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「茉子ちゃーん、ただいまぁ。」


「おかえり♪ことは…ねえ、お風呂にする?御飯にする?それとも…」


「うち、茉子ちゃんがええなぁ………ええやろ?」



「え…えぇ!?」


なんか、なんか…

ことはがエロいわ!年下なのに、何その攻め姿勢…ッ!!



「あ、ダメ…そんな、玄関先でスーパーエーロータイムは…あっ


 あ…あきまへーん!旦那はーん!」



・・・でも、正直、嫌いじゃな





「…ーッ!!・・・・・あ、夢か・・・。」



※注 これは、茉子さん個人による夢でした。実際の人物と、仕様が全く異なっておりました事を深くお詫び申し上げます。






[ 寝苦しい夜に ]






私の名前は白石茉子。


シンケンピンクとして、志葉家の頭首であるシンケンレッドこと丈瑠(殿)に仕え、外道衆と戦う毎日をおくっている。




志葉家の夜は、とても静か。

昼間の賑わいが、嘘のような静けさだ。

いつも、みんなでドタバタしている状況に、私が慣れてしまったせいだろうか。





とても静かな夜なのに、むっとした暑さが部屋中にたちこめている。

そういえば、今夜は寝苦しくなるかもって彦馬さんが言っていたっけ。



「……妙な夢で寝汗かいちゃったわ…こんな時間になんだけど、お風呂行こうかな…」


私はベタベタしている身体に不快感を覚え、風呂へ行こうと部屋を出た。

黒子さんには悪いがシャワーくらいなら、まだ使えるだろう。


ふすまを開けても、蒸し暑さは変わらず。


「あー…やっぱり、なんか、ちょっとジメッとしてるわね…」


寝苦しい夜なんだな、と改めて感じる。

こんな不快指数の高い時に、外道衆が出てきたら…と思うだけで、ちょっとげっそりする。


(・・・・ん?足音?こんな時間に?)


廊下の向こうから足音が聞こえた。しかし、近付いてくる気配は無く、ただ音だけがする。


不審に思った私が、その足音の方向をよく見ると…


「……むうぅ…進めへん………」


明らかに寝ぼけて、柱に突っ掛かり、それでも歩こうとする…シンケンイエローこと、花織ことはがいた。


『そりゃあ進まないわよ、ことは…。』と私は思った。


寝ぼけているにしては…酷すぎる状況だったが

こんな寝苦しい夜だし…ことはだし……納得と言えば…納得の状況……かな…?


ことはの髪の毛には、極端に寝癖がついている所と、寝汗でぺっとりとしている所があって…

この寝苦しい夜に、ことはが、ことはなりに頑張って眠った結果…のようなものが伺えた。



「ホラ、ことは。部屋に帰るなら、こっちよ。」


私が声をかけて、ことはの部屋の方向を指差すと、ことはは左目を薄く開けて私を見た。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、茉子ちゃん・・・。」




(認識、遅っ!)

と思う私に向かって、ことははいつもより気の抜けた、ふにゃ〜んとした笑顔を浮かべた。



・・・これは、放っておけない。

このまま、寝ボケことはを一人で戻らせたら、部屋を間違えてしまうかもしれない。




「さっきから、柱に向かって歩いてたわよ、ことは。ほら、こっち…」


私が、ことはの手を引くと、ことはは目を擦りながら、やっと歩き始めた。


「…茉子ちゃんは……どこ行くん?…といれ?」


「私は、お風呂よ。」


「…こんな…時間に…?」


「寝汗かいちゃってね、気持ち悪いから。」


まだ”寝ボケモード”のことはを連れて、私はことはの部屋へと進んだ。

ところが、手を引いて進んでいた私の手が、びんっと引っ張られて止まった。


ことはが足を止めたから、だった。


「……うちも。」

「ん?」


私が振り向くと、ことは眠たそうに瞬きをしながら私に言った。


「うちも、行きたい。」

「行きたいって…お風呂?」


「…うん……あんなぁ…うちの足の裏、なんや…ザラザラする…」

「・・・・え?」


私は、すぐにしゃがんで、ことはの足の裏を見た。

それはもう、見事に・・・烏賊折神のイカスミ砲喰らったくらいに、真っ黒だった。


「…ちょっと…ことは…もしかして、裸足で庭歩いた?」


私が腕を組んでそう言うと、ことはは、叱られた子供のようにしゅんとうなだれてしまった。


「・・・覚えてへんけど・・・そーみたい。」


寝ぼけながら、庭を歩き回ることはが、目に浮かぶ…。

何しろ、さっきまで柱に突っ掛かっていたのだし。


「もう、しょうがないわねぇ。ほら。」


私は、ことはに背中を向けてしゃがんだ。


「あとで、黒子さんが掃除するの大変だから…お風呂場まで一緒に行こ?」

「・・・うん。」


大人しくことはが私の背に体を預けてきた。


「よっこいしょ…(ってオバサンじゃあるまいし…)」


どうせ体は、寝汗でベトベトだし。ことはをおぶって汗をかいても、変わらないだろう。

お風呂場で全て、綺麗に流して…さっぱりした気分で眠ろう。


(・・・あ、こういう時こそ”汗スッキリ!ボディソープ”よね。)


そんな事を思っていると、私の耳の傍で、相変わらず寝ぼけモードのことはが口を開いた。


「茉子ちゃん…」

「…汗臭いとか、暑いとかは言わないでね。」


「ううん、違う違う…あんなぁ…ぎゅーもええけど、おんぶもええなぁって…。」

まだ意識は半分夢の中なのだろうか、ふにゃ〜っとした喋り方だ。


「…はいはい。」

何言ってるんだか”寝ボケことは”め。・・・と私は苦笑した。

でも、ことはの言う”ええなぁ”は私も心の中で思っていた事だった。


「ことはーそのまま、眠らないでよー?」

「うん、だいじょぶ…目ぇ…大分、醒めてきた…。」


そんな事無いでしょ〜、と言いたいくらい、ふやけた返事がかえってくる。

ことはが私の首の付け根に顔を押し付けるせいで、ことはの唇が触れているのは嫌でもわかっていた。

首筋はただでさえ、汗でべたついているので、あまり押し付けないで欲しいし

ことはが呼吸する度、すごくくすぐったいのだが、あえてそのまま歩いた。


「…茉子ちゃん…」

「んー?」


「やっぱり…うち、茉子ちゃんの事、お嫁さんにしたい。」


寝ボケているのか、どうなのか…たまにドキリとさせるような事をすらりと言うから、困る。


「なーに言ってんの…お嫁さんは、夜中に寝ボケた旦那を背負ったりし〜ま〜せ〜ん。」


私がおどけてそう言うと、ことはは私の首に押し当てていた唇を離した。

先程まで、私の胸の前にぶら下げていた両腕を、今度は私の両肩に載せた。


「え…ほんまに?あかん?」


そう言いながら私の横顔を覗き込もうとする。

どうやら、今度は目がちゃんと醒めたようだ。口調が大分違う。


そんなに旦那候補になりたいのか?と私は私でことはを不思議に思う。


・・・まあ、そりゃあ・・・嬉しいんだけどね。こっちとしては。

寝ぼけていなかったら、もっと嬉しかったけど。




・・・だけど。



それが…その好意は…私と同じ”想い”なのかは、きっと聞けない。


きっと…違う気がする。

違わないと…いけないような気がして。


そもそも。


私達は、外道衆を倒す為に志葉家に集まっている仲間で。

ことはと私は家臣同士で。



そこに、余計な想いが加わったら…きっとバランスが崩れる。

…私は…正直、それが怖い。


仲間は大事だけれど…私の余計な想いのせいで、仲間の中に無意識にでも優先順位がつけば…

きっと私は、満足に役目を務める事が出来なくなるんじゃないかと思う。



誰かが、傷つくのはどんな場合でも、絶対に嫌だから。



・・・いや、大丈夫。きっと大丈夫だと、私は自分に言い聞かせている。




お風呂場に到着した私は、ことはを浴室に降ろし先に、足を洗うように言ったのだが『うちも入る』と言い出しその場でパジャマを脱ぎ出した。

確かに、ここまで寝苦しいとそうも言いたくなる。

こんなに暑くなるのなら、氷枕くらい用意しても良かったかも、なんてね。


私は、ことはのパジャマを受け取り、脱衣籠の中に入れると、自分もパジャマを脱いだ。

ことはとお風呂に入るのは、別に初めての事じゃない。


やはり、風呂桶の中にお湯はなく、シャワーのみとなった。


(…お湯出るかしら…)


出なかったら、モヂカラでなんとかしよう。おそるおそる蛇口を捻ると、ちゃんとお湯は出た。


「ホラ、ことは…先に…」


私がシャワーの温度調節を済ませて、ことはにシャワーを勧めようと振り向くと・・・



・・・・・ことはは、床に尻餅をついていた。


「あいたたた…また滑ってしもうた…」


・・・どうやら・・・転んだ、ようだ。いつも通り。


「大丈夫?ほーら、まだ寝ボケてるんでしょ?…ついでに、その寝癖も直しちゃいなさい。」


私は、そう言って笑いながら、シャワーのお湯をことはの頭にかけた。


「わぁっ!?いきなりは酷…ぐぼごぼ…」


目を瞑って、顔を何度も両手で擦ることはは、本当に子供みたい。

次に、夏用に買った”さっぱりボディソープ”で体を洗う。

お互い、しゃこしゃこと洗い、背中は”せっかく2人で入っているのだから”と互いに流し合った。

そうして、洗い流していると、ベタベタしていた肌が、スッキリしていく。


シャワーで流すと、その爽快感がより肌に感じられた。

すうっと涼風を浴びているような、爽快感。


パウダーシートも良いけれど、あそこまで肌がベタついてしまっては、やはりシャワーを浴びるに限る。

ことはも気持ち良さそうに、シャワーのお湯を浴びていた。


(あ・・・。)


風呂場から出て気付いた。さすが黒子さん…。

脱衣籠の中にあった私達のパジャマは新しいものに代わっていて、タオルも用意されていた。



これで、よく眠れそうだ、と私は髪の毛の水分をタオルで拭き取っていた。



「なあ…茉子ちゃん…」

「ん?」


私同様、髪の毛の水分をタオルで拭き取っていたことはは、真面目な顔をして私にこう言った。


「茉子ちゃん、一回…抱っこ、させてくれへん?」

「・・・え?」


私の目が点になったのに対し、ことはの目は真剣そのもので。


「…今なら、出来そうな気がする。」


そう言って、バスタオルを体に巻いた。

私は、苦笑しながら引き続き髪の毛の水分を拭き取っていた。


「えーと…抱っこって…ことはが、私を?」

「うん!」


笑って”冗談はやめなさいよ”と言おうとした私だったが、それより先にことはが私の足をすくいあげた。


「よっ・・・こいっ・・・!!」


「ちょっ・・・ことはっ!?(しかも、抱っこって…よりにもよって、そっちの抱っこ!?)」


ことはがチャレンジしているのは、いわゆる・・・『お姫様抱っこ』。


「くっ…!」


いくらなんでも無理…!無茶!無謀!しかも、ほぼ全裸よ…!私達、2人共!


だからといって、私が暴れると2人共転ぶ危険があって、もっと危険だと判断した私は、下手に何も出来ずにいた。

一方、ことはは精一杯私を抱き上げようと、顔を真っ赤にして持ち上げようとしている。


…が、膝の高さから上がらない。

膝がプルプルしているし、もうそれ以上は持ち上がらないのは明白だった。


「こ、ことは…無理だって…無理すると、腰痛めるわよ?ね?」

「ぬぐうぅ…」


私としては、早く体にバスタオルを巻くなり、下着・パジャマを身につけるなり、したいんだけど…


「…ことは、降ろして。」

「もう、ちょい…!」


こんな夜中に脱衣所で女2人、何やってるんだか…とさすがに私は恥ずかしくなってきた。


「いや…さすがに恥ずかしいから。」

「もう、ちょい…!」


「…いや、本当に…ゴメン、お願い。降ろして。」


私がそう言うと、やっとことはは、無念そうにゆっくり私を降ろした。


「・・・ごめんなさい、出来なくて。」


ことはは、しんみりと謝った。いたって真面目…ふざけてはいないらしい。


「な、なんでまた急に…しかも、よりにもよって、お姫様抱っこなのよ?」

私は私で、バスタオルで体を隠した。


別に誰に見られているわけでもないし、ことはしかいないのだが

すっご〜〜〜〜〜く恥ずかしい思いだけが残っている。



「だって…うちがお嫁さんにしたいって言うたら

 茉子ちゃん…”お嫁さんは、夜中に寝ボケた旦那を背負ったりしません”って…。」


「・・・・・・。」

・・・言った。確かに、言ったけど。


「せやから…うちが、茉子ちゃんの事、抱っこ出来ればええんかな〜って…。」


ことはのその答えを聞いて、私の頭の中から、しぽんっと何かが弾けた。

さっき私が言った言葉を真に受けて、ムキになって、あんな事を?


「・・・・・・。」


(しかし…よりにもよって、お姫様抱っこって…。)


新しいパジャマに袖を通すと、さっきまでの恥ずかしさが、今度は笑いに変わった。



「…くっ…ふふふっ…あははははは!!」


なんて真面目で可愛い、私の旦那候補だろうか。


「ま、茉子ちゃん!?な、なんで笑うんっ!?」


「あぁ、ゴメンゴメ…ぷっ・・・くくく…!」


あぁ、ことはは、本当に素直なんだな、と思う。


「ひ、ひどいー!また笑ったー!」


「いいのいいの、無理しなくても。気持ちだけで嬉しいから。

 ほら、ことは…パジャマ着ちゃいなさいよ。」


そう言いながら私は、まだしっとりと濡れていることはの髪の毛の水分をタオルで拭き取った。


やや複雑そうな顔をしながら、ことは黙って俯いた。


「茉子ちゃん…うちは、ほ…うっわわッ…!?」


私は、ことはの頭をわしわしと勢いよくバスタオルで拭いた。


ことはが、いや…ことは達が、私にとって大事な仲間に変わりは無いのだし。




そうだ。

今は、このままで良いのだと、私は思った。






「…ことはは、そのままでいてくれたら、いいから。」



聞こえない程度の小声で私は、そう呟いた。



「うん、わかった。」



・・・聞こえない程度、の・・・つもりだったんだけどなぁ・・・。

ことはには、しっかりと聞こえていたらしい。



「・・・でもな、茉子ちゃん…いつかまた、チャレンジさせてくれへん?」


「・・・さっきの、お姫様、抱っこ?」


・・・まだ、諦めてなかったのね・・・ことは・・・。

何がそれほどまでに、ことはを”お姫様抱っこ”に執着させるのか…疑問。


「…うん。うち、もう少し腕と足腰、鍛えてみる。」

「・・・・あー・・・うん、頑張って…。」


私がそう答えると、パジャマに着替えたことはは、嬉しそうに、私にピタリと抱きついた。


そのまま、背中に腕を回し、ぎゅーっとした。




寝苦しい夜。

周囲は、ムッとするような蒸し暑さだが。




志葉家は、とても静かで。





そしてここは、とても・・・とても心地良くて。












  『…もう少し、このままで。』









 寝苦しい夜に END





あとがき


・・・どっちが攻とか受とか考えずにご覧下さい。

私は、何も考えずに書きました。(苦笑)


タイトル前とタイトル後で、テンション違うような気がしますが…

あと…これまで書いてきたSSとキャラが違うような気もしますが…


みんな、気のせいです。




・・・気のせいです。



気のせいですよー!!(しつこい。)