[水島さんはまだまだまだゲーム中。]





私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。


性別は女、年齢25歳。ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない。


本当に普通のOL。


…縁切りと言う名の呪いをかけられたせいで、女難の女になってしまった、という以外は。




性懲りもなく、私はコントローラーを握っている。

…いや、握らざるを得ないのだ。


事務課の…えと、なんだっけ……


………あ、そうそう、”君吉さん”から半ば強制的に借らされたゲームをクリアしなくてはならない。

 ※注 ”君塚”の間違い。


     『俺!お前が好きなんだよ!鏡耶!』


     『俺もだ!伊綱!!』



・・・どうして、BLの登場人物って・・・読みにくい名前ばかりなんだろう・・・。

太郎とか、次郎とかいないのかな…。


私が、現在プレイしているのは『俺の胸でDAKARERO!』・・・だ。

・・・何故、ストレートに”抱かれろ”って書かないんだ・・・。


まあ、それはいい。


ストーリーは…主人公こと、三上院 鏡耶(さんじょういん きょうや)として、若くして会社の社長となり

更には、周囲にいる男を・・・落とすという・・・


・・・一体何がしたいんだ?仕事しろよ。・・・というツッコミ満載のゲームだ。


    『俺の…俺のありのままの気持ちは、お前にしか見せられないんだ!』

    『わかってるさ…ありのままの…生まれたままの姿のお前を見せてくれ…!』



あと…こんな…恥ずかしい台詞中心に話す男同士、見たこと無いぞー…


※注 作者はBLファンに喧嘩を売っているつもりは一切ありません。



恋愛ゲーム、と聞いて多少たじろいだ私だったが…

中身が男同士のゲームと聞いて、やろうと決意した。


・・・女難の女が、男同士の恋愛に首を突っ込んでも大丈夫だと判断した為だった。

そして、その成果で、メインキャラクターの一人と

めでたくハッピーエンディングを迎えることになったのだ。




      『俺、お前の…女の代わりにされるのは御免だぜ…』


      『バカヤロー…好きでもないのに、男なんかにこんな事できるかよ…』


しかし・・・



「・・・興味のない人間がやっても、あまり面白みは無いわね・・・。」


そう呟いて、私はタバコの煙を吐いた。


正直、人間同士の好きだ嫌いだののやり取りには全く興味が無い私。

現実でも、ゲームでもそれは同じ。

他人様は他人様と、よそで幸せに暮らしてくれたら、それで良い。


・・・・私抜きで。


「でもまあ・・・良い暇つぶしだわ。」


趣味があまり無い私にとって、TVゲームは、暇つぶしだった。


・・・しかし・・・




    『あぁ…!鏡耶!』

    『…伊綱…!』


    『鏡耶!』

    『伊綱!』



コントローラーを握るプレイヤーを蚊帳の外にして、男同士の恋愛は、画面狭しと盛り上がる。

お前らがそうやってイチャイチャできるのは、私が選択した結果なんだぞ?感謝しろよ?


いやいやいや、私は、何をムキになってるんだか…



    『鏡耶!大好きぃ…』


    『可愛いよ伊綱…』



「・・・・・・。」


・・・全く、これでは街角のバカップルを見るのと同じではないか・・・。

大体、こんなにスネ毛も、胸毛もない…つるつる肌の男いる訳がないだろう…

女だって、わき毛やら、腹毛やら生えてるやつは生えてるんだい。

  ※注 個人差があります。



大体、どうして、いつもBLの片割れは、小説家とか、実はどこかのお家元とか

大会社の社長のご子息とか、医者とか、謎の金持ちばっかなんだよ…


どうして、なにかと時間と生活に困らないリッチな感じになってんだよ…。


いつも家にいるとか、妙に金持ってるとか、料理上手なんてあり得ないんだよ…。


…どうあっても邪魔な女を介入させまいという魂胆が、ちょっと見え隠れしちゃうんだよ…。

  ※注 GLの世界にも、少なからず、邪魔な男を介入させまいとする流れはある。



なんか気になるんだよ…知らない世界なのに、何か小さい事にツッコミたくなるんだよ…ッ!


ちくしょう…事務課のOLにそんなモン見せ付けるなよなぁ……





※注 繰り返しますが、作者はBLファンに喧嘩を売っているつもりは一切ありません。





ゲームの中で主導権を握るのはプレイヤーだが、プレイヤーは神様じゃあない。

どのキャラクターにどんなアプローチをしようとも、それは自由。

自由というより、アプローチの行動は選択肢で限られているが、基本的にはセーブも、リセットも自由だ。



     『鏡耶の唇って…柔らかいんだな…』


     『オイオイ…照れるぜ…伊綱…』



・・・けど、私は・・・別に、このカップルに興味も何もないんだよなあ・・・


「…でも、まあ…男同士だから、妙な安心感があるわね…。」



別にゲームの趣旨が、女同士の恋愛が前提ならば、プレイしなければいいだけなので構わないのだが…

私の場合…何をやっても、女同士の恋愛トラブルで、ゲームクリア出来ない状態になってしまう為


もはやBLゲームしか、安全なゲームは無いのだ。



・・・・・ところが。




     『鏡耶…実は、俺…お前に隠してることがあるんだ。』



     『・・・なんだ?伊綱・・・早く脱いで見せてくれよ。』







      『…俺、いや…あたし、実は女なんだ!』





「ちくしょ――――――――――――――ッ!!」





私はコントローラーを床に叩きつけた。


ふ・・・ふふふ・・・・・読めてたわよ・・・!

私は女難の女…。

だから、きっとこうなるんじゃないかって薄々感じてたわよ…


でも…伊綱…お前、貧乳過ぎるだろ…ッ!妙に細くて筋肉ついてるけど、それで女ってオチ!!



認めない!認めないぞ!



・・・いや、もはや、そんなツッコミ不必要ッ!!




     『…俺も、お前には言っておきたい事がある。』


     『…鏡耶?』


・・・・・ま・・・・まさか・・・・





    『俺も、本当は女なんだ!父親に無理矢理、男として育てられて…やりたくもない筋トレさせられて…!』




やっぱりか―――!そして、重てぇ―――――――――!!

主人公の過去、何か無理矢理で重たいエピソード 急にキタ――――ッ!!




    『鏡耶…俺…女同士でも構わないよ!』


    『認めてくれるのか?親父が全否定した、女の俺を…!』

    『当たり前だろッ!?』



そして、相手の受け入れ態勢、早ッ!?




   『人を好きになるのに…鏡耶を好きになるのに…そんなの関係ないんだ!』


   『…伊綱…!』



・・・そして、貧乳のガッチリ筋肉体型の女性2人が、抱き合う。


…ああ、まさに”見た目は男、頭脳は女、その名は(以下自粛)”って訳ね…ああ、そう…。


「………ふぅー…」


私は、タバコの火を消して、右腕を伸ばした。


「・・・はい・・・リセット・・・。」



・・・後日、篠塚さんから『ソレは隠しエンディングですよ』と告げられたが、どうでもよかった。

※注 ”君塚”の間違いです。


…ああ、普通に、ゲームがしたい…。










  ― 水島さんはまだまだまだゲーム中 ― END



あえて、読めるオチでお送りしました(笑)

あと、BL好きな方申し訳ないです。あと、微妙なオチでスミマセン。


本当に、色々なゲームが出てきているので、ネタにしやすいです。

・・・今度は何をリスペクトして、ふざけようか、考え中です。