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[ 真剣バレンタイン。 ]











料理が得意な人に、手作りの食べ物を渡すんは・・・結構、勇気がいるもんやな、って思う。

 ※注 ことはの中で茉子さんは料理上手、という事になっている。


(・・・茉子ちゃん・・・うちなんかの、喜んでくれるやろか・・・。)



・・・実は、用意、してました・・・。



・・・でも、渡せてません。




チョコレートを買ってきて、溶かして固めるだけって感じの、普通の、チョコレート。

・・・茉子ちゃんは、うちよりずっと大人っぽいから・・・思い切って、ビターチョコレートを使って、飾りもシンプルにしてみた。

でも、茉子ちゃん可愛いのも好きやしって思って、デコペンで亀を描こうとしたら、なんか気味悪いメロンになってしもうたし・・・。


さっき、固める前に味見も一応、してみたけど・・・うちにはどうにも苦く感じて・・・。

・・・ちょっと苦手かも・・・。大人の人って、みんな、こんなん好きなんやろか・・・。


(茉子ちゃんも・・・好き、なんやろか、こういうの・・・。)



「・・・・・・やっぱ、やめとこかな・・・。」


こんなチョコレート渡すんは・・・やっぱ、あかん気がする・・・。


ホンマは昼間、ぱっと勢いで渡そうかと思ったんやけど・・・

・・・黒子さんが何故かバタバタと倒れてしもうて・・・すっかり、渡しそびれて・・・。


※注 原因は[シンケンガールズバレンタイン]参照。



(・・・・・・やっぱり、あかんなぁ・・・。)



諦めて、包みを開けて、一口食べてみる。


・・・やっぱり苦い。



「・・・ことはーいるー?」


「・・・!!」


ふすまの向こうから、声がした。


(・・・茉子ちゃんの声や!)


慌てて、チョコレートを後ろに隠して、返事をする。


「は、はいッ!?いますっ!」


「・・・そんなに驚く事ないじゃない。どうしたの?」


部屋に入ってきた茉子ちゃんは、少し疲れたような顔をしていた。


「あ・・・あの、別になんもあらへんよ?それより、茉子ちゃんは?」


「あ、私?私はね〜・・・ほら、さっきまで黒子さんとか倒れて、もがいてたでしょ?今までちょっと様子見てきてたの。

・・・しっかし、なんでいきなりバタバタ倒れちゃったのかしら?・・・丹波さんは別にいいとして。」

 ※注 原因は[シンケンガールズバレンタイン]参照。



「だから、まあ・・・すっかり渡しそびれちゃってね・・・。」

そう言いながら、茉子ちゃんはうちの前にストンと座った。


「え・・・渡しそびれたって?」


「・・・はい、これ。ことはに。」


「うちに・・・?」


「・・・うん、気に入ってもらえるかな〜・・・なんてね・・・。あぁ、開けてもいいよ。」


そう言って、苦笑しながら、茉子ちゃんはうちに箱を手渡した。

言われた通り、うちはそれを素直に開けた。


・・・これ、茉子ちゃんがつけてる亀のペンダントに似てる…。色がちょっと違うけど…。


「・・・あ・・・えと・・・ホンマに、うちなんかが貰っても、ええの?」


「うん。勿論よ。今日はバレンタインだけど、私ね・・・ことはには、チョコレートより、形に残るものをあげたかったから。」




その言葉で、うちは嬉しい半分・・・形に残らない苦いだけのチョコレートを用意してしもうた自分をホンマにアホやと思った。



・・・・茉子ちゃんは、やっぱり、うちより大人やわ・・・。



「・・・で。私のプレゼント受け取ってくれる代わりに・・・その後ろに隠してるの、見せてくれる?」


そう言って、悪戯っぽく笑う茉子ちゃんに、うちは驚いた。


「え゛・・・!?」


なんでわかったんやろ、と思って後ろを振り返ってみると、さっき解いたリボンが・・・思いっきり茉子ちゃんから丸見えだったからで・・・。


うちは渋々、それを茉子ちゃんに見せた。

一口食べかけの、苦いだけのチョコレートを。


「・・・あ・・・もしかして、それ、丈瑠用だった?」


「ちゃ、ちゃうよ!殿様たちには、その、茉子ちゃんも一緒にあげたし・・・!」

「うん。・・・だよねぇ?じゃあ、それは?」


隠されへん。やっぱり、茉子ちゃんに嘘や隠し事はでけへんわ・・・。

そう思ったうちは、話す事にした。


「・・・あ・・・あの、これは・・・あの・・・ホンマは、茉子ちゃんに・・・あげよう、とは、思ってたんや、けど・・・。」


「・・・けど?」



「茉子ちゃん、大人やから・・・うち、ビターにしようと思って・・・でも、失敗してしもうて。

なんや苦いだけになって・・・はっきり言うたら、美味しくもないし・・・あの・・・第一、食べたら形も残らへんものやから・・・。」


”だから、別の・・・形に残る何かをあげる”、って言おうとしたんやけど・・・うちに何があげられるんやろか。

笛なんかあげても、茉子ちゃん吹くより聞く派やし・・・。


そんなうちの言葉を茉子ちゃんは遮った。


「・・・つまり・・・・・・じゃあ、私用のチョコなんだから、貰う権利はあるって事よね。」


そう言って、チョコレートに手を伸ばす茉子ちゃんの手をうちは止めた。


「あ、あかんって!・・・こんなん、茉子ちゃんに渡せへんもん・・・!」


「あ、ダメ?」


「いや、ダメというか・・・せやから・・・形に、残らへんし・・・味だって、マズイと思うし・・・。」


うちがそう言うと、茉子ちゃんは首を振った。


「・・・しっかり形に残るわよ。思い出として、ココに。」


そう言って、胸の真ん中を指した。


「私ね、ことはが私の事を思って用意してくれたんだなって・・・その気持ちだけで、すっごく嬉しいよ。

昼間、姫様と作ってたチョコレートは、ちょっと甘過ぎたかも〜なんて思ってたからねー。

まあ、男の人って甘いものは、たまに食べるから少し甘過ぎるくらいが丁度いいっていうのも聞いたんだけど。ホントかしらね・・・。」


「・・・へー・・・そう、なんやぁー・・・。」


・・・あかん。茉子ちゃんの話、半分も頭に入っていかへん・・・。


(・・・・めっちゃ恥ずかしい・・・。)



茉子ちゃんの手に、うちの作ったチョコレート(しかも食べかけ)が・・・。


「・・・あ・・・ねえ、もしかして、これ亀?」


嘘・・・!・・・気付いて、くれた・・・!?


「う、うん!・・・でも、可笑しいやろ・・・なんや、気色悪いメロンみた・・・い・・・」


半笑いのうちの目の前で、茉子ちゃんは躊躇なく、チョコレートを齧った。


”ぱきっ”


「――あぁっ!?」


「・・・うん、丁度良い甘さ。美味しいよ。ことは、ありがと。」


そう言って、笑ってうちの頭を優しく撫でてくれた。


「あー・・・あかんって言うたのにー・・・。」


「無ー理。・・・だって、コレ・・・”私の”なんでしょ?」


「・・・せやかて・・・変な味、せえへん?苦味、強いとか・・・」


「ビターなんだから、苦みは強いのは当たり前じゃない?それに、ことはの読み通り、ビターも好きだよ。」


パキパキ音をたてて、茉子ちゃんがうちのチョコレートを食べていく。


それが・・・それだけで、うちは涙が出るほど、嬉しくって、嬉しくって・・・。


だけど、やっぱりこのままじゃあかんと思ったうちは・・・。



「・・・来年、うち、もっと頑張る!」


「え・・・ええ!?・・・もう、来年の話してんの?ことはは意外と気が早いんだねぇー・・・」


苦笑する茉子ちゃんは、チョコレートを片手に”別にいいわよ”と手を振ってみせる。


・・・だけど・・・うちが、うち自身が、納得でけへんもん。


「うん!でも、来年はうち頑張るから・・・せやから・・・あの・・・!」


「・・・んー?なあに?」





「・・・来年は・・・茉子ちゃんをうちに下さいっ!」





「――うぐッ!?ゲホッゲホッ!?」



「ま、茉子ちゃん!?大丈夫!?」


いきなりむせて咳き込む茉子ちゃんの背中を、慌てて擦る。


「い、いきなり・・・な、ゲホっ・・・ゲホゲホ・・・な、何言ってんの・・・っ!?」


「ら、来年も、うちと一緒に仲良う過ごしてって言おうと・・・姫さんとチョコレート作るんも楽しいには楽しいけど

もっと2人で、なんか出来たんやないかとか色々、色々考えて・・・わー!もう!うち何言うてん!?」


「こと・・・ゲホッ…ゲホッ…コホコホ…落ち着いて・・・」


「あぁ、それより茉子ちゃんやった!・・・大丈夫!?・・・あかんかった?やっぱ、うちやとあかん?」


「あぁ、いや・・・そういう意味ね・・・いや、全然大丈夫・・・ていうか、全然OK。

・・・ホント、ちょっと・・・いや、かなりビックリしただけ・・・ケホッ・・・。

・・・うん、もう大丈夫・・・・ホント・・・まったく・・・もうっ!ことはッ!!」


そう言って、茉子ちゃんは呼吸を整えると、少し強めにうちの頭をくしゃくしゃっと撫でた。



「わ、わわーっ!?」


「びっくりしたわよー!うりゃっ!」


「髪型ぐしゃぐしゃになるー!」


頭撫でられるんはちょっと、好き。

だから、茉子ちゃんにされて、ちょっと嬉しくって、うちはなんだか照れ笑いを浮かべてしまう。



・・・それから。




「別にさ・・・来年だけじゃなくても、いいよ?」



そう言って、茉子ちゃんは顔を近づけて、少しほろ苦いチョコレートの味をうちに分けてくれた。

やっぱり、苦いわと思う・・・でも、好きになれそうやとも、思うから不思議。



「・・・ずっと、一緒にいてあげる。」

「・・・うん。」



茉子ちゃんに小声で呟かれて、うちは思う。

言葉や気持ちは、ホンマに心に残るんやなって。



・・・それから・・・



(・・・また・・・うち・・・貰ってばっかりやんなぁ・・・。)



・・・やっぱり、来年は、もっと頑張ろうって。





 ― 真剣バレンタイン。 END ―






あとがき

困った時のイベントネタですから!

あと、祝・VシネマDVD記念!!