怪人パイロンはテンション高く、夕暮れの巴里の街で暴れていた。



「もーみゅもみゅもみゅ・・・さあぁ・・・黄色い悲鳴をあげるがいい・・・


きゃっきゃっきゃっとスカート翻して逃げ回るが良い!逃げ回れば逃げ回るほど…


走るお前達の揺れる乳房を観察し尽くしてくれるわーッ!もーみゅもみゅもみゅ・・・」




「いやぁあぁ…走らざるを得ない上に、なんか屈辱的ーっ!!(泣)」




パイロンは暴れるというより、女性を追い掛け回している。

巴里の街で暴れているのは、むしろ必死に逃げる女性達の方である。



「と、止まれー!警察だーッ!!」


「もーみゅもみゅもみゅ・・・男に用は無えええええ!!」



パイロンは、力任せに巨大な鉄球を振り回した。



「ぐああーッ!?」

「うわああああああ!?」


素早い動きに、異常な力。

鉄球により、崩壊していく建物…人々の悲鳴…。


警察が出動するも、パイロンの動きを誰も止められはしない。

もはや警察は、壊滅状態だった。



「もーみゅもみゅもみゅ…一番揺れが大きかった娘は、もれる事無く、かっさらうぞ〜!もーみゅもみゅもみゅ…」



「・・・あ、あたしBカップだから、いいや。」

「え?対象は、何カップから?」「え…知らないけど…。」



「もーみゅもみゅもみゅ・・・女の子の胸なら、もうなんでもいいわ〜い!」




「いぃやあぁ〜ッ!結局、変態は一般の女子の想像を越えてくるわーっ!!(泣)」





巴里は、こんな変態に破壊されていくのか…人々は絶望の空気に包まれた。




「もーみゅもみゅもみゅ…チラリズム♪チラリズム♪…もーみゅもみゅもみゅ…」






「そこまでだ!巴里の汚水!」





凛とした声が、巴里に響く。


「なんだと〜!…ていうか、ヒドイな…オイ。」


パイロンは、その声の方向へ向いたが、夕日の光に思わず目を細めた。



沈みゆく夕日を背負いし、3つの人影。




「「「・・・巴里華撃団 参上!!」」」




エリカ・グリシーヌ・花火の3名だ。


「さあ、皆様!お逃げ下さい!」


花火の声に、女性達は一目散に逃げていく。


「…早速現れたな…巴里華撃団…!!」



「こらー!巴里の街の方々に、わいせつ行為をしてはいけません!大神さんでも、そんなにしませんでしたよッ!?」


「え、誰…?」


「エリカ!怪人の前で、前隊長の覗きの犯罪歴を口にするな!

 折角、格好良く登場した私達の品位が下がるではないか!」


「グリシーヌ…エリカさん以上に、声が大きいわ…。」


ゴタゴタと内輪の話をしていたエリカ達に、パイロンは笑って言った。


「もーみゅもみゅもみゅ!お前達も俺のコレクションの一部にしてやろうか…?」



「女性をコレクション!?…それが狙いですか!?女性をなんだと思ってるんですか!!」



エリカはパイロンを指差し、怒鳴った。


しかし、当のパイロンには、どこ吹く風。

せせら笑いながら、エリカ達に悠々と語り始めた。



「もーみゅもみゅもみゅ…俺の野望はなぁ…

 女達を集め、侍らせ…俺の理想郷・おっぱい天国を作るのだぁー!

 奴らのふくらみは、俺のモノだあ!もーみゅもみゅもみゅ・・・!」



「な・・・」

「なん・・・」


「なんという、低レベルな・・・!!」


グリシーヌ達は、言葉を失った。


この数日間、こんな低レベルなヤツの為に、どれだけの苦労を強いられたか。

この数日間、こんな低レベルなヤツの為に、ロベリアは何回吐血し、何リットル輸血したか。

この数日間…こんなヤツの呪いのせいで、自分達の隊長の胸が

何度ロベリアに触られ…フラグが立ったのでは無いか?と何度心配したか。


やり場のない怒りが、エリカ達の心に湧き上がった。


彼女達の怒りに、追い討ちをかけるように、パイロンは笑った。



「もーみゅもみゅもみゅ…お前達も俺のメイドに・・・いや、いっその事…

 ・・・あの女のようにふくらみの呪いの餌食にしてやろうかッ!もーみゅもみゅもみゅ…!」



”あの女”とは、勿論…ロベリアのことだろう。


花火は、キッとパイロンを睨んだ。



「これ以上…百合サイトで微妙なネタを引っ張らないためにも…貴方を50行以内で倒しますッ!!」


「・・・いやいや!・・・それは作者に言えーッ!!!」


別に10行くらいで片付けてもいい変態パイロンは叫ん


「オイオイ!ナレーションおかしいぞッ!!」




「グロース・ヴァーグ!!」



隙を突いたグリシーヌの会心の一撃。

冷静さを保ちつつも、グリシーヌの心は怒りに燃えていた。



「ぐ、ぐあああああああああ!?」



「凄いですねぇ♪グリシーヌさん♪流石です♪」



エリカは、感心しながら、倒れこんだパイロンの触覚の8本の内の1本を、右足で踏んだ。


これがどのくらいの破壊力かというと…

『二の腕の後ろを、爪で挟んだ感覚』を想像していただきたい。



「ぎ、ぎゃあああああああああーっ!?」


夜を迎え始めた巴里の空に、パイロンの悲鳴が響いた。



「悔い改めなさい・・・と主はおっしゃっています・・・。」


エリカは触覚を踏んだまま、しゃがみ、そして祈った。

勿論、パイロンの触覚に生じる痛みは、生半可なものではない。



「ぐのぅあああああああああーッ!!」



もがき苦しむパイロンに、グリシーヌは斧を突きつけて問いただした。



「・・・さあ、言うのだ!はきだめの呪いの解き方を!」


「グリシーヌ…”ふくらみの呪い”よ。


…言ってください。これ以上、私達の仲間を傷つけるというのならば…もう容赦は、いたしません。」



花火は親友にツッコミを入れつつも、しっかりと弓を構えた。

普段滅多に怒らない彼女の目は、静かな怒りを含んでいた。



流石のパイロンにも、それが伝わったらしく、黄色い変態はとうとうその口を開いた。


「ぐ・・・お、俺の・・・アジトに・・・く、薬がある・・・!」



「…なるほど、その薬で呪いを解くのか・・・」

「アジトはどこですかッ!」


「そ、それは……」


口篭るパイロンに、花火は宣言通り、容赦しない。


「…エリカさん、左足を。」


「あ、はい♪…アー…メンッ!」


エリカの左足が、パイロンの触覚の7本の内の1本を踏んだ。


これがどのくらいの破壊力かというと…

『二の腕の後ろを、爪で挟んだ感覚』を想像していただきたい。



「ぎゃ、ぎゃあああああああああああ!言う!言うからーッ!離して〜ッ!!」


情けない声を出しながら、パイロンはエリカの足をどけるように懇願した。


「よし、では言うが良い。嘘だった場合は、触覚のみならず、オマエの首を落とす。良いな?」



グリシーヌの10代の台詞とは思えない脅し文句が飛んだ所で、エリカは足をどけた。



「はぁ・・・はぁ・・・は・・・」



パイロンは、息を整えると顔をあげ、ニタリと笑った。


その瞬間、地面から巨大な鉄球が土埃をあげながら浮上した。


突然の出来事に、エリカ達は視界を失った。



「ーくっ!?しまったッ!?」


気付いた時には、パイロンの巨体は空中に舞っていた。

空に舞い上がったパイロンwith鉄球を・・・エリカ達は、下から見上げるしかなかった。




「こらー!アジトの場所を言いなさーいッ!エリカと約束したでしょーがッ!このバカチン8本!!」




「もーみゅもみゅもみゅ…甘い、そしてヌル過ぎるわ…巴里華撃団…!!

 俺の呪いをくらった女を見られなかったのは残念だが…今日はこの辺でカンベンしてやろう!

 もーみゅもみゅもみゅ…も〜みゅもみゅもみゅ!!」


不快な笑い声を残し、パイロンは夜空に消えた。




しかし、エリカ達は追いかけようとはしなかった。




「やはり、戦闘が始まって10分も経たずに退散したか・・・。葵の読みが当たったようだな。」


解ってはいても、不完全燃焼だな、とグリシーヌは、呟きながら斧を振った。


「…あくまでも、女性の誘拐が目的だから…パイロンは、戦闘をすれば、すぐに逃げる…」


花火ももどかしいわね、とグリシーヌに同調した。




「・・・コクリコ、どうでしたー?」


エリカの声に、ひょこっとコクリコが木箱の中から現れた。

顔に土をつけて、白い歯を見せてニッコリ笑っているのは、作戦が上手くいった証拠だ。



「うん、バッチリ。エリカが踏んづけてる間に、ちゃんと”発信機”つけたよ♪」










パイロンのアジトは、華やかな巴里の街郊外の廃墟の中にあった。

ろうそくの灯りを見つめながら、パイロンは悔しさに爪を噛んでいた。



「くそ・・・忌々しい奴らだ・・・俺の天国を馬鹿にしたばかりか、何度も邪魔しやがって、巴里華撃団め・・・!

・・・あのお方から、巴里は女ばかりだし、チョロイと聞いて、喜んで来たのに・・・!! 

まあ、いい・・・いずれ、巴里華撃団を、このパイロン様のメイドにして、18禁的な事してやる!」



天国とはかけ離れた廃墟の中で、巨体を揺らしパイロンはギリギリと爪を噛んでいた。





 「残念でしたね…その天国の実現は、絶対に不可能です。」






突然、風がパイロンの部屋に吹き込んだ。

ろうそくの炎は消え、廃墟の窓からは月光が差し込んだ。



聞こえた声に驚き、振り向いたパイロンの目線の先には、女が立っていた。




「だ、誰だ・・・!?」


夜の闇から、カツカツと靴音が聞こえ、やがて月光に照らされ、姿が現れた。



「…巴里華撃団 隊長・・・月代葵。」


赤い髪を靡かせ、葵は静かに名乗った。



「・・・な、なんだとっ!?・・・ぱ…巴里華撃団の女隊長だとッ!?な、何故…ここが…!?」


パイロンの問いに、葵は丁寧に答えた。



「アナタの、身体に発信機をつけさせていただきました。大きい身体は、さぞ不便でしょう?

 その大きさでは・・・とても、脂肪で垂れ下がり、段になった背中の肉まで、目が届かないですからね。


 そうそう・・・とても、仕掛けやすかった…もとい、挟みやすかったそうですよ?」




「・・・お、おにょれぇ・・・巴里華撃団ーッ!!」



パイロンは、地団駄を踏んだ。自分の足に余程の自信があったのだろう。


振り切ったと思っていたが、あっけなく・・・しかも発信機という単純な手で、発見されてしまったのだから

プライドが、大いに傷ついたに違いない。


立ち上がり、自分の傍にあった太い鎖を掴んだが、その瞬間、また声が聞こえた。



「・・・おっと、お得意の鉄球を振り回すつもりなら、止めておいた方がいいぜ?」


「・・・何ぃ?!」


パイロンは、葵の背後にまだ人影が、いることに気が付いた。

目を細めると…その人影には見覚えがあった。



「そ、その声は…銀髪女ッ!?」


”銀髪女”こと、ロベリア=カルリーニは静かに、答えた


「こんな廃墟で、それを振り回したら…オマエもタダじゃ済まないだろ…

 安心しな…振り回す前に、お前にはたっぷりとお礼をしてやるよ。」



だが、パイロンは、月光に照らされたロベリアと葵の姿を見るなり、笑い始めた。


「・・・・・・もーみゅもみゅもみゅ・・・

 俺の早さについていけず、発信機でアジトを見つけるまでのアイデアは良かったが・・・

 所詮、胸を掴んだままのお前と、胸を掴まれたお前に…一体、何が出来る!!」


パイロンは、自分の勝利を確信していた。


目の前の敵は、足枷をつけている状態に等しい。動きなど、たかが知れている。

しかも、たった2人。そして、ここは自分のアジト。


鉄球を振り回さずとも、自分の腕の力だけで十分、始末できる…そう考えたのだ。


「・・・もーみゅもみゅもみゅ・・・オイ、命乞いをすれば、メイドとして生かしてやっても良いぞ?ん?」


パイロンは、不快な笑いを浮かべながら、一歩ずつ2人に近付いた。

だが、葵もロベリアも、表情一つ変えず、パイロンを見ていた。



「焼いても喰えない黄色い豚の世話なんざ・・・アタシはゴメンだね。」

「・・・右に同じく。」




「・・・よォ〜し!決定だー!ぶっ殺してやるーっ!!」



パイロンは、怒りに任せて二人の元へ突進していった。


だが。


パイロンの攻撃は、空を切った。



「・・・なん、だと!?・・・避けただとッ!?」


二人揃って、パイロンの攻撃を避け、更にいつの間にか背後に回り込んでいた。



「…思ったとおりだぜ…この手の馬鹿は、大振りな攻撃…で、読みやすい上に、避けやすいと来たもんだ。」


ロベリアは、ニヤリと笑った。

「お・・・おのにょれえええええええ!!」


再び繰り出されるパイロンの攻撃…しかし、力任せで大振りな攻撃は、空を切り続ける。


「どうしました?・・・まさか、私達が、何の学習もせず・・・ただ、乗り込んできたとお思いですか?」


「なんだとぉ!?」


「フッ…だとすれば、かなりの馬鹿だな。・・・いや”豚”は…馬でも、鹿でもない、か。

 …いや、むしろ豚に失礼か?」


「ダメですよ、ロベリアさん…ホントの事を言っては…真実は時に、怪人も傷つけます。

 ・・・あ、豚もね。」



「こ・・・この野郎――ッ!!俺様を、おちょくりやがってえェ――ッ!!」



断っておくが、パイロンの動きが、遅いのではない。

葵達のスピードも、特別速くなった訳ではない。


ただ。


完全に、パイロンの頭に血が上っている上、力任せに腕を振り回すという…攻撃のパターンが単純な上、大振り過ぎるだけの話だ。


速さは、パイロンの方が有利だった。

だが、巨体のパイロンの持ち味であるトリッキーで素早い動きは、室内の戦闘において、外での戦闘に比べ、遥かに劣る。


一方、葵とロベリアの動きは、見事に同調しており、微塵も隙は無い。


・・・もし、外で、しかもパイロンの得意とする鉄球を使われたら、攻撃を避けきる事は難しかっただろう。


だが、相手を挑発し、室内で戦う事によって、パイロンの多彩な攻撃パターンを封じ…

単純な攻撃方法へと切り替えさせる事で…確実に攻撃を避け…確実に攻撃を仕掛け…




2人一組でも・・・確実に、追い詰める事が出来る。




「…風散雨牙ッ!!」




葵の円月輪に、風の霊力が込められ、放たれる。


しかし、風はパイロンの皮膚を掠めるだけ、決定打となる攻撃ではない・・・。



「ぐ、ぐ…この程度の風など、屁でもない…このパイロン様には効かぬわッ!」



・・・余裕の笑みを浮かべようとしたパイロンだったが・・・。



「・・・咲き散れ・・・!」



葵のその声と同時に、パイロンの皮膚が、肉が…パンッという音と共に散った。


パイロンの皮膚を掠めていた風の正体は、カマイタチ・・・風の刃だった。


円月輪と風の刃により、敵の肉体を斬り込み、そして…その切り口を一気に開く…という、風の斬撃技だ。




「ぎ、ぎゃああああああああああ!?」



パイロンは、床に膝をつき、己の体を見た。

傷は浅いが、自分の体のあちこちに、無数の斬り込みが入っているのを見た瞬間、悪寒が走った。

パイロンの額には、ジワジワと、脂汗が浮いてきた…。



「・・・・相変わらず、アンタの技はえげつないな・・・」


ロベリアは感想を述べた後、”おかげで、自分の出番がなかった”と付け加えた。


「・・・そうですか?一応、手加減してますから、いつもより避けやすいと思いますけど。」


薬の在り処を聞くまで、致命傷は与えないつもりなのだ、と言いながら、葵は作戦通りとニコリと微笑んだ。


「・・・いや、そういう意味じゃないんだけどな・・・。」



「ぐ、ぐ・・・ぐぅ・・・!」

(つ、強い・・・け、計算外だ・・・ッ!こ、こんな話は聞いてない・・・っ!!

 俺は・・・巴里なら、楽にハーレムを作れると聞いたから、この話に乗ったのに・・・!!)



「さて・・・勝負あったようですね・・・ふくらみの呪いの解き方を、教えていただきましょうか・・・」


再び落ち着き払った葵の声に、パイロンは震えた。


「・・・わ、わかった・・・教えよう。薬がある…そこの…鉄球の鎖の端にくくり付けてある…小瓶の中だ!」


パイロンの脳裏には、もはや逃げる事しか、頭になかった。

隙あらば逃げよう、と。


「ロベリアさん…」

「…ん…鉄球…これか…。」


2人の視線が、後方の鉄球に逸れた瞬間…パイロンは窓に向かって駆け出した。


窓ガラスを巨体で破り、外へと飛び出た。






「…もーみゅもみゅもみゅ!油断したな!さらばだー!巴里華撃だ・・・」




窓の外へ飛び出したパイロンを、葵とロベリアは、慌てることなく見送っていた。


外へ出てしまえば逃げ切れる…!

勝利の笑みを浮かべ、外へ出たパイロンを待っていたのは・・・




・・・4体の光武Fだった。





「・・・ん・・・。」





そして、光武Fからは、聞き覚えのある少女達の歓迎の声が、聞こえた。





「「「「ボンジュール♪ムッシュ・パイロン☆」」」」





パイロンは悟った。



・・・泣いても、謝っても・・・もう、どうにもならないという事を。












「・・・どうやら・・・エリカさん達が仕留めたようですね・・・。」


外の音を聞いた葵は、戦闘の終了を確信した。


「・・・あぁ、みたいだな。ここまで作戦通りに動いてくれるとは、な。…振り回されていたコッチが、馬鹿らしくなるよ。」


「…データ不足だったんですよ…何しろ、町だとすぐに逃げてしまいますし…

 確実に追い詰めるには、ヤツのアジトが一番でしたからね」


「アタシとしては・・・ヤツの両腕を、炭化するまで燃やしておきたかったがな…」

「・・・物騒ですねェ・・・どうですか?小瓶、ありました?」


「・・・・・・・チッ・・・・ダメだ。」


…鉄球の鎖を調べていた葵とロベリアだったが、小瓶などついてはいなかった。


「・・・ついて、ませんでしたか・・・。」

「アタシらの気を逸らす為の嘘だったんだろうな…クソッ!」


途端に、ロベリアの声が荒々しくなった。

放り投げた鎖が、音を立てて床に落ちる。

しかし、葵は諦めてはいなかった。


「ロベリアさん、まだアジト全部探してませんし…もう少し…」


「アジトひっくり返しても、何も出なかったらどうするんだいッ!?

 これで、アタシは一生…誰かの胸に依存しなくちゃならない…

 刑務所に戻るまでも無い…一生、女の胸掴み続ける刑だよ…クソ…!!

 …アタシはもう終わりだ…!全部…全部無駄だったんだッ!畜生ッ!!」



呪いを解く為、我慢した日々も…

対パイロン戦を想定して行ってきた葵との特訓も…

全て、無駄に終わった・・・ロベリアは、そう言った。



そんなロベリアに、ついに葵は怒鳴った。



「その時は、その時考えますッ!!まだ全部探してもいないのに、勝手に諦めないで下さいッ!

 …貴女一人だけが、辛いみたいな言い方も・・・止めて下さいッ!」


胸を提供してきた葵は、全てが無駄と言われ、怒った。

葵の言葉に、ロベリアも激高した。



「なんだと?・・・テメエ・・・人の気も知らないで…ッ!!」



ロベリアは葵の胸倉を掴みかかり、2人は睨み合った。



「人の気知らないのはどっちですか!私は胸くらい、貴女に一生貸しても構いません!

 だか………



 ・・・・・・あ・・・あれ?手・・・離しても、大丈夫なんですか?」


ロベリアの手は、葵の胸倉を掴んでいて、完全に胸のふくらみから離れていた。


「・・・あ゛ぁ゛ん゛!?・・・・あ・・・あれ?そういえば・・・アタシ・・・」


・・・吐血、しない・・・。



「・・・や・・・・。」

「・・・やった・・・。」





こうして・・・・ロベリア=カルリーニは・・・・ふくらみの呪いから、無事解放された。










・・・が、この話はここでは終わらなかった。





パイロンを仕留めたエリカ達は、光武Fから降り、ロベリアと葵の帰還を待っていた。



「遅いねー。何してるんだろ、ロベリアと葵。」

コクリコは、あくびをしながら、2人を待っていた。


「呪いの特効薬・・・。もしや、みつからなかったんでしょうか・・・?」


花火は心配そうに、廃墟を見つめている。


「…全く…何をしているのだ…。」


溜息混じりに呟くグリシーヌ。心の内では心配しているのだろう。



「勝利のポーズ、4人だけだとエリカ寂しいです……エリカ、ちょっと様子を見てき…」

心配が頂点に達したエリカは、廃墟の方へと駆け出そうとした・・・


が。


そこへ、黄緑色のガリガリに痩せた身体に、頭には10本の触覚をつけた人物?が現れた。


その人物?は、先程、エリカ達が退治して消滅したパイロンの服を

地面から拾い上げると、ボロボロと泣き始めた。




「兄貴!兄貴ー!俺が、おっぱいプリン買ってくる間に、な、なんて事だああああ!!

 い、一体誰が、こんな事をおおおお!!」



・・・どうやら、パイロンの・・・親類らしい。


「・・・そ、そんな卑猥で素敵なプリンが、あるんですか・・・!?」


プリンの単語に、エリカは反応し、黄緑色の人物?に話しかけた。

「うわ、エリカ…やめなよ!!」

さすが、暴走組の代表・エリカ=フォンティーヌ。



「・・・な、なんだ!?オマエは!!」


「あ、どうも…こんばんは。通りすがりのプリン好きのエリカと申します♪」



「・・・・・あぁ、なんか面倒くさいな、アンタ…じゃあ・・・このプリン、アンタにやるよ・・・


 いや!!それより兄貴!・・・パイロン兄貴はどこだッ!?貴様、兄貴をどこへやった!!」


そんな2人のやり取りを残る3人は、呆れ顔で見ていた。


グリシーヌは、頭痛がしてきたと額に手を添えつつも、片手ではしっかりと斧を握った。


「・・・まったく、兄弟揃って品がないな。そこの黄緑色。なんとなく、わかるが、一応聞こう。

 何者だ?返答次第によっては・・・まあ、どんな返答でも、結果は同じだろうが…

 この私が、パイロン同様…即刻、退治してくれる…!」


「ちょ、ちょっと!グリシーヌ!」


花火は、恐れ知らずの親友を止めようとした。


「・・・うわぁ・・・柔らかいけど、形と先端部分の色使いが、卑猥ですねぇ・・・ほら、コクリコ、見てくださいコレ。」

「いや、おっぱいプリンは、今どうでもいいよ、ボク。」


エリカとコクリコの会話をよそに、グリシーヌの言葉を聞いた黄緑色の人物?は両腕を上げて怒り始めた。




「なんだと…き、貴様が兄貴を・・・!?・・・ゆ、許さんぞ!!兄貴の仇だーッ!!」



黄緑色の人物?は右手をグリシーヌに向けた。


コクリコは、この時・・・前にもこんな場面あったような、嫌な予感がした。



しかし、ちょっと・・・遅かった。





 ”ビー・・・”








「「「・・・・あ。」」」














一方、葵とロベリアは…。



「パイロンを倒した時点で呪い、解けたみたいですね。…良かったぁ…これで全て…解決ですね。」


「まあ、な。・・・その・・・さっきは悪かったな。」

「・・・いえ、私こそ・・・怒鳴ってしまって・・・。」


2人にとって、呪いが解けた今、もうそんな事どうでも良かった。

早く4人の所へ合流し、勝利のポーズを決めようと、アジト内を移動していた。



「・・・また、アンタに、借りが出来ちまったな・・・。」


歩きながら、ロベリアはボソリと言った。

彼女なりのお礼だ。


葵は、ニッコリ笑って答える。


「いえ・・・私は、隊長、ですから。」


少しムッとした表情をしながら、ロベリアは更に付け加える。


「…そうはいかないさ。葵、アタシはな、借りっぱなしは嫌なんだよ。必ず、返すからね。」


「・・・はい。」


笑いをかみ殺しながら、葵は返事をする。

自分の言葉が、隊長に本気で受けとられていない事に、更にムッとするロベリア。


「・・・フン、別に・・・今でも良いんだよ?アタシは。」


ロベリアの両手は、何を掴もうと、もう自由だ。

隊長の肩をつかんで、壁に押し付けるのも・・・自由。



「え?・・・ちょ、ちょっと…!?」


「アンタ、さっき、言ったじゃないか・・・アタシに、一生・・・胸貸すのは、構わないって。」

「・・・そ、それは・・・!」




なぜなら、ロベリアの呪いは解けたのだから。



・・・だから。



「今は、胸以外触っても、何ともないし…ねェ…?」



ロベリアの手は、自由に・・・どこでも、好きなトコロを触れる。


「・・・・・・・・・!」


壁に押し付けられた葵は、思った。


『喰われる…!・・・あれ?これ、前にも無かったっけ?』…と。




「あ、あの・・・み、みんなのトコへい、いい、行きませんッ!?」


抵抗しようとする葵。


「・・・あと、10分くらい後になったらね・・・」


それを更に、阻もうとする自由人ロベリア。





「大変!大変だよ!!」





そんな2人の元に、緊急事態を告げるコクリコがやってきた。


「・・・コクリコ?そんなに慌てて、どうかしたの?」

「・・・・・・・・・・・ちっ・・・。(イイトコだったのに…)」




息を切らせて走ってきたらしいコクリコは、大事な要点を話そうとした。



「・・・ぐ、グリシーヌが・・・大変ッ!!!」






要約されすぎたので、とりあえず、葵は全力で現場へと向かった。


そこでみた光景は・・・以前、どこかで見たような光景だった。




「・・・ぐはっ・・・ぐうう・・・」


「あ・・・葵さん!大変です!グリシーヌさんの顔色が良くなりません!」


グリシーヌが、吐血しながら地面に伏せ、エリカが治療を施している。



「・・・・こ、このパターンは・・・まさか・・・ふくらみの呪い!?

 そんな・・・パイロンは倒した筈・・・!」


必死に状況整理する葵に対し

自由人ロベリアは、グリシーヌの顔を覗き込んで言った。



「(※サフィール声)あらぁ〜ん?グリシーヌ様ぁ?苦しいでしょぉ?胸ならここにあるわよぉ?

 良かったら、触っていくぅ?言っておくけど…有料よ?や・さ・し・く・ね?」


不気味なほど満面の笑みを浮かべたロベリアは、グリシーヌに色々と話しかけていた。

しかし、全くと言っていいほど、自分の体をグリシーヌに近付けない所を見る限り・・・

ロベリアは、どうやら今回の騒動の件で、色々と…かなり、根に持っているようだ。



「ぐ、ぐうぅ・・・お、おのれェ・・・悪と…ぐぼはっ!!」


怒りに震えながら吐血する美少女ほど、見ていて怖いものはない。


「からかっていないで!早く!!」



葵は、グリシーヌの方へ歩み寄った。



「・・・わかりました!グリシーヌさん!もう、胸くらいなら慣れました!私の胸で…」



しかし、花火が待ったをかけた。


「葵さんッ!違うんですッ!!」

「え?」



「エリカ達、最善を尽くしたんですけど・・・ダメだったんです!」


「え?え?」



訳がわからない葵に、コクリコが、要点だけを上手に報告した。



「さっきね…パイロンの弟が来て…


 ”お尻がなければ生きていけない身体にしてやる”って、グリシーヌにビームを・・・!」




「・・・・・・・・え・・・・お尻・・・・?」


葵の思考回路は、ぷつりと5秒ほど止まった。



「・・・今度は、尻か・・・!」


ロベリアは、半ば呆れ気味に呟いた。




「・・・ぐうぅ・・・ぐはっ・・・ぅう…」





「ボクらじゃダメなんだよ!ロベリア!葵ーッ!どっちか、お尻触らせてあげてーッ!!」


「そうです!今度はお尻です!きゅっとしまった筋肉質なカンジのお尻をッ!」


「・・・なんだか、恥ずかしい会話ですね・・・ぽっ。」



葵は、ロベリアに小声で言った。


「・・・ロベリアさん・・・さっきの借り、ここで返して下さい。」


「いや…隊長、ここは、アンタしかいない。」



「ロベリアさん!さっきの借りのくだりは!?」


「さっきはさっき。今は、今だよ。

 それに、グリシーヌがアタシの尻なんか、素直に触るはずないだろ?」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」




・・・ごもっともな意見だった。














「で?」



司令・グラン・マの眉間に、珍しく皺が寄っている。

いつもなら、優雅に茶を楽しむ時間なのに、目の前には冷め切ったティーカップ。


そして。


グラン・マの目の前には、優雅とは程遠い状態の隊長・月代葵とグリシーヌ=ブルーメールがいた。

力なく、葵は報告をした。



「・・・で、私が・・・グリシーヌさんにお尻を貸している状態です。」

「命には代えられん。それに・・・葵が一番・・・何故か、しっくりくるのだ。」


憂鬱そうな表情の葵、その葵の後ろにそっと張り付く険しい顔のグリシーヌ(輸血中)。

グラン・マは、溜息をついた。



「・・・はぁ・・・まったく・・・巴里もどうなっちまったんだい・・・。」







…彼女達は、また一つ大切な事を学んだ。


  『油断大敵。』



ちなみに、彼女達が、怪人パイロンの弟、怪人シリメッツを倒し

胸や尻ではなく、いつもの平穏な日々を”掴む”のは、1週間先の事である。





― 『命綱は君のふくらみ』 ・・・ END―


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あとがき


・・・はい、アホなネタでしたね(笑)

でも、この手のくだらないネタがどうしようもなく、大好きなんです私。

ちなみに、神楽は”おっぱい派”です。(どうでもいいよ)


・・・いい加減にしないと、いくら二次創作でも怒られるでしょうか?(苦笑)

本来、グリシーヌさん他色々は、こんな人じゃないんでしょうけれど・・・嗚呼、お許し下さい・・・。