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 [ 隊長、誘う。 ]





「みんなーありがと〜☆サフィール、嬉しいっ!」


レビューが終わり、鳴り止まない拍手を背に、アタシこと、サフィールこと、ロベリア=カルリーニは舞台を降りた。


「・・・あー・・・疲れたー・・・」


髪飾りを外しながら、アタシが楽屋に向かって歩いていると、花束を抱えた葵が呆れたような顔をして立っていた。


「切り替え、早いですね…。」

「サフィールの時のアタシの方が好きなのか?アンタ。」

「…いえ、そういう訳ではなく…エビヤンさんが、なんだか可哀想に思えてきて。」


そう言って、葵は気まずそうにアタシに花束を渡す。豪華な花束だ。


「また花束か…現金の方が正直、嬉しいのになぁ。」

「悲しくなるような本音出さないで下さい。」


葵のツッコミを無視して、アタシは花束の中のカードを見つけ、開いた。


「カード付きか…えーなになに?”今夜も素敵でした。貴女の女神の微笑みが見られて嬉しいです。次のレビューも楽しみにしてます。”

……いい加減、サフィールがアタシだって気が付いてもいいだろうに。」


そう言って、アタシは花束を持ち直した。

貰って嬉しくない訳じゃないんだが、こう毎回貰っても処分に困る。


「でも、エビヤンさんの気持ち解る気がします。素敵ですよ、ロベリアさんの踊り。私、好きです。」

「…へえ…。」


アタシは思わず、ほくそ笑んだ。

最初は芸術もわかんない堅物かと思ったが、大分、シャノワールに慣れてきたみたいだ。


「個人的に、私の目の前で踊って欲しいかも。」


葵のその一言にアタシは足を止め、葵の方に向き直った。


「・・・へえ〜・・・。」


まじまじと葵の顔を覗き込むと、葵はやや顔を赤らめた。


「な、なんですか?」


「いや、アンタにしちゃ、いやに挑戦的な台詞だな、と思って。」


アタシが顔を近づけ、小声でそう言うと、葵はふにゃりと笑って、赤い髪を触りながら恥ずかしそうに答えた。


「・・・あ、すみません、少し調子乗っちゃいましたね。はは・・・。」


「別にいいよ、今夜で良けりゃ、踊ってやるよ。」


葵のネクタイに手をかけ、軽く引きながらアタシがそう言うと、葵は少しびっくりしてから、笑顔で言った。


「え!?良いんですか?」

「ああ。で、どっちの部屋でする?」



アタシの質問に葵はピタリと動きを止め、首を傾けた。

嫌な沈黙の後、葵は瞬きしながら言った。


「は?部屋?ステージじゃなくて?」

「ステージは人目につくだろ・・・ま、それもアリか。今夜は、いやに大胆だな?」


珍しい事もあるもんだ。このチャンスを逃す手は無い。・・・まあ、夜中なら、大丈夫だろう。


「あの・・・一体、何の話をしてるんですか?」


・・・・・・ん?


「夜のお誘いの話じゃないのか?」


そう言って、アタシが葵の鎖骨をちょんと指で押してやると、葵はすぐに真っ赤になって首をブンブン横に振った。


「なッなななな、何を言ってるんですかッ!?ち、違いますよッ!」

「ああ、てっきり、ソッチの意味かと。・・・なんだ、期待して損した。」

「もうっ!」


そう言って、葵はズンズン前に進んでいく。

後ろで手を組んで、アタシは隊長の後ろをついていく。


「やれやれ、少しはそっちから誘って欲しいもんだ。情熱的にって・・・軍人出のアンタに、そこまで求めるのは、無理な話か。」

「・・・あの、ちなみに・・・そういうのって、どうすれば良いんですか?」


横目で、アタシを見ながら、やや恥ずかしさを押し殺したような声で、葵が聞いてくるのでアタシは呆れ顔で答えた。


「どうすればって、誘う相手に聞くなよ。」

「そうは言っても、好みの問題とか・・・大体、私誘うとか・・・した事ないですし・・・。」


こういう事に関して、本当に知らなすぎるというか、どこまで面倒かけるんだか。

まあ、これも隊長の教育の一環って事にして。

アタシは頭をかきながら、溜息混じりにヒントを与えた。


「・・・はあ・・・そうだなぁ・・・アンタの場合、変に凝ったクサい台詞より、シンプルな言葉と体を使えば良いんじゃないか?」


まったく、なんでアタシがこんな事を。

これで少しはアタシを熱くさせるような台詞を・・・


「・・・えーと・・・”今夜、一緒に過ごしませんか”とか?」


・・・期待したアタシが馬鹿だった。


「12点。色気無さ過ぎ。」

「・・・うう・・・難しいなぁ・・・」


葵は腕組みをして、今度は唸り始めた。


「どうしてもアタシと過ごしたいって思えば、自然と行動と言葉に出るもんだろ?普通。」


「そうは言っても・・・”一緒に過ごしたい”としか言い様が無いです。」

「・・・性欲無さ過ぎ。表現力も無いな。」


呆れた。

まあ、別にコイツらしいといえば、らしいけど。


「べっ別に、そういうのが無くても、良いじゃないですか!一緒にいるだけで、私は良いんですから。」


そいつはありがたい。

だけど。


「…ホントに?アタシが一ッッッ切!手も出さずにアンタの横で、ただ、だら〜っと寝てるだけで、本当にアンタは満足か?本当に、それで良いのか?いいんだな?何もしなくて。」


畳み掛けるようにアタシがそう言うと、人差し指同士をくっつけたり離したりしながら、葵が言った。


「………え…えーと…そ、そこまで言われると…。」

「ホラみろ……ま、頑張れ。期待しないで待っててやるよ。」


そう言って、葵の赤い頭をぐしゃぐしゃと撫でて、アタシは葵の前を歩いた。


「エビヤンのカードみたいな台詞でもいいぞ。」

「う・・・。」


アタシのその言葉に、葵は少し複雑そうな顔をしていた。


「…シンプルな言葉…体を、使う…」


ブツブツ言いながら、葵はアタシの後ろをついてくる。


(・・・フフッ・・・考えてる考えてる。)


花束の香りを嗅ぎながら、アタシは楽屋まで歩いた。

どうせ、大した事は無いとわかってはいるが、後ろを歩いている軍人出の女の口からどんな台詞が聞けるのか楽しみに・・・


「ロベリアさん。」

「ん?」


葵が突然、アタシの手を引いたので、アタシは足を止めた。

そして、振り向くと同時に見えたのは、葵が何かを躊躇っているような顔だった。


(・・・一体、何を言う気だ?)


レビュー前の、高揚感に少しだけ似てる。

こういうやりとりも、少し…いや、結構楽しめるもんだな、と思った。


葵は、特別、何も言わなかった。


何も言わずに、黙ってアタシのヒントを参考にした結果・・・葵は、アタシの指を咥えた。


(・・・!)


口内特有の温かさが指先に伝わる。

葵の舌が、指の腹を撫で、続いて爪と指の間を撫でて、唇が優しく指先を挟む。

最後に指先を吸う、ささやかな音がした。

葵の唾液で濡れたアタシの指先は、葵の手で拭うように胸の上に移動させられ、停止した。



・・・これは、ちょっと意外というか、なんというか。



でも、やっぱり無理してるみたいで。

隊長様の顔は見ているこっちも恥ずかしくなるくらい、真っ赤で、視線は横に逸れていた。

しかし、待てども台詞は聞こえてこない。

どうやら、これが隊長の限界らしい。


「・・・肝心の口説き台詞がないから、60点ってトコかな。」



笑ってそう言うと、葵はむっとした顔でアタシをじっと見た。



「・・・ま、アンタにしちゃ頑張ったから、今夜はアンタの上で、朝まで踊ってやるよ。」

「ロベ・・・!」


アタシの名前を言いかけた葵の口を軽く塞ぎ、髪飾りを預けた。


「さっきの舌使い、悪くなかったぜ。アンタもやる時はやれるんだな?」


そう言って、わざと見せ付けるように葵が咥えた指先をアタシは咥えて見せた。


「・・・や、やっぱりやるんじゃなかった!」


そう言うと、葵はアタシを追い越して走って行ってしまった。


「やれやれ・・・育て甲斐のある隊長だよ、ホント。」


こみ上げてくる笑いを堪えて、アタシは花束を抱えて、ゆっくり楽屋に向かった。





着替えを終えて廊下に出ると、先程の事なんか無かったみたいに葵がパタパタと走りまわっていた。



両手に大きなダンボール二つ。口には書類まで咥えている。

せっかくのスリット入りのスカートなのに、走り方が必死すぎて、色気も何も無い。

アタシも変装なんかはするけれど、あの隊長の場合、雰囲気だけが色々変わるから困る。


(お忙しそうで。でも、あんまり慌てて走ると・・・)


エリカ程のドジじゃないとはいえ、さっきからヒールの音が危なっかしい。

静かに近付いてみる。


「あっ!」


やっぱりというか、なんというか・・・アタシの目の前で葵はかくん、とバランスを崩した。

予想していたとはいえ、本当にコケられると呆れる。


素早く駆け寄って、葵の腰に腕をかける。

右腕に掛かる葵の体重と共にダンボールがどさりと落ちる音。


「エリカのドジでも伝染したか?」


アタシがそう言うと、書類を咥えたままの葵が真っ赤な顔をして振り向いた。

まるでアタシが現れるとは思っていなかったように。


「あ・・・ありがとう、ございます・・・」

それだけ言って、葵は視線を逸らした。


「それだけ?」


葵が咥えている書類を片手で摘み取って床に向かって放り投げながら、アタシはそう言った。

腰を抱く手の指先で、葵の腰のラインを少し刺激するように押す。


「他に、言う事、ないじゃないですか。」


そう言って、葵はアタシの指先に手袋をつけたまま触れる。

でも、アタシの手を払いのけようとはしない。触れるだけ。


「あるだろ?少しは察しろよ。」


アタシは更に顔を近付けて詰め寄る。


「そんな事言われても・・・!」


アタシの唇のすぐ傍で葵の唇が動いて、さっき、アタシの指を舐めた舌が見える。

額同士をぴったりとくっつける。


真っ直ぐに見つめると、葵の目が少しずつ細くなり、アタシの腕に掛かっていた葵の体重が少し軽くなる。

葵が、アタシにぴったりとくっついてきた。



「・・・さっきの事、忘れようとしたのに。」


葵は、非難するように言った。

さっきまで不必要に必死に走りまわってたのは、さっきの事を考え込まない為か。


「忘れる必要ないだろ?結構良かったし。」


アタシが笑ってそう言うと、葵は黙ってまた視線を逸らし、顔をアタシから離そうとした。


すかさず、アタシはキスをした。

葵の身体中に力が入り、強張るが、やがて徐々に弛緩していく。

僅かな隙間に舌を忍び込ませて、絡ませる。


「ンぅ・・・!」


相手の呼吸に合わせて、舌を動かす。

それでも、呼吸が定まらない葵は必死に唾液を飲み込みながら、されるがままに必死に呼吸をしていた。

やがて、唾液がトロリと唇の端から零れたので、アタシは舌先で拭う。


「・・・もう、ダメ。」


その言い方は、まるでそれ以上触れたらいけないような感じだった。

でも、そういう態度を取られると、アタシは全く興味が失せるか、ますます触れたくなるんだ。


今回は、後者の方。


「まるで、もう触ったら何か壊れそうな顔してるじゃないか・・・例えば、ココとか?」


そう言って、からかうつもりで太ももの間に手を差し入れた。

指先の感触が、いつもと違っていた。


「あ・・・!」


途端に葵の表情が凍り付いて、アタシの両肩を離すように掴んだ。

アタシは、指先の湿った感触を確かめるように更に深く手をスカートの中に差し入れる。

葵は腰を引くが、アタシの片方の腕でしっかりと固定して逃げ場はない。


「さっきので、濡れた?」

「・・・っ!」


指摘されたのが、余程恥ずかしかったのか葵は唇を噛み締めていた。


(・・・そんなリアクションしなくても良いのに。)


「あの・・・私・・・!」


何か言い訳でも始めようとしてるのか、葵が口を開いたのでアタシは、すかさず言った。


「今、ここじゃなくて、アタシかアンタの部屋なら・・・正直に言ってくれる?今すぐ抱いて欲しいって。」


葵はまるで救いを求めるような顔をして、コクリと一回頷いてアタシのコートをぎゅっと掴んだ。


「誘う練習してから・・・私、なんか・・・変、なんです・・・。

ずっと、舌に・・・ロベリアさんの指の感触が残ってて・・・それで・・・私・・・」


それ以上、言葉は無かった。

葵がアタシに唇を付けてきたからだ。

誘い文句を工夫しろとか色々言ったけれど、やっぱりコイツの場合、言葉じゃなくて、この方が良いのかもしれない。


言葉より、行動。


言葉無しの、深い、深いキス。

きつく唇に吸い付いてくる。



それだけで、答えは十分だった。


アタシは、一呼吸おいてから、葵の唇にまた触れた。

アタシの首に葵の腕が回された。


壁に葵の背中を押し付けて、再び手をスカートの中に差し入れる。

湿った下着を少しずらし、そこから肌に触れる。

指の腹で柔らかい部分と、固くなった場所を交互に擦る。

音をさせないように、指を滑らせ、刺激する。

それだけで、葵の呼吸はどんどん乱れて喉の奥で必死に堪えている声が、僅かにアタシの耳に届く。


「足、少し上げて。」


アタシがそう言うと、ぼうっとした葵は素直に右足を少しあげた。

多分、葵も我慢の限界なんだと思う。


中指を一気に奥まで、押し込む。


「ん・・・ぁっ・・・!」


さすがに、今度は声が漏れた。

葵の中は、指を包み込む、というより少し締め付けるような感じがした。

掌に雫が零れてきていて、腕を動かす。


「くっ・・・!ふっ・・・!ぅッ・・・!」


声を殺すのも一苦労なんだろう、葵がアタシの肩に必死に口を押し付けて、声が響かないようにしている。

そんな葵の態度とは裏腹に、どんどんアタシは指を動かす。


ただ、もっと見たくて。

ただ、もっとアタシで感じて欲しくて。


もっと、したい事がある。服を脱がせるのも、なんだかもどかしい。


今すぐにでも葵の手を引いて、自分の部屋に連れ込みたい衝動に駆られた。



「葵さーん?さっきの道具まだですかぁー?」


「「!?」」


シーの声が近付いてくる。

咄嗟にアタシは指を引き抜いた。


その瞬間。


「っはーい!!」


葵がアタシの首を捕まえ、そのまま壁にブン投げた。


「ぐはっ!?」


ビタンッ!とアタシは壁に打ち付けられた。地味に痛い。



「あ!ご、ごめんなさい!つい・・・!」

「お・・・覚えてろよ・・・!」


慌ててダンボールを拾う葵のスカートから、ズレた下着が見える。


「オイ。ズレてるし、見えてる。あと、太ももから垂れてる。ヤッたってバレるぞ。」

「わ、わあああ!?ろ、ロベリアさんのせいですよ!?」



やれやれ責任転嫁、ときたもんだ。



「うるさいなぁ・・・じゃ、ここで脱いでいけよ。預かっておいてやるから。」

「う・・・あの・・・後で、絶対取りに行きますから!」


そう言って、素早く下着を脱ぐとアタシの手に握らせた。

・・・これで、奴が嫌でも今夜アタシの部屋に来なきゃいけない口実が出来た。



「にしても・・・これじゃ、履けないよな。」


軽く洗っといてやろうか?いや、なんでアタシがそんな事をしなきゃならないんだか。


(いや、それより・・・自分の女の湿った脱ぎたての下着握り締めてるって、この状況、どうなんだ・・・?)


葵の白い下着を握ったまま、なんだか複雑な気分になってきた。



「あっ!ロベリアさー・・・ハッ!?」


廊下の向こう側から、シャワーを浴び終わったらしいエリカが、手を振りながらこちらに走ってくる。

面倒なのが来たな、と思っているアタシを見て、エリカがピタリと止まり、ワナワナと震えだした。


「・・・なんだよ、エリカ。」


「ろ、ロベリアさん・・・まさか・・・とうとう、下着泥棒にまで手を染めて・・・!?」


そう言って、エリカはアタシの手にある下着を指差して、涙目になっている。


「下着が欲しいなら!エリカに一言言って下さい!エリカのあげますッ!」


マズイ所を見られたな、と思いつつ、アタシは言った。



「・・・お前、本当に一度ぶっ飛ばすぞ。」





 ― END ―



ちょいエロです。

本当に、エロい同人誌の足元にも及びませぬ。