「…どうかしたの?水島さん。」と問われても…上手く言葉に出来ない。
なんとなく、阪野さんらしくないなぁ・・・なんて事は言えず。
漠然とした違和感を、目の前の本人にぶつけるなんて出来るわけもない。
ここまで来て…”いつもの貴女らしくないんですけど、何かありました?”なんて…。
”これは最終回で私のEDだからよ”と答えられたら、それで仕舞いだ。
「そんな事より、ジャケットを返しに来たのですが」と私は阪野さんに手渡そうとした。
「・・・・・ありがとう。」
妙な間だな、と思った。
違和感が強まっていく。
彼女がジャケットに手を掛けようとした瞬間、私は、何故かスッと手を引いてしまった。
私は、”無意識に”ジャケットの持ち主が、目の前の彼女ではないと思っているらしい。
「あの、水島さん?これ、渡しに来てくれた…のよね?」
困ったように笑う阪野さんの笑顔。
そこには、やはり…あって良いはずのモノが無い。
「・・・エロく、ないですね・・・阪野さん。」
私はそう言った。
「・・・え?いや・・・どういう意味?」
阪野さんの疑問は正しい。
だが、それは一般人であれば、だ。
しかし、目の前にいるのが阪野詩織ならば話は別だ!
エロスあっての阪野詩織。
本人ですら、自分のエロスを押し殺すことが出来ない、というソレを!
最終回だからって・・・いや、最終回だからこそ!ソレを出さないなんて、彼女ではないではないか!!!
私の知っている阪野詩織ならば…「エロくないですね」と言われ「どういう意味か」なんて疑問は浮かばない筈だ。
本当の阪野詩織ならば『…あら…物足りないの?』と即座に一枚脱いで…
・・・・・・。
・・・それもそれで人としてどうなんだろう、とは思うが、とにかく!!
「誰なんです?貴女は。」
私がそう言って、一歩下がると阪野さんらしき女は、困ったように笑っていた。
でも、微笑むように細められた目は、ちっとも笑っていなかった。
「・・・さすが、というべきかしら。危機回避能力は桁違いね・・・。」
観念したようにかくんと両肩を落とし、力なく笑う女。
「そんな事はいいから、貴女は一体誰なんですか!?」
「そんな事を知っても意味は無いわよ?」
「じゃあ、本当の阪野さんはどこ、に…ッ」
私は不用意に近付いてしまった。
「あ・・・!?」
ジワリと胸の中心から液体が染み出し、漏れ出す。
それが、私の血液、だと気付くのに時間は掛からなかった。
(どう、して・・・?)
意味が、わからなかった。
阪野さんの顔をした女が、私をナイフで刺すなんて…。
彼女は…笑っていた。
「時にその鋭さは命取りよ・・・水島さん。」
疑問を口に出来ないまま、私の意識は真っ黒に染まり、光が戻る事は永遠に無かった。
― BAD ED 『ここまで来て、死ぬんかーい!!』 ―