[水島さんはまだゲーム中。]



私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。

カウンターが10000越えたとしても…本当に、聞かないで欲しい。

性別は女、年齢25歳。ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない。


本当に普通のOL。


…縁切りと言う名の呪いをかけられたせいで、女難の女になってしまった、という以外は。


     『うりゃぁー!!』


…現在、私は口に咥えタバコ、手にはゲームのコントローラーを持ち、”ジーザス”という格闘ゲームにハマっている。



・・・変にシミュレーションやら、サスペンスに手を出したのが失敗だった。

初めから、このジャンルにすれば良かったのだ。


…単なる殴り合いゲームとはいえ、技のコンボ?みたいなモノが決まると、なかなかの爽快感。

最近のゲームは本当に凄い。人間の動きも、背景も…リアル過ぎる。

初めは面食らって、何も出来ずに1回戦で、倒されてばかりだったが…


    『てやー!』



    『K・O!YOU・WIN!』


    『…私は、負けない!』


…うん、大分勝てるようになってきたわ。

このゲームは、28人ほどいるキャラクターから一人選択し、格闘技大会に出場。

単純に1対1のタイマン勝負を勝ち抜いて、優勝するのが目的である。


・・・妙に女性キャラクターが薄着なのが気になるが、まあそれはいい。


今、ようやく3人目を倒した所だ。私は、少し自慢げにタバコの煙を吐いて、灰皿に置いた。

すると、突如ゲーム画面が真っ暗になった。


「・・・あ、あれ?」


    『…くく…それで、私を倒したつもり?』


「・・・ん?あれ?さっきの薄着の女?」


    『…本当の私の力、みせてやるわ…!小娘!いやこのメスブタが!』


ゲーム画面には、先ほど倒したはずの薄着の女(SM嬢風?)が、立っていた。

にしても、言葉遣い酷すぎるだろ…これ、15歳以上でも悪影響だろ…。

一方。

私の選んだキャラクター、ジーパンにTシャツという…戦う気が無い女は、気合十分に台詞を言う。


    『いいわ!時給分きっちり戦ってあげる!!』


オイオイ。コイツ…バイト感覚で格闘大会出てんの?


それにしても…同じ相手と再戦なんて…聞いてないぞ…???

「……あ、こういう時は説明書、説明書…」


※注 水島さんがゲームに負け続けていたのは、説明書をよく読まないというニアミスからだったりする。



「えーと…何々?…『時々、キャラクターが再戦を申し込んできます。この勝負に勝つと…何かが…!』


・・・だから、勝つと何よっ!?その先を書いてこその”説明書”だろうがっ!!」


…駄目だ、この説明書はあてにならん!とにかく、勝てば良いのね…。

私は、タバコを咥えて、コントローラーを握り締める。


       『ファイト!!』



       ー12分後ー


       『YOUWIN!』


「おっしゃー!勝ったー!」

 ※注 独身OL水島さん、夜一人、自室にて、ガッツポーズ。


うむ、私…確実に上手くなっているわ。日々のキーボード捌きが役に立ったというか…

昔から、指先は器用ねってお母さんに言われたことあるのよね…うん。



     『どう?女王様…私の実力は!』


     『くっ…悔しいけれど…貴女、強いわね…もうダメ…私の支配者になってちょうだい!』



     『…いいわ、今日から私を店長と呼びなさい!』



「・・・・・・はぁ!?」


いやいや、戦いの後に握手くらいなら解るけれど!違う!何か違う!!

なんでそうなる!?会話が噛み合ってないし!!



そして、画面は暗転した。


ああ、ビックリした…単なるネタか…女難の女だけに、女が絡むとまともにゲームも楽しめない…。

…でも…なんとか、前回のゲーム、マックロイハラの二の舞にはならなかったわ…。

アレ、とうとう…犯人がわからないまま、百合シナリオ全部見てしまったのよね…。



       『ネクスト・ファイト!!!』



「あ、ヤバイ…次の相手次の相手…」



     『俺様が相手だー!ギタンギタンにしてやるぜ〜ぐははは!!』

     『時給分、きっちり戦ってあげるわ!!』


次の相手は、男プロレスラーか…良かった…安心してブッ倒…



      『頑張って!あたしの店長〜♪』


・・・さっき倒した女王様が、私のキャラの後ろに、いるーっ!?

そして、店長と呼んでいるー!?つ、続いているのか?あのネタは…!!


         『ファイト!』


ああ、集中!集中!!



         ー10分後ー


       『YOUWIN!』


「…おっしゃー!勝ったー!」


     『私は負け』『あたしの店長に勝とうなんて、1億光年早いのよ!』


…何故、負けたお前の台詞でしめる!?私のキャラと台詞かぶってるじゃないか!?

そして、店長と呼ぶなーっ!!



      『…ぐ、ぐははは…!この俺様を倒すとは…しかし、これからが本番だ!!!』


      『…いいわよ!時間外手当でお相手するわ!!』


      『頑張って〜店長!愛してるー!』



…げ。プロレスラーまで、再戦申し込んできやがった…!!

いや、勝てば良いんだ。勝てば!!そして、女王様は黙ってろ!!



         ー13分後ー


「くっ…ちょっ…強い…こいつ!!うりゃ!」

さすが、プロレスラー…私のデタラメ押しコマンドでは、苦戦は必須か…!!



そう思った瞬間。



        『危ない!あたしの店長ー!!』



            ”バキッ!!”

           『YOUWIN!』



「…あ、あれ?女王様!?」

応援席にいたはずの女王様が、何故か試合に乱入し、KOしてしまった…

これは、反則じゃ・・・!?・・・いや、あ、アリなのか?


すると、先ほどまでいた、プロレスラーの姿が、突然画面から消えた。


           ”バリッ!”



不思議な音と共に、プロレスラーという…さなぎの中から、美少女が現れた。


      『…ありがとう!!貴女が倒してくれたおかげで、プロレスラーの呪いが解けて

         元の可愛い姿に戻ることが出来たわ!愛してるわ!!』



         『わかったわ!今日から私が店長よ!!』



…って、理解力早ッ!?


…画面の中では、私のキャラとファンシープリンセス美少女が抱き合っていた。

断っておくが、これは格闘ゲームの画面だ。


「何だよ!プロレスラーの呪いって!?大体、倒したの女王様だろ!?なんで私のキャラに懐くんだよ!

 そして、お前は店長になりたいなら黙ってバイトしてろ!

 それから、お前ら2人共、台詞が一切、噛み合ってないんだよっ!!」


どうやら、あのプロレスラーの真の姿は…可愛らしい女の子、だったようで…。

私のキャラの後ろに、新たな応援女が増えた。



       『よーし!この調子で、大会優勝するわよ!!』



……なんだか、嫌な予感がする。




             ー1時間後ー




「・・・・・・・・・・。」


私は、エンディングの画面を見て、呆然としていた。


       『…優勝したのね、店長…さすがあたしの支配者…』


       『呪いを解いてくれた勇者様…優勝おめでとう…』


       『貴女なら、出来ると信じていたわ…!』


       『…そんな貴女と戦えた事が誇りだにゃん♪』


       『今回は、貴女に優勝を譲ってあげるわ…けど、今度は負けないんだから…!

        べ、別に貴女のこと、好きなんかじゃないからね!』


       『おめでとうございます…ああっ眼鏡が落ちちゃった……眼鏡眼鏡…』




私の嫌な予感通り。

倒した相手はもれなく女になり、そして倒した女は…皆、どんどん私のキャラクターの配下になった。

更に負けそうになると、すかさず応援席の彼女達が、乱入して、敵をKOしてしまう…。


…私の実力で勝てた試合なんて、もう無きに等しい。


・・・これ、格闘ゲーム、よね・・・?


        『みんな、ありがとう!私、皆のおかげで優勝できたわ!!』



私は、コントローラーを投げ出し、叫んだ。



「…当たり前だよ!どちくしょー!もう、お前の実力じゃねえよおおおおお!!!」




それから数日後、私はゲーム機の電源を入れるのを、まだ迷っている。


あれからネット上で…

”人気ゲームソフト『ジーザス』に重大な不具合発見!!自主回収!クレームの嵐!!”

”単なる百合集団によるボコりゲーム!ゲーマー・ファンも怒りの暴動!”


…という、見出しが踊っているのを見て、悲しくなったのを覚えている。


一応、自主回収には応じて、ゲームソフトは返品してみたものの…

今回の不具合が、もしかしたら私の女難のせいかもしれない、という可能性は……


いや、気のせいだろう…うん。




[水島さんはまだゲーム中]・・・END



…マックロイハラは、クリアできませんでしたーという後日談でした(笑)

それにしても、本当に最近のゲームって…グラフィック良いですよね〜


…でも、グラフィックも良いけど、ちゃんとしたシナリオも(もごもご…)

いや、こんなの書いてる私がいうのもオコガマシインデスケド…ぐはははは…(殴)