[ シンケンジャーSS シンケンだけにそろそろ真剣に・・・(以下略) ]









…子供っぽいって感じだったかな。


初めて会った時の印象は。


背は小さいし、のんびりしてるし、すぐ転ぶし、言われた事すぐに真に受けるし…。

…まあ、素直って事なんだろうけど。




・・・つまりは”心配”してたのよ。


命をかけて戦う仲間の中に、こんな子供がいていいのかってね。

私が幼稚園で子供たちの面倒を見てたのとはワケが違うのよ、戦いの最中まで面倒みるなんてあり得ない


…ってね…



でも・・・知らないだけ、だったのよね。貴女の事。


貴女は、私が思っているより、ずっと・・・






  [ サクラ フブキ ]






朝から真面目に稽古していて、丁度集中力が切れてきていた所だった。

たまには気分を変えよう、と私はことはを連れて公園に連れ出した。

この場所は、人目もあまりないので、ことははここでよく稽古や笛を吹いているらしい。


私もいつの間にか、ここに来るようになった。

志葉家にも割と近いし。静かだし。何より、この公園…今は春の陽気が心地が良いのだ。



「…あー…」


木刀を袋から取り出したことはが、ふと上を見上げ、溜息に近いような声を漏らした。


「どうしたの?ことは」


私がきくと、ことははぼーっと上を見上げたまま、呟くように私に教えてくれた。


「もう桜、散りはじめてる…」


そう言われて、私も上を見上げた。

その瞬間、桜の花びらが、私の目の前をひらりと落ちていった。

開ききった花弁は、あとは散るだけ。桜の見頃は、とっくに過ぎていた。


「あぁ…この間見た時は、もう7分咲きだったからねぇ…」


「うちと茉子ちゃんがおだんご、ココで食べた時?」


「・・・そう、たまたま、あの時見頃だったんだよねぇ・・・。」


桜の花びらが、ひらひらと舞う。

まるで、雪のようだ。



「………そっか…はよ殿様達に、お花見行きましょって言うたら良かったなぁ…」


ことはは、残念そうにそう言った。

ここのところ、外道衆が頻繁に出現しているから、誰も花見の事なんか口にしなかった。



「どうかな…アイツの事だから”そんな暇は無い。敵はいつ現れるかわからない、強くなれ。”


 ・・・って言うわね」


「あーそれもそや。」


私が丈瑠の真似をしながらそう言うと、ことははまた笑った。


「でも、みんなでお花見したら、きっと楽しかった思うんやけどなぁ…」


この公園の桜の見頃も、今散りゆく桜も、知っているのは私とことはだけだった。



「ねぇことは…」


「ん?」


「そうやって、ぼうっと突っ立ってると…」




『桜の精みたいよ。』



…なんて言える訳がない。




「・・・ぼうっと突っ立ってると、花びらまみれになるわよ。ことは。」



…というか、私は何を考えてるんだか。恥ずかしいな。




「あ、ホンマ…髪の毛について…」


手で振り払おうとすることはに、私は近付いて手を伸ばした。


「・・・取ってあげる。」

「ありがとう」


花びらを払うと、くすぐったいのか時折ことはが笑う。


「こーら、動かないのっ」

「ふふ…あ、ごめんなさい…でもな、茉子ちゃん。稽古したらな、きっと、2人共桜まみれやと思う。」


そう言って、ことはは上を指差し、私の髪から花びらを一枚取って、私に”ほら”と見せた。


空の上からは、まだこれでもかと、ひらひら桜が舞い落ちる。



・・・確かに、きりが無いわね。



「・・・ていうか、早く言いなさいよね。」


私は、釘を刺す代わりに、笑顔でことはの頬を人差し指でぷにっと突いてから、笑った。


「ごめんなさい。」


ことはは素直に謝り、にこりと笑った。


一定の間を置いて、私とことはは木刀を構えた。




「…いいわ、始めましょ。きなさい。」


彦馬さんからの言いつけで、ことはの足りない所は、なるべく私が教える事になっている。

女同士だし、私にことはが懐いているからだそうで。


だけど、ことはは、特別私にだけ懐いているわけじゃない。

皆に懐いている。



私は、彦馬さんに言いつけられているから、こうしている訳じゃない。



「・・・・・・はぁっ!」


ことはの木刀を受け止め、私は即座に指摘する。


「ことは。力、もっと入れなさい。弾かれるわよ。」


「はいっ!…やあっ!」


「・・・・・・」

(…当初より、大分力ついてきたわね。)


私だって、さすがに無茶出来る(丈瑠レベル)まで強くは無いんだけど…モヂカラと剣のバランスは、流ノ介といい勝負。

あとは、経験かなぁ…命懸けで積んでるんだけど。まだまだ。

ことはの成長のスピードは、凄い。

一生懸命、毎日稽古してるんだから、そりゃあ成長もするわね。本人の自覚は無いみたいだけど。


だから、私は…


ことはに追いつかれるんじゃないかという危機感が、半分。

早く追いついて欲しいと思う親心に似た気持ちが、半分。


・・・複雑な思いだわ。



「・・・はぁっ!やぁッ!」


純粋の塊が剣に乗って、私に向かってくる。

二つの眼が私を捉える。


真っ直ぐに。

真っ直ぐに。


受け止めると、重くて鋭い。



(……集中…!)


今度は、ことはの力の流れを変え、受け流した。


「…ことは…振ってるだけじゃダメよ!それじゃ、パターン読まれるわ!」

「うん、わかった!ていっ……くっ…!」


指摘した途端、ことはは突きを交えて、攻めてきた。


「もっと早く!出来るでしょ?」

「・・・うんっ!」


私も突きを避けながら、ことはを攻める。

ことはに押されていた私が前に進んでいく、逆にことはがどんどん押されて後ろへ引いていく。


耐え切れなくなり、ことはが大きく木刀を振ったので、私は大きく後ろへ下がった。


(…いいわ…)


しかし、ことはは攻めずに、少しためらい、更に後ろへ後退しようとしていた。

私はそれを見逃さなかった。



「……そこで…間を取ったらダメっ!」

「…わぁッ!?」



ざあっと風が吹き、桜がまた盛大に散った。


「・・・・・・・・ほらね、懐に入られる。」


私は、ことはに木刀を軽く当てた。決着。



「・・・うわ・・・茉子ちゃん、早いなぁ・・・。」


ことはは目を大きくして、私の早さを褒める。

負けてしもうたと、スポーツらしい清々しい笑顔で笑う。


だが、これはスポーツじゃない。

命の掛かっている戦いの為の稽古なんだし。


「感心しないの。」


言ってる場合か、と私は”めっ!”と顔を作る。

すると、急にことはは慌てて、ぺこりと頭を下げた。


「ごめんなさい!もっかい!お願いしますっ!」


「はいはい、もう一回ね。」

「うんっ!」


木刀を構え、互いに息を整える。

目と目がぶつかった時、お互いが足を踏み出す。




「「・・・やあぁーっ!!」」











「はぁ…はぁ…はぁ…やぁっと…い、いっぽん、とれたぁ…」


「…はぁ…はぁ…はぁ…あー…よく出来ましたぁ…」


夕暮れになって、ことはは私のわずかな隙を突いて、1本取った。

価値ある1本だった。


「ほんま?」


「うん。私も、あそこまでしつこく喰らいつかれると、受け流せないし…対策考えて、稽古するわ。

 ありがとう、ことは。」


「…ううん、うちこそありがとう。茉子ちゃん。」


公園の桜は、まだ散り続けていた。


「あ、丁度溶けてて飲み頃や。はいっ」


「うん、ありがとう…ことは。はい、タオル。」


「ありがとう。」


ペットボトルの水を半分だけ凍らせて、持って行く時に水を入れる。

そうすると、時間が経っても、冷えた水が飲めるって訳。


スポーツドリンクの類は、半分だけ飲んで、凍らせた後、またスポ−ツドリンクを入れ、しばらく溶けてからが飲み頃。




桜の木の下で私とことはは座り込み、しばし無言で汗を拭きながら、景色を眺めた。


桜の花びらは、まだ散り続けている。


風が吹く度に、ヒラヒラと落ちてくる。


「……綺麗やなぁ…」

「…うん。」


「もったいないなぁ…」

「……うん。」




もったいない、か…。


きっと、ことはは、皆に見せたかったんだろう。


この公園の桜の見頃だった事も、今散りゆく桜の事も、知っているのは、私とことはだけだ。


いや…正確に言えば、私だけだった。



2人で見たかったけど、正直に桜を観に行こうと誘うと、ことはは、優しいからきっとみんなで行こうと言うだろう。

私も、皆で行けば、楽しかったと思う。


けれど、私はことはと見たかった。

でも、ことはは、楽しい時間は皆で過ごしたいと思う子で…



(そうよね・・・女2人で見たって・・・楽しい筈が・・・)



私は、黙って目を閉じた。


ことはの目が見られなくなったからだった。


純粋すぎる目は、剣よりも鋭く私に刺さる。




…どうして、みんなに黙っていたんだろう。

…大人気なかったな、と思う。





独占したいって思ったから、黙っていた。



7分咲きの時も。

今散りゆく、この時も。



ことはと桜の時間を、私は独占したかった。



そして…この時間を手にしている事にどうしようもなく喜びを感じている私がいる。

喜んでいるのは、私だけなのに。


いや・・・もはや、喜びすらもなく・・・自分への嫌悪感に近いものが・・・



「いや、茉子ちゃん…そういうんとちゃうよ。」


ことはが、不意についっと私の服を引っ張ったので私は目を開けて、ことはを見た。


「…ん?何が?」


「綺麗なんは、茉子ちゃんの事。・・・なんか、桜の木の妖精さんみたいやなぁって。」


そう微笑みながら、私の髪から桜の花びらをとった。


「・・・・さ、桜の木の、妖精って・・・・。」


今時そんなの・・・と言い掛けて、自分もさっき同じ事を考えていた事に気付き…私は顔を伏せた。


ていうか…人から言われて、これだけ恥ずかしいのに…。

私って…



「あ…うち、おかしい事いうた?」

「んー…いや…あはは…」


私は言葉を濁して、また顔を伏せた。

横で座っていたことはが、今度は膝をついて私の髪に触った。


「動かんでね、茉子ちゃん…うちがとってあげるから。」

「・・・・・・・。」


指先が髪を撫でて、花びらを一枚一枚取り払っていく。


「うちも伸ばそうかなぁ…」

「髪の毛?」


「うん。」

「似合うと思うけど…別に今のままでも………良いんじゃない?」


「そう?」


…素直に”今のままでも可愛い”とか言えたら、良いんだけど。

これじゃあ…うちの殿か千明みたいじゃないの。



「…ぅ………だから…その…可愛いわよ、ことはは。」


私は、ぽつりと言った。

その瞬間、ことはの動きがピタリと止まり、私の顔をまじまじと覗き込むので、私も見ざるを得なくなった。



「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」



・・・な・・・何よ、この間は・・・。



「…な、何よ?」


私がそう聞くと、ことはは見てるこっちが力が抜けるようなふにゃりとした笑顔で言った。



「いや、お姉ちゃん以外に、そないな事ゆうてくれたん、茉子ちゃんが初めてやったから…なんか嬉しい。」


「・・・・・・え、えぇ・・・?」


「…ホラ、うちって鈍臭いし、あほばっかり言われとったし…」


途端に、ことはの表情に影が見え始める。

笑ってはいるが、この子はずっと…周囲の心無い言葉を受け入れ、それに耐えてきた子だ。



…こういう話を始められると、私はたまらなくなるのだ。



(・・・あ、あぁ・・・やめて・・・その顔やめて・・・)



「・・・・・・っ〜!」



私のクセ、みたいなもので・・・こういう人を見ると、無性にぎゅーっと抱き締めたくなってたまらないのだ。

それに相手が、ことはだけに・・・余計に。



「…茉子、ちゃん?」


私は、ことはを力いっぱい抱き締めていた。


「…やっぱ…妖精さんやなぁ…茉子ちゃんって。」


今度は、ことはが私の背中に腕を回した。

身体が更に密着する。

服の上からでも、心臓の音が伝わってしまうのではないかと、私はハラハラした。


…それと同じくらい気に掛かるのが…


「ねえ、ことは…妖精って言うの…やめない?恥ずかしいんだけど…」


それに、妖精の称号なら、私よりも…ことはが似合う。


「でも、茉子ちゃん…優しいし、桜似合うし…綺麗やもん。」


「ほ、褒めても…」


何も出ないわよ、と笑って言いたいのだが、上手く言葉に繋がっていかない。

身体中の筋肉が、強張っていく感覚。

血液という血液が、身体中を暴れまわっているような感覚。





・・・・・あぁ、恋してるんだわ・・・本当に・・・。




そう実感した瞬間、楽になると共に…すぐに襲ってきたのは…


「…茉子ちゃん?」


「………。」



・・・洒落にならない。この恋は。





私は、家臣の身で戦ってるのに。

同じ家臣の年下の…女の子に。



「………」


こんな綺麗な瞳の女の子に…。




「…大丈夫?…なんや、茉子ちゃん…顔があか…」



私は、黙って真っ直ぐことはを見つめた。心配することはの声も聞いていなかった。



頬を撫でて…指先が顎に触れた時…ことはの額に唇を押し当てた。





ざあっと、風が吹いた。

桜が、また一斉に散った。






「・・・・・・あ、ごめ・・・」


私は口元を押さえて、ジリジリと後ろに下がった。

一体、何をしてるんだか…いくら、ことはが常日頃からのんびりしてるからって…!


…悟られたかもしれない。


途端に、後悔と恥ずかしさでいっぱいの私に、ことはは、やはりやんわりと微笑んだ。




「・・・別に、ええよ。茉子ちゃん、うちの嫌がる事した事ないもん。」


「え・・・あ、そ・・・。」


(…思ったよりも、気にしてない…の…?)


呆気にとられる私に対し、ことはは立ち上がると、3〜4歩程歩いて、再び私の方へ振り返った。


「うわぁ…いっぱい散ったなぁ…ほらっ見てっ茉子ちゃん!桜の絨毯やわ!」


元気にはしゃぐことはを見て、私の力は一気に抜けていった。


「…そうね…」


私が額にキスをした事よりも、ことはの関心は…桜の絨毯のようで…。


…安心半分。

…がっかり半分。


・・・なんだかなぁ・・・



「・・・帰ろっか。」

「うん。」



桜の絨毯を2人で歩きながら、今日の晩御飯なんだろうね、なんて白々しい話をした。



公園の出口を出る頃、今年の桜は今日で見納めかも、と名残惜しくなった私は、もう一度振り返った。



殆ど散ってしまった桜の絨毯が、広がっていて…

夕闇にちらちらとまだ、桜の花びらが舞っていた。



…来年また…いや、来年も…私は、生きているんだろうか…?


そして・・・ことはや・・・みんなも・・・。




いや…そんなマイナスな事、考えてもしょうがないか、と私は髪をかき上げて、公園に背を向けた。


私が、再び歩き始めようとした時、ことはが呼び止めた。



「あんなぁ…茉子ちゃん。」

「・・・ん?」




私の少し前に歩み出たことはは、背を向けながら言った。





「うち、実はな…茉子ちゃんより・・・ずぅっとな・・・ずっと前からな…」






そこまで言って、ことはは振り向いた。






「・・・・・ずっと前から、知っとったんよ・・・・・ここの桜。」






「・・・・・・・・え・・・?」


ここの桜を知ってる?…もしかして、ここの桜の…開花時期の事?

・・・もしも、そうなのだとしたら・・・


・・・そうなのだとしたら・・・


・・・・・・ん?



私は頭の中でまとめきれず”・・・それって、どういう意味?”と聞こうとしたのだが…




「手ェ…繋いで帰ろ?」


「…あ、うん…。」





差し出された手に、私は手を伸ばした。


ことはは、いつも通りにっこりと微笑んでいた。


「・・・・・・・・。」



そんなことはの横顔を見ていて、私は聞くのは止めようと思った。



私は、初めて会った時、貴女を子供だと思ってた。

でも…結局、私は知らなかっただけ。



 ・・・・・・あー・・・まいった・・・。

 この子・・・見た目より、手ごわい・・・。色んな意味で。



この複雑な想いを、簡単な言葉にして出せば済む話なのだが…

それには、とてつもない勇気と覚悟がいる。

外道衆との戦いの最中に…私にはそんな事、出来ない…。



私の想いを知ってか知らずか…ことはは嬉しそうに私の手を握って歩いている。

…今は、これでいいか。



「茉子ちゃん。来年も一緒に見れたら、ええな?」


「・・・・・・見れるわ。生きてたら、絶対にね。」





その手が、いつもより温かく感じたのは・・・きっと、桜の精の仕業だろう。





  サクラ フブキ  … END








― あとがき ―




いつもフザケてるから…真剣に!!


と思ったんですけど……かえって大変な事になってしまいました。(笑)

何?この恥ずかしい寸止め劇場は…ッ!!


…でも…こんな展開、私は好きだったりします…。


ことはだって、素直なイイコ”だけ”じゃあ・・・ないだろ?と。

たまには、茉子さんの心も体もぶんぶん振り回・・・あ、いつもだわ、これは。


・・・という・・・完全なる自己満足作品です。おっしゃ・おっしゃ。(ガッツポーズ)


これじゃ百合成分足りない!とお嘆きの皆さん…深読み又は妄想しちゃって良いんですよ?