[水島さんは通勤中]






私の名前は水島。


悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。


性別は女、年齢25歳。ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない、本当に普通のOL。

・・・つい最近、呪われた、という以外は。



毎朝の通勤ラッシュ。毎朝の人ごみ。こればっかりは慣れる事は無い。

私は、この人ごみにもみくちゃにされるだけで、まず一日の大半の体力を持っていかれる。

たかが、電車に乗って、職場に行くだけなのに。


『…大変混雑しております…空いてる乗車口をご利用下さい。押さないでください…』


駅員のアナウンスに、私は顔をしかめる。

空いてる乗車口が、今、ここに存在していると言うのか?


あったら、是非飛び込みたいものだ………ん?あ…あった。


空いてる乗車口だ!ラッキー!


でも、電車に乗ったらきっと、ぎゅうぎゅうに押し寿司状態になるのは、わかってはいるのだ。

だけど、悲しきかな…空いてると乗っちゃうのが、人の性…。


「…ふう…」

(やれやれ…やっぱり押し寿司か。)


どこに行っても、やはりコレからは逃げられない。仕方が無いのだ。

ここにいる人達だって、きっと好き好んでこんな場所…


…こんな…場所…


私は、つり革を掴んでから、気がついた。私の周りが、女性ばかりだと言うことに。


私は、まさか…という思いを抱きながら、あの文字を探す。

どうか、どうか…ありませんように…




        『女性専用車両』




(うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?)



私は、女難の呪い付き女だ。こんな女性ばかりの場所にいたら…!!

いや、落ち着け!こんな場所で…人間関係なんか形成される訳がな…



”もぞ…””はぁ…はぁ…””…クスクス…”



「・・・・ッ!!」

私の体に触れる複数の細い手…。




『○月×日…水島さん、女性専用車両にて、人生で初めて(恐らく人類初)の複数の痴女に遭う』




…言っておきますけどね。


女性だろうと、男性だろうとね…人の体好き勝手触って良い訳無いでしょ?


私は、手首をガッと掴み…「痴漢…いや、痴女です!」と声高々に…



できたら、苦労ないって…(泣)



「水島さん。水島さん・・・」

私の右側から、私の名前を呼ぶ声がした。

「…あ…企画課の花崎(かざき)課長…」


スラッと背が高いし、美人だから、すぐ分かる。同じ電車だったとは…


「あら、偶然ね?水島さん、おはよ♪」

今度は、左側から声がする。


「あ、秘書課の阪野(さかの)さん…」

彼女も美人秘書で有名だから、すぐわかる。同じ電車だったとは…


「ちょっと、水島、こっちに挨拶は無いの?」

今度は、私の後方からは、偉そうな声。


「あ…海ちゃん…今日はリムジンじゃないんだ…。」


私の会社の”会長の孫娘”彼女も有名人だ。同じ電車だったとは…


(おや?)


…彼女達と言葉を交わしている間に、痴女はどこかへ行ってしまったらしい。


助かった…今日も、女難に遭ったけど…女性に助けられた…。



いや、待てよ?



…妙に、私に近い…この3人だけ…妙に、体が…くっついていないか…?


「・・・・・。」


気のせいだ。気のせいだと思い込もう…



…それでも私は、やられてない…と。



そして、私は二度と女性専用車両には、乗らないことを決意した。



END

※この話はフィクションです、絶対に真似しないで下さい。


あとがき


…結構な間、WEB拍手に飾ってあったSSです。

実は、私、女性専用車両って、乗った事無いんですけど…

…こんな事は多分無いだろうとは、思います。(当たり前)

女性だろうと、男性だろうと、見知らぬ人にベタベタ触られるのは、やはり不快ですからねぇ…

・・・だからって、見知った人に触られるのも、私はカンベンだなぁ・・・。