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「はい、茉子ちゃん♪うちの実家の特製のお薬。切り傷によう効いて、痕残らへんから。」



黒子さんが、包帯を持ってくると同時に、花織ことはが、私こと、白石茉子の元へやってきた。


・・・その小脇に抱えた、大きいボウルに入ってるの、フ〇ーチェじゃないよね?やっぱ・・・(苦笑)


「・・・ちょっと、その・・・薬の量、多くない?ことは」



それに無言で頷く黒子さん。


すると、気まずそうにことはは、説明した。


「えと・・・うち、阿呆やから、よく分量間違えてしもうて…ちょっと、分量間違えて、多くなって・・・。

 …ちゃんと出来る頃には、何故か…作ろうと思うとった5倍の量になるんよ…。」


(・・・どうして、5倍に・・・。)なんて私が考えていると、ことはは、しょんぼりと俯いた。


「・・・あ・・・やっぱ・・・迷惑、やった・・・?」


「あ、ううん!そうじゃなくてね。それ、塗って塗って。……あ、でも、かすり傷だし。ちょっとでいいから。・・・ね?」


そう言うと、ことはは、ぱあっと笑顔になって”うん!”と嬉しそうに私の隣に座った。


私は、黒子さんに目配せをした。黒子さんはこくりと静かに頷き、薬箱を置いて部屋から出てくれた。

腕の傷口に、指で薬を塗りながら、ことはが言った。


「・・・茉子ちゃん、お母さんに会えて、良かったなぁ?」


久々の父と…そして、母との再会。


会えるなんて思ってなかったし、聞けるとも思ってなかった…でも、ずっと待っていた言葉を聞く事が出来た。

それだけで、今の私の心は、満たされていた。


「・・・・・・うん。でも、その話やめない?なんか、恥ずかしいから。」


ことは達に母子の再会を見守れてるのを知っているだけに、少々…いや、かなり恥ずかしい。

そして、くすぐったい。


「…そんなん言うもんやないって…。茉子ちゃんが、一番ぎゅーってして欲しかったんは、お母さんやったんやもん。

 それが叶ったんやし。何も恥ずかしい事、あらへんよ。」



ことははそう言って、薬を塗り終えて、ガーゼをあて、包帯を巻きだした。


「・・・・・うん・・・そう、かもね・・・。」


相手がことはだから、かもしれない。私は素直に、それを認めた。


「…どおりで。……うちやったら、代わりにならへんもんなぁ…ふふふ。」


「・・・代わりってどういう意味?」


「前に・・・たまには、うちも茉子ちゃんの事、ぎゅーってしてもええ?って言うたの…覚えてる?」

「・・・うん。覚えてる。」


「・・・でも、うちと茉子ちゃんのお母さん、比べたら・・・そら、お母さんやなぁって・・・。」



(・・・どうして、そこで変な事、比べるのよ・・・)私はそう思った。



……肝心な事、わかってないのね…。



「ことは。」

「ん?・・・わっ!?」



私は、ことはの腕をつかんで、強引に引き寄せた。



ことはの手から落ちた、包帯が畳の上を転がっていく。

腕の痛みなんか、どうだっていい。


今は、ことはに伝えたいから、こうするだけ。




「「 ―――― 。」」




どのくらい、そうしていたんだろう。

包帯が部屋の壁にぶつかって動きを止める頃、私はことはの口を塞いでいた唇を離した。




「・・・・っ・・・・茉子、ちゃん・・・?」



「・・・ことはの”代わり”なんて、いないから。」



私は、そう言って包帯を巻き直そうと、さっさと立ち上がった。

顔を真っ赤にしたことはは身を小さくして、口元をおさえていた。



(・・・・・ちょっと、刺激、強すぎたかしら・・・。)


いや・・・それもこれも、変な事、ことはが言うからよ。


「…あ……そういえばさ…ことは…」

「え・・・あ・・・なに?」


ぼーっとしたままのことはの返事を聞いた私は転がった包帯を拾い上げ、再び包帯を巻きなおした。


「あたしが…あの時、シンケンジャー、辞めるって言ってたら…ことは、どうしてた?」


「…なんで、そんなん聞くん?茉子ちゃん。」


「だって、今回お父さんが来た時、特にことは、何も言ってなかったじゃない。」


私、ちょっとは止めてくれる、とか期待してたんだけど。と心の中で呟く私。

だけど、ことはからは意外な返事が返って来た。



「・・・・・そんなん、決まってるもん。」



「え?・・・”決まってる”って?」


私は包帯を巻きながら、ことはの方へと歩いて行った。



「茉子ちゃんは、シンケンジャー辞めへんって、言ってたし、うちもそれ信じてたから。


 ・・・それに、うちの・・・いや、うちも、茉子ちゃんの代わりは、いてへんって思うし。」



真っ直ぐな瞳で私を見つめながら、笑って、ことははそう言った。

途中詰まった言葉が、少し気にはなるけど…まあ、大体想像がつくから、よしとして。


”・・・なるほどね。”と私は、納得してことはの隣に座った。


 そうか・・・だから、彼女は”何も言わなかった”のか。 




「・・・はい、やり直し。」

私が、そう言って巻きなおした包帯をことはに渡す。



「はい。」

ことはは、それを受け取り、笑顔で頷いた。




「・・・ところで、茉子ちゃん。」


「・・・・・ん?」




「・・・さっきの・・・たまには、うちからもして…ええやんな?」



「・・・・・・え・・・。」




せっかく巻きなおした包帯が、また畳の上を転がる。



今度は、壁にぶつかっても・・・私達は離れなかった。








   ― END ―





あとがき

WEB拍手SSに更に、追記修正しました!たまには、ことはからもしてええやんなぁ?(誰に聞いてるんだ)

茉子さん主役の34幕・・・すごく良かったですねッ!

演技も演出も展開も全て!惚れ直しましたッ!!茉子姉さん!!

彼女が、以前からしょんぼりしている人をみると、ぎゅーっとしたくなる、というのは

自分が、そうして欲しかった時に、ぎゅーっとして欲しかった人がいなかったから、だと…私、勝手に読みましたよ!妄想しましたよ!

違うって言われてもそうだと信じてる!!


そして!茉子さんの母上役が…”伊藤かずえ様”なんて、どれだけ豪華なんですかっ!!!

・・・で、今回の34幕。肝心のことはの出番が少なくて・・・。(笑)

ハワイ行きを止めたり、茉子ちゃん辞めたらどうしようとかそういう迷いも全く無かった・・・その理由を勝手に妄想しました!

・・・そう、信じてるから何も言わない!・・・そして、何も言わずに唇で伝え・・・(殴)


・・・・・・まあ、そういう事ですよ。