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茉子ちゃんの癖、というんかな・・・。


・・・茉子ちゃんは、優しい人やから。




「・・・ふ、普通ってなんだよ・・・寿司喰って美味いか不味いかって聞いてるのに”普通”ってなんだよぉ・・・っ!!」


源さんのお寿司、うちは美味しいと思う。・・・けど、皆は”普通”と言う・・・なんでやろ?

普通って・・・褒め言葉って事に、ならへんのかな・・・。

とにかく、源さんは新作のお寿司をうちらに食べさせてくれたんやけど・・・

皆の評価は、いつも通り”普通”やったせいで、源さんはむっちゃ落ち込んでいた。


「親分!元気出してくだせえッ!!マズイって吐き出されるより、よっぽどマシでえいッ!」


「ダイゴヨウ!!お前は何も解ってない!・・・”普通”ってのはな!普通って事なんだよ!

このままじゃ、美味くもなければ、不味くも無い・・・俺の寿司は、誰の記憶にも残らない普通の寿司のままなんだ・・・ッ!

お前も普通の寿司屋の普通の提灯だぞ!いいのか!?」


「ふ、普通の提灯・・・!?・・・い、嫌ーッ!!お、親分―ッ!!(泣)」


源さんに八つ当たりされたダイゴヨウが、ピカピカ悲しそうに光る。


「あの、源さん・・・さっきの新作寿司、うちは、好きな味やったよ?だから、元気出して・・・。」


うちこと、花織ことはがそう言うと、茉子ちゃんはうちの隣から立ち上がって、うちの隣に座っている源さんの隣に座りなおした。


「・・・まあまあ、源太。ダイゴヨウにそんなに当たらないで。普通が一番、って事もあるのよ。」


「2人共、今は慰めは、よしてくれい・・・!!

(・・・第一、茉子ちゃんが言っても説得力無い・・・って、コレ言わねえ方がいいよな・・・。)」

※注 ()は源太が飲み込んだ言葉です。


「源さん・・・。」

うちは、それ以上なんて言ったら良いか解らなくなってしもうて・・・口をつぐんだ。


「・・・ねえ、源太・・・普通って、思ってるより凄い事だよ?普通っていうかさ…変わらない味っていうのも、ある意味・・・悪くは無いんじゃないかな?」


茉子ちゃんの表情が、一瞬暗くなる。


「・・・あの・・・あたしみたいに、何作っても、警戒されたり、マズイって言われるより、よっぽど・・・。」


・・・茉子ちゃん・・・あんなに美味しい料理作れるのに、そんな事気にしとったん・・・?

※注 ことはにとっては、茉子さんの料理は”美味しい”・・・んだそうです。


「・・・茉子ちゃん・・・!(じ、自覚している・・・ッ!)」

※注 ()は源太が飲み込んだ言葉です。


「ね?だから、元気出してよ、源太。

それにさ、普通から”美味しい”に変わる可能性もあるんだし。第一、このまま諦めるの、源太らしくないよ?」


そう言って、茉子ちゃんは微笑みながら、源さんの頭を撫でた。


「・・・お、おう・・・。」


うちは・・・それを、黙ってみていた。


「・・・・・・・。」


茉子ちゃんは、元気の無い人をみると”ぎゅっとしなきゃスイッチ”が入ってしまう。

今も、ニコニコして、嬉しそうに・・・元気の無い源さんの頭を撫で続ける。


・・・そんで・・・うちは・・・黙ってそれを見てるだけ。



『・・・茉子ちゃん、源さんの事・・・今、ぎゅってするんやろか・・・。』と心の中で呟いた。



そう思った瞬間・・・『あ、それは嫌やなぁ。』・・・って、思うた。



・・・源さんも、茉子ちゃんも、なんにも悪うないのに・・・。


・・・なんでやろ・・・?


・・・なんやろか・・・この気持ち・・・なんや、もやもやする・・・・・・。



『・・・茉子ちゃん・・・源さんの事、ぎゅって、するんやろか・・・』

『・・・嫌やなぁ・・・。』


その呟きの繰り返し。


・・・そんで・・・そんな事を思っている自分が一番、なんか嫌やな、って思うようになって・・・。


「・・・あ・・・あの・・・うち、ちょっと・・・先帰ってるね・・・。」


・・・これ以上、ここにおったらあかん気がした。だから、立ち上がった。


「・・・え?ことは、どうしたの?」


茉子ちゃんが、うちと目線を合わせようとしたけど、うちは逸らした。


・・・正直、茉子ちゃんの顔、見られへんかった・・・。



「・・・う、ううん・・・うち、用事思い出しただけやから。あの・・・源さん、ごちそうさま。元気出してね・・・じゃ!」


「お、おう・・・ありがとな・・・って・・・・・・・ことはちゃん、帰るの早っ!?」


うちは走った。全力で走ったら、ちょっとは、このモヤモヤ消えてくれるかもしれへんし・・・。




「・・・はあっ・・・はあっ・・・!」



・・・今日のうち・・・なんやわからんけど、嫌な感じや・・・!

・・・こんなん、初めてや・・・!


・・・よくわからへんけど・・・茉子ちゃんが、他の人をぎゅってするのが、なんか見とうなくて・・・モヤモヤする・・・ッ!

他の人に、微笑みかけるのも・・・なんや見てたら、なんや・・・もやもやして・・・!


『・・・嫌や・・・。』


うちは、何が嫌なんやろか・・・?別に、誰も、悪う無いのに・・・。


『・・・嫌や・・・。』


何が、嫌、なんやろ・・・茉子ちゃんが、うちの隣から、立ち上がった時・・・から・・・ずっと・・・

・・・茉子ちゃんと離れていくような気がし・・・



「・・・ことは!」



後ろから手首を掴まれて、うちは振り向いた。


「あ・・・茉子、ちゃん・・・?」


うちの手首をしっかり掴んでいるのは、息を切らせた茉子ちゃんやった。


「はー・・・やっと追いついた!・・・・・・もう・・・そんな顔して走り去るから・・・気になって、気になって・・・」

息を整えつつも、うちの手首を茉子ちゃんはしっかりと握っていた。


『・・・あ、嬉しい。』


・・・一瞬、そんな阿呆な事、考えてしもうた・・・。


・・・うち・・・ホンマにアカンなぁ・・・。

源さんの悩みも中途半端にしてしもうて、茉子ちゃんにまで心配かけて、こんな目に合わせてしもうて・・・



「あの・・・茉子ちゃん・・・ご、ごめんなさ…「謝らないの。」


「え・・・?」


「そんな顔して・・・いきなり走り去っちゃうんだもの。当然、あたしは追いかけるわよ。」


「そ、そんな顔って、うち・・・どんな酷い顔、してるん?」


うちがそう聞くと、茉子ちゃんは額の汗を拭いながら、笑っていった。


「ふふっ・・・酷くなんかないわよ。・・・でも・・・あたしが、ぎゅ〜って、したくてたまらなくなる・・・そんな顔してる。今も。」


そう言って、茉子ちゃんはうちの手首を引っ張って、ぎゅっと強く抱き締めてくれた。


「・・・でも・・・源さんが・・・」

「・・・源太は、もう立ち直ったわよ、大丈夫。・・・今度は、ことはの番。」


息を弾ませた茉子ちゃんの胸の鼓動が、うちの身体にも伝わってくる。


「・・・でも、茉子ちゃん・・・うち、ようわからへんの。

・・・なんや、茉子ちゃんと源さん見てたら、気持ちがなんやもやもやして・・・誰も悪うないのに・・・。

・・・なんやろ・・・えーと・・・なんや・・・なんや、もやもやして・・・」


・・・言葉が上手く出てこうへんかった・・・。

でも、茉子ちゃんは、うちをぎゅっと抱き締めながらこう言うた。


「・・・・・・・そっか・・・わかった。・・・もう言わなくてもいいよ。ことは。」


「・・・え?わかったん?」


やっぱり、茉子ちゃんは、すごい・・・。


「・・・うん。だから・・・とりあえず、もうちょっと・・・ぎゅって、してあげる。というか、ぎゅってさせて。」


「・・・・あ・・・うん・・・。」


ちょっと苦しいくらい茉子ちゃんは、うちをぎゅって抱き締めてくれた。

茉子ちゃんにぎゅってされると・・・うちの心はほんわか温かくなる。


・・・・・・でも・・・一体、なんなんやろ・・・さっきまでの、あの・・・モヤモヤと自分への嫌悪感。


茉子ちゃんには解るらしいのに、うちはまだ、わからへん・・・。


しかも・・・今は、何にも無かったように、あのモヤモヤ・・・無くなってるし・・・。


・・・ホンマにわからへん・・・。うち、どないなって、しもうたんやろ・・・。


わからへんけど・・・茉子ちゃんに、ぎゅ〜ってされている今、すごく温かくて、安心する。

さっきの自己嫌悪が、嘘みたいで。


「・・・なあ、茉子ちゃん・・・うち、よくわからへんけど・・・茉子ちゃんにぎゅってされんの、すごい、好きや・・・

・・・でも・・・茉子ちゃんが、他の人、ぎゅってしてるん見るんは・・・なんや・・・・・・もやもや、する・・・。」


「・・・・・・・うん、わかってる・・・。」


茉子ちゃんは、意味ありげに笑っていた。

結局、モヤモヤの正体はようわからんままやったけど・・・そんなん、忘れるくらい・・・茉子ちゃんは温かくて、柔らかくて・・・。



「でも・・・でもな、茉子ちゃん・・・また、うち、こんな変なわからん気持ちになったら・・・今度はどないしたらええんやろか・・・」


「・・・大丈夫。予防策あるから。」


「・・・え?なに?」


うちがそう聞くと、茉子ちゃんはうちの顔をじっとみつめて鼻をつまんで、そのまま顔を近づけてきた。


「・・・ぷはっ・・・」



息を吐いた瞬間、柔らかい感触が唇に伝わり、うちが少し開いた口の中にも茉子ちゃんの温かさが伝わってくる・・・。

それは、少しも嫌やなくて・・・。

ホンマに、茉子ちゃんは…優しくて…優しくて…大好きや…。


背中に回された茉子ちゃんの腕の力に負けないように、うちも茉子ちゃんの背中に腕をまわす。

うちは、そのまま・・・とろっとした優しい感覚に包まれ、その後・・・茉子ちゃんは、ゆっくりと離れた。


「・・・”これ”は・・・ことはにだけにしか、しないからね。」

「・・・むぅ・・・茉子ちゃん・・・それ、答えに・・・なってるん?」


うちが沸騰しそうな頭でひねり出した質問を、ぽつりと出しても、茉子ちゃんはにっこり嬉しそうに笑っていた。










 [ 『人は、それを”やきもち”と呼ぶ。』 ・・・END ]
















 [ オマケSS・・・『幸せの音』 ]






生傷が絶えない、毎日。

外道衆との戦いと稽古の日々。


「茉子ちゃん、傷・・・痛む?」

「大丈夫。もう平気だから、そんなに心配しないで。」

あたし、こと白石茉子は、心配そうにこちらを見ていることはに、笑ってそう答えた。


「・・・だって・・・怪我したん、茉子ちゃんの利き腕やし・・・心配せえへん方が無理やって・・・。」


そう言って、彼女はあたしの腕をさすってくれた。

包帯の上からでも、ことはの優しさは十分伝わってくる。


「ありがとう、ことは。でも、もう・・・」


”もういいよ”と言おうとしたが、ことはは手を離さず、言った。


「・・・うちが、怪我した時も、茉子ちゃん・・・こうして撫でてくれたん、覚えてる?」

「え・・・あ、うん・・・。」


心配をかけると罪悪感が、まず始めにくる。あたしは、侍の子。しっかりしなきゃいけないと、思って戦ってきた。

だから、仲間であることはや皆に心配をかけると、まず・・・『迷惑かけたな』なんて、思う。

”あたしがもっと強かったら・・・。”と反省する毎日。


だけど。


「立場、逆やったら、きっと・・・同じ事考えるわ。仲間が怪我したら、心配やし・・・。

・・・それになぁ・・・うち、こうやって、手当てしてもらった後、茉子ちゃんに撫でてもらえて嬉しかったから。」

「・・・・うん・・・。」


それは、ことはも一緒。

何気ない事だけど・・・こうやって、あたしは・・・ことはに支えられているんだ、と感じる。


「茉子ちゃん、御飯食べてる時、ちょっとぎこちなかったから・・・うち、ずっと気にしてた。」

「・・・あ、あれは・・・まあ、ちょっと、ね。」


よく見てるんだなぁ、と思ってあたしは笑った。


「・・・食べにくいんやったら・・・言うてくれたら、うちが食べさせてあげたのに・・・。」

「・・・それ、もしかして、”あーんして”とかってヤツ?」


・・・丈瑠達の前で、それはいくらなんでも・・・。

・・・絶対、千明とか、からかって写メ撮られそうだし・・・。


「・・・・・・あかん?」


そんな苦笑いのあたしに対し、ことはは真剣そのものの表情で聞いてくる。

いつも真っ直ぐ。 ストレート。 直球。


「・・・んー・・・恥ずかしい、かな・・・。」


あたしは、そう言ってむず痒い思いをこらえて上を見る。


「・・・茉子ちゃん、そんな風に笑わんといて。」


ことはがあたしの両頬に両手を添えて、あたしの顔を無理矢理、自分の方へと向かせる。


「・・・こと、は・・・?」

「・・・うち、そんなに・・・頼りにならへん?」


悲しそうな、辛そうな表情で、あたしの顔をみつめることはに、あたしはただ「・・・そんな事、言ってないじゃない。」としか言えずにいた。


・・・本当は、逆かもしれない。

頼りになってないのは、あたしの方なんじゃないかって思ってる。


「・・・・・・。」


無言で、ことははあたしを抱き締めた。

「こ、ことは・・・?」


ただ、ひたすら・・・強く、強く、無言のままことはに抱き締められたあたしは、どうにも動けずに、しばらくそのままじっとしていた。

心臓の音が、すぐ傍で聞こえる。


ことはの鼓動と呼吸を感じながらも・・・


『うちに、もう少しは甘えて。』というメッセージが、なんとなく・・・。

・・・そう・・・なんとなく、そんな言葉が聞こえたような気がした。


・・・無言の方が、より・・・言葉が、気持ちが伝わってくる気が・・・して・・・。


(・・・じゃあ・・・)


ことはが、やはり無言のままあたしの身体から離れると、あたしは黙って瞼を閉じた。

そして、唇に降ってくる感触に、あたしは甘える事にした。


無音の室内で、あたしは無言のまま、ことはの優しさに包まれていった。

無言のまま、あたしは左腕でことはの背中に触れ、心の中でそっと呟いた。



『・・・ありがとう、ことは。』



・・・この気持ちが、きっとことはに伝わってる筈だ、と思いながら・・・あたしは、物言わぬ唇の感触に甘えた。

なんだか涙が出てきた。

傷が痛むとかじゃなく。この優しさが嬉しいのだ、と思う。


そして、その涙は、すぐにことはの唇で拭われた。




「・・・・・・・・・茉子ちゃん、あと・・・なんかして欲しい事ある?」


そう聞かれて、あたしは答えた。


「・・・笛、吹いて。聞きたいの・・・ことはの笛。」

「・・・うん、わかった。」


なんだか、無性にことはの笛の音が聞きたくなって、そう言うと、ことはは微笑んでゆっくり頷くと、あたしを縁側へと連れて出した。


縁側に座り、笛を吹いてることはの隣に座り、あたしは月を見ていた。

心地良い笛の音。

なんだか、今夜はよく眠れそうな気がする。そんな安らぎを感じていた。





[  『幸せの音』・・・END ]






あとがき

前者のSSは、WEB拍手にて公開していたSSです。

ことはなりの”やきもち”の話です。だけど本人には妬いてるとか自覚そんなにないだろう、と思いつつ。

今回は、いっつも鼻血出してる茉子さんではないので、気付いてちゃんと対処してくれると思います。多分。(失礼ですよ)

後者のSSは、茉子さん視点で、ぽっと思いついたSSです。だから、特にオチとか、鼻血とか、変態要素とかそういうの無しです。