夢を見た。

サラシを外したら、胸が無くて・・・まっ平らだった。

おかしいな、と思って頬を触ると・・・じょりっとした感触があって、慌てて鏡を見ると髭が生えていた。

喉には喉仏まであった。


まさか、と思って・・・私は恐る恐る股間に手を伸ばす。


あるはずのものが無くて、ない筈のものが・・・ある。その嫌な感触だけで、下着の中は見なくても、嫌でもわかる。



そして、後ろから誰かが抱きついた。


(・・・もしかして・・・愛美?)


振り向くと、熱の篭った目をした・・・



「東條・・・俺はお前が・・・。」



西岡正樹がいた。

重なり合う男同士の筋肉と・・・そして・・・!



「うッわああああああああああ!!!」


叫びながら私は飛び起きた。



「はあッはあッ・・・!」


布団を掴む手をみて今のは夢か、と気付く。

頬を触っても髭は無いし、喉仏もない。胸はあるし・・・股間のアレもない・・・大丈夫。


ひどい悪夢だ。


男になったまま、元に戻れない・・・いや、男になってしまうなんて。


夢でよかった。



(・・・それにしても・・・。)



「・・・何故、西岡正樹が・・・!?」


オチが西岡だなんて、酷すぎる!


ああ、いっそ全部バレてしまえば楽なのに。

しかし、その直後、愛美や母さん、借金の事を思い出し、私は頭を振る。

全ての苦労が水の泡になる・・・だけど・・・。


このままで良い筈がない。


現に、あんな夢まで見てしまったら・・・怖くなった。


本当に元に・・・普通の女の子に戻れなくなってしまったら、と思うと怖くなった。



(明日、透に話そう・・・)


私の本当の姿を知っている、本当の友達は透しかいない。


一体、いつまでこんな生活が続くのだろうか。





 [ 私のHEROは女の子。 第4話 ]





「へえ〜・・・だから、今日は妹で来たの?」


登校の途中、私は透と合流し、一緒に歩いていた。

透は、私の姿を舐めるように下から上と見た。


「んふふ、なかなか女子も良いじゃなぁい。」

「・・・やめてよ、透。」


今日は、女子の制服を着て・・・東條紘美、として登校した。

球技大会以来だから、紘美としての登校は2週間ぶり、か。


東條紘は兄。

東條紘美は妹(病弱)。


・・・双子の兄妹という設定で、二役共・・・私。

基本は、東條紘で登校するのだけれど、今日はとてもじゃないけれど・・・女で来たかった。

久々のスカートや、さらしが無い事に安らぎを感じてしまう。


「透にしか、この心の内は話せないんだから・・・」

「あらら、大分弱ってるねぇ〜かわいそうに。」


そう言って、透は私に抱きついて、私の頭を撫でた。

おどけているとはいえ、こういうスキンシップは女同士でしか出来ない。


「うむ・・・こうしてると、マジで女友達だよねぇ。」


透はにっと笑って、私もつられて笑った。


「うん・・・ホント。」


借金の事さえなかったら、私は元々こういう生活が待っていたのだ。


「なんていうか・・・東條って、メイクとか格好だけでも、ハッキリ(男女)分かれるよね。珍しいんじゃない?」

「あんまり嬉しくない・・・。」

「まあまあ、そんな顔しないの!夢は夢なんだから・・・あ。」



「ん?」


その大きな後姿でもハッキリと解る。

前方に、西岡正樹がいる。

背が高いし、なんか影を背負ってるからすぐにわかる。


「ま、今日は妹なんだし、気にしなくて良いんじゃない?女に興味は無いんでしょ?アイツ。」

「・・・うん。」


ふと、西岡がこちらを振り向いた。


「お、こっち見た・・・」


しかし、西岡は少し瞬きをして私を見ると、再び前を向いた。


「あー・・・やっぱりこっち(女)には興味がな・・・」


透が苦笑いをしてそう言いかけた。

やはり、西岡は女に興味は無いんだ。だから、今の私にも何もしないだろう、私もそう思った。



が。



西岡はぴたっと止まると、振り向いてこちらにズンズンと歩いてきた。


「げっ!?」

「嘘・・・!」


そして、私の前でぴたっと止まり、私の顔をジッと見た。

黙って見られるのは、あまり気分が良いものじゃない。


「・・・な、なんですか・・・?」


あくまでも、私は東條紘美。女だ。

西岡は私をジッと見た。

確かにこいつ、顔は良い。だが、怖い。

油断すれば私の秘密を除かれそうな真っ直ぐで、攻撃的な目に私はひたすらどぎまぎした。


やがて、西岡は頭をかきながらどこか不満そうに言った。


「・・・おはよう、”東條”。」


西岡はそれだけ言うとスタスタと歩いて学校に行ってしまった。


「あ、挨拶だけ・・・?」


私の身体に安心と共に脱力感が襲ってきた。


「アイツ・・・ホント、なんなんだろ・・・不気味すぎ。」


透がそう言った。私は無言でこくりと頷いた。



教室に着くと、愛美が驚いたような顔をして、私の方にやってきた。


「紘美さん!?球技大会以来ですね!身体は、もう大丈夫なんですか!?」

「あ、今日は割と平気なんだ。ありがとう、心配してくれて。」


「良かった・・・あれ?紘君は一緒じゃないんですか?」

「あー・・・今日は代わり・・・いや、兄貴は休みっていうか・・・あの・・・えっと・・・」


私は、ひとりしかいない。

よって・・・東條紘美がここにいるという事は・・・紘の方はお休みしなければならない。

しかし、その理由の説明を考えていなかった。


「紘はね、食あたりらしいよ。」

「透?」


透が後ろで手を組んで、のんびりと嘘をついた。


「いいからいいから。なんでも、1週間期限切れたヨーグルト食べたらしいよ。意地汚いよね〜」

「透・・・!」


そんな小学生みたいな理由で休むのやだ・・・!


「そ、そうなんですか?紘君、大丈夫なんですか?紘美ちゃん!ちゃんと病院行きました?」


愛美はみるみる悲しそうな顔をして、私を質問攻めし始める。


「だ、大丈夫!兄貴、普段は私と違って、すっごい健康だから!ね?透!」

「うんうん。」


「透は・・・紘美さんとすごく仲がいいのね・・・?」


・・・マズイ。

紘美は球技大会以来、このクラスに登場していない。

透と親しくなっているのは、不自然か・・・?


「ん?ああ、球技大会後も結構・・・あの、LINEで、ね?連絡とか。」


透は咄嗟にそう言って、私もそれに乗る事にした。


「あ、うんうん!そうそう!」


焦り始めた私に、クラスの女の子達が寄って声を掛けてくれた。


「あれ?東條の妹?」

「久しぶり〜!ていうか、改めて兄貴に超似てるね!」

「球技大会以来だよね〜元気?」


あっと言う間にクラスの女子に囲まれ、その場で井戸端会議みたいに話が始まった。

みんな、私が病弱だし、東條紘の妹だと思っているからか、すごく優しかった。



もしも。

私が東條紘(男)として、ここに来なかったら春からこんな風に過ごせていたのかもしれない。

沢山の女友達。


愛美だって・・・私の事を好きになんかならずに、ちゃんと友達として出会えたはず・・・



「・・・あれ?愛美は?」

「あれ?そーいえば・・・。」


みんなで、井戸端会議で盛り上がっている間に愛美の姿が急に見えなくなった。

教室内を見渡すと、愛美はとっくにちょこんと自分の席に座っていた。


(・・・愛美?)


「でさー、紘美ちゃん休んでる間にさー」

「あ、あの話しちゃう?超ウケるよねー!」


私を再び女子達が囲んで、休んでいる間の事を話し始める。

東條紘として学校に来てはいたし、話の内容も殆ど知っている事だらけだったけれど

クラスメイトの口から聞くと、話術があるせいか、とても面白くて、結構誇張されていたりして。


私は、すぐに馴染んでいった。


馴染むと共に、女として学校生活を過ごすのが楽し過ぎて・・・すぐそこに控えているトラブルの発芽にも気付かなかった。


私から離れ一人で座る愛美 と 私を遠くから見ている西岡の存在。




クラスメイトと本来の姿で喋るのは、本当に楽しかった。

何も気にする必要が無かった。

女の部分を出さないように、とか、サラシで締め付けられて苦しい胸の事も、何もかも。


何もかも忘れて、このまま普通の女の子として暮らしていけたら良いのに。


何もかも。


愛美の事、すらも。



ふと、ポケットに入れていた携帯が震える。

メールが届いていた。差出人は・・・愛美だった。



『紘君、具合は大丈夫ですか?心配でメールしちゃいました。

紘美ちゃんって社交的なんですね。みんなとすぐ仲良くなって、羨ましいです。

紘君がいないと寂しいです。早く元気になって下さいね。』


絵文字でゴテゴテな透に対し、愛美のメールは至ってシンプル。丁寧に書かれた手紙みたいな内容だった。

電子の文字でも、こんなにも個性が出るのか、と感じる。


今、メールを受け取って読んでいるのは、紘美(わたし)。

でも、愛美がこのメールを読んで欲しいのは・・・東條 紘(もう一人の私)。


偽者の・・・私。



彼女は、忘れたいことを忘れさせてくれない。

愛美は紘(もう一人の私)が好きであって、今の紘美(本当の私)は好きな男の妹でしかないのだ。


(だから、こんなメールを受け取っても・・・)


私は、黙って携帯を閉じた。


(無意味なんだ。)



放課後。クラスメイトはサッサと下校してしまった。


「あー・・・楽しかったぁ・・・。」


女子生徒としての女子トーク。

彼女達がこっそり持ち込んだ小さいお菓子を摘まみながら、ただ話したい事を話して、ただ笑う。

高校に入学する前にしていた、なんでもない事に喜びを感じていた。


愛美の事を横目で見ながらも、私は自分から声はかけなかった。

愛美と話すと、忘れようとしている嫌な事を再び頭に置かなければならなかったから。


(そういえば、メールまだ・・・返してない・・・。)


透と一緒に帰ろうと、私は教室に残っていた。

携帯を取り出したが、文字を打つ指は動かない。


空席ばかりの机が並ぶ、静かな教室に、ぽつんと私だけが残ったまま。


遠くでは、明日の小テストの話ではしゃぐ別のクラスの生徒の声が聞こえる。

みんな、ああして普通に友人との会話を楽しんで、明日はどういう話をしようか、なんて事を考えるんだ。

明日、男になるか、素の女のままでいたい、とか考える私とは、大違いだ。



「紘、美。」


透がぎこちなく私の名前を呼んだ。

私は黙って”なんですか?その呼び方”という顔をすると、透は苦笑いを浮かべた。


「いや〜、アンタも大変かも知れないけれど、私だって混乱しそうなのよ?

ていうか、髪の長さを変えただけで演じ分け出来るとか、マジで演劇部いけるよ。」


透が暢気にそんな事を言うので、思わずムッとして私は言った。


「これは演じてない。これは素の私。アレ(サラシ)だって無いし。」

「うーん、確かに・・・それだけあればキツイ筈だわ。ご苦労さん。」


透は腕組みしながら苦笑いを浮かべたが、私をじっと見ると肩に掛けたスクールバッグを机の上に置くと、私の前の席に座った。


「・・・ねえ、何かあったの?」


透の表情はいかにも”相談事を聞く気満々”といった表情だった。


「ん・・・いや。久々の女子高校生で疲れたのかも。」

「そうだね、あんまり目立つのは良くないしね。ホント・・・紘は大変なんだよね・・・ごめん。」


透は、しんみりと謝った。


「うん・・・でも・・・できれば、私このままでいたいくらい・・・。借金さえ無かったら・・・!」

「それが無かったら、私・・・いや、私達はアンタに会えてないよ。」


透はそう言って、私の手に触れた。触れて、手の甲を優しくさすった。


「私、楽しーよ?アンタと一緒に学校生活送れて。」


「と・・・透・・・!」


その言葉が伝わった瞬間、目からいくつもの涙がこぼれて机と手の甲にポタポタと落ちた。


「・・・透・・・私、押し潰されそう・・・!あの子の視線や言葉に耐え切れないの・・・ッ!」


愛美に好きだって言われた。

その姉からその好意を利用しろ、と言われた。

嘘をついて、気持ちを利用して、いい人のフリをしたまま、私は愛美の傍にいる。

私を、東條紘という男を、愛美は信じ続けている。なのに私は、ずっと裏切り続けている。


今日一日、女でいて”楽だった”という思いに気が付き、愛美からのメールからも逃げてしまった。

明日、どんな顔をして東條紘になればいいのか。


「・・・そっか・・・辛いよね・・・つきたくない嘘を続けなきゃいけないのって・・・。」

透は、そう呟くと天井に目を向けた。


「・・・もう、何もかも愛美に・・・。」


私がそう呟くと同時に、教室の扉が開いた。


入ってきたのは、西岡正樹だった。


「と・・・東條。」


西岡正樹が入ってきて振り返った私を見て、一瞬驚いたような顔をした。


「げ!西岡!」


西岡は少し目を逸らし考えてから、再び言った。


「すまん・・・東條、話がある。いいか?」

「「はあ!?」」


透と私は一斉に変な声を出した。


西岡は、東條紘が・・・だったよね!?

今の私は・・・完全に女だぞ!?いいのか、西岡君!!


(ま、まさか・・・妹から兄へアプローチ、とか?)


 『妹のお前の口から、兄さんに直接伝えてくれ・・・男もいい・・・いや、男が良いんだ、と!!』

 ※注 西岡君への偏ったイメージ。



「あ、いや・・・その・・・!」

「だ、ダメに決まってんでしょッ!?紘美はね!兄と違って体弱いし!もう帰る所なのッ!」

言葉に詰まる私に透がすかさず援護射撃をしてくれる。


が。


「・・・俺は、東條に聞いてるんだ。東條、俺にとっては大事な話だ。お前に危害を加える気は無い。話をしよう。」


そう言いながら西岡君はどんどん近付いてきて、目の前で私達を見下ろしながら、力強く話をしようと言った。

傍にいると相変わらず、威圧感がすごい。

喋る以外は、くっと真一文字になったままの口が無愛想さに更に第一印象と第二印象も下げている。


「そ、そんな怖い顔して信用できるか!」


透は立ち上がってそう言うが、西岡君は全く動じない。


「・・・約束する。この東條を借りるぞ。」

そう言って、西岡君は私の腕をぐいっと引っ張った。


「ちょ!?」

「ま、待ちなさいよ!西岡!この東條は女よ!?」


透がそう言うと、西岡君は初めて顔を少し赤らめて言った。


「そんな事は知っている!!」


・・・だったら、何故!?

そんな事を考えている間に、私はずるずると教室の外に連れて行かれた。


「あ、あの、西岡君!こういう事されたら、本当に困る・・・!」

「困ってるのは、お前の方だろ?・・・それから、藤川!これ以上、ついてきたら承知しないからな!」


西岡正樹は透に注意をすると、すたすたと歩き出した。

そして、また・・・あの音楽室に入室した。


あの時もそうだった。


『・・・単刀直入に言う。』



そう言って、人気の無い音楽室で身体の大きな男が、小さい私に一歩近づく。


今、また同じような状況だけど・・・今の私は、東條紘ではない。


「・・・単刀直入に言う。」


(あれ?)

しかし、西岡君はあの時と同じ台詞を言い放った。

まさか、この後の台詞も・・・


『・・・俺は・・・お前の事を・・・』


あの時と同じなんじゃ・・・?そう思った時。



「・・・俺は・・・お前の事を・・・」

「・・・え!?」


思わず、驚きが声に出てしまった。

これは、あの時と同じ台詞の流れではないか・・・!

もしや・・・西岡君は・・・私の顔なら、男女関係無い、のか?


「ちょ、ちょっと!西岡君!ど、どっちもイケるの!?」


お堅そうな顔して、なんという奔放な性癖・・・!!


「・・・何の話だ?というか、ちゃんと話をさせろ。」

西岡君は、至って冷静なまま話を切り出した。


「いきなり失礼な話だとは思う。お前にはお前の事情もあるのだろうし、と出来るだけ触れないようにはしてきたが・・・。

それを見て、一層わからなくなった。」


西岡君は”それ”と私の身体を指差し、こう続けた。


「俺は、お前を見た時から、ずっと・・・お前が”女”にしか見えなかった。」


「・・・・・・。」


私は、返すべき言葉を失った。

告白されると思いこんでいた恥ずかしさ と 出会った時から気付かれていた恥ずかしさ。

今程、透に来て欲しいと思った事はない。


「いや、正確にはお前を男として認識できなかった、というべきか。

上手くごまかしていたつもりかもしれんが・・・雄臭い、そう男のニオイがしなかったんだ。

しかし、お前みたいな男もたまにいる事は事実だ。だから、俺は追及するのを一旦は止めた。」


西岡君は、真剣な表情で話し続ける。


「あまりにも堂々と、しかも周囲の大人も嘘をつきすぎていて、こんなあからさまな事に誰も疑問を感じない。

お前もお前で、完全に『東條紘』という男子生徒になっていたし、誰も疑わなかった。

まあ、それはいい。


問題は・・・お前が、今、女子生徒として俺の目の前にいる事だ。」


「な、なによ・・・それ・・・私は、東條紘美で・・・ッ!」


「本当は女としていたいのに、何故男のフリをする?」


「そ・・・!」


「お前は女で、天ノ川愛美を愛する気持ちは無いのに、何故男として天ノ川の傍にいる?」


「・・・・・。」


核心を抉る質問の連続に、私は何も言い返せないまま、目を逸らすしか出来なかった。


「・・・天ノ川は俺の目から見ても、本気でお前を想っている。一方、お前は今、元の姿に戻ってのびのびとしている。

だから、俺は、ますます気に入らないんだ。

お前が嫌々男装して、天ノ川に嘘をつき続け、嫌悪感でたっぷりの学生生活を送っている事に何の意味があるか、と。」


私は、迷った。

男が好きなだけかと思っていた西岡君の言う事は、とても・・・とても正論で。


「何がお前にそんな事をさせるのか、聞かせて欲しい。」


間違っている人間の私が何を言っても、もう言い訳にしか聞こえない気がして・・・。


「ごめん・・・。」


小さく、謝るしか出来なかった。


すると、西岡君は深い溜息をついた。


「・・・別に、謝って欲しくてアタシこんな事を言ってるんじゃないわよ。」


さっきまで責めたてるようだった低い声が、少し優しくなった。


「いや、でも・・・やってる事は最低・・・・・・・・・・・え?アタシ?」


ピタリ、と私は口を止めて、顔を上げた。

アタシという言葉を発したのは、本当に目の前の人物なのか、と。


いや、確かに・・・男が好きなヤツだとは思っていた、けれども!!

その口調じゃ、まるで・・・!!



西岡君は、少し安心したように笑いながら、ピアノにしなだれかかった。


「ふっ・・・やっぱりそうだったのね。やっと、スッキリ出来たわ。アンタの秘密を暴いたんだから、アタシも素を出してみたのよ。」


西岡君から・・・さっきまで滲み出ていた”雄”が、吹っ飛んだ。


「・・・・ッ!?・・・ぉ!?・・・・・・ッ!?」


「何、百面相してんのよ?ホンット!何回ドツイてやろーかと思ったわよ、”このメス豚”ッて。」


その口調は、もう・・・TVのオネエそのもので・・・。

いや、なんというか・・・西岡君の表情が、先程より活き活きとしているのが何より衝撃的で。


「あの・・・西岡君・・・もしかして・・・?」


私が言うより先に、西岡君は器用にウインクして言った。


「そう。アタシ、ゲイなの。」


彼は、どこか誇らしげに自分の秘密を私に伝えてくれた。

そして、聞いてもいないのに”前はこんなにカマカマしくなかったんだけど、抑えてる内にこうなっちゃったの”、と教えてくれた。


「ここまで披露したんだから、聞かせてもらうわよ?そちらの男装の事情。」


私は、余計ややこしくなってきた状況にただ薄ら笑いを浮かべるしかなかった。








 → TOPページへ戻る。