水島さん…』


「…−ッ!?」


振り向いた私と夫婦の後ろには、窓に張り付き、恨めしそうに見つめるスト子(仮名)がいたのだ。

手には、スイカの入った袋。


『水島さん…どうして、そこにいるの?』


感じたのは、恐怖。

彼女が何をするのか、わからない純粋な恐怖。


これが、私が人付き合いを避けて生きてきた代償というのなら…こんな酷い事は無い。


彼女、スト子(仮名)の事は知らない。

知ろうとも思わない。

しかし、純粋に今は、知りたい。



「…どうして…見ず知らずの私に、関わろうとするんですか?」


スト子(仮名)はその問いに、叫びながら答えた。


『愛してるからよっ!貴女を! 私は、貴女を知ってる!前世から知ってるのッ!貴女しかいないの!!』


その答えを聞いた瞬間、私を支配していた恐怖は消えた。


私しかいない?いや、それは違う。


貴女には、始めから私なんて必要なかったのだ。

貴女の知っている私は、私ではない。



彼女は、間違っている。

常識では考えられない事をやってのけた。

『常識』なんて、人間が勝手に決めた事だ。破ろうと思えば破れる、あやふやなものだ。


私は、誰かをずっと想い、見つめている事など出来ない。

監禁したい程、支配したい人間に会った事は無いし、そうしようとも思わない。

前世にすがりつかなければ、いけないほど、人を想った事も無い。


だから、私に愛していると言える彼女は、私に出来ない事が出来る人・・・

彼女は、常識を蹴り飛ばせる程、人を愛せる人間なのだ。


・・・だが、彼女は間違っている。


私を縛り付けた時点で、縁は切れていたのだ。



「…貴女は、何も知らないわ。私は、ただの水島。 ただの、人間嫌いの女で…」



今の私には、私しかいない。


彼女と私の違いは、人を愛しているか、いないか。


私は、彼女を愛しては、いないし・・・愛せない。



「…貴女と縁は、結べないわ。」



…こうして、私は彼女との縁をき


『そんなもん関係あるかーッ!戻って来い!水島あああああ!裏切りやがってええええ!』


「…ひいいぃっ…!?」

再び、恐怖が私を包む。


折角、カッコつけてキメた私の一言は、彼女には、1mmも伝わってなかったらしく。


突如、ヒートアップしたスト子(もう、私の中で彼女の本名は、どうでも良い)は、そのまま窓を壊す勢いで叩きながら、私の名を狂ったように呼び続けた。


そして、警察が到着するまでの約11分間。


私は、おとーさんと協力して、ひたすらスト子を通さないように、必死に窓を押さえている、という体たらくだった。



『水島あああああああああああ!!!』

「いやあああああああ!!(泣)」

「うおおおおおおお!!!」「頑張って!おとーさあああん!!」




夜に響くスト子の絶叫と、おとーさんとおかーさんの絶叫のコラボ。


これが、私の…縁切りの呪い、だ。


なんて、ややこしいんだか・・・。








「いやー、災難でしたねぇ…」


警察署の取調室で、私は中年の刑事にそう言葉をかけられた。


「はあ…全くです。」


私は、脱力した上半身を机にもたれかからせていた。

包帯を巻かれた両手は、心なしか少し痛む。

…早く帰りたいと思っているが、これから調書をとるそうで、まだ帰れそうもない。


刑事は、ペラペラと資料らしき紙をみながら、言った。

「あの女、前もストーカー規正法で引っかかってましてね……確か、前は男だったんですけどねえ…どういう心境の変化やら…」


…そんなモン、私が聞きたい。


「じゃあ、今担当の婦警がきますから。」

「ああ…はい。」

私は、力なく返事を返した。




 ”チクン”




・・・・・・・。



私は、中年の刑事を呼び止めた。


「あのー刑事さん。」

「はい?お腹空きました?悪いんですけど、ドラマみたいにカツ丼とか、出ないんですよ。」


「いえ…婦警さんって、女性ですよね?」

「ええ、まあ…その方がいいでしょう?」


「お願いします…男性の方を…」

「いや、規則なんで…そこは…」



「そこを何とかッ!!お願いしますッ!!」




・・・数分後。


私の人生2度目の叫びもむなしく、婦警さんはやって来た。


”遠野”という婦人警官は、私の隣に座り、調書を取り始めた。


真面目そうな婦人警官だが、私はもうそんな”真面目そう”という見た目を信用してはいない。


彼女が、警官として優秀である事も、美人なのも、どうでも良かった。


「で…水島さん?」

「はい…。」


「現在、お付き合いされている男性…もしくは、女性でも、いたりとかします?」

「いえ…いませんけど。…あの、事件に関係あるんですか?」


遠野さんは、私の一言に

「……うふ♪」

とだけ、微笑んだ。



・・・おなじみ、恋する乙女のような…赤らめた頬と、熱っぽい視線付きで。



「…は…ははは…。」



もはや、笑うしかない。




・・・どうやら、私は、まだ”監禁”されているらしい。




・・・はははははは・・・はぁーあ・・・。



(…たーすけてぇ…)



私は、心の中で、助けを呟いてみる。



・・・勿論、その声は”私自身”にしか届かない。




ー 水島さんは、監禁中・・・ END ー





 あとがき


水島さん、まさかの第3弾です。

今回は、短所ごと愛せないようじゃやっていけないヒロインでした。

…結果的に愛さない方を選んだ水島さんですが。(笑)


楽しんでいただけたでしょうか?クスリと笑っていただければ幸いです。


ああ、そうです。肝心な一言をお伝えせねば。


[この物語はフィクションです。監禁は犯罪です。絶対にやめましょう。]