"本当に面倒臭い人ね"と言ったら、その人はニッコリ笑って”そうやね。お互い様やね”と言った。


自分で自分が面倒臭くって、でも、どうにもできなくて。

深く知られるのが怖くて、自分を見ている他人を深く知るのも怖くて。


ただ、突っ撥ねるくらいしかなかった私に


その人は・・・


東條希という人は、私の隣に居座って、すんなりと私の領域に入って来たのだ。





 [ スクフェスで眼鏡のんたんURが(やっと)出ました記念 のぞ真姫SS ]







「真姫ちゃんが占って欲しいやなんて、珍しいね?」


部室でタロットカードを混ぜながら、東條希がそう言った。

確かに、そう。

私こと、西木野真姫は占いなんて、信じていなかった。


「…別に。クラスの子で希に占ってもらった子が、すごく当たってたって騒いでたから。」


・・・実は、これは嘘。


「ふぅ〜ん、それは良かったなぁ〜。」


嬉しそうに希はシャッフルを始めた。


「…でも、あくまでウチの占いは”手助け”やから。占いの結果を受け止めて、どうするかは本人次第やからね?

結果に満足して手を抜いたら、叶う願いも叶わんよ。

せやから、ウチの占いは”当たる”とか”当たらない”はあんまり関係ないん。」


「…ん。わかったわ。」


タロットカードを操っている希からは、妙な雰囲気が漂う。

この雰囲気込みで、みんな希の占いは当たるって思うのかも。

いつものふざけた感じやのほほんとした感じは無く、目の前の私を見据えている。


「質問は2,3問するけれど、答えたくない時は答えなくてもええからね。」

「ええ。」


…希の事だから、答えなくても大体わかる、とかいう奴?

だとしたら、本当にムカつく。決定的に、私が不利じゃないの。


「…で、何を占うん?」


一呼吸置いて、私は口を開いた。


「…私が…好きになる…だろう人の事。」


「おっ。妙な相談やね。ええよ♪」


私が思っていたより、意外な反応だった。

もっと不審がると思っていたけれど、希はあまり気にしていないようだった。

二つ返事で、すんなり引き受け、シャッフルを再び始める。


「妙って…そう?自分の未来に関する事だもの。不思議じゃないでしょ?」

「普通は”自分が好きな人”って現在進行形で好きな人の事を聞くんやけどね。」


そう言いつつも、カードを混ぜる手を止めない希。


(ばっ…!げ、現在進行形の事なんて聞ける訳ないじゃない!)


「な…何よ、私は普通じゃないって事?」

「いやいや、気ぃ悪くしたんなら堪忍な。こうして聞くと、まあ真姫ちゃんらしいな。」


「らしいって…まあいいわ。じゃあ、いいのね?」



希はうんうんと頷き、トントンとカードがまとめ、にっこりと宣言した。


「さあて、始めよか。」


カードが並べられていく。

私は、それを目で追う。


希の手って白くて…きれいというよりは、握ったらふんわりしてそうな感じで、女の子らしくって好き。


「真姫ちゃん、そないに見つめたら、ウチ、緊張してカード落としてしまうやん。」

「あ…ごめん。」


「あ、ええって、ええって、冗談冗談。」

「・・・・・。(冗談に聞こえないっての。)」


カードが綺麗に並べられていく。

こうしてちゃんと希の占いを見るのは初めてだ。


(結構…本格的。)


「ねえ、希。」

「ん〜?」


私は素朴な疑問を投げかける。


「希は、自分の事、占ったりしないの?」

「基本、せえへんね。」


「どうして?」

「未来がどうなるかわからんから、ワクワク出来るん。それを知ってしもうたら、つまらんやん?」


なんだか希らしいな、と思いつつ

他人の事なんでもお見通しで先回りしてしまうのには、何か裏があるのでは、と考えてしまう私がいる。


「…他人の気持ちは知りたくないの?希って、なんでもお見通しじゃない。」

希は、それは買いかぶりすぎ、と笑って言った。


「それは…知りたいなって思った人の事を見とったら、わかるんよ。」


つまり、希の興味がある人、希が知りたい人は、希の視界にずっと入ってるって事。

ずっと視界に入れているには…傍にいなくちゃいけない。


エリーと一緒にいる時間が多いのは、そのせい?

希はやっぱり、エリーが好きなの?





「だから…なんでも占って解ったつもりでいても、そんなの人の気持ちを理解した事にならへんから。」

「じゃあ…この占いも、止めた方がいいかしら。」


「それとこれは別やろ?真姫ちゃんはこれから好きになる人に関して、何か不安があって、迷ってるん違う?

…ウチは…そういう人を応援したいんよ。」

「・・・。」


不安。

そう、不安。

私の不安がわかる?希。


って、言いたいんだけど、言えない。

言わなくても、希なら私が何も言わなくても察してくれそうって思ってる自分もいる。

でも…希が私の想いを解ってしまったら、もっと困る。


「じゃあ、希…。」

「ん?」

「希に好きな人がいたとして、その人の事・・・占ったりする?」

「・・・多分、自分からは、せえへんやろね。」


「今度は曖昧ね。知るのが怖い、とか?」

「・・・あたり。」


静かにそう言いながら、希はちらりとカードに目をやった。

私の、想いの先には、希がいて…


希の近くには…


希の近くには、いつもエリーが、いる。

エリーと一緒にいる時間が長いからってどうだっていうのよ!


希自身はどうなんだろう?

エリーの事、友達以上としてみてる、のかな…。

知りたい。けれど、知る術がない。


「えりちも、占うよりも自分で知るタイプなんよ。真姫ちゃんと一緒で占いは興味本位程度みたいよ?」


一緒って…。

ああッ!もう!どうして、またエリーが出てくるのよ!



「…へえ〜……エリーと私は”違う”と思うけど。」


イライラを抑えつつ、私は違うを強調して言ってみる。


「いんや、結構似てる所あると思うで〜?ああ見えて、結構怖がりやし。」

「べ、別に!私、怖がりじゃないわよッ!!」


「そうやってムキになる所も。」

「・・・フン!」


「ホンマ、似てるんよ。」

「…似てるってだけでしょ。私は、私よ。」


エリーに私が似てるから、私といてくれるの?

違う、わよね?


(ヤバ…エリーに嫉妬してる…。)


希と一緒にいると、いつもそうだ。

いつもクールね、なんて言われる私は子供っぽくなってしまう。

私が子供で、希はお姉さん。

エリーは余裕の顔をしていつも、子供が立てないだろうお姉さんの隣にいつもいる。

背伸びしても、希はぽんぽんと頭を撫でるだけ。


そんなお粗末なイメージが付き纏う。



「せやね。共通点があるだけで、全然違うもんね。えりちはえりち。真姫ちゃんは真姫ちゃんや。」

「わかっていればいいのよ。」



…希、本当にわかってる?

私は、エリーとは本当に違うって事を。

エリーを見ている時間が多くて、私なんか見ていないんじゃない?


卑屈な考えがよぎり始める。

希が好きな人間像から遠ざかっている気がする。


「・・・・・。」


希に関する事でエリーには負けたくないけれど、希がエリーを好きなのだとしたら、私の負けは確定している。


(負け確定でも、簡単に諦められないから、厄介なのよね…。)


こうして、傍にいるのだから。


「今回は、スリーカードのスプレッドにしてみました。左から過去・現在・未来になるんよ。」


捲った希は「あ、隠者の正位置やね、これは…」と説明を始めたが


「…ねえ、希。」


私の口は勝手に開いた。


「ん?」

「希は、エリーが好きなの?」


希を知る術が無いなら、作るしかないとは思っていたけれど、それが雑な言葉となって口から出た。



「質問は、占ってるウチがするんやけど・・・。」


「希は、絵里が、好きなの?」


「・・・好きに決まってるやん。友達、なんだから。」


”そうじゃなくて。”と言おうとしたが、すぐに希がカードの説明に入った。


「…真姫ちゃんは、真っ直ぐ、やね。純情で、一途に人を想う事が出来る人。プラトニックやね…素敵な恋が出来るね。」


・・・そんな、他人事みたいに言わないでよ。

占いの通りなら、私は…ずっと、希を想ってるんだから。


「ただ、思いすぎるが故に、積極的になれない傾向があるん。

途中で自暴自棄にならんと、素直に、少しずつでええから好意的な言葉を口に出したり、好きな人の事を知る努力も必要やね。」


・・・誰のせいで、そうなってると思ってるのよ。

近くにいても、気付かないし。知ろうとしても、さっきみたいに誤魔化されちゃうし。

油断していたら、わしわしMAXで人の事ビックリさせる始末。

かと思ったら、私の事、なんでもお見通しで、気付いたらいつも傍にいて、背中押してくれたりして…。


勘違い、しちゃうじゃない。

希と私はお似合いなんだって。

そんな筈無いって、わかっていても、だ。


エリーと一緒にいる時の貴女をみていたら、気持ちがブレる。

強く想い続けていたらって思っていても、希がエリーと一緒にいる時の笑顔をみていると、私がいなくてもあんなに笑ってるって知ってしまったら。

もしかしたら、私は近付いてはいけないんじゃないか…って引こうとしても、想いだけは止まってくれなくて、苦しい。


希とエリーの間には、入っていけない何かがあるのに。

それを見ていたら、自分だけが苦しい想いをするだけなのに。


それでも、想いは止められない。

それでも、希は変わらず優しいから。


勘違いでもいいから、このままでいたいって思ってしまうじゃない。

それでも、その先に進める事ができれば、もっと近くにいけるって思ってしまうじゃない。

どうしたら、いい?って思ったら、やっぱり貴女の顔が浮かんできちゃって…。


その優しさに漬け込んででも一緒にいたいって思ってしまう。



ああ、面倒臭いわね、私って。



「今は…うん…”近々”真姫ちゃんの前に素敵な人が現れるってカードが告げてるよ。」


(近々どころか、今目の前にいますけど。)


「…それで?」

「月の逆位置…時間をかけて、お互いの誤解や不安を取り除いていけば、良好な関係になれるって出てる。」


へえ、悪くないじゃない、と私は思わず口に出していた。


「・・・時間って、どの位?」

「んー…その人によるんやない?」


困ったように笑う希。

まるで、他人事だ。

ムッとしながら、私は言った。


「…だから、貴女に聞いてるのよ。”どの位”時間をかければ、私の事、好きになってくれるの?希」

「…ん〜……え?」


しばらくの沈黙の後、質問の意図が理解できたらしき希の目が丸く開かれた。


「積極的になれない私が、素直に言葉に出してるのよ。答えて頂戴。…私の事、どの位時間をかけたら、好きになってくれる?」


「え、えぇ…?ウチは…真姫ちゃんの事、好きやよ?」


「そういう意味じゃないって解ってて、言ってる?希。」


「…からかってるん?」


「まさか。」


どんどん赤面していく先輩を私は頬杖をつきながら、問い詰める。



「エリーは友達として好きなんでしょ?私は、貴女の友達以上がいいの。」


しんと一瞬空気が静まり、私はそれでも横目で希を見た。

顔は真っ赤で、引きつった笑顔を保とうとしている。

まさか、このタイミングで私がこんな事を言うとは思ってもいなかったのだろう。


「え・・・えっと・・・。」


希は4枚目のカードを捲って、机に出した。


「・・・節制・・・。」


カードを見つめたまま、希は困惑したような表情で止まった。


「何よ、それ。」


「あ…えーと…この場合、真姫ちゃんの方やから、逆位置?いや、ウチが捲ったから、正位置?いずれにしても…」


ブツブツ独り言を言う希。


「あーもう!真姫ちゃんが、ウチの事、動揺さすからやーっ!!」


カードをひっくり返して、頭を抱えて希が叫んだ。


「…へえ、動揺、したんだ。」


希の余裕が無い顔を見るのは、初めてかも。


「あ、当たり前やん!真姫ちゃんが、いきなり…!」


「希の占いの結果を受けて、私は行動しただけよ。」





私は立ち上がって机に散らかったカードの中から一枚を取り上げると、そのカードを希の胸に突きつけた。




「・・・私と、付き合って欲しいんだけど。」



真っ赤な顔の希は、カードをぎゅっと握り締めながら黙って俯いた。


「いや、だから、急に言われても、ね…。」


「今から、お互いの誤解や不安を取り除いていけば良いんでしょ?」


「い、いや…真姫ちゃん、ホンマ冗談やったら、ネタバラシしてくれへん?ホンマに!」


「ネタ?何の事?(真顔)」


「あーいや…ウチかて心の準備っつーもんがやね…」


「準備なら、出来てる。(私の)」


「真姫ちゃん・・・。」



「答えは、YESしか要らないから。」



私は、カードを持ったままの希の手を握って、薬指に唇をつけた。



「…後悔、させない。」

「あ…あ…アカン!」


顔が最高潮に真っ赤になった希は、片手で顔を覆おうとしたが、半分見えている。

潤んだ目が、可愛い。


「…ダメって事?」


「もう・・・もう、なんなん!?いきなり!急に!王子様モード!?

いつも恥ずかしがって、こんなんせえへんやん!何のやる気スイッチ入ったん!?」




占い師モードの希が、いつもの希になった。


「希、声が大きい。…ていうか、いつまでも他人事みたいな態度してるから、ムカついたのよ。」


自棄、といえばそうなのかもしれない。

でも、もうこうなってしまrったら押し切るしかない。積極的にね。


「あ、あ、あ、当たり前やん!?いつもウチの前で顔真っ赤にして口篭る真姫ちゃんが可愛かったのに!こんなイキナリキャラ変とか…ッ!」


「と言う事は……へえ〜…希、本当は…私の気持ち、気付いてたんだ?」

「あ。」



エリーと戦わずして負け確定、は無くなった。

不安も一つ、無くなった。



私は、椅子に座ったままの希に顔を寄せて言った。


「…希。今、私があげたカードの意味、教えてくれる?」




 ” 恋人 THE LOVERS ”







 ― 珍しく強めな真姫さんEND ―



あとがき

次回は、希・真姫・絵里の三角関係SSでいきます!・・・多分!