[水島さんはしつこくゲーム中。]




私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。


カウンターが30000を突破したとしても…

今、初めて私の事を知った人でも、下の名前は聞かないで欲しい。


性別は女、年齢25歳。ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない。


本当に普通のOL。


…縁切りと言う名の呪いをかけられたせいで、女難の女になってしまった、という以外は。



「・・・これだ。」


私は、中古ゲームのコーナーで静かに呟いた。

静かに呟いたものの、心の中で、私は、両手でガッツポーズを決めて、踊りまくっていた。



そうだ。


なまじ、ストーリーがあるからいけなかったんだ。

ゲームは、機械と己の対話!それで良いのだ!誰がオンラインで交流なんざするものか!

誰が電子マネーなんぞ、購入するか!無料といっておきながら、結局それは…


※注 水島さんは興奮のあまり、言わなくても良い事を口走ってますので、割愛します!!



   『ぱよぱよ』


・・・いわゆる落ちゲー。



同じ色の”ぱよぱよ”という、名前のわりに毒々しい色したぶよぶよの身体に、目玉のついた…

実際いたら、女子は怖くて泣き叫ぶような、謎の生命体を同じ色同士

縦横隣り合うように4つ以上くっつけたら、何故か消えちゃうので、消し去ろう、というゲームだ。



  ※注 水島さんの説明は、あくまで彼女の”独自の解釈”によるものです。生々しくてスミマセン。



…連続的に、消す連鎖によって、スコアが伸びたり、対戦相手に壊滅的ダメージを与えられる。

うん、これだよ。

これなら、ストーリモードさえ選択しないで

エンドレスでぱよぱよを消す”チャレンジモード”を選択すれば、遊び放題だ!!


昔、お母さんに手先は器用ねと褒められた私なら、20連鎖以上は、なんとかできるようになるだろう。


それに、これは新発売じゃない。

中古のゲームで、名作!店員オススメ!のPOP文字が、私を更に安心させてくれる。


・・・これなら、百合シーンを拝む事もないだろう。


私のリラックスタイムに、普通のL(LOVE)も

BのLも!

GのLも!!

TのL(ティーンズ・ラブ)も!!!



・・・・・・不必要っ!!


と、言うわけで、早速『ぱよぱよ』を購入した私。


家に帰り、手短に食事を済ませる。

座椅子、ティッシュ、飲み物…必要なモノ全てを、手の届く場所に置き、ゲーム機のスイッチを入れた。




   『ぱっよぱよ〜ん♪』


「・・・・・・・。」


タイトル画面の、アニメ声にちょっと脳天直撃されちゃった(死語)けど

ストーリーさえ進行させなけりゃ良いんだ。


   →『とことん ぱよぱよモード!』


「・・・よし。」


私は、コントローラーを握り、落ちてくるぱよぱよを積み上げた。


   『えい!』『1連鎖!』

   『やあ!』『2連鎖!』


…始めはやはり1連鎖から、上手くいっても3連鎖ほどだった。

アニメ声の掛け声のあと、今自分が何連続でぱよぱよを消しているかが画面に表示されていく。

途中から、新しい色のぱよぱよも加わる。

速度も速くなる。

レベルが上がり、初心者の私は成す術無く、ゲームオーバーになった。


「・・・こ、これは・・・なかなか・・・」


単純でいて、やりがいのある…


「これだよ…私がやるべきゲームはこれだったんだ…!」


・・・感動だ。ゲームは、こうでなくちゃ!


よし、とことんプレイしてやろう!!




     ― 4時間後 ―




私の腕前は、メキメキと上がっていった。

ゲームオーバーになる度に、プルプルしながら笑う目玉スライム(暴言)への憎しみを込めて

私は心からゲームを楽しんでいた。


…どうでも良いけど、私、ハマりすぎだろ、と自身へのツッコミも忘れて、楽しんだ。


そして。



…私の計算通りに、事が進めば……当初の目的…20連鎖…いや23連鎖はいける所まで来た。


「…もうちょっと…!」


狙いの赤いぱよぱよが来たところで、私は連鎖を開始した!


「…よし、これで、いけるはずだ…!」


そう、私は…やはり、手先が器用だったのだ!!


   『えい!』『1連鎖!』

   『やあ!』『2連鎖!』

   『いっくぞー!』『3連鎖!』

   『その調子!』『4連鎖!』

   『まっだまだ〜!』『5連鎖!』


ぱよぱよが、面白いほど、スッキリ消えていく。

さっきは、積み上げすぎてもう一息のところで、ゲームオーバーになっちゃったからなぁ…

その悔しさも、ぱよぱよと共に消えていくような気がした。


   『絶好調〜!』『6連鎖!』

   『もっともっと♪』『7連鎖!』

   『気合だー!』『8連鎖!』

   『もう一息だよっ!』『9連鎖!』

   『すごーい!』『10連鎖!』


私はそこで、ガッツポーズをとった。

「ぃよしッ!!」


新記録だ。自己ベスト更新だ!

ああ、これが・・・ゲームの快感なんだなぁ・・・!


…そう、私がぱよぱよ消去の快感に酔っていると…



   『…素敵だよ!』『11連鎖!』


「・・・うんうん。」

消すたびに、アニメ声が、私を褒めてくれるらしい。


   『もう、好きになっちゃうぞ…。』『12連鎖!』


「………」

ほ、褒めて…くれて、る…?


   『よそ見しないで!』『13連鎖!』


「…いや、しとらんしとらん。(よそ見は)」


私は、アニメ声の台詞に違和感を覚えた。



   『・・・あたしだけ見て。』『14連鎖!』


「・・・いや、画面は見るさ、そりゃ。」


アニメ声の台詞に、冷静にツッコむ私。


(・・・あー・・・なんか、いやな予感がするなぁ・・・。)


その予感を裏付けるように、15連鎖から、画面は変わりだした。

ぱよぱよが消えていくと、画面の向こう側から、うっすらと女性らしき姿がみえる。


   『…今日、泊まっていかない?』『15連鎖…』


その女性の口がパクパクと動き、台詞と連鎖が表示される。


「・・・お、おいおい・・・。」


ぱよぱよメインのゲームだろう!?どうして、女が出てくるんだよ!!


   『今日、両親いないの。』『16連鎖…』


画面には消えるぱよぱよと、頬を赤く染める女性の姿がくっきりと映っている。

説明書の表紙には、こんな女性の姿はない!

それから、見ず知らずの女の家の、両親の不在情報なんぞ求めてもいない!


「いやいや、おかしいおかしい!台詞と画面が!!!」


   『もう、友達じゃ満足できないの…』『17連鎖…』


ツッコミを無視して、なおも、画面の異常が続く。

・・・画面の女性が一枚ずつ、服を脱いでいるのだ。

友達という関係すら、結んでない、見ず知らずの女が…!!!



「オマエは、場末のゲーセンの脱衣マージャンかっ!?」


私はゲーム機の電源に手を伸ばしかけた。


けど…。

けど…せっかくここまで連鎖させたのに…消すなんて…もったいない…。



   『あ、ダメよ…そ、そんな…っ!』『18連鎖…』


(いやいや、ダメなのはお前の格好と台詞だ!!)


台詞も、女の格好も何、も関係ない。私は、ただのゲームのプレイヤー…

気にしたら、負けだ…!


   『…ううん、もっと…して欲しい…』『19連鎖』


画面は、もう…どこからどう見ても…ベットに押し倒された半裸の女性。

成人指定のイケナイ画面。


残るぱよぱよが、彼女の……本当に画面に映しちゃイケナイ場所にいる。


「・・・き、消えるなー!今だけ、今だけ!消えないでー!ぱよぱよ!!」


散々、ぱよぱよを消す事に全力を、費やしてきた私だが、もう…そんな気は無い!


「・・・頼む!消えてくれるなッ!ぱよぱよ―ッ!!」


私は、画面に向かって思わず、そう叫んだ。

しかし。



願いむなしく、ぱよぱよは消えて…そして…


「・・・・うっわ・・・モロ・・・・・・。」



   『…あぁん♪水島お姉さまぁ…』『20連 ”プチッ!!”



「・・・・・・・・。」



・・・・私は、途中で、電源を切ったことに、後悔はしない。

そうだ。これは、ゲームなんだから。

…なんか、自然に自分の苗字呼ばれた気がしたけど…気にしない。気のせい、気のせい。


そうだ。これは、ゲームなんだから…

何が20連鎖だよ…やって、給料増えるわけじゃないし…呪いもとけない。


20連鎖して、裸の女性に自分の名前呼ばれながら、喘がれるより……電源切る方が、マシだ。



私は立ち上がり、ぱよぱよのゲームソフトを、バッグへ入れながら、売ろうと決意した。


うん、怖いよ。

さすがに、名前まで呼ばれたら…怪奇現象だよ。さすがだよ、私の”女難の呪い”よ…完敗だ…


・・・は、ははははははは…!!!


いーよ、いーよ…もう…明日は、土俵入りして、ピザでも焼いて、ピンポンダッシュしてやるよ!!


※注 只今、水島さんの精神が一時的に、壊れております。ご了承下さい。



・・・やっぱり、私はまともにゲームが出来ない、のだろう。


「・・・・寝よう。」



― 水島さんはしつこくゲーム中。 END―





全国の、アレのファンの皆様、申し訳ありませんでした。