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一言で言うと”変な人”。


いや、μ'sは変な人の集まりだから、的確じゃないわね。



正直、”苦手なタイプ”。


油断していると、距離をグッと詰めてきて、何もかも見えてますって余裕で…



なんていうか、ムカつく。




「つまり〜…真姫ちゃんは、希ちゃんの事が嫌いにゃ〜?」


星空凛が、部室の机に突っ伏したまま、いつもののんびりとした口調でそう言った。


「なっ!そこまで言ってないでしょ!?」


極論だ、と私こと、西木野真姫は抗議した。


「話だけ聞いてるとそー聞こえるんだも〜ん。ね?かよちん?」


凛がそう言うと同時に、二人でジッと小泉花陽を見る。

話を聞いていたはずなのに、急に話を振られた花陽は慌てふためきながらも、口を開いた。


「えっ!?あ、いやッ…わ、私は、そのっ!の、希ちゃんと真姫ちゃんは仲良しだって思うよ!?まるで…その、ごはんとお塩のような!?」





 『・・・・・・・。』






部室に一瞬の静寂。



「花陽、おにぎりで例えるとイミワカンナイんだけど。」


「かよちんは、本当にご飯が好きなんだね〜♪」

「うん、美味しいよ!おにぎり!」


そう言って、凛と花陽は手を取り合って、ご飯はいいよね、なんて暢気に笑ってる。

私は、それを距離を取って見ている。


(同じ一年生なのに、どうしてこう…。)


凛と花陽は誰もが知っている仲良し。

対して、私は…


(特別誰かとベタベタするのって苦手なのよね。)


「知ってる。…いや、そうじゃなくて!どうして、私が希を嫌いって事になるのよ!」


凛が変な事を言い出して、面倒なことになる前に誤解を解かなくちゃ。


「だって、苦手って言ったにゃ。」


凛は口を尖らせて、私を非難しようとする。


「だから、それは…嫌いって意味じゃなくてッ!」


「じゃあ、好きなん?」


「そうね・・・って・・・!」


突然のエセ関西弁。

くるっと振り返ると着替えを終えた希が立っていた。



「の、希ッ!?」

「「希ちゃん!?いたの!?」」


「おるで〜?何せ、ウチはμ’sを見守る役やから。」


全部、聞かれていた…!

動揺を隠そうと視線を逸らしながら私は口を開く。


「…ていうか、単に、私達より先に来て奥で着替えてただけでしょ?」

「そーとも言うやんな♪」


いつも通りの口調の希。

自分が苦手だとか嫌われているとかいう内容の話を聞かされて、上機嫌な人間なんていない。

ちゃんと笑ってくれているだろうか、と視線を希に戻すと、ニヤニヤと緩んだ口元が悪戯っぽく笑っていた。


(・・・あ、良かった。)


希を傷つけていない、と解って安心する。


(いや、どうだろう?希って…結構…)


希はすぐに自分を隠すし、無理もする。

希がそういう面倒な人だって、私は知ってる。


「先にいたなら声掛けて欲しかったにゃー!」

「び、びっくりしたー…。」


凛と花陽は、希にいとも簡単に近付く。

どうして、簡単にあんなに距離を詰められるのかしら?


「な〜んやウチの話が始まったから、ちょっと聞かせてもろたんや。総合すると〜・・・

ウチって、下級生の好感度あんま無いんかなぁ?」


そうやって、微塵もそんな事は思っていないように”装った”希が笑いながら言う。


「そんな事ないにゃ!凛、希ちゃん大好きにゃッ!」

「わ、私もッ!希ちゃんは優しいし大好きッ!」


はいはい、予定調和って奴?

ここで”嫌い”なんていう奴いるわけないんだから。

ていうか、いたら私が許さないけど。



「うん、ウチも好きよ。」



(あ・・・そんな簡単に、言っちゃうんだ。希も。)



好き。


好きって、もっと考えなくても言って良い言葉、なのね。

別に傷つける言葉じゃないんだし。


(でも…私は、簡単に出したくないな…。)


「あ…」


希と目が合う。

誤解を解く為だし、”私も好き”とか言わなきゃと思う。

…でも、この場合、簡単に好きなんていいたくないし。

”私だって嫌いじゃない”とか言うべき?そうなったら、凛に”ツンデレにゃ”とか言われちゃいそうじゃない?


「あの…」

とにかく言わなきゃと思っても、肝心の言葉が出てこない。

単純に”好き”って言うだけなのに。好きという言葉が出てこない。


希の事、嫌いじゃないのに。


「だから…。」


「ええんよ、真姫ちゃん。ウチ、わかってるから。」


そう言ってニッコリと希が微笑みかける。



「・・・!」



わかってる?

どうして、簡単にわかるだなんて言うのよ…。

せっかく、言葉にしようとしたのに…それ以上、言えなくなっちゃうじゃない…!


「真姫ちゃんのそういうトコ、ウチ好きなんよ。」

「〜〜〜〜!」



そういうトコってどういうトコ?こんな私の…どこが好きなの?

ていうか、もう…顔が熱くなってきて…!



「もうッ・・・希、い、イミワカンナイ!」


袖で顔を隠して、部室を出る。


「あ、真姫ちゃん!」


誰かが私を呼び止めようとする声が聞こえたけど、今私、凄く変な顔している。誰にも見せられない。


音楽室に駆け込み、ピアノの前に座る。

ここなら落ち着く。


落ち着いてから練習に行こう。



「もう、絶対絶対絶〜対!凛のせいだわ!変な事、言うから…!」




そう…さっき、部室に向かっていた最中。


『そういえば、最近希ちゃんって、真姫ちゃんの事をよく見てるけど、真姫ちゃん何かしたにゃ?』

『ヴぇ!?』


いきなり、そんな事を言われたら動揺するに決まってる。

色々考えたけれど、今思えば希って何も無くても他人の事をよく見ている、凄い物好きな人なんだもの。

別に、見られているのは・・・私だけじゃないわよ。きっと。



…それから、私が希をどう思っているのかを言うハメになって…。



『希が私をどう思っているか知らないけれど…わ、私は、ああいう人、正直苦手なのよね。』


それを、希本人に聞かれていて。


『ウチって、下級生の好感度あんま無いんかなぁ?』



・・・ああ言うって事は、気にしてるって事よね・・・。



(あーもう、気まずい…。)



でも。

その後、意外と平気そうな顔で…。


『ええんよ、真姫ちゃん。ウチ、わかってるから。』


私が本当は希の事を嫌っていないって、わかっているって事、よね…?

つまり、どっちなの?気にしてるの?してないの?

私は希に誤解されてないのよね?ああ、もうまた変な気分になってきちゃった!


ああ、それに…。

そうよ!それに、あの言葉は何!?



『真姫ちゃんのそういうトコ、ウチ好きなんよ。』


だから…どういう事!?



(好きって…どういう…。)


どうして、希の一言に、私がこんなに混乱するのよ。

別に…何も特別な事は…。


(私だって…好………)



なんだろ…やっぱりコレは違う気がする。

凛や花陽は希に好きって伝えてたけど、簡単に、あんな風に言葉に出しちゃいけない気がする。



希は、私の事を気にかけてくれる、珍しい人。

きっと私にお姉さんがいたら…あんな感じなのかも。

気付いたら、私の背中をふっと押してくれて・・・。



(うーん…。)






『真姫ちゃんのそういうトコ、ウチ好きなんよ。』






「・・・だから!どういうトコよ!!もう!だから!希って、苦手なのよッ!イミワカンナイッ!!」




「じゃあ、嫌いなん?」


「そんな訳な…ッ!?」


視線を上げると、今度はドアを開けて入り口にもたれるように立っている希がいた。


「今度はちゃんとノック、したんやけど。」

「・・・・・。」


何も言えず、私はジトッと希を見た。


「あ、ごめんなぁ…ウチ、何か真姫ちゃんの気に障る事してしもうたんかなって。」


もじもじしながら、希がこちらにやってくる。


「そんな事、何も言ってないじゃない。ていうか、それはわかんないワケ?希。

さっき、”ウチわかってるから”って言ってたのに。」


自分でも、自分の事よくわからなくなる位なのに。

希に、私の何が…


「あ、あのね、真姫ちゃ…」


「…ねえ…最近、私、貴女に何かした?希が私をよく見ているらしいから、凛が勘違いしてるの。」


動揺せずに。

感情的にならずに。


そうじゃないと…。


希に…何もかも知られちゃう…!

私ですらどうにもならない、このなんともいえないモヤモヤが!



「え?あー…なんや、最近真姫ちゃん、よう笑うようになったなぁって思って。」

「・・・何よ、それだけ?」


「うん。ホラ、前の真姫ちゃんは、結構みんなと距離おいてた所あったやん?今、そういうの無くなったなぁって。」

「・・・何よ、それ。」


「いや、だって嬉しいんよ?真姫ちゃんが馴染んでくれて。さっきも、凛ちゃん達と楽しそうに会話してたやん?」

「・・・。」


楽しそうって、貴女の事苦手かもなんて内容でも、そんなにニコニコできるの?



「あ、だからって…ジロジロ見られたら不愉快、やんな?ごめんな。」

ちょっと寂しそうに笑う希。

そんな顔されたら、見ないでなんて言えないじゃない。


「・・・いいわよ。見てれば?」


「え?」

「見ても良いって言ってるの。私、スクールアイドルなんだから!」


私がそう言うと、希は目を細めて嬉しそうに笑って、私の頭に手をのせた。


「…ホンマに、立派なスクールアイドルさんやね?」


3回ほど頭を撫でて、希は言った。



「真姫ちゃんのそういうトコ、ウチ好きなんよ。」



…また簡単に、そういう事を言う。



「…希、私は、そういうの簡単に口に出したり出来ないの。」

「…うん、わかってる。」


「希って、そうやって、私の事大体解っちゃうし、先回りされちゃうから・・・そういうのが、苦手ってだけで!」

「…うん、わかってる。」


「別に、希の事…す、嫌いじゃないし!凛が勝手に話を捻じ曲げて…」

「うん、わかってる。」


どこまで…わかってるんだか…。

逆に聞いてみようかしら?


「大体、私のそういうトコってどういう所よ?」

「…えー言わないとダメー?」


急に照れたように希がおどける。


「何故、そこでぼかすの!?希だって、私なんかに苦手とか言われたらムカつくでしょ!?ちゃんと言えばいいのよ!」


ムキになってしまう私に対し、希はやんわりと返す。


「…そうやって、人の事ちゃんと見てるし、考えてくれてるやん?真姫ちゃんにムカついた事、ウチないよ?」


・・・だから、調子が狂う。

希は私の言葉をやんわりと受け止める。

どんなに鋭くても。咄嗟に出てしまった失言のような言葉でも。



「…今もウチの事、気にかけて、言葉をすごく選んで喋ってるんやろなって、わかるから…」

「・・・別に、そ、んなんじゃ・・・。」


買いかぶりすぎよ!とは言いたいのだけれど、こんなに希の顔が近いと言えないというか…。


「うんうん、わかってる。」


そう言いながら、頭を撫で続ける希。

こうやって、完全に年下扱い。(いや、年下に変わりは無いのだけど!)


”よしよし良い子良い子。無理しないで良いよ〜”状態!


そういうのが、ムカつくのよ!

この私を、いつまでも、ただの下級生その1みたいな扱いしてッ!



「いいえ!わかってないッ!!」

私は希の手を掴んでそう言った。



「え!?」

「だから!!私…希や凛達みたいに、そうやって、気軽に、簡単に言葉に出来ない位にッ………す……好きなの。」


最後が、ちょっと(?)詰まったけど言えた。




「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


一瞬の沈黙の後。

私の目を見たまま、希は口を開いた。



「…言えたやん。簡単に。」


「……あーッ!もうッ!!だからッ!そうじゃないんだってばッ!!」



凛や花陽達の好きとはレベルが違うの!!

この言葉の重さを理解してないなんて!!


・・・いや、理解されたらされたで・・・それはそれで、問題だわ・・・!



「でも、ウチ、初めて真姫ちゃんに好きって言われたんやな〜♪嬉し〜。」


両頬に手をあてながら、希が反芻するようにそう言った。

また顔が熱くなってくる。


「ぁ、あゥ・・・も、もう言わないッ!!」


「えーなんでなんで〜?もっと言って〜♪」


「言わないったら言わないっ!大事な想いは簡単に口にしたら、軽くなっちゃうでしょ!?いいから練習行くわよッ!希!」


ドアを開けて、私はその場から逃げるように駆け出す。




「…ホンマ、わかってるだけに嬉しかったんやけどなぁ…。」




「何してるの!?希!行くわよッ!」

「はいはーい☆」



へらへら笑いながら私の後をぺたぺたついてくる希の気配を感じつつ、わかった事が一つある。



この先輩…私がいないとダメなんだわ!!




「真姫ちゃーん。待って〜。ウチ、そんなに早く走られるとアカンの〜。」


そう言って、私の制服の裾を掴んでくる希。


「・・・わ、解ったわよ。」と譲歩して、私は歩幅を合わせて歩いてあげた。


「なあなあ真姫ちゃん。」

「何?」

「今日、焼肉行かない?」

「はぁ!?」



うん、やっぱり、この先輩…私がいないとダメだわ!!



 ― 真姫 → 希 その1 END。 ―




放課後の教室。

授業から解放された生徒達は、部活動やこの後の予定で一気に沸き立つ。


でも、一年生は、というと。

一番下の学年だけあって、部活動の為の準備をしなくちゃならない子が多い。

よって、教室に残っている子は少ないので、比較的静かだ。



…凛と花陽を除いて。



「ねえねえ真姫ちゃん!」

「・・・なに?」



最近、真姫ちゃん機嫌が悪いね、と凛に言われる。

そんな事無いわよ、と私が答える。

何か、あったの?と花陽が心配そうに聞く。


私の回答は決まっている。




「…別に。」




「真姫ちゃんってば、いっつも”別に…。”ばっかりにゃー!」

「だって、”別に”機嫌悪くないし。何もないんだもの。」


突っ撥ねる様に私が言うと、花陽がぼそっと、しかし私の耳にしっかりと届く声で言った。



「もしかして…私達より希ちゃんの方が、やっぱり話しやすいのかなぁ?」



『ウチは、素直じゃない真姫ちゃんは可愛いって思うんよ。』


瞬時に、私の脳内にほんわかのほほんと笑ってる希の顔が浮かんだので、それを打ち消すように私は席を立った。


「はぁ!?ど、どうして、そこで希が出てくるのよ!?」


「あっ!ああッ!ご、ごめんなさいッ!!」

「真姫ちゃん、そうムキにならない、ならな〜い。」

「元はと言えば、誰のせいで…」


凛に詰め寄ろうとした、その時。



「あっ!絢瀬生徒会長よ!」


廊下を颯爽と歩く絵里が見えた。

前しか向いていない絵里はA4サイズの茶封筒と分厚いファイル1冊を抱えていた。


「やっぱり、会長素敵〜。」


さすが、スクールアイドルを始める前からファンクラブもあると噂の会長。


(生徒会は相変わらず忙しそうね…。)


キビキビと歩いていく絵里。


「えりち〜、早足すぎ〜。」


そして、その絵里の3歩程後ろを歩いてくるのは希だった。

希は希で両手に分厚いファイルを何冊も抱えている。


「…希。」と少し呆れたように絵里が言う。

「そんな顔せんといて〜ウチはいつも通りやん?むしろ、えりちの足が早すぎるんやわ。…焦ってへん?」


「ん、そうかしら?」


うんうん、と希は頷いた。

指摘された絵里は、表情を緩めて笑った。


「ふふ、そうね。急いては事を仕損じる、よね?」



そんな二人のやり取りを見ていたクラスメイトは、溜息をつく。


「はあ…いいなぁ〜東條先輩。」

「会長の傍にいられて、あんなに仲良くなってたら、色々な会長の表情見られるんだろうね。」

「私、生徒会入ろうかなぁ〜」

「私も会長の補佐した〜い。」



(・・・バッカみたい。)


クラスメイトの安い言葉に、無性に腹が立ってきた。


大体そんな事今どうだって良いじゃない。

私は教室を出て、希に声を掛けた。


「希。」

「あ、真姫ちゃん。これから練習行くん?」


うっすら額に汗が滲んでる希の腕をジッと見て、私は言った。


「それ、よこしなさいよ。」

「え?」

「いいから。」


私は、希からファイルをひったくるように奪う。


(重ッ・・・!!)


「あ、結構重いよ?大丈夫?真姫ちゃん。」

「だ、大丈夫、に決まってるでしょ!」


よろけたけれど、片足で踏ん張りなんとか体勢を整える。


「ありがとう、真姫。」

…と、何故か絵里にお礼を言われた。


「…別に。」と私は答えて歩き出す。


隣を歩いている絵里が言った。


「悪いわね、一年生にまで手伝わせ…」

「ていうか!…」


絵里の言葉を遮ってしまったけれど、その後に続く言葉を私は止めた。


 『ていうか!友達なら、もっと後ろに気を配るべきじゃない?』


と言い掛けたのだ。



「…練習、早くしたいじゃない。」


そう言って、私は振り返る。

希は、ちゃんと後ろにいて、いつも通りにっと白い歯を見せて笑っていた。


「大丈夫?希」

「…平気。ありがとう、真姫ちゃん。」


(…良かった。)


クラスメイトは、希が羨ましいだなんて言っていたけれど、私は逆だ。

羨ましいなんて思えない。

むしろ…。




生徒会室には、いつも絵里と希だけしかいないイメージだった。

私は一年生だし、縁も興味もなかった。


「ここに、置けばいいの?」


私は、机に分厚いファイルを置いて、周りを見渡す。

音楽室と全然違う。殺風景な部屋。

いつもここで、二人は生徒会の仕事をしてる。


(・・・別に、それは前からだし。)


絵里と希は…みんなが知ってる通り、仲良しだ。

三年生の二人は、いつも通り隣に座って作業を始める。



「ええ、ありがとう真姫。終わらせたら、練習に行くわ。希、始めましょうか。」

「うん。」


一年生の私が介入できないくらい。


(・・・いやいや、おかしいでしょ。介入って・・・。)


別に、希と絵里の間に私が割ってやろうなんて、思ってないし。

ていうか、絵里も絵里だわ。後ろで希が大変そうなのに、気付きもしないんだから。


私なら、気付いてる。



「じゃ、頑張って。」


私はすぐにその場を去ろうとしたが、つんと袖を引っ張られた。

振り向くと、希がいた。


「ありがと。すぐ行くからな?」


ぷっくりとした唇が弧を描き、私に笑いかける。


「・・・うん。」



扉を閉めて、私は部室に向かった。




(・・・ヤバイ・・・ドキドキ、してる・・・!)



きっと、あんな重いファイルを持ったせいだ。

私、普段からあんな重いの持たないし…!






― その後 生徒会室にて。 ―




「・・・可愛いわね。」と絵里。

「んー?」と書類を見たままの希が生返事をする。


「真姫の事よ。」

「…みんな、可愛いやん?」


「そうじゃなくて。真姫よ。きっと希の事、すごく気にしてるのよ。」

「・・・そお?」とまんざらでもない様子の希。


「さっきだって・・・希と一緒にいる私の事、今にも射殺しそうな目で見てるんだもの。」

「えりちが、何かしたんやないの?」


「あら。希、見てなかったの?真姫の目。

ファイルを貴女から取り上げた後”どうして明らかに重そうな希の分を持ってやらないんだ〜!”って目で私を睨んでた。」と怯えるように言いつつ、目は笑っている絵里。


「…えりちも意地が悪いやんな?ちゃんと”体育の時間に突き指したから希に持ってもらってる”って言うたら良かったやん。」


「可愛い後輩の後押しをしてあげたいし、親友の幸せも願っているのよ、私は。」

「何や、それ。」


「だから、私だけ支えてると、真姫が拗ねちゃうわよ?」

「なんやしらんけど…えりちはすぐ一人で無理するんやもん。だから、ウチがちゃんと支えんとね。約束したやん?」



「希だって、一人で抱えるじゃない。しかも誰にも内緒で。私にすら。」

「別に、言うほどの事でもないやん。」



「真姫、きっと希に求められるのを待ってるんだと思うわよ。どうして良いのかわからないから、貴女の傍にいるみたい。

貴女の傍にいるから、さっきみたいに真姫は”気付く”のよ。貴女のアレコレに。」

「・・・へ〜。」と、素っ気無い返事の希は絵里から視線を逸らす。


「・・・希、ホントは真姫の気持ちに気付いているくせに、何も言わないのね。

私は、不思議でしょうがないわ。もう一歩お互い踏み出せば、もっと親密になれると思わない?」

絵里は書類そっちのけで、希に話しかけ続ける。


「・・・カードが、今は待つべしって言ってるんよ。」

「いつまで?」


間髪入れずの口撃に、希はジトッとした目で絵里を見た。


「・・・今日のえりちは、ホンマ意地が悪いなあ…。」


すると、絵里はニッコリ笑顔でこう言った。


「困ってるなら、真姫に助けを求めたら?」

「・・・もう。」


― END 真姫→希 その2 ―









「あ、真姫ちゃん。お参りに来たん?」


石段を上がったら、すぐそこに希がいた。

ホントにすぐそこにいるとは思わなかったから、びっくりした。


「・・・べ、別に。」


目的は、あるといえばあった。


「そう言わんと、せっかくやし、お参り・・・あ、おみくじとかどう?」

「いい。私、くじ運ないし、信じてないから。」


私は、希の巫女姿を見たかっただけ。

いつもの制服の時と違って、なんというかふざけてないっていうか…神聖さがあって…。

綺麗だったから。


でも、初めて希の巫女服姿に会った時、私はわしわしされている訳で。

神聖な姿をしていても中身はやっぱり希なのだ。


「くじ運なんて関係ないんよ?その人が欲しいメッセージを神さんがくれるんよ。」

「・・・だから、別に・・・。」


そう言っている間に、希は箒を地面に置いて息を切らせてくじの箱を抱えてきた。


「はいッ!ウチも引くから!はい!」


必死に箱を押し付けられてしまっては、引くしかないじゃない。

この先輩、ホント…。


「なんで勝手に決めちゃうかな…。」


そう言いながらも、私は箱に手を突っ込んでしまう。


「・・・中吉。」

なんて、中途半端な…。

リアクションに困るって言うか…。


「真姫ちゃん、ええやん。」

そういう、希は・・・大吉。


「どーみても、希の方がいいじゃない。」

「真姫ちゃん、肝心なのはね、メッセージの方。読んで読んで。」


「…えー…”待つより会いに行って吉。素直な気持ちを言葉にして口に出すべし。さすれば”……」


 ”さすれば、想い人に想いが伝わる。”なんて、読めるもんですか!

 なによ!このくじ!ピンポイントすぎるじゃないの!!


「・・・・・・さすれば、どないしたん?」

「よ・・・読めない!結ぶッ!」


くじを結ぼうとする私の腕を希ががっしりと掴む。


「え〜?なんで?なんで〜?聞かせて〜?」

「そ、そういう希はどうなのよ!?」


私の腕を掴んだまま、希はくじを読んだ。


「ん?ウチ?・・・えーと・・・”突発的な出来事に機転を利かせよ、さすれば”・・・・・・・・」

「・・・さすれば、何よ?」


私がそう言うと、希は顔を少し赤くして言った。


「・・・コレは、はよ、くくらな。」

「あっ!ズルい!!希!見せなさいよッ!!」

「ダメッ!あかん〜!」


取り上げようとする私の手をかわして、希は逃げようとする。

(甘い!スピードで私に勝てると思わないで、希!)

それに、私は、希の利き足を知っている。だから、どんなにくるくる回って逃げ回っても、無駄よ!

私は希の手首を捕まえた。


「あっ!」

「ほ〜ら、観念して、見せなさいッ!」

「あ、ちょっ・・・!」

「え?」


私に手首を捕まれたまま希のバランスがぐらっと崩れて、私に倒れこんできた。

「「きゃあ!?」」

そのまま後方に転倒。


「あいたたた・・・真姫ちゃん、大丈夫?」

「いったーい…もう、何よ…。」


薄目からパッチリ目を開けると…希の顔が近くにあった。

私の上に乗ったままの希が、口を開いた。


「・・・真姫ちゃん、大丈夫?」


おもわず、ごくり、と喉が鳴った。

「あ・・・え?うん。・・・あ、ていうか!早く、お、降りてくれない?」

「…真姫ちゃんが手首ともう一つ手を離してくれたら、降りれるんやけど。」


手首はわかった。

でも、もう一つって・・・。


 ”ふに”っとした、この感触は・・・。


 (希の・・・胸?)


「あっ!ご、ごめっ!あぁあっ!!」

慌てて私は手を離し、謝罪をする。


「ご、ごめん!希ッ!!」

「ええって。それより怪我は無い?」


元はと言えば、私が無理矢理手首なんか捕まえなかったら、転ばなかったのに。

希は私の心配をする。


「・・・無い。」

「なら良し♪お互い、気にせんと結びにいこ?」

そう言って、私に手を差し出す。


「・・・よ、良くないでしょうが。大吉なのに、希転んでるじゃない。」

「そうでもないやん?」


「え・・・?」

「こうやって、真姫ちゃんがウチに会いに神社に来てくれたやん。それだけで、大吉もんや。」


希はそう言って、私の手を掴んで、私を起こした。

希って、どうしてそういう事をさらっと言うんだろうか。

聞いてるこっちが恥ずかしくなる。


「・・・な・・・何、言って・・・。」


真っ直ぐ、優しい目で希は私を見ていた。

いつも素直に人と会話できない私は、いつも他人と壁が出来てしまう。

希はそんな私の事を見透かすように、待っていてくれる人。

それなのに、私は…こんな事ばっかり言ってしまう。

今日だって本当は、希の巫女姿っていうか・・・希に会いたかったからきたのに。


「あの・・・ごめん、希。」


口から出るのは、こんな言葉。

作詞だって、してるのに、好きな人の前じゃこんな言葉しか出ない。


「…ありがとう真姫ちゃん。ウチに会いにきてくれて。」

「・・・!」


言葉がでない。

希に伝えたい事も何も出てこない。


「嬉しかった。」

「・・・。」


嬉しいのは、こっちの方。

顔が熱くて胸が苦しいのに、込み上げてくる嬉しさを抑えきれず、唇を固く結ぶ。


希はニッコリと笑って、おみくじを結びに行こうと誘った。


「ま、凶が出なかっただけええやん?」

「そう?私、中吉だけど…これ、全然当たってないわ。」


希の後ろを歩きながら、私は抗議する。


「そう?」

「そう!」


「さっきの”らっきーすけべ”って奴やん?」

「ああ、そっか。確かにラッキー…違うッ!何よっ!らっきーすけべって!!」


振り向いた希はニッと笑った。


「転ばんでも、真姫ちゃんなら、いつでもウチの…わしわしさせたげるよ?」

「―――!!」




 ”突発的な出来事に機転を利かせよ、さすれば、想い人とより距離が近付く。”



 「・・・大当たり。」




 ― 真姫ちゃんは、多分、ムッツリ。 END ―




 あとがき

先輩はお見通しだけど、いざとなると弱い。

後輩はいつも気持ち振り回されっぱなしだけど、いざとなると・・・やっぱりツン!

・・・という、大変和みやすい組み合わせです。うーんこの二人も、好きですね…。