[ 〜 祭の後も かしましい女たち 〜(水島さんは出演中・スピンオフ)  ]





祭の後は、いつも溜息が聞こえる。

ゴミの片付けとか、レポートの締め切りとか、試験とか…一気に現実に引き戻されるから。

ずっとこんなお祭り騒ぎだったらいいのに、なんて誰かが言ってたけど本気じゃないだろう。

終わりがあるから、我慢してやれるって事もあるんだし。




「海ちゃん、惜しかったねぇ。」


伊達香里が乾杯の後、そう言った。

童顔で、缶チューハイが似合わない女だけど、シンプルな性格であたしは好きだ。



その日、学祭の片付けが終わったとあたしがメールしたら『打ち上げやろ〜ぜい☆』と香里から誘われた。

自分は学生でもないクセに。


こうして、何かにつけて、香里は酒を飲む口実を作る。

酔っ払う度に、一人暮らしが寂しいんだ、お金がないんだと泣いて吐くから困るんだけど…


あたしは、暇な時、香里に誘われると行ってしまう。



・・・香里の隣の部屋には、水島が住んでいるから。



運が良かったら、水島に会える。

最初は不純な動機で香里の部屋に遊びに行ってたけど…最近になって香里はとても話し易い女だって事に気付いた。


あたしが多少強めに物事を言っても『まあまあいいじゃ〜ん』と笑ってなだめる。

他の女友達なら、ムッとしたりする所だし。

それが解っているから、あたしもうっかり本音を言わないようにはしている。


香里の”まあまあいいじゃ〜ん”が出ると、本当に怒ってたのがどうでも良くなってくるから不思議。



「海ちゃん…愛想振りまかないからじゃない?…結構良いトコまで言ったのに。意外と大事だよ、笑顔って。

 ウチの店もどんな酷い客でも笑顔だけは絶やすなって。おかげで、笑顔で毒吐くクセがついちゃった子もいるんだよ。」


「笑顔大事って話から、後半、話ズレたわよ…」


「いや、そのくらい重要って事!」


実は香里のヤツ、ウチの学祭に来ていたらしい。

どうせだったら、水島も連れて来いとも思ったけど、言えなかった。


香里と2人きりにさせる気なんて無いし。



「んー…別に、いいのよ。ゼミの先生から無理矢理出ろって言われただけだし。あたしは単なる”かませ犬”だし。」

「・・・かませ犬って?」


香里は、あたしより年上のくせに、結構モノを知らない。


「あのミスコンはね、出来レースなの。でも、始めから結果がわかってたら盛り上がらないでしょ?

だから、一応あたしみたいなライバル候補を出して、競わせるの。そしたら、盛り上がるでしょ?

でもね、最初っから結果は決まってんの。あの笑顔テカテカ女が優勝〜ってね。」


「・・・えーなんかショックー・・・。」


「そんなモンだって。別に、ミスコンなんて優勝したって合コンの自己紹介しやすくなるってだけよ。」


こんな主張、負け犬の遠吠えだって言われそうだから、大学内では黙っていたけど

・・・でも、そう思う。


「ふーん。・・・・海ちゃん、興味ないんだ?」


「…まあね。」


そう言って、あたしは さきイカを口に入れた。

それを、香里がニコニコしながら見ている。


「・・・・何よ?」


「いや、あの時、途中からすっごく怒ってたのに、なんか今はご機嫌だな〜って思って。」


「ん?そう?別に普通だったけど・・・・・・なんで?」


「だってさ、興味ないコンテストで、準優勝なんて、海ちゃんが暴れる要素タップリじゃない?」


「・・・・最初っから、興味ないもの。暴れる必要ないじゃん。」



「…そうかなぁ…なんか良い事あったんじゃないかなってさー。


 みーちゃん(※水島さんの事)絡みで、な・ん・か。」


「・・・・・・・。」


・・・・・・香里は、時々するどい。





実は・・・あの日の学祭には、もう一人あたしの知り合いが来ていた。



あの日。

香里の言う通り、あたしはブチ切れ寸前だった。

自分達は、かませ犬なのだとステージ裏で話している、別の出場者の話を聞いてしまったからだ。

他はともかく…どうして、このあたしがそんな事をしなくちゃならないのか。


大体…不特定多数の誰かに、選ばれました!優勝です!なんていわれても嬉しくもないのに。


水着審査まで終えた所で、そんな話を聞いてからあたしはもう愛想笑いは出来なくなった。

全部、あの笑顔テカテカ女が優勝する為に作られたステージで、どう笑えっていうの?



…会場も自然と盛り下がっていた。あたしのせいだろうか。

そんなもの、知るものか。


何故、あたしはここにいるんだろう?

笑い者にされる為に選抜されたのだろうか?


そんな時。




 悲鳴と歓声が上がった。




4階から飛び降りて、ターザンのように、ロープを掴みながら、空中3回転して、ステージに着地する…という

ド派手な演出で登場して、ミスコンを一気に盛り上げた『タマミさん』。


ソイツが現れてから、会場の空気が一気に変わった。


ド派手な演出だな〜なんて思っていたが、特に気もしなかった。

あたしの心の中には、タマミさんスタントでは払拭できない程、鬱憤がたまっていたからだ。



ところが。


…準優勝のあたしにメダルをかける時…。



『・・・・・しゃがんで。』




 その声でわかった。




 『・・・水島だ』…って。




何故か水島は、前触れもなく、あたしの前に現れて…

何故かタマミさんの着ぐるみの中に入って、舞台に上がり、あたしにメダルをかけた。




・・・どうして、この人は・・・あたしが、本当に独りぼっちの時に現れてくれるんだろう?





準優勝のメダルは、その人がくれた。

もし優勝していたら、その人からもらえなかったかも、しれないじゃない。




それが・・・嬉しくない訳・・・ないじゃない。





「でもさぁ…海ちゃん。」


香里が、缶チューハイの飲み終えて、ゴミ箱に放り投げた。


「んー?」


あたしは新しい缶を香里の方へ差し出しながら、生返事をした。

ぷしゅっと、プルタブを起こして香里は言った。



「どうせ選ばれるんなら、好きな人に選ばれたいよねぇ〜♪」



そうだ。

どうせなら、それが良い。


オッサンみたいな笑い方で香里がそう言うので、あたしはびしっと指摘する。



「・・・・・・香里、酔ってるでしょ?」


「んー…結構、これ強いんだおー美味しいしー…飲む?」


「今日は吐かないでよー、掃除するのあたしなんだから。それに、今日のあたしは酒って気分じゃないの。」



水島が、タマミさんの中に入って来てくれた事を、あたしは香里には、黙っていた。

友達である前に…あたしと香里(その他大勢)はライバルだから。


…香里は、多分手強い。

他の女も、きっと。


女を、女同士が取り合ってるなんて聞いたら、馬鹿馬鹿しい事だと誰かは笑うだろう。


きっと、水島を知らないから。

あたし達の事も、ろくに知らないから。


…だから、周囲の雑音は気にしない。



「…でもね、海ちゃん…私、かませ犬には、ならないからね。」


香里が静かに、でも大事な笑顔は絶やさず、そう言った。

アルコールで淀んでいると思っていた目は、ちゃんとしっかり開いていた。


「…それ、あたしへの宣戦布告?」


あたしが笑って聞き返すと、香里は再び香里らしく、ニッコリ笑った。


「んひひひ…♪」

「ふふふ…」




…理解に苦しむでしょうけどね。こんな事で、壊れるような友達関係じゃないのよ。あたし達。



・・・だから、水島・・・覚悟してね?









  『・・・・へっくしょん!!・・・・・・寒気が・・・!?』







― END ―




はい、短編・スピンオフでした〜。

出演中の話は、アンケートの結果とか気にしないで作成したので

スピンオフも、自然とそうなってしまいました。(笑)