・・・このお話はフィクションです・・・。


実際の人物、団体、その他もろもろ…一切、全く関係ございません。

なお、この作品は、百合・二次創作・同人誌等を好む方にとって、不快感を与える恐れがあります。


この作品についての批判は一切受け付けません。ご了承下さい。


あと・・・作者は、喧嘩は売ってません。





     [漫画家 如月 菜摘 の 場合。]






「先生…如月先生…どうですか?」


「・・・・ダメに決まってるでしょー・・・どうせ、あたしの漫画なんかねー・・・」



「先生、そんな事はありませんよ。先生の作品は、かれこれ、累計10000部を越えたんですよ。自信持ってください。」


「売れたからって、なんだっていうのよー…こんな状況になるなら、売れたくなかったわよー…

 なあにが印税だぁ、バカヤロー…稼ぎの殆どは、無駄遣い天国のお国に、もっていかれるっつーの。」


「先生…。」


・・・うーむ・・・困った。



如月先生は…また、ネガティブスパイラルに入り込んでしまったようだ…。

私の名は、北内。北内 頼子(きたうち よりこ)。

漫画家・如月 菜摘(きさらぎ なつみ)の担当編集者だ。

もうかれこれ、6年。彼女の担当として、時には喧嘩もし、励ましあい、一緒に作品を作り上げてきた。


月刊・サバイバル・・・少年誌だ。

低迷する、この出版業界。

幸いな事に。私の担当する如月先生の作品は

月刊サバイバルの中でも、人気ベスト3に常に入っている。なんと、喜ばしい事か。


「ぢくしょ〜…」


「先生…泣くか、怒るか、原稿描くかどれかにして下さい。…出来れば原稿で。」


だが、如月先生にとっては・・・今書いている作品を描き続けることが、苦痛でならないらしい。




「大体、なんなのよ・・・・萌えって・・・。」




(ああ、始まったぞ・・・如月先生のボヤキが・・・。)



如月菜摘の作品は、キャラ設定の細かさと、ストーリーが魅力だ。

画力は、今でこそ、どうにかプロっぽくなったが、未だに油断すると崩れていくので、注意が必要だ。

画力は、この際…どうにでもなる。単行本にする時に修正すれば、良い。



 ※ 繰り返しますが、このお話はフィクションです。



そんな彼女の作品『サバイバルガールズ』は、見事にヒットした作品だ。

話は、簡単に説明すると…


人類が宇宙に進出した時代。

主人公は、無実の罪で刑務所に入った女囚。

囚人として宇宙空間を移送中、事故で、見ず知らずの星に不時着。

仲間の囚人達と力を合わせて、見知らぬ星で、生きてぬいていく…そんなシリアスな物語なのだ。



・・・だが。



「ねぇ…何よ”萌え”って……ねえ、北さん…あたしの漫画の何が、どう萌えるの?」


多くの読者をひきつけているのは、先生が苦労して練り上げているシリアスな物語ではなく・・・

彼女の描く、多種多様なキャラクターの方なのだ。



「…如月先生…それは、一部のファンの反応であって…先生の漫画、ストーリーに惹かれて

 次号を心待ちにしているファンは、多いんですよ?」


如月先生の描くサバイバルガールズに出てくる人物は、全員が女性や女の子、である。

男主人公一人に、大人数の女に囲まれ、ラブコメディ風ハーレム漫画にしろと、編集長に何度も言われたが

先生と私は、あえてそれを蹴り、サバイバルガールズを強行したのだ。



『少年誌で、大量の女性が出てくるにも関わらず、主人公を男にもせず、関わりもなく

 女子だけで、クソ真面目なサバイバルストーリーなんて、ウケる訳が無い。』と


…始めは、編集部みんなが、そんな風に、高をくくっていた。


が。


世の中どうなるかわからないもので。

如月先生のサバイバルガールズは、”百合”というジャンルに、見事ひっかかってしまったのだ。


おかげで私の首も飛ばずに済んだ。


「…だったらさぁ…なんで、ファンレターに”ジャネット”と”クレイズ”が

 抱き合ったりするイラストが添付されてくるのよ?

この2人、命のやり取りする程の、ライバルなのよ?天敵!天敵とキスやら何やら

 どうしてそうなっちゃう訳?そう見えるの?」


「うーん…それは…。」


・・・見えるといえば、そういう風にみえてしまう人がいる…というのは、事実だろう。


相反する性格の2人が、やがて理解し合い・・・なんとやら…というのは、よくある話だ。



「…挙句の果てに、もっと”アンジェラ”と”キミー”をラブラブさせて下さい♪とかさ…

あの2人はね!故郷が一緒という共通点をもった、親友なの!!親友!お友達!フレンズ!


それが、なんで、萌えという名のマヨネーズをかけられて、百合関係にされちゃうのよ?勝手に!Why!?」


「・・・・・・。」


それも、そう見えてしまう人には、そうみえてしまうのだろう。

共通点が多い2人が、やがて惹かれ合い・・・とは、よくある話だ。



主人公を始め、登場人物は、みな女性。

見知らぬ星で、助け合い、時には争い…分裂しつつも、生きていくたくましい女主人公とその仲間たち。


・・・それが、読者にどう見えたのかは、こちらには解らない。


とにかく、如月先生の漫画は、妄想しやすい材料を含んでいる、という事は間違いはなさそうで。



「いや、それは・・・その、そういう…同人誌のネタでしょう…あまり深く考えない方が…」



如月菜摘ならではの、細かいキャラクター設定が、見事に逆効果…

本当に、世の中どうなるかわからない。


いや、そのせいで売れたのだから…まあ、効果はあったというしか、編集者としてはいえない。


とにかく。


女性しかいない星を舞台にした、女性同士のサバイバルと…

彼女達の”熱いやり取り”が、読者にウケたのだ。


先生にとって、計算外だったのは…女性同士の”友情”と”憎しみ”のドラマを…


”愛情”…に、すりかえられてしまった事だった。


ストーリー重視派の如月菜摘にとって、読者が自分の漫画の世界に浸ってくれているか、

理解しているかどうか、自分の漫画を通したメッセージが、伝わっているかどうか、それが重要なのだ。


ところが、メッセージも何も。


読者のフィルターは、如月先生のメッセージを見事にろ過して

キャラクターの百合成分を忠実に取り出してしまった。


彼女の漫画は、いまや・・・立派な百合漫画の金字塔!とまで言われるほど、妙な成長を遂げてしまった。

それが先生の一番の苦悩なのだ。


「いーや!!あたしの漫画を、キャラクター中心にしか見てない、良い証拠じゃないのよ!

 冗談じゃないわッ!

女オンリーだからって、どうして!生き残るか否かって時に、隣の女の乳をまさぐるのよ!?

敵が攻めてくるって時に、どうしてお互いの股ぐらを擦り合わせなきゃならないのよ!?ええ!?


キャラクターに”愛してるわ”なんて会話を、一言たりとも、あたしは原稿に描いたか!?ええ!?」


「せ、先生!先生!落ち着いてください!!それは、あくまでも!

 読者が、そういうネタにしただけですッ!」


やれやれ、困ったものだ。


熱心なファンは、すっかり”如月先生は百合ネタ好きだ”と思い込んでいるらしく

同人誌やイラストを送ってくるのだ。(喧嘩を売っているのか?と先生は、怒り叫ぶ。)



・・・あの、まあ・・・受けとか攻めとか・・・そういうジャンル・・・。



始めは、それを先生に見せなければいいと、私は気を遣っていたのだが・・・。



やがてファンレターにも、『○○が、××と一緒に手を繋ぎ、見つめ合うシーン、萌えました!』
(実際は、同盟を結ぶというシーン)とか

『先生、○○には、幼女系の××や、△△が合うと思います!』(どうやら受け攻めのお話らしい)とか

『○○は、××とキスしないんですか?もっとラブラブに…』など



ストーリーとは、無縁の注文まで来る始末。


要するに。

如月先生は、それを見てすっかり・・・ひねくれてしまったのだ。



「いーのよ、いーのよ…どうせ、あたしの漫画は、百合漫画なのよ。

 みんな、あれは、サバイバルの皮被った、百合ン百合ンのラーブラブの

 グデグデ漫画だと思ってるのよぉ…」



…女しか出て来ない漫画は、お色気系になりがちだ。


しかし、如月先生は、女のサバイバルを通し、生きる難しさと女同士の濃い友情をテーマに

渾身の力を込めて描いた。


私も、彼女のストーリー構成に納得したからこそ、自分の首が飛ぶのを覚悟で、この漫画の掲載に協力したのだし…。


人が生きるのは、難しい。

男女関係なく。


しかし。


この現代社会…生き易いのは女だと思われている。

果たしてそうだろうか。

『女は良いよなぁ?レディースプランがあって。』などと嫌味を言われる私には、ホテルでレディースプランを利用する暇も無い。

『男はいいよ。生理無いもん。』などと嫌味を言いたい私は、毎月やってくる、重い生理痛に悩み、言い返す気力も無い。


男は…男に無い、女の利点を羨ましがり。

女は…女に無い、男の利点を羨ましがる。


つまり…どっちもどっちなのだ。


生きていく事は難しい。

人間である限り、他人との軋轢に胃をチクチクさせながら、生きる為に働き、

ある日突然、突っ込んでくるかもしれない車に注意を払い、青信号が点灯する横断歩道を渡っていく。

男でも、女でも…死ぬ時は死ぬし。

生きる時、誰もがあらゆる形で悩み、苦しみ、必死に生きる。


そこには…人間のドラマが生まれるのだ。


だから、私は、女だらけのサバイバルが主体になる、この『サバイバルガールズ』を

編集長の言いなりになって、『単なるお色気漫画で売り出しましょ〜はいはい。』…で、終わらせる気は、無かった。


如月菜摘には、才能がある。

私は、この漫画のストーリー構成を彼女から聞いた時、そう思った。


私と先生の、苦労の甲斐あって、この漫画は売れた。



だが。

肝心の読者の反応は、というと。


この漫画の特徴、”濃〜い友情”を曲げに曲げられ、”百合化”されてしまい。


大部分の読者が、彼女達の関係は、百合化する事で、楽しんでしまおう、という形に落ち着いてしまったらしいのだ。


…確かに、売れた理由がそれとは、私も始めは、面喰らったものだが。

今は、そういう楽しみ方もあるんだな、と納得している。


形はどうあれ、私の仕事は、如月先生の漫画を世の中に配信するのが、仕事だから。

彼女の漫画で、誰かが元気になるのなら、それはそれで、編集者冥利に尽きる。



「…先生、そんな悲観的にならないで下さいよ。大丈夫です。

 ちゃんと先生の漫画のストーリーを理解している読者もいますから。」


…これは、本当の話だ。数こそ少ないが、それは確実にいるのだ。


「じゃあ、連れて来なさいよー。ここにー」


…それは無理。


「そ、そんな無茶な…!!」


「ほうら、ご覧。あたしの漫画は、所詮…百合という醤油をかけないと、喰えないモンなのよぉ…」


「・・・先生、元々・・・漫画は醤油をかけても喰えませんよ・・・。」



「大体さぁ…あたしの所に、こんなイラストやら小説送りつけてどうするつもりなのかしらねぇ…」


「・・・まあ、先生に見て欲しい、っていうのと…自己満足、ですかね?

 いいじゃないですか。キャラクターが愛されているんですよ。」


「愛されている筈のキャラクターが、なんで…この同人誌では、ルカ達に輪姦されてんのよ!?

 2ページ後には、見開きで、出る筈も無い量の体液流してんのよ!?

…カルラは15歳よ!?何故に、ルカ達成人チームに輪姦された挙句、体液出す必要があるの!?


そして、終わり方ッ!愛とか、憎しみとかそんなキャラの感情も、どうしてそうなったのか?の

背景説明も何もないまま、ヤラれて終わり!ちなみに、原稿には背景すら無し!真っ白!

一体ここはどこ!?そして、この作品から発せられるメッセージは何!?犯罪への誘い!?」


血走った目を私に向けて、如月菜摘が吼える…


・・・ぎ、ギリギリだ・・・表情が、人として、ギリギリだ・・・。



「う・・・先生、そんなに言うなら・・・み、見ないほうが・・・」


漫画をこよなく愛する如月先生には、この手(いわゆる”やおい””エロオンリー”)の漫画は

見せてはいけないのだ…。


勿論、同人誌も漫画には変わりない。私はそう思っている。

彼らには彼らなりの、メッセージやこだわりがある。


しかし、先生に言わせれば、自分の二次創作よりもオリジナルだという。

二次創作するならば、本家を超える勢いでやってほしい、と飲んだくれながら語った。


熱い・・・無駄に、熱いぞ、如月菜摘・・・!!


「そして、北さん!みなさい!このサイトを!」

「ま、まだあるんですかぁー…?」


少々ゲッソリしてきた。

…そんな事よりも、原稿に取り掛かって欲しいのだが…



「あたしのキャラクターを取り扱った小説サイトよ……。」


・・・そうもいかないらしい。

私は、PCの画面を渋々見つめる。


「は、はぁ…えーと…あ、すごいカウンター稼いでますよ、人気なんですね。

えーと…


”このサイトは、キル×カルラ…ルカ×カルラ…アンジェラ×キミーのカップルを応援するサイトです”…」


・・・ふむ、よくあるサイトだ。


「・・・それはいいわ、問題は、BLOGよ。」


見なきゃいいのに、と私は思いつつ…それでもチェックしてしまうのが如月先生なのだ。


「はあ・・・えーと・・・


 ”今月のサバイバル感想…ミッシェル良い感じのキャラ登場!”


 ・・・あ、この間コールドスリープから覚めた、女囚ミッシェルの事ですね!

 褒められているじゃないですか!先生!」


苦心していた新キャラクターは、どうやら好評のようだ。


「・・・・もっと、下を読みなさいよ。北さんよぉ…。」


「・・・なんですか、その喋り方は・・・えーと・・・


 ”…個人的には、クールなレインか、クリスとの絡みに期待…というか、攻めて欲しい!

 最近、如月先生は百合ネタ少ないと思っていたので、この新キャラの性格はオイシイ!!”



 ・・・・ああ・・・ミッシェルは、そういうキャラじゃない、と言いたいんですね?先生…」


「はーぁ…」

渾身のキャラクターが、やはり百合ネタにされてしまう現実が、彼女に溜息をつかせたのだろう。


「はーぁぁ〜あ…」


如月先生は、2回目の溜息をついて、ついにベッドへもぐりこんだ。


「え?いやいやいや!ちょっと!!せ、先生!起きて下さい!原稿が!原稿が落ちますッ!!」


「いーのよ!あたしの漫画なんか!誰もちゃんと見てくれないのよ!!

誰と誰がラブラブだの、ウサ耳つけたキャラ出して欲しいとか、要望出すくらいなら

自分で描きやがれってんだいッ!そして、自己満足ならあたしに見せるなってんだ!!

イラストも何も、送ってる暇あったら、ちゃんとあたしの漫画読めってんだ!

せめて、キャラクターをちゃんと把握しろー!バカヤロー!!



 ・・・・う、うわああああああああああああん・・・・」



・・・哀れ、漫画家・如月菜摘・・・30過ぎてマジ泣きなんて・・・。


・・・・ああ、このままでは、原稿が落ちてしまう・・・原稿が落ちてしまって良い事なんかひとつもない。


「如月先生…描くんです。」


「描いても、誰もちゃんと、読んでくれないわよおおおおおおおお!」



「だからこそ、描くんです。…描いて、見返しましょう…!先生!

 貴女は、プロの漫画家でしょう!結末まで、ちゃんと描ききってから泣き言言いなさい!

 原稿を落としたら…そこで、貴女は3流・・・いや、素人以下に成り下がるのですよ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



”・・・ガバぁ!!!”




ベッドの布団が空中に浮いて、どさりと落ちた。


漫画家・如月先生、復活の証だ。



「やるわよ・・・あたしを誰だと思ってんのよ!!」


よーしよし。さすが、プロ。


こうして、如月先生の原稿は、今月も無事、月刊サバイバルに掲載される訳だ。



・・・・やれやれ・・・・悩みは多いが、扱いやすいのが救いか・・・。


私は、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出し、そっと先生の机に置いて行った。


…頼みますよ…先生の一番の読者が、ここで待ってるんですから。



END


あとがき…。


いや、本当に…喧嘩は売ってないんですよ?いやいや、本当に。

百合・下ネタ含有サイトで、一体私は何を書いているのやら。(苦笑)


しかし、まあ…

これも、一つの考え方、です。



これは…妄想を自重しろ、という訳ではないです。断じて。はい。

妄想ネタに関して、耳の痛〜い想いをしているのは、何を隠そう…私、神楽ですから!!


こういうのも、たまには…いかがでしょうか?(苦笑)