[ 飛び出せ!カンカン娘 ]






「また、失敗しちゃいました…」


いつもの事じゃないか、とボク、コクリコは思ったんだけど、エリカがあまりにも、落ち込むので慰める。


「エリカ、過ぎたことを言っても仕方ないよ!それよりも、明日の準備しないと!・・・ね?」

「う〜…ロベリアさんに…”バーカ!”って、言われちゃいました…」


…もうっ…余計な事を言うよなぁ…ロベリアのヤツ…


「ロベリアは、元々口が悪いんだから…気にしないで、良いんじゃないのかな?」

「……そうでしょうか?エリカ足手まといなんじゃないかって…」


・・・確かに、正直・・・時々そういう事あるけどさ・・・。

これを正直に言うのは、ちょっとヒドイよね。だからボクはこう言った。


「・・・あのさ、ロベリアは、元々性格も口も悪いけど、根は結構良い所あるじゃない?

 たぶん…むしろ、これを踏み台にして、エリカにも〜っと頑張って欲しいんだよ!・・・たぶん。」



・・・ちょ、ちょっと、言い過ぎたカナ・・・


 あ・の!


ロベリアが、そんな事を思うわけは、無いって解ってるんだけど・・・


・・・し、仕方ないじゃない?


エリカのやる気を引き出すためだもん!!


「…なるほど!ロベリアさんは、私のやる気を…試していらっしゃるのですね!仲間として!!」


エリカは、納得して、立ち直ってくれたみたいだった…

輝くエリカの瞳に、ボクはちょっと”罪悪感”ってヤツを感じる。

嘘は言ってないつもりだけれど・・・ちょっと言い過ぎたかもしれない。


(・・・ゴメン、エリカ。)


「神よ…私の成長を願ってくれる仲間をお与え下さいまして…心から感謝します…」


(…うわぁ…祈ってる…)


その場に跪いて、祈るエリカに、ボクの罪悪感が更に募る。

ボクも心の中で神様に祈る。



(ごめんなさい、神様…。)



次の日のレビュー。



ロベリアはレビューに出る為、刑務所からやって来る。

舞台裏に入るなり、エリカの頭を叩いて「・・・今度は、トチるんじゃないよ。エリカ。」と言った。


……相変わらず、口悪いんだから…。


「…あ、はいっ♪ロベリアさん♪」


だけど、頭を叩かれたエリカは嬉しそうに答えた。




昨日のボクの励ましが効いているのか、ロベリアのイヤミも・・・



…今、考えると…




・・・エリカにとっては・・・起爆剤、だったんだ・・・。





「では、皆…いくぞ!」

「ええ。」

「ハイっ♪」

「あいよ。」

「うん!」



シャノワール名物 フレンチカンカン。


ボクは真ん中。

隣はロベリアとグリシーヌ。

端っこにエリカと、花火。


足を上げて、元気よく


5人全員の息をぴったり合わせて踊る、なかなか難しい踊り。


でも、お客さんみんなをとっても、楽しませるダンスだ。




・・・・・・・で、心配なのは…エリカだ。

ボクは…(ホントはダメなんだけど)少しエリカを見た。



キラキラと笑顔全開で、楽しそうに踊っている。


(・・・ボクの取越し苦労だったみたい・・・)


あんなに笑顔で踊っているんだもの…もう、何もいうことないや、とおもっちゃったんだよね・・・


…だけど…。


エリカの”張り切っちゃう癖”を、ボクはすっかり忘れていた…。

そして、その結果・・・大体どういう結果が待っているのか、すらも。



「・・・・・・あっ!」



「な、何!?」



エリカが派手にコケて、グリシーヌにぶち当たる。


 悪い予感が、的中した。


二人がもつれて、ボクの方に倒れてくるのがスローモーションで見える。


(…わあ…っ!)


咄嗟にボクは目をつぶってガードしたんだけど、巻き込まれるのは絶対、だ。




− その時 −



フワリと、ボクの身体が宙に浮いた感じがした。



「キャー!!」





ドタタ…!ガタン!!ドスン!!グシャ・・・!







ボクが目を開けたら…


「あ、あれ・・・?」


ボクは、安全な舞台のそでの方で、尻餅をついていた。




そして、ボクが恐る恐る、舞台の中央に目をやると



そこには・・・









「み、みんな・・・!!」




言葉を失うボク、それからメル・シー…それから、客席のみんな…


いや、それよりも何よりも!





エリカが、ロベリアのスカートの中に頭突っ込んで、倒れていて


グリシーヌが、ロベリアの頭の上で座り込んでいて


花火は、その3人の下敷きになっていた。





一番の被害者は、どうみても ”ロベリア” だ。






シ―――――――――――――――――――――ン。






静まり返る テアトル・シャノワール。







「サ、サフィール(※ロベリアの芸名)!!!」



という、エビヤン警部の叫びが響いた後。







「幕をお下げええええええええええ!!!」




とグラン・マの怒号が響いた。


幕は一旦閉じられた。

幕の外では、メル・シーが必死にその場をどうにかまとめてくれる必死のアナウンスが聞こえる。



「…一体全体、何があったんだい!?なんだい!?このザマは!!一体なんなんだい!?」


怖い顔のグラン・マが、ドカドカと舞台に上がる。



ボクが勇気を出して、説明しようと立ち上がった。

・・・だけど、その前にしなきゃいけない事があった。



「ぐ、グラン・マ!あのね・・・あの、ちょっと、待って!説明はすぐにするから!ちょっとだけ、待って!」




「…ぐッ!…ふ…ッ!?」


ロベリアが、グリシーヌの太ももを叩く。…たぶん、息が出来ないんだろう。

ボクは、すぐさま駆け寄って、完全に放心しているグリシーヌに呼び掛ける。


「グリシーヌ!グリシーヌってば!!早く、ロベリアから降りて!!」


「・・・え・・・あ…ッ!!うわああッ!?す、すまぬッ!!!」




「―ッぶはあああああああああッ!!」




ロベリアは、必死な形相で起き上がった。



「……はぁ…はぁ…死ぬトコだった…!!」


「だ、大丈夫か?ロベリア!」 「ロベリア!大丈夫?」


ロベリアは、ボクとグリシーヌの顔を見比べた後、グリシーヌに向かって叫んだ。




「……どこをどうしたら、顔面騎乗位で倒れ込めるんだよ!?テメエはッ!!」




ガンメンキジョウイ?何?それ…『技』かなんか?


グリシーヌはそれを聞くと、顔を赤くしたけどすぐさま、”ガンメンキジョウイになった理由”を口にした。



「そ、それは…エリカが…倒れこんできて、だな…!私のほ、ほほ、本意ではないッ!だ、断じてだッ!!」




「…ほぉう…そうかいそうかい…エーリーカァー…!」



ロベリアの怒りの低い声の呼び声に、エリカが返事をした。


「…は、はいぃ…」


…勿論、ロベリアのスカートの中から、だけどね。



「いつまで、人の股間に頭突っ込んでんだ!?テメエ!!」



ロベリアがスカートを捲り上げて、中にいるエリカを叱り飛ばす。


……ゴメン、今回ばかりは庇えないよ、エリカ…。



「ゴ、ゴメンナサイィ…!!」



小さい声で、ロベリアの股の間から、エリカが謝る。




「だから!股の間から謝ってんじゃねえよ…とっとと、どけ!って言ってるんだよ!!」



エリカはロベリアに怒鳴られて、それはもう、落ち込んでいた。


「ああ、神よ…私は罪深いダンサーです…!」


目を潤ませて、ロベリアの股間に向かって祈るエリカ。



「だから!人の股の間で、祈るなあああ!」





「・・・・・はあ・・・」


グランマの深い溜息。


そりゃ、そうだ・・・。




…これが、ボク達、巴里の街を護る、巴里華撃団ですー…


………なーんて、この状況では、とても言えない。






「…あ…あの…私…苦し…潰れ…」





一番下の花火が苦しそうに、最後のSOSを出し・・・今日のレビューは、最悪の形で終わった。




・・・でも、ボクだけにはちょっと、嬉しい事があったんだよね。

不幸中の幸いってヤツ?


「…チッ!……クソ…首痛ぇ……ったく…グリシーヌのヤツ…いや、エリカのせいだな…」


楽屋で、ブツブツ愚痴るロベリアは、首をさすっていた。


多分、余程・・・グリシーヌの”ガンメンキジョウイ”って『技』が効いたんだろうな…。



エリカ・グリシーヌは、グラン・マのお説教部屋。



ボクとロベリア(被害者No.1)と花火(被害者No.2)だけは、お咎めは無しだった。

…まあ、被害者チームだもんね、ボクら。


「・・・ロベリア、はい氷。」

「…ああ、気が利くな…貰うよ。」


ボクは、ロベリアに氷のうを差し出すと、ロベリアは珍しくすんなり受け取ってくれた。

それからロベリアが氷のうを首につけて『あ゛―』って声を出す所をみて、ボクは思わずニッコリと笑った。


「…何が可笑しい?」


ロベリアが睨んでくるので、ボクは”お礼”を言う。


「・・・ありがと、ロベリア。」

「あぁ?何の事だ?」

素っ気無い返事が返ってくることは薄々解っていたけどね…。

ボクはロベリアの隣に座って言った。



「レビューの時、ボクを持ち上げて、舞台袖に放り投げて・・・巻き込まれないようにしてくれたでしょ?」


「…………さてね、覚えてないね。首が痛すぎて。」


素っ気無くそう言って、ロベリアはそっぽを向いた。


…いっつも、そうなんだから。素直に”どういたしまして”を言えないロベリア。

でも、ボクは、こういう時のロベリア…結構、好きなんだ。


お礼にと、ボクが頬にキスをすると…意外な事に、ロベリアは驚いて、また首を痛めてしまった。



ちなみに。



エリカとグリシーヌは罰として1週間シャノワールの掃除。

花火は、その時の出来事を話すたびに『…ぽっ』としか言わない。



・・・確かに、恥ずかしい。

シャノワールの”黒歴史”とまで言われた事件だ。誰もその事件を口にするものはいない。



それから、巴里の本屋では・・・ボクは内容とか、どういうモノかは、よく知らないんだけど・・・


 ”サフィール総受け”なんていう…ドウジンシ?ってヤツが流行ったらしい。


ボク達が主役で書かれているらしいから、ボクは見たかったんだけど

ロベリアがその噂の直後、本を全て燃やしてしまったらしくて…。


・・・とっても残念だ。



END


―あとがき―

修正:2009.11.10


すいません、こんな下ネタばっかりで…

可愛いですよね、コクリコって♪このサイトのサクラ大戦SSの最後の砦のような存在です。