閑話休題 : もしも、水島さんが女の子が好き過ぎる人間だったら。






私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。


年齢は25歳。普通のOLで、人嫌い。そして・・・呪われて、女難に見舞われ続けている。


私は、火鳥に呼び出された。

試したい事がある、というなんとも具体性の無い、ふわふわした用事で呼び出された。

明日から、また仕事なのに・・・。



火鳥は、とあるホテルの一室に私を呼び出した。

ふかふかの一人掛けソファに腰をかける。

上品な家具ばかりが並んでいる、いかにもスイートなお値段のお部屋は、密談をするには相応しい部屋だ。


「・・・で、なんですか?」


火鳥は、いつも通りニヤっと笑って言った。


「試したい事があるのよ。」

「試すって、縁の紐関係の事ですか?もう色々試したじゃないですか。色の法則も発見できましたし。」

※ 『色の法則』とは。

縁の紐には、赤以外にも色がついていて、水島さん達のさじ加減によって判別出来る事がわかった。

例えば、赤い紐は恋愛関係、緑色は家族や友人関係、黒はトラブルを引き起こす。


「違うわ。もっと、基本的な事よ。」

「基本?」


私が聞き返すと、火鳥はゆっくりと私の椅子の後方に回りこみ、私の肩に手を置いた。


「ねえ、アンタがこの呪いを掛けられて、一番困る事って何?」

「そりゃ、好きでもなんでもない、縁も所縁もない女性にばっかり好かれる事です。」


私はハッキリと事実を答えた。


「そうね、好きじゃないから、困るわけよね。」


なんだ?何をする気だ・・・?

不審すぎる火鳥の言動を疑わしく思いながら、私は「・・・で?」とだけ言った。


火鳥は私の両肩に手を置いたまま大声で言った。



「そこで・・・出番よ、Taico(タイコ)!!」


「はい?サザエさんに出てくる人ですか?」


すると、カーテンをバサッと暖簾のようにめくり上げて、大きいピンクの塊が笑顔でやってきた。





「ンはァ〜い!おゲンコー?呼ばれて飛び散るオネエ系サイコメンタリスト Taicoどぇ〜す!ヨロピクミン☆」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



全身ピンクの衣装に、大胆に開いた胸元からは褐色の筋肉がチラ見えするのに、乳首だけはギリギリ隠しているのがムカつく、というかなんというか・・・!


なんなんだ、お前は!なんなんだ、その挨拶のとっ散らかり具合は!!


なんたる、個性の暴力だッ!!




ていうか・・・

ていうか・・・!!





「お、オカマだあああああああああああああ!!!」


「失礼ねッ!”オネエ”よブス!今はオネエって言うのよッ!・・・別にオカマでも気にはしないけど!」



「火鳥さん!オカマが出た!ホテルのカーテンからオカマが出たッ!!」


必死に訴える私の肩に火鳥は手を添えたまま、軽くあしらった。


「はいはい、幽霊でもゴキブリでもない、オカマで良かったじゃないの。」


いや、肩に添えられた手は・・・私を椅子に固定している!!


「ひ、酷いッ!比較対象が酷いわッ!火鳥ーヌ!」


身をクネクネさせながら、タイコは陽気に騒いだ。

というか、火鳥ーヌって・・・。


「アタシの名前を勝手に外人っぽく呼ばないでッ!準備は出来てるんでしょうね?Taico!」

火鳥の言葉に私はいよいよ血の気が引いた。


「え?準備!?何の!?ていうか、普通にタイコって言えば良いんじゃ?」


目の前の化け物に、私が何かされる、そんな嫌な予感!!



「んふふふ〜!私のサイコメンタルで、劇的ビフォーアフターしてあげるわァ!!」


字面的に凄く嫌ッ!!


「メンタルだか明太子だか知らないけれど、私は別に変化なんか求めてませんッ!ていうか、何なんですか!?」

立ち上がろうとする私の肩を火鳥は押さえつけながら、説明を始めた。


「要は、催眠術よ。このTaicoは催眠術を使うセラピストなのよ。」

「サイコメンタリストって言ってよ!その方がカッコいいじゃない!」


クネクネとピンクの衣装を着た褐色のオカマが抗議の声を上げる。

こんなビジュアルの人のセラピーなんか受けても落ち着く訳が無い。


「それ、訳合ってないから。セラピストで十分でしょ?」

「いやよ!そんなクッキーじゃあるまいし!!」


どうにもわからない会話を続ける二人に私は、たまらずツッコんだ。


「それを言うなら、トラピストクッキーでしょ!いや、そんな事はどうでもいい!

その催眠術で一体私に何をする気なんですか!?こんなヘドロから生まれ出たふ○っしーみたいな生き物に何をさせるんですかッ!?」


「誰がヘドロ生まれの○なっしーよ!?せめてくま○ンにしてよ!いや、クマじゃねえよ!!

アンタが人嫌いで困っている、と聞いたから!私はあなたを救いに来たのよ!」


オカマからの救い、とか本当に求めていない!


「困ってない!全然困っていない!!」


「お黙りッ!言い訳もタマも要らないのよ!このおブスッ!!

いいわね?火鳥ーヌ。掛けっぱなしはしないわ。あくまで1週間試したら、何があっても元に戻すわよ?」


「ええ、結構よ。」

「私は了承してなあああい!!」


「まずは、興奮を取り除かないとね・・・ふぬァっ!」



私は、Taicoから腹部へのとてつもない衝撃を受け取った。

 訳:オカマにみぞおちをパンチされた。



居心地の悪い夢の中に私はいた。

居心地の悪さに加えて、気味の悪い声が聞こえる。



繰り返し。


繰り返し。



・・・繰り返し・・・。




 ― 2時間後 ―




「ふうっ☆一丁上がりっ!」

「結構時間かかったわね?大丈夫なの?」


「それは、この女が、深層心理の底の底まで人を嫌っているからよ。

それを一時的とはいえ書き換えるんだから、至難の業よ〜?少しばかり記憶も操作しちゃったし。

・・・それにしても余程の人間嫌いねぇ。火鳥ーヌに負けないくらいの。

でも・・・これだけ嫌っているんだから、何か強いショックを受けたら術はあっさり解けちゃう可能性もあるわね。」


「まあ、その時はその時よ。起きなさい、水島。」



「んあ?」


目を開けると、ピンク色と褐色の化け物と・・・火鳥がいた。


「どう?水島?気分は。」


火鳥は私の頬を両手で掴み、ぐっと顔を寄せて質問をしてきた。


「え?あ・・・。」


何故か、この至近距離に戸惑う。


「どうなの?変わった感じは?」


しっとりとしてぷるんとした美味しそうな唇が動く。

火鳥の香水と普段から甘い物を食べているせいもあるのだろう、蜂蜜のような柔らかい甘いにおいがする。

サラサラした前髪が揺れ、少し切れ長の目が私を見つめる。

目鼻立ちは高いが、表情や身体全体から漂う闘争心が、キツそうな印象を与える。


・・・そこが、なんともたまらない、というか。

こういうタイプが甘えたり、泣いたり、顔を赤らめて私の袖を引っ張ったりしたら、たまらないだろうな、とか。


しかも椅子に座った私に無理矢理目線を合わせようとするので、屈んだ火鳥の胸元が少しチラチラ見える。


というか・・・見たい。

なんか、凄く見たい。


自分にも同じものがついてるのに、中身が、谷間が・・・いや、服の下が凄く気になる。

同じものはついていても、自分と少しだけ違うかもしれない。



色とか、形とか、大きさ・・・ニオイ、味・・・。



・・・どうした?どうした、私・・・?



「何?どこ見てんのよ?」


火鳥にそう言われ、私は視線を戻し返事をする。


「は?見てませんけど?全然見てませんけど?むしろ見たいとも思ってないですけど?」


「・・・胸、ガン見してたでしょ?気づかれてないと思ってるみたいだけど、分かるからね?」


「は?ガン見してませんけど?全然ガン見してませんけど!?むしろ視界にも入れたくないですけど!?」


私は必死に首を横に振って否定するが、火鳥は冷めた目で私を見下ろす。

・・・ああ、その視線もなかなか良いな・・・。


って・・・どうした?どうした、私・・・?


「・・・Taico、成功してるみたいよ?さすがね。」

「あァら、嬉しいわん☆」



一体、どうしたのかわからない。

大体、何故こんなにも今の私自身に対して違和感があるのかも、わからない。



私の名前は水島。

悪いが下の名前は聞かないで欲しい。


年齢は25歳。普通のOL。そして・・・呪われて、災難に見舞われ続けている。


あとは・・・ただ、女が好きなだけだ。


何か・・・おかしい?






 [  閑話休題 : もしも、水島さんが女の子が好き過ぎる人間だったら。 ]






火鳥に呼び出され、特に何もなかった次の日。

誘ったんだから、何かしらあっても良かったのに。

私は、いつものように朝食を食べながらテレビを見ていた。


天気や占いよりも気になるのは、女子アナや脇にいる女性タレントだ。

朝だけあって、爽やかさを感じさせる美女がニコニコ笑っているのだからたまらない。


しかし、まあ・・・所詮は芸能人。

素人には手が届かないからこそ、気楽に愛でる楽しみがあるというもの。

そして、女子アナは若ければ良いと言うものではない。熟練の落ち着いた女性がニュースを読み上げる、それを見るのもたまらない。



とある人は言った。


『女性の守備範囲は、17歳から灰になるまで。 by Uド鈴木 』


まさにそうだ。

女性とは、花開けば、そこからはいつまでたっても女性なのだ。良い事言うなぁ。


元気良く家を飛び出す。

隣の伊達さんが、ちょうどゴミ袋を持って出てきた。


「・・・あれ?みーちゃん、おはよっ!」


・・・ああ、朝から無防備なパジャマ姿。しかも、今日は一番上のボタンが取れている。


「おはようございます。」


いつも通り、頭を下げて挨拶をする。

今朝は、ラッキーだ。


すっぴんの伊達さんは、無防備かつ可愛いのだ。しかも、なかなかすっぴんは拝めない。

キャバクラ出勤時は、つけまつげで目力がすさまじいのだが、すっぴんは彼女らしいふんわりした表情がよく見える。


化粧要らず、とは伊達さんのような人の為にあるものだ。


「いやーなんか寒いねー鳥肌たっちゃった。」


確かに外は寒かった。ダウンジャケットを着ている私に対し、伊達さんは無謀にも、パジャマ姿なのだ。

そりゃ鳥肌も・・・・・はっ!!




「・・・・・・伊達さん、下に何か落ちてますよ。」


私は下を指差した。


「え?ゴミ落としちゃった?」


よし、かがんで・・・もう少し前に・・・!

もっと前かがみをしてください、お願いします。


そうすれば・・・中身が見え・・・


「・・・みーちゃん、胸みてる?」


伊達さんは、急に顔をあげると私をジトッとした目で見た。


「え?あ・・・いいえ!?別に!?あ、確かに見えそうですね!危ないなー!」


「そんなに見たいなら見せてあげるよ、そのくらい。」


しょうがないなーと言った顔で、伊達さんは言った。


「マジ!?・・・い、いや、そういうつもりじゃないです!」


「本当にぃ?私、結構・・・」


そう言うと、伊達さんはそっと私の耳元に顔を寄せた。


「・・・?」


「結構、ピンク色だよ。」


小声だが、その内容たるや・・・!


「・・・・・・!!」


私は思わず伊達さんを見た。


「なんちゃって☆」


無邪気な笑顔、その下はピンクが・・・!


朝から・・・朝から・・・ピンクとか・・・!


そのピンクを・・・見て・・・口に含んで、転がして・・・!


『・・・みーちゃんの”ボトル”・・・入れてくれる?』


ベッドの上で、パジャマのボタンを全て外した伊達さんが、顔を赤らめてそう言う。

だから、私は彼女の求めるがままに・・・。


『ニューボトル・・・入ります。』

『あっ・・・入ってくるっ・・・みーちゃんのニューボトルが・・・ッ!私、お股からピンドン出ちゃう・・・ッ!』



・・・朝から・・・シャンパンシャワー・・・!!



 ※注 キャラクターの性質が催眠術の影響により、かなり変わってはいますが、これは一応”水島さん”です。



口の中にみるみる唾液が溜まり、ごきゅり、と喉を鳴らした。


「・・・みーちゃん。」

「ハッ!」


ハッとした瞬間、伊達さんは怒ったような顔で大声で言った。


「・・・この、どスケベみーちゃん!」

ゴミ袋をぼすっと預けられ、伊達さんはさっさと自分の部屋に入ってしまった。


「えーと・・・。」



自分から、ピンクだって言ったくせに・・・この仕打ちって・・・。



ゴミ袋を持ったまま、私は玄関の前で突っ立っていた。

ピンク色の夢から、透明のゴミ袋色の現実に変わってしまった気分だ。

私の耳に、ゴミ収集車がゴミ袋を放り投げる音が聞こえてきた。


「・・・あ、ヤバイ!ゴミ収集車だ!ていうか、電車乗り遅れたら遅刻する!!」


私は、慌てて走り出した。



なんとか、いつも乗る電車の時刻には間に合った。

本当なら、もう一駅先の駅から、一本早い時刻の電車に乗れる筈だったのだが。

もう贅沢は言っていられない!・・・って、なんで私、わざわざそんな事をしてたんだっけ?


私は、電車に乗り込・・・


(・・・あれ?足が、動かない?)


・・・コレに乗らないといけないのに、身体が・・・!

今朝から、なんとなく頭痛もするし・・・!それにしたって足が動かないって、どういうことだ!


「あ、大丈夫ですか?乗ります?」

近くにいた駅員さんが私を見つけ、駆け寄って来てそう聞いた。

「は、はい!」


私は首を縦に振って、答えた。

駅員さんは気を遣って、私の背中を支えるようにドアまで押し込んでくれた。


横目で『女性専用車両』という文字が見た。


ドアが閉まると、やはりそこには女性しかいなかった。


女性で埋め尽くされた密室。

硬い骨やバッグの感触にまぎれて、柔らかい感触が時々あたる・・・。




(・・・何、この車両・・・天国・・・?)


女性が好きな私には、天国であると同時にとんでもない生き地獄でもある。

触りたい衝動に駆られても、触ったら犯罪だからだ。


昔からこういうじゃないか。


『痴漢はアカン!』と。

・・・私の場合は『痴女はアカン!』なのだろうが。


・・・ああ、でもいい・・・。

女性で満たされた部屋・・・なんか頭痛がするけれど、それは香水のせいだろう。

最近は柔軟剤のニオイも増えたなぁ・・・。



「あら、水島さん。」

「え?あ、花崎課長、おはようございます。」


なんという奇遇。

花崎課長が私の斜め後ろにいたのだ。

私は少し振り向いて、挨拶をした。

いつも通りのスーツをビシッと着た花崎課長は、私を見て嬉しそうに話しかけてきてくれた。


「おはよう、水島さん。」


普段は”鬼の花崎”と呼ばれる程の怖さと仕事人間な彼女だけれど・・・こうして笑うとすごく可愛い人だ。

仕事の時と比べての、このギャップがたまらない。


何か話そうかと思った矢先、不意に、がたんっと電車が大きく揺れた。


「あっ!」

斜め後ろにいた花崎課長の方へ身体を向かせようとしたせいで、揺れた勢いで思いきり花崎課長に突っ込んでいく私。


花崎課長にほぼぴったり張り付いて、肩の上に顎を乗せるような形で私はとまった。


「水島さん、大丈夫?」

「あ、大丈夫です。すみません。」


離れようとは思うのだが・・・こうもぎゅうぎゅうとなると、出来ないじゃないか!(嬉)


花崎課長にぴったりくっついたまま。


・・・こんな美人に堂々と合法的にくっつけるとは、女に生まれてきて良かったのと、今日はやはり、ツイてるッ!



 ※注 キャラクターの性質が催眠術の影響により、かなり変わってはいますが、これは一応”水島さん”です。



ちらりと横を見ると、花崎課長も私を見ていた。

やがて視線がバッチリ合うと、彼女は慌てて逸らした。

顔が少し赤くなって俯く花崎課長。


な、なんという・・・ウブな反応を・・・!


・・・くっついただけでこうなるとは・・・触ったら、どうなるんだ?

そんな事を考えていると、また電車が揺れた。


咄嗟に私は手を前に出し・・・そして・・・神のいたずらに導かれるまま、花崎課長の胸を鷲掴んでしまった。

片方だけなら、まだ弁解の余地もあっただろうが・・・両手で思い切り、だ。


恐る恐る花崎課長を見ると、顔が更に真っ赤になった花崎課長が複雑そうな顔で私を見ていた。


「すみません。」

咄嗟に謝ったものの、手は離せなかった。動けないのだ。

それに動きたくもない。

服の上からでも伝わる弾力と柔らかさが、掌に幸せとして伝わる。頭痛も何故かひどくなるが、構う事は無い。



「き、気にしないで。仕方ないわよ。」


そうは言うが、花崎課長はものすごく無理をして笑っているようにも見えた。

五指を動かしたい衝動に駆られるが、それはやったら・・・『痴女はアカン!』だ。


しかし・・・


「っ・・・!」


電車が揺れるたびに、その振動が私の掌から伝わっているはず。

それから、徐々に私の指が花崎課長の胸に沈み始めてもいる。



もう、これは完全に、”掴んでいる”というより”揉んでいる”と言った方がいい。


「あの・・・課長、私は・・・」


不可抗力です、と言いたい。


「わかってるわ。言わないで。」


花崎課長が短く早口でそう言って黙った。

いや、むしろ会話をしてくれないと、ますます意識が胸の方に・・・!


お願い、会話を・・・!じゃないと、私は女性の乳房の成り立ちとか存在意義とか、色々考えてしまうから!

あーッ!柔らかい!あたたかい!出来る事なら、もっと揉みしだきたいのに!それはやったらダメ・・・



”ズッキン!ズッキン!!”


・・・なんなんだ・・・今朝から頭は痛いとは思っていたんだけど・・・頭痛は激しくなるばかりだ。


・・・もしかして・・・火鳥のせい?もしかして、また何かやったんじゃないのか?


・・・ん?いや、またってなんだ?火鳥さんは、私の大事な性的対象だ。私の敵ではないし・・・。


 ※注 キャラクターの性質が催眠術の影響により、かなり変わってはいますが、これは一応”水島さん”です。




この頭の痛みは・・・何かを教えてくれる痛み?・・・何か・・・思い出しそう・・・!


不意に薬指の先が動いた。

そして、指先に胸の柔らかさとは違う感触が軽く当たる。



「んっ・・・!」

「・・・!!」



私の耳に、確かに花崎課長の吐息混じりの小さくて高い声が聞こえた。


こ・・・これは・・・この反応は・・・ッ!?


エロゲーやらAVでよくある・・・”アレ”!?

触られてるけど奴さんはそんなに嫌がってなくて、初めての恥ずかしさと快楽で戸惑ってナントカ〜ってヤツじゃ・・・!?


となると、このまま手は外さずにいた方が得策・・・!


というか、これがキッカケとなって花崎課長の普段は見られない・・・花崎課長の花の部分が見えたり見えなかったり・・・!?


 ※注 只今、主人公が最低な発言を致しました事を深くお詫びいたします。



あーもう、自分でも何言ってんのかわかんない!!



私がチラリと花崎課長を見ようとすると、耳まで真っ赤になった花崎課長は、すかさず私をギッと睨んだ。


そして一言。


「こっち見ないで。」と低い声で言った。



花崎課長の顔は真っ赤でも目の奥からは、明らかな怒りが見えた。

興奮とか恥ずかしさよりも、怒りで真っ赤になっているようにも見える。


私を見る、その目は”調子にのってんじゃないわよ、この変態!!”というメッセージしか受け取れない!


ち、違う!これは不可抗力だ!柔らかいし、嬉しいのに!いや、そうじゃなくて!


花崎課長に睨まれるし、頭も痛いし、もう何がなんだか・・・!



『まもなく〜△×駅〜。』


そうこうしている内に、降りる駅に到着してしまった。

私は人の流れに身を任せ、入り口まで歩く。


花崎課長は、というと・・・

足早に去っていってしまったらしく、もはや私の視界にはいなかった。


私はICカードをバッグから取り出しながら、手に残る感触を思い出していた。




(花崎課長、結構大きかったなァ。細身だからもっと少なめかなァ、と思ったんだけど、着やせするのかなァ・・・。)





やはり・・・自分の胸ではない、他人の女性の胸は・・・








・・・たまらん。(悦)






そんでもって、薬指でつついてしまったあの固いのは・・・やっぱり・・・


「う・・・うふふふふ・・・(悦)」


駅を出て、ビジネス街を歩きながら私はずっと手の感触を思い出しては、笑っていた。

私が3次元の男性なら、完全なアウトだっただろう。(二次元の男性がセクハラ的なことをしても、何故か多少の暴力描写で許されるのだから不思議なものである。)

女で良かった。


ビジネス街だけあって、やはり今の時間帯はスーツ姿の女性が多いなあ・・・。

スーツ美人は花崎課長で埋まってしまったし、後は・・・女子大生、女子高生あたりが歩いているとありがたい・・・



「・・・ちょっと・・キモいんですけど。」


「・・・ハッ!?」


いつの間にか、真横には海お嬢様がいた。

腰を少し前に倒し、じとっとした上目遣いで、私を見上げるように見ていた。


「ニヤニヤして、また別の女にちょっかいでもかけられたわけ?」

「い、いや・・・滅相も無い!そういうんじゃありませんよ!」


・・・若い女の子が自分を見上げて、嫉妬全開とか・・・反則でしょうがッ!!

しかも、コートの下は・・・すっごく薄着だ!またワンピース着てる・・・!

服装は白を貴重とした清楚で可愛いのに。

足は、わざとセクシーなアーガイルダイヤの黒のストッキングで小悪魔チックを演出・・・ッ!

そして・・・胸元のペンダントよりもその下のふくらみに塗られてるパウダーのキラキラに目がいってしまう!!


なんという計算されつくした・・・デートコーデだ・・・!

アイ○ツのカードでも通用するんじゃなかろうか・・・!



「ねえ水島。今日は会社、休んじゃいなさいよ。あたし、大学がさ、休講なのよ。」

「え・・・!」


それは・・・デートのお誘いってヤツでしょうか・・・!?


「おじいちゃん(会長)には言ってあげるから。あたしに付き合いなさいよ、水島。これも業務よ。」

そう言って、気軽に私の腕を両腕でがっしりと掴んだ。

二の腕に当たるは・・・ふくらみ・・・!

ああ、なんだろうか・・・手で触るのとはまた違う感触・・・。

豊満と表現するには、まだ若干の物足りなさを感じるけれど、張りは十分だし、これからまだ成長していくんだろうな、という伸びしろがある、このサイズ・・・!



このまま、女同士の間違いが起きたら・・・最高ではないか。(悦)



『水島、今日の業務はあたしのエスコート役よ。何か文句あるの?ないわよね?』

『・・・あります。』


ツンデレお嬢様に向けて、私は想定外であろう否定の言葉を、毅然とした態度で言い放つ。



『な、なんですって?水島、あたしの事・・・き・・・嫌い、なの?』


動揺するお嬢様に、更に追い討ちをかける。


『私の業務は基本的に、9時から5時までです。・・・その後の残業扱いになります。で、その分の残業手当は、どうなっているんでしょうか?』


『な、なによ・・・残業って、あたしとの時間が苦痛とでも言いたいわけ?じゃあ・・・じゃ、もういいわよ!』


寂しい感情をぐっとこらえ、その場を去ろうとするお嬢様の手をすかさず掴む。


『いえ、そうではなく。・・・残業する分には構いませんが、やはりいただくものはいただかないと。』


『なんですって?・・・わかったわ!そんなに欲しいなら、残業手当てなりなんなり、たっぷりつけてあげるわ。光栄に思いなさいよ。だから一緒に・・・いてよ・・・。』


もじもじと本音を零し始めるお嬢様に、私はカッコよく微笑み、言い放つのだ!


『わかりました。しっかり手当ても貴女もいただきます。・・・じゃあ、早速・・・朝までキーボード入力ですね・・・マウスは、これですかね?』


『あァんっ!・・・み、水島・・・あたしのエンターキー・・・押し忘れないでね・・・!』


『・・・勿論。*キーもね。』

『ああん!この性的上級者ッ!』



楽しい残業・・・そんな業務・・・大歓迎!!(悦)



 ※注 キャラクターの性質が催眠術の影響により、かなり変わってはいますが、これは一応”水島さん”です。あと、さっきからエロ例え全然上手くねーよ!主人公!!



「・・・キモい。」


ふと隣を見ると、海お嬢様は私から少し距離を取って、”ドン引きしていますよ”、という顔をして私を見ていた。


「え?」



「キモい。」

再度、酷い一言。

こんな目で見られたのは、小学生の時、明らかに犬のものではないウ○コを踏んだのを同級生に見られた時以来だ。


「な、なんなの?今日の水島、変よ?・・・なんていうか、すごく気持ち悪い。本当に気持ち悪い!」


そ、そんなに連呼されると傷つく!!


「え、ええ・・・?そ、そんな事言われても・・・ぜ、全然普通ですッ!さあ、残業大好き!・・・じゃなくて、行きましょう!」


会社をサボって、ツンデレ系お嬢様女子大生とデートをパアにする気はない。

元気よく答えたのだが、それがますます海お嬢様の表情を曇らせた。


「え?あ、そうか・・・水島、さては身体の具合が悪いのね?・・・そうよね、普段からあんな大人数の女に付きまとわれて、アンタだって精神を病む時もあるわよね・・・ごめん。」


「ええッ!?どうしてそんな事・・・!?」


違う!そんな覚えなんかないし、どうでもいい!

目の前の美女とのデートが逃げることが大問題なのだ!!

だが、目の前の美女は、私をもう熱っぽい目で見てはいなかった。

触ってもいけない、見てもいけない・・・そんな目をしながら、海お嬢様はジリジリと後退し始めた。



「い、いつもの水島なら絶対一回はあたしの誘いを断るし、そんなド変態で、ただれたキモイ笑顔であたしを見ないわッ!お大事にッ!!」


「え?あッちょっと・・・!!」


海お嬢様は、逃げるように去っていってしまった。


(・・・さ、触ってもいないのに・・・。)



しかし・・・ただれたキモイ笑顔って・・・私、どんな顔をしていたんだろうか・・・。


再び会社に向けて歩き出す。

浮かびかけたデートは無くなり、私は5時まで仕事をすることになった。


ああ、こうなったら・・・事務課の門倉さんで癒されるか・・・。

彼女、結構・・・隠れ巨乳だしね・・・ふへへっ。



今日のお昼休みは一緒にパスタを食べに行く約束もしたのだ!

門倉さんの方から私を誘ってくれるなんて、ラッキーだなぁ♪



とはいえ、仕事は真面目に定時までに片付けるのが私のやり方だ。

生憎、席の関係で、私がデスクに向かっている時、私も門倉さんもお互い背中を向けて座っている状態となる。

つまんない席だな、と思いつつも私は軽快に仕事をこなす。

・・・なんだろう、いつの間にか手際がよくなっている自分が怖い・・・ンフフ。

まるで、何日も残業して慣れてしまったかのようだ。


「水島さァ〜ァん?今日はオトモダチと遊んでこなくて大丈夫ー?」


先輩OLからの嫌味だ。そして、私の名前をちゃんと呼んでくれない。ターザンみたいにのびのびと呼んだ挙句、皮肉たっぷりの”大丈夫ー”ときたもんだ。


だが、それもコレも相手が女性ならば、私は・・・全て、許そう!

・・・ちょっと、触らせてさえくれたらなッ!



「大丈夫です。ここで十分です。何か?」

「・・・あ、そ。なんでもないわ。(チッ…仕事押し付けられないわ…なんか水島活き活きしてるし、気持ち悪っ。)」


・・・ああ・・・女の人に話しかけられた・・・!

女子率80%の職場、事務課 最高・・・ッ!


「ちょいと〜水島くぅ〜ん?」


この呼び方は・・・近藤係長だ・・・男の。


「・・・・・・・はい?(冷)」

私は、重い腰を上げてしぶしぶ近藤係長の席までやってきて、座っている係長を見下ろした。


「・・・そ、そんな低いぶっきらぼうな返事しなくてもいいじゃないの、水島くぅ」


あぁ、まただ。口が臭い。加齢臭もあるけれど、口が臭い。

ドライマウスか何か?

試しにミントタブレット置いてみるか・・・いや、もう口の中にファ○リーズ突っ込むしかないんじゃないか?

いや・・・これは、口というよりも胃腸が悪いんじゃないだろうか。

なんで自分の健康管理をしないんだ・・・口臭のケアをしないんだ。

これでは、歩く公害だ・・・!

 ※注 只今主人公が、非人道的な発言を致しました事を深くお詫びします。


「なんですか?近藤係長。私の作業時間を止めてまで呼んだ、ご用件とは?(早口)」

「う・・・そ、そんな言い方しなくても・・・あ、あの・・・コレ、副社長室に持っていって・・・下さい。」


臭い。本当に臭い。そこら辺の空気が黄色く着色されて見える・・・。

少し顔を横に逸らしただけじゃ、この喋る便器のニオイからは解放されない。

今朝の女性で満たされた満員電車のニオイを忘れてしまう・・・。

女性の匂いと、ここまで違うとは・・・!


もはや、この臭さは、神の領域・・・!神だ・・・クサ神様だ・・・!!


 ※注 只今主人公が、非人道的な発言を致しました事を深く深〜〜〜くお詫びします。


「わっかりましたぁ・・・・・・・。」

「・・・はい・・・・・・・ん?何?これだよ、受け取ってよ。」


係長が手渡そうとしている書類を受け取る為には、係長いや、クサ神様に近付かなきゃいけない・・・。


「一回、机に置いていただけませんか?」

「はい。」


2歩前に出て、机の上に置かれた書類をサッと奪い取ると、素早く2歩下がる。


「・・・ありがとうございます。」


「ねえ、水島君!?何かしたかい?僕は君に何かしたのかい!?」

「・・・・・・チッ・・・。」


ああ、呼吸しにくい!


「ねえ、今舌打ちした?ねえ!?」


近藤係長の声を背中に受けながら、私は事務課を出た。



(ええっと、副社長室に届けろって言ってたっけ・・・ん?)


副社長室。

その行き先のフレーズになんだか心の中の何かが騒ぎ出す。あと、また頭痛がする。

でも、副社長室といえば・・・!


「・・・あら?水島さん。」


落ち着いた声が聞こえ、私は視線をゆっくり下から上にあげた。


「阪野、さん・・・!」


考え事をしている間に、副社長室前に着いていたようだ。

阪野詩織は副社長室前にデスクを置き、仕事をしている秘書だ。


彼女は椅子に座って、私の目の前で堂々とストッキングを履いていた。


すらりと伸びた長い足、彼女の曲線美と豊満でセクシーな身体を十分に生かすスーツ!

ああ、城沢のエロい秘書、といえばこの人しかいない!


「どうしたの?私に会いに来てくれたのかしら?」


意味ありげな微笑で私を見ながら、彼女は太ももまでストッキングを上げた。


「はい・・・い、いや!そうではなく!仕事です!」


見えそうで見えない、それがなんとも言えず・・・たまらん・・・!(悦)

あと、頭痛が邪魔!痛い!パンツ見えそう・・・痛い!パンツ見たい・・・痛いッ!!



「水島さん?どうかした?」


「いえっ!これ、どうぞ!」


私はあわてて、書類を差し出した。


「あら、そう。・・・良く出来ました♪」


そう言って、阪野さんはニコニコ笑いながら私の頭を撫でた。

忘れている読者の方もいるとは思うが、阪野さんは私よりも2つ年上である。

社会人になると、単なる年上の女性との関わりが多くなってくる。

だから、彼女みたいな絵に描いたようなエロいお姉さんと関われるのは、本当に稀な出来事なのだ。


阪野さんはエロいが、この極上の微笑みと優しさがある!

頭の撫で方も完璧だ。まるで私を犬扱い。いえ・・・大歓迎です・・・!

阪野さんなら、トップブリーダーになって新しいぺディグリー○ャムを売り出してくれるのではないだろうか!・・・何を言ってるんだ、私は!



 ※注 キャラクターの性質が催眠術の影響により、かなり変わってはいますが、これは一応”水島さん”です。



「今日は、なんだか子犬みたいね?」

そう言って、私の顎の下に指を滑らせる阪野さん。


「ぁ・・・え?なんです?」

「目の輝きがね、なんだか・・・盛りのついた犬みたいな感じ。」


妖しく微笑みながら、阪野さんは私の顎の下を撫でる。


「・・・・・・・・は・・・!」


私への表現方法が少しどうかとは思うが、このままお腹を見せて服従のポーズをとってしまいたい衝動は隠せない。

違う!私は、阪野さんに飼われる犬よりも、もっと・・・余裕たっぷりのこの美女を振り回してみたいんだ・・・!


「元気なのは、良い事だと思うわ。」


ニッコリ笑ってくれる阪野さんからは、クサ神様の臭いなどとはかけ離れた、清らかな花園に佇む女神の匂いがする。


(ああ、これだわ・・・美女の匂いっていうのは・・・!)


「・・・今日はどうかしたの?」

ふと阪野さんが私の顎の下から指を離し、そう尋ねた。


「何がですか?」

「普段と違って、随分と私に対して警戒心が無いから。」


そう言って、阪野さんは右足のストッキングに爪をたてた。

みるみるストッキングは伝線する。

何をしているんだ、この人!?


「え、え・・・!?」

動揺する私に向かって、阪野さんは耳元で囁いた。

「・・・・脱がせて。」


うっはー!!白昼堂々エロイベントとか最高っ!・・・っと、いかんいかん!チャンスを逃がしてたまるか!

さっきの海お嬢様で私はしっかり学習しているんだぞ!

誘われても、一回は嫌がっておくのが駆け引きというものだ。


「や、やめて下さい・・・(悦)」

「・・・ふふっ、そんな風には見えないけれど?」


阪野さんはそう言って、私の手を取ると、自分の太ももにぴたりとつけた。


ええ、そうですとも!嫌がってなどいませんともさっ!!

ストッキングの下は、素肌・・・その素肌を遡れば・・・母なる・・・入り口がっ・・・!



「ねえ、子犬は卒業しちゃって、狼になってみない?」


美女は・・・どんな台詞を言わせてもなんとか似合ってしまうものなのか・・・!

ぅわおーん!!と吠えたい気持ちをぐっと抑え、私は阪野さんを見た。


目の前の美女は、意味ありげに微笑む。


(これは・・・もう、良いんじゃないのかな・・・。)


そう思ったと同時に、伝染したストッキングを掴んで、引き降ろしていた。


「え・・・!?」


阪野さんが驚いたような声を上げた。どうやら私の行動が予想外だったようだ。

デスクの上に座った阪野さんの片足を持った私が、彼女の膝に唇をつけると、阪野さんの顔は少し赤くなった。



「・・・・・・もっと、上まで・・・来てくれる?」


阪野さんの言葉に私はこくりと黙って頷き、そのまま膝上に唇をつけて・・・そして・・・



「ゴホッ!!エフンっエフン!阪野先輩っエフン昼間エフンっ!」


「ゴホッ!!エフンっエフン!水島先輩っエフン会社エフンっ!」



振り向くと、阪野さんの後輩小林さんと、私の後輩門倉さんがいやに激しく咳き込みながら、単語で警告を発していた。

門倉さんに至っては、私を睨んでいる。

よりにもよって、他人に見られるとはなんたる不覚・・・っ!


「か、門倉さん!?ち、ちちちち、違うっ!これは、あのっ!伝線してっ!」


私は首を細かく横に振り、門倉さんに言い訳をしようとするが・・・


「他人の伝線したストッキングを交換するのに、膝にキスは必要な工程なんでしょうか?(冷)」

「ひ、ひやあああああああ!?」


門倉さんは静かに低い声で質問をし、私はただただ恐怖で悲鳴を上げるしかなかった。


「なかなか戻ってこないから心配してたのに・・・今朝、私とお昼一緒に行こうって言ってたから、迎えに来たのに・・・水島先輩の馬鹿っ!」


門倉さんはご丁寧な説明を残し、走り去っていった。


「あっ!門倉さんっ!?・・・・あ。」


門倉さんが去った後、残ったのは・・・。


「続きは、また今度ね?水島さん。・・・今度は、余計なギャラリーを引き連れて来ないようにね・・・じゃあね!」


振り返ると、阪野さんが怒りを抑えたような声色で言って、私の背中を押した。

笑顔だけど・・・目は、完全に怒っている。


「こんなろくでもない女たらしなんか放っておいて、仕事行きましょう!阪野先輩!」

小林さんに守られるように、阪野さんは会議室に入ってしまった。




・・・・・ああ・・・また、逃した・・・!



傷心だ・・・。


唯一の良かった事は、美女がいなくなると頭痛がなくなる事だ・・・。


何故だ・・・!


みんな、同性の私に意味ありげに迫ってくるのに、何故肝心な所で逃げてしまうのだ・・・!

何故、肝心なところでトラブルになるのだ・・・!!


・・・女・・・女が欲しい・・・!


私の制服のポケットに入っている携帯電話が鳴った。


「・・・はーい?」


電話に出たものの、もう今日の私にはやる気が・・・


『アタシ。』


女性からの電話だーっ!!


「ああ!火鳥さん!・・・どうしたんですか?」


電話の向こうの火鳥は、至って普通通り。少し不機嫌そうな声だった。


『・・・どう?今日は、過ごしやすい?』


「いいえ、最悪です。」

『・・・へえ・・・どう?ランチがまだなら、食べない?』

「い、良いんですか!?(悦)」


『・・・何期待してんのよ。食事だけよ。』

「え?ええ!何言ってるんですか!当たり前じゃないですか!やだなぁ!あははははッ!」


火鳥なら・・・割り切って、何かしてくれるかもしれない・・・!


昼休み、私は火鳥に呼び出されたイタリアンに行った。

ウェイターさんに、窓側の席に案内され・・・そこには、火鳥ともう一人いた。



「・・・し・・・!」

「こんにちは、水島さん。」

「忍さん!」


スマートフォンをいじっている火鳥の隣には、30手前なのに、少女のような笑顔の女医の烏丸忍がいた。

私が席につくなり、忍さんの表情がわずかに戸惑ったものに変わった。


「・・・えーと・・・水島さん、よね?」

「はい。あの、忍さんはお仕事お休みなんですか?」

私服の忍さんだー♪

白衣も良いけれど、私服の忍さんもいいなぁ・・・。

コートの下は結構、シンプルなシャツで薄着なのが良い。


「・・・う、ううん、職場が変わってね、今日は夜勤なのよ。」

「夜勤ですかぁ大変ですね?でも、全然疲れを感じられないお肌だし、いつも通りお綺麗ですよ!」


肌が白い。細い。どこか暗い影がある、知的な美女・・・!最高じゃないか!


それに、忍さんみたいなタイプは少し疲れているくらいが隙が・・・いや、魅力がある。

横髪を耳にかける仕草がなんとも言えず、たまらない・・・!


「・・・え、ええ・・・。」

「ちなみに、忍さんは休日、何してらっしゃるんですか?女医さん友達とかいるんですか?それとも看護師さん?」



”女医”の休日に興味があった私は、早速質問をしてみた。


が、忍さんは私の質問には答える事無く、隣の火鳥を睨みつけた。


「・・・・・・・・・・りり。」

「・・・・・・・・・なによ?」


ぶっきらぼうな返事の火鳥に向かって、忍さんは視線を私に戻しながら言った。


「・・・今すぐ、元に戻しなさい。今すぐ。」


元に戻す?何を?


「・・・アタシに命令しないで。1週間経てば元に戻すわよ。」


1週間?だから、何の話だ?

火鳥の言葉に、忍さんは頭を抱えた。


「1週間もこのままだなんて・・・誰も得しないでしょ?第一、元に戻った時の彼女がどうなるか・・・。」

「別に得しようと思ってやった訳じゃないわ。また記憶消せば良いだけの話よ。」


「翔子から”彼女がおかしくなった”とか”キモイ”とか聞いて半信半疑だったけれど、これは重症だわ。」

「あら、忍ねーさん。さては心療内科まで範囲広げたの?」


「りり!貴女がそんなんだから、呪いが解けないんじゃないの?こういう時、心を入れ替えて真っ当に生きるのが・・・」

「あーもう、うるさいわね!説教しにきたの?水島に会いに来たの?どっち!?」


「今となっては、両方よ!とにかく彼女を元に戻して!今すぐ!!」


後者だけなら嬉しい・・・・・・ん?

元に戻されるのは・・・私?


どういう事?



「はいはい。こちらの思うような結果が出ていない以上、水島の術は解いてもらうしかないわね。今、Taicoに連絡(メール)したわ。」

「もうッ!」



「あ、あのぉ・・・?」



二人だけで会話が成立して、肝心の私にはちっともわからない。

一体、どういう事なのか。


「・・・水島、アンタ今の自分に違和感は無い?」

火鳥が、ふとそんな事を聞いてきた。


「違和感?」

「他人・・・いや、たくさんの女に迫られて、どう思った?」

火鳥の不思議な質問に、私は正直に答えた。

「そ、そんな事ありませんよ!やだなぁ!はははは!・・・私、結構好きになった女性がタイプなんですよ。」


どうだ?これで、少しは好感度が上がって・・・。



「・・・忍ねーさんの言うとおり、思ったより重症ね。」

「・・・でしょう?元に戻しましょう。」


二人共、私を哀れむような顔で見ている。

何か解らないが、どうやら今の私は、いつもの私よりおかしい・・・らしい。

違和感なんて何も無いのに。

もしかして・・・私は、一時的に女性にモテないような何か細工をされているのか!?

だとすると・・・今朝からの一連の出来事も全て説明がつく!!


「あの、何か解りませんけれど、元に戻して下さい!そうすれば、あの・・・私・・・」


「「ん?」」


「あの、私・・・女性とお付き合いできるようになるんですよね?(ニッコリ)」



「「は?」」




「女性とお付き合いを始めたら、いつか、私・・・股間に棒を生やして、海外で結婚して、養子を5、6人貰うんです。んで、全員女の子

で、そのうちその養女達が17歳になったら、みんなの”初めて”を根こそぎもらってって・・・養女に女の子を産ませて・・・それでー♪」



私の夢は、大きい。

目指すは、女だけのハーレムだ。



しかし、目の前の二人は青ざめた表情で私を見るばかり。







「ああ・・・りり・・・早く・・・早くッ!ねえ、早くなんとかしないとッ!」

「あ、ああ・・・さっきからずっと電話かけてるけれど、出ないわ!あのオカマ!・・・あ、もしもし?Taico!?今どこ?術を解いてくれない?」


あれ?何か問題でもあったのだろうか?

二人共、すっかり動揺している。


火鳥の電話からは、おっさんの声が聞こえた。


『何よぉ〜あたしちゃん、二日酔いなのよぉ〜!』

「いいから早く来てよ!・・・ちょっと!?」


電話の向こう側の乗り気ではないオカマに業を煮やしたらしい忍さんは、火鳥から携帯電話を取り上げた。


「ちょっと貸して!あなた!セラピストなんでしょう!?自分が受け持った患者に最後まで責任を持ちなさいよ!!」

『ああん!・・・んもう!うるさいわね!頭に響くじゃないのよッ!』


「そもそも、記憶まで操作するなんて、元に戻らなかったらどうする気なの!?セラピストがそこまで入り込んで良い訳ないでしょ!」

『う、うるさいわね!このブスッ!・・・あたし、あんたみたいに正論ばっかりで、他人を自分の枠にハメようとする自称:正義の女が大ッ嫌いなのよッ!!』


「な、なんですって!?この・・・・・・・・ばーか!!」


・・・忍さん、口喧嘩弱ッ・・・!


『もー!そんなに今すぐ戻したいなら、そこの根暗ブスにショックを与えてみなさいよ!そのブスが元に戻りたいって本当に思っていたら、元に戻るわよッ!』



オカマはそう言うと、電話を切った。

そのデカイ声は、電話から離れている私の耳にも届いていた。


「切れたわ・・・。」

忍さんがいつになく不機嫌な顔をして、火鳥に電話を返した。


「・・・仕方ないわね。1週間待ち・・・」

「そんなのダメよ!私・・・今の彼女に、何の魅力も感じないわ!」


(・・・ガーン!!!)


「じゃあ、忍ねーさん・・・ショック与えられる?この女が、元の水島に戻れそうなショックを。」


いや、今の忍さんの言葉は結構ショックだったんだけど・・・!?


「・・・・・・・・や、やってみる・・・。」


忍さんはすっと立ち上がると、両手で頬をぶにゅっと押し潰し、俗に言う”変な顔”をした。




「あ、アッチョンブリケ・・・(恥)」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





なんだろう。ここまで綺麗にスベッてしまうと・・・一周回って、可愛いとすら感じてしまう。


私はコクコクと頷いて、忍さんに微笑みかけた。



「・・・忍ねーさん、水島に哀れまれているわよ。変顔の次はどういうショック?モノマネ?あ、得意の仲間由○恵のモノマネでもしたら?」

「ソレは、医大の時スベッて以来やらないって決めたの・・・!」


「じゃあ、アレは?フリーザが近付いてきて焦るべジータの・・・」

「それは兄さんのネタ!そうじゃなくって!!・・・他に、なにか・・・!!」


・・・ココで言うのもなんだけど、ご兄妹揃ってロクなモノマネないですね・・・。

忍さんがいつになく追い詰められている。

ああ、でも・・・なんか、これはこれで・・・困っている美人が拝めるのは、楽しいかもしれない・・・。



しばらく悩んでいた忍さんが不意に顔を上げた。


「・・・りり・・・確認するけれど、後から記憶は操作できるのよね?」

「・・・ええ。今、あのオカマに”今すぐ来ないと通っている肛門科の医者をクビにする”ってメールしたわ。」


火鳥よ、脅し方がえげつなさすぎる。


「・・・結構。」


忍さんはゆっくり立ち上がると、私が座っている椅子に近付いてきた。

なんと!座ったままの私の膝に片足を乗せ、私の首に両腕を回し、顔を近づけてきた・・・!!


美女の顔が・・・こんなにも近い!


「ん・・・!」


近いというか・・・キス、されている・・・!

忍さんが、イタリアンの窓側の席に座っている私にキスをしてきたのだ!


大胆かつ嬉しすぎる唇の柔らかい感触・・・!


もう、これ・・・これで最終回でいいんじゃないだろうか!

終われる!終われるぞ!さようなら水島さんシリーズ!!


私は、この美女とくっついて・・・スピンオフで、なんかシリアスに後日談かなんかで、ちょいエロな展開を迎える事が・・・


”ちゅく・・・”


「んむッ!!」


舌・・・!?

まさか、忍さんが・・・公衆の面前でディープキスを!?


あ・・・ああ、これは間違いない!水島さんシリーズ、ここで終われるぞ!忍さんEDだ!

まず、第一夫人は忍さんかぁ・・・♪



”ちゅるちゅるちゅる・・・”


「・・・ん・・・んッ!?」


私は、気が付いた。


このキスは何かがおかしい、と。


忍さんは・・・私の酸素をどんどん・・・吸い取っていった。

酸素だけではない。

鼻にかぶりついたりもした。


顔を逸らそうとしても、忍さんは決して離してくれなかった。



キス、であってキスではない・・・


・・・これ・・・は・・・!!



この無理矢理なキスもどき・・・私は見覚えがあった。





これは・・・”嫌がる犬に無理矢理キスをするムツゴロウさん”・・・だ・・・。





あ、ああ・・・ダメだ!いくら美人でも、唾液が乾いた後のニオイって、マジで不愉快・・・!!




ああ、また鼻を噛まれた!・・・凄く・・・ふ、不愉快・・・!!や、やめてぇ・・・!!




「よーしよしよしよしよし・・・」


し、シノゴロウさん!?


や、やだ・・・!!


なんか、嫌だッ!!








「こ、こんなの・・・嫌だああああああああああああ!!!!!」











 ― 2時間後 ―




私は、オカマのセラピストによって、完全に催眠術を解かれ、消された記憶も取り戻していた。


が、取り戻せたのは、あくまでも催眠術をかけられる前の記憶だ。



「・・・どんなショック与えたのよ・・・。あたしが消すまでもなく、今日一日の記憶無いわよ?この女。」



・・・頭がぼーっとする。



「忍ねーさん。アタシ、忍ねーさんの事、見直したわ。」


「・・・・・・やめて・・・やりたくなかったのよ、私だって・・・。(泣)」


「よし、水島、起きなさい。」



そうだ。


私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。



性別は女、年齢25歳。

ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない、本当に普通のOL。



私は・・・人嫌いだ。


何故なら・・・他人と関わると、鼻をかじられそうな気がするから・・・。





「ちょっとオカマッ!!催眠術やり直しッ!!」








 閑話休題 : もしも、水島さんが女の子が好き過ぎる人間だったら。・・・END



シノゴロウさんが頑張ったお話。よーしよしよしよし。

絶対にあり得ないお話でリクエストをいただいた結果のお話、でした。

水島さんが女好きになると、ただのド変態かつ最低なヤリマ・・・いえ、なんでもないです。

とにかく、もしも水島さんが女の子好きならば、一般的なハーレム話が展開されるのかどうなのかわかりませんけど・・・。

作者のやる気だけは、この一本だけで萎えていたでしょう・・・。

コレは、もう二度とやりたくないです。(笑)