[夢オチ物語〜グリシーヌ編〜]



「オイ、グリシーヌ。」

「グリシーヌ姉さんってばー。」


聞きなれた声に、私は瞼を開ける。

声の主は、コクリコとロベリア。



私は、巴里の街を見下ろせる程、高い…


高い屋根の上にいた。


「なっ!?ドコだ!?ココは!!」


「何呆けてるんだ、実行前に、計画の要が、馬鹿になっちゃ困るよ。」

「頭打ったんじゃない?大丈夫?グリシーヌ姉さん。」


ロベリアは、相変わらず、ぶっきらぼうにそう言った。

コクリコは、心配そうに私を見ている。


「…何故、こんな…」

何故私は、屋根の上にいるのだろう?

冷静に思い出す為…周囲を見回す。


そして、我が目を疑う。


「なんという格好をしているのだ…お主達…っ!!」


レオタード…というより、全身タイツ。(コクリコは、襟付き。)

腰に巻かれたスカーフ。


「何言ってるんだよ、同じ格好しておいて。」

ロベリアは呆れ顔で、私を指差した。


「え・・・?」


ぜ・・・

全身タイツ!?

私まで!?



「いぃやあああああああああああああああああ!!!」


…いぃやぁ…いぃやぁ……(エコー)


「き、きき貴様っ!私にこんな物を着せて!い、一体どういうつもりだっ!?悪党!」


こ、こんな…胸元開いた全身タイツを…いつの間に!?

うろたえる私と、冷静なロベリアとコクリコの2人。

コクリコは、馬を撫でるように、私の背中をさすりながら言う。


「しー…声デカいよ!グリシーヌ姉さん!!それは、ボクらのユニホーム!

 それに、ロベリア姉さんを悪党呼ばわりしてるけど、ボクら全員”悪党”だよ。」


「な、なんだと!?」


コクリコは、私とロベリアを姉と呼び、ここにいる我らは悪党だと言う…。


「やっぱ、頭打ったな…コイツ。」

「どうする?ロベリア姉さん…今日は止める?」

「予告状は出しちまったんだ…行くしかないだろ。」

「だよねぇ…でも…」

混乱する私をよそに、ロベリアとコクリコは相談をしている。


「ゆ、夢…だ…!これは夢だ―っ!!」



「ダメっぽいな…アタシらだけでやろう。」

「うん…。」








「・・・・・・・・はっ…!」


「大丈夫ですか?」


私は、目を開けた。

視界には、赤い髪と、絆創膏が見える。

…葵が心配そうに、私を見下ろしていた。


「あ、葵…?」

私のぼやけた思考は、同じくぼやけた視界と共に、鮮明になっていく。


(…いけないっ!今の私は…ぜ、全身タイツ!!)


「み、見るな!今の私を……あ、あれ?」


私が着ていたのは、露出の高いあの全身タイツではなく

いつもの、服。


…しかも、ここはどこだ?


シャノワールでも、我が屋敷でもない。


沢山の古そうな木製のテーブルに椅子…

コーヒーや紅茶の匂いがする…

落ち着いた雰囲気…そうか…

ここは、喫茶店、か…。



「…疲れてるんですね…随分うなされてましたよ?」



「…ゆ、夢か…やはり夢か…!」


木製のカウンターテーブルに、私は突っ伏して寝ていたらしい。


「どうやら、相当悪い夢だったみたいですね…」

「ああ…。」


なにしろ、全身タイツだったからな…



「…私も、早くこの悪夢をどうにかしないと…」


「葵もみるのか?悪夢を…」


まさか、葵もあの全身タイツを…?



・・・・・・・・。




・・・それは、むしろ私が見たい…。




「ええ…”フレンチ・キャッツ”を取り逃がす夢です…」

「ふ…ふれんち…きゃっつ?」



「夢も、早く捕まえろって言っているんですね、きっと。

 昨日も捕まえられなかったし…この手で捕まえる日まで、私は枕を高くして寝られませんよ。」


葵は、そういうと、私の肩に掛かった自分のジャケットに袖を通した。


「…あの…それは一体なんなのだ?」



「知らないんですか?今、巴里の街にのさばる『怪盗・フレンチ・キャッツ』と名乗る泥棒集団です。

 彼女達は、全身タイツで巴里の街を、駆け回り…ご丁寧に、予告状を送り付けて

 貴族、金貸し、美術館から、金品や美術品を盗むんです…。」


「・・・・・。」

(それって…夢の中の…ロベリアとコクリコと…私の…)


「あー!思い出しただけでも、腹が立つ―っ!!

 特に、あの青いタイツ―っ!!」


「……!!(ドキっ)」

(…私は…確か、青いタイツだったな…)


いや、気のせいだ…。


そうだ、気のせいだ…!


「おやおや、またグリシーヌに愚痴こぼしてるのかい?

 葵刑事。」

不意にそう声を掛けてきたのは、ロベリアだった。

カウンターの中で、グラスを拭いている。

「ろ、ロベリア!?」

・・・何?葵が刑事?何を言っているのだ…

葵は、我らの隊長…


「あ、すみません、ロベリアさん…お騒がせして…そうそう、コレ、エビヤン警部からです。」


「あ―…”また”花束…か…いい加減、諦めろって言ってくれないか?」


「…じ、上司にそんな事いえませんよ…。」


じょ、上司、だと…?

葵、お前まで、さっきから一体何を言っているのだ…?


「ロベリア姉さんは、現金にしか興味ないモンね〜♪」

「コラ、チビ…燃やすぞ…」


「姉さん怖〜い♪助けて〜葵刑事〜♪」

コクリコは、おどけて私と葵にまとわりついてきた。

私や、ロベリアをまだ姉さんなどと呼ぶとは…

ど・・・どういう事なんだ・・・。


夢か?これは、夢の続きか!?


「オイ、グリシーヌ…呆けてないで、葵とデートでも行ってきたらどうだ?」

「なっ何っ!?」

「あ、良いんですよっ!なんか、グリシーヌさん疲れてるみたいだし。」

ロベリアのその一言に、私と葵は立ち上がって、一斉に首を振る。

「何行ってるんだよ〜葵だって、最初からデートに誘いにボクらの店に来たんでしょ?

 グリシーヌ姉さんは、頭打ってるけど、寝る程暇なんだから♪」

カウンターにひょいと腰を下ろして、コクリコがニッコリと微笑みかける。

「コラ、チビ!余計なこというな。」

「あ、ゴメンゴメン。」


2人がそういい終わると、葵は、照れくさそうに言った。


「え…えーと…じゃあ…お言葉に甘えて…グリシーヌさんお借りします…」


(・・・・・・・・・・え?)


「あ、葵…?ホントに、デートを…?」

「ええ…実は…やっと、暇になったので…」


カウンター内の2人は、ニヤリと笑ってこちらを見ていた。

「行ってらっしゃい♪」

「夜までには返してくれよ、それさえ守れば、何したって構わないからさ。」

「ろ、ロベリア!貴様っ!」

「あ、あはははは…お姉さん、冗談キツイですよ…あはは…」


カウンター内に、抗議しようと入った私は、不意にロベリアに捕まった。

「…グリシーヌ…耳貸せ」

「…?」

小声で続いたのは、聞きたくない台詞だった。


『くれぐれも…アタシら姉妹が、フレンチ・キャッツだって…

 葵の馬鹿に、バレない様に行動しろよ…』


「・・・・や、やっぱり・・・!!」


この夢は、続いている…っ!!


早く覚めろ…!私!!


こんな微妙な夢ネタ、WEB拍手にも使えんぞ!!(…失礼な。)



”カランカラン…”

喫茶店の出入り口のベルが鳴った。

入ってきたのは・・・


「じゃじゃーん!エリカでーす♪」


エリカだ…。

しかし、赤いスーツ姿で…シスターの格好じゃない…

ロベリアは、カウンターの中から、溜息まじりに言い放った。


「いらっしゃい、馬鹿刑事。そして、帰れ。」


や、やはり…エリカも刑事なのか…!


「あーん!酷いです!ロベリアさん!エリカ、お客ですよ!?泣いちゃいます!」

エリカは、相変わらずロベリアに好意を寄せているようだった。

ロベリアは、相変わらずその逆。

「…一応、接客してやっただろ?帰れ。」

しっしと、ロベリアはエリカに手を振った。


「嫌です!ロベリアさんの『”エリカへの愛情たっぷり”プリン』

 を食べに来たんですから♪」

「…おぞましい副題をメニューに付けんな。」


この2人のやり取りは、普段と変わらないな…何故か安心する…。



「あー!葵さん!またこんなトコで油売ってる―!」

エリカは、葵を見つけるなりに、大声をあげた。

「…プリン食べに来た貴女に、言われたくないんですけど…」

非難された葵は、苦笑いだった。


「エリカは、キャッツを捕まえる為に、通っているんですよ!?葵さんのように、グリシーヌさんとベタベタする為じゃありませんっ!

 あー羨ましいなぁーもうっ!」

…相変わらず、にぎやかなヤツだな…

「…は、はあ…責めてるのか、羨んでるのかどっちかにしてくれませんか?」


「ねえねえエリカ刑事〜

 どうして、ボクらの店に通うのが、フレンチキャッツを捕まえる為、になるの?」

コクリコの問いに、エリカは不敵な笑みを浮かべて、ドカッとカウンター席に座った。


「それはですね〜…ふっふっふ…

 あなた達3姉妹が、フレンチ・キャッツだからですよ!!」

「「「―!!」」」

……な、何…バレてるのかっ!?


「やれやれ、まだ疑ってんのかい?エリカ刑事は…」

「懲りないなぁ…ボクらじゃないって言ってるのに〜どうしてそう思うかなぁ…」

ロベリアと、コクリコは苦笑いを浮かべている。

「そりゃあ、神様のお告げですから♪」

とエリカは、ニッコリ笑顔で続けた。

…エリカは夢の中でも…エリカなのだな…。


「必ず証拠掴んで、いつか…ロベリアさんを逮捕しますからね♪」


「…なんで、アタシ限定なんだよ…。」

「ま、まあまあ…エリカ刑事…滅多な事言わないで下さいよ。

 グリシーヌさん達が、あんな露出多い全身タイツ着て、モノ盗むわけ無いでしょう!?」


…す…すまぬ、葵…私は、着用していたのだ…

あんな全身タイツ…を…

「まあ、次回のキャッツカードが来たら、捕まえますからね♪

 ね?ロベリアさん♪」

「よーし、帰れ。」

「グリシーヌ姉さん、葵刑事、デート行くなら行きなよ〜」


「…じゃ、行きましょうか?」

「…う、うむ…。」

(この夢…デートがあるのが救いだな…)


私たちが、店を出ると、入り口の傍に看板があった。

その看板の文字に私は、口を開けた。

(な、何―!?)


・・・・看板に、喫茶”フレンチ・キャッツ”と書いてある・・・・。


バレバレだ―っ!!!!


お、おかしいだろ!!!


何故、誰も気づかないんだ…!!


「…どうかしました?グリシーヌさん」

「い、いや…なんでもない…」

(お前も、刑事ならどうして気づかないんだ…葵!それでも隊長か!!)

いささか、情けなくなってきたが、私はデートを楽しむ事にした。

夢の中とあってか、私が葵と腕を組んで歩いても、誰も何も言わなかった。


「たまにはいいな…こんな夢も…」

セーヌ川のほとりを2人で歩きながら、私はそう呟いた。

フレンチキャッツなんて、関係ない…。

「グリシーヌさん…」

「ん?」

葵は、いつになく真剣な眼差しで私を見た。

不意に手を握られて、私は夢の中だと分かっていても

緊張を隠せない。


「…私、フレンチキャッツを捕まえたら…貴女と…」

「…え?…あ…」


「貴女と、結婚したいと思っています。ずっと…貴女と一緒にいたいんです…」

「・・・な、なんだと・・・?」


(キャー!嘘―!本当―!?)←グリシーヌの心の叫び。


「…私と…け、結婚、だと?」

「ええ…受けて、下さいますか?グリシーヌ…」

「…あ…あの…」

私は、突然のプロポーズに、次の言葉が見つからない。

どぎまぎしている、私に葵は

「あ…そうですね…まだ捕まえていないのに…変に期待持たせちゃいけませんよね…ごめんなさい」

と慌てて、謝った。

「い、いや…構わん…!その…必ず、捕まえてくれ葵!」

突然とはいえ、好きな人に、結婚を申し込まれると…こんな気分になるのだな…

「はい!必ず、捕まえます!その時には、指輪も…。」

「…うむ。」


・・・・・・・・・。


・・・あ、しまった。



キャッツには、私も含まれているのだった…


すっかり、忘れてた…。


えーと・・・つまり・・・



…私、結婚出来ないではないか!!!!!!!


しかも、永遠に!!


※女同士で結婚は出来るのか?という事を、この時のグリシーヌは忘れている。



捕まったとしても、私は…全身タイツの怪盗…葵に嫌われる!!

捕まらないと、結婚不可な上、ずっと追い回される…!!




静かに、喫茶店の扉を開けると、コクリコが満面の笑みで私を迎えた。


「あ、おっかえりー♪デートどうだった?グリシーヌ姉さん♪」

まだ、この夢は続くのだな…全く。


「・・・・・・。」



「…グリシーヌ、今度のエモノは決まったよ。」

ロベリアは、グラスを置くと、静かに言った。

私は、目線を変えずに「・・・私は、嫌だ。」と呟いた。

「「は?」」

2人とも、信じられないといった顔で私をみた。

私は、再度言う。


「キャッツなど、やらん。」

それを聞いた途端、コクリコの口調が変わった。

「何言ってるのさ!ボクらの…ボクらのお母さんが残してくれた、絵画コレクションを取り戻すんだろ?

 ボクら3姉妹が!力を合わせて!あの誓いは嘘だったの!?」


コクリコは、私の袖を掴みながら、最後は搾り出すように言った。


「…我らの…母上…?…誓い?」

ロベリアは興奮したコクリコの背中をさすりながら、私に説明し始めた。


「そうさ…アタシらの母親、グラン・マが残した形見…シャノワールの絵画は…汚い金持ち共の手元にあるんだ…

 それも、汚い手を使われて、強引に、取られていったんだぞ。」

「そ、そうだったのか…?」

というか、グラン・マ死んでるのか…?

・・・いや、そういう設定、なのだろうな…。

「…アタシらの手で取り返すには、この方法しかない。正攻法で手に入れるには、時間も金もかかる。

 その間、海外に売り渡されたら、それこそ、永遠に出会えない。」

「…それは…そうだな…」

「…もう!しっかりしてよ!グリシーヌ姉さん!

 ボクら、お母さんの絵を取り戻す事に命かけてきただろ―!?」

「…あ、あぁ…」

夢の世界とはいえ…なんだか…自分が本当に”フレンチ・キャッツ”として活動しなければならない使命感のようなものを感じてしまう。

しかし…

しかし、だ。

…私は、貴族だ。

夢の中でも泥棒となるにはいかない。



「……葵と何か、あったのか?グリシーヌ」

私の悩む様子をみて、ロベリアが口を開いた。


さすがに、カンは鋭いな…。



「…葵に…ぷ、プロポーズを…結婚を申し込まれた…。」


「「プロポーズ!?!?」」

2人とも、先程よりもカウンターから身を乗り出し、声を上げた。

私は、それに更に付け加える。


「ただし、キャッツを捕まえたら、と…」


それを聞くと、2人はカウンター内に戻り、舌打ちをした。


「ケッ…そんな条件付けずにシッポリヤッて、責任追及して、結婚すれば良いのに。」

「…ロベリア姉さん、台無しだよ…。

 汚れた知識が無かった数分前のボクを返してよ。」


とにもかくにも、私にはこの夢が早く終わってくれればいい。

…しかし、いくら頭をぶつけようとも、この夢が終わる気配は、ない。


「…ど、どうしたらいいのだ…!私は!!」


…別に、結婚という形式を取らずとも…私は…

葵と…この巴里を守れたら…良いと思っていた。


でも…今の私は…全身タイツの怪盗…。

私は、悩んだ…

夢の中だと言うのに、こんなに悩むなんておかしいのだが…。

たかが、夢だというのに…。


好きな人に、隠し事をして、その人を苦しめるのは…

私の本意ではない…。


「それで…葵と結婚、したいの?グリシーヌ姉さん。」

コクリコは、心配そうにそう言った。

「…え…そ、それは…」

答えに詰まる私に、ロベリアがすかさず口を出す。

「…どのみち、女同士だから教会に行ったら、神父に神の道に背いてるとか言われるぞ。

 大体、結婚なんてな、形式と紙切れだけの”契約”だぞ。したとしても、別に何が変わるわけでもない。

 むしろ、地獄の始まりだ。」

「…ロベリア姉さん、台無しだよ…。

 結婚に対して夢いっぱいだった数分前のボクを返してよ。」

2人の会話をよそに、私は頭を抱えていた。

「…とにかく、絵は取り戻す。今度は、北大路家の絵画をいただく。」

「…そうだね…キャッツカードもう、送っちゃったし。」

「…あぁ…どうしよう…」


覚めない夢など、まるで現実のようではないか!

・・・まさか、現実なのか…?

貴族である私は…夢で…

本当の私は…泥棒だというのか…!



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”カランカラン…”


「こんにちは。」

「ボンジュール!ロベリアさーん!!!」



「…いらっしゃい、葵。エリカは帰れ。」

「ひどーい!エリカもお客さんですよ!?」

「…客とは思ってない。帰れ。」

「そのツンデレ加減が、また可愛いんですよね!ロベリアさん♪」

「…デレた部分は一度たりとも、出さないから、帰れ。」

「あーん!ひどーい!でも、ソコが好きです♪」

「だあああ!くっつくなっ!!」


「…あのーコクリコ…グリシーヌさんは?」

「二階で寝てるよ。呼ぶ?」

「あ、なら良いんです…ただ、今夜キャッツが出るので、その前に会っておこうかと、思っただけなんで…」

「へー、今回はなんか気合が違うねー♪葵」

「ええ…今回は、秘密兵器も用意してるんです。絶対に捕まえます…」

「秘密兵器?なになに?教えてよ葵〜」

「そ、それは…その…」

「そうです!秘密兵器で!絶対に、ロベリアさんを捕まえます!

 それで、面会時間2人きりで〜…♪」

「…だから、お前は帰れっ!」


「ねえねえ、その秘密兵器ってなんなの?」

「ダメですよ〜!教えられませんよ〜!警備の数だって、そりゃー増やしに増やしましたし!

 今度こそ…」

「エリカ、アタシには、教えてくれるよな?アタシら、秘密を共有できる関係だろ?」

「ロベリア姉さん…さっきまで”帰れ”とか言っておいて…」

「勿っ論っです♪ロベリアさんにならエリカ教えちゃいますね♪」

「あ、姉さんには、教えるんだ…」

「実はですね!ロベリアさん!秘密兵器とは石像」

「ッコラコラ!!エリカさん!ダメですってば!一般市民に情報漏らしちゃ!!」

「あ、そうでしたー♪」

「「・・・・・チッ。」」

「あ、時間だ…では、我々は警備に行ってきます…

 グリシーヌに…よろしくお伝えください…。」

「…あいよ。」

「頑張ってねー♪(どうせ無駄だと思うけど♪)」


”カランカラン…バタン”



「…グリシーヌ…いい加減、逃げるのはやめな。」


ロベリアの一言で、私は、カウンターから頭を出した。


「…嘘は、つきたくない…」

「何言ってるんだよ…お母さんの絵を全て手に入れたら…それで、終わるんだよ。
 
 結婚はそれからでも遅くないはずだよ?」

「…しかし…!」

「グリシーヌ姉さん…忘れてないよね?

 お母さんが死んだ時、絵はあらかたブローカーに盗まれた後だった

 ボクらへのプレゼントだって、いう手紙だけ、残して…これは、ボクらの”敵討ち”でもあるんだ。

 母さんの絵、もっと皆に見せたいのに…闇でしか、お金の前でしか評価されないなんて、かわいそうじゃないか!」

確かに、芸術家として、その末路は悲しすぎる。

「…コクリコ…」


「そうだ…母さんの絵はな…

 馬鹿な金持ち共の、金儲けの道具じゃない。


 …れっきとした、アタシらの”財産”だ!誰が渡すか!」


・・・・ロベリアは・・・やっぱり、ロベリアだな。


「…ロベリア姉さん、台無しだよ…。

 純粋にお母さんへの気持ちを語った数分前のボクを返してよ。」


「とにかく、だ。絵は取り返す。どんな手段を用いても、だ。」

「うん。」

「……。」

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闇夜に紛れて、我らは、目的の屋敷へと近づく。

「…後悔、しないな?」

屋根に飛び移りながら、ロベリアが私に確認した。

私は即答した。

「一度引き受けた事なら、最後まで貫き通す。それが、私の信念だ。」

「ああそうかい。」

「コクリコは?」

「先に行って、偵察している。キネマトロンで、連絡が入るはずだ。」


屋敷とは…ブルーメール邸…。

私の家に、私が泥棒に入るなどとは…


なんて夢だ…。


…いや、夢かどうかも…もはやわからぬ…。


”ぴーぴー”

「…警備は?」

ロベリアのキネマトロンからは、コクリコの声。

『思ったより、手薄だね…ただ、エリカの言ってた秘密兵器ってのが、気になるけど』


「ま、馬鹿が考えたトラップなんて、大体見当がつく。コクリコ、お前は計画通り、かく乱しろ。」


『おっけ〜♪任せてよ、そっちもよろしくね♪…グリシーヌ姉さんもね?』

「…わかった、油断するな、コクリコ。」


この期に及んで、私を気遣うとは…

…本当に、コクリコの精神力には、驚かされる。


ロベリアはキネマトロンを切り、私を見ると、真剣な眼差しで言った。

「いくよ…ヘマすんじゃないよ!」

私も、それに真剣に答える。

「言われずとも…!」


見知った庭を駆ける。

「…警備員を増やす、と言った割には…コクリコの言うとおり、少なすぎるね…」

「ロベリア、こっちだ。」

私の屋敷なのだから、侵入は思ったより容易かった。

屋敷の中へと入ると、確かに警備の刑事はいた。

だが、騒ぎになる前に、ロベリアと私で気絶させた。


「…ロベリア!目的の絵は?」

「この先の貴賓室だ…!油断すんじゃないよ…グリシーヌ。

 何か、におうぜ…!」

「・・・・うむ。」


そう、容易過ぎる…。


侵入も、増やしたという警備の人数も…


葵がいる以上…こんな容易いとは思えん…!


「…あそこだ。」

ドアを用心深く開けたが、部屋には誰もいない。

貴賓室には、誰もいなかった。

明かりはつけず、我らは窓から入る月明かりだけで、前へと進んだ。

広い空間に真っ赤な絨毯、白い壁…実際、我が屋敷にこんな部屋は無い。


…妙だ、この部屋、全体が…妙だ…!

…夢だから、か…?


中央には石像が一体、奥の壁に絵が一枚。

貴賓室というのに、ソファの類がない。


「…気をつけろ…なんか、あるぜ…」

ロベリアは、気配を探りながら部屋の中を進んでいく。

私は、中央の石像の前でピタリと足を止めた。

「…この、石像は…?」

中央の石像は…花火に似ていた。

「…この屋敷のお嬢様の像、らしいぜ。

 わざわざ、作るか?普通…余程のナルシストなんだろうな。」


確かに、なんか不自然なまでに豪華な作りだ。


花火の石像は、本人より随分と大きく、豪華なドレスを身にまとったもので、飾りつけも不自然なまでに豪華。

表情も、明るく…明るすぎるくらいの表情だ。


・・・馬鹿笑いしているようにも見えなくもない、が・・・。


現実の花火は、黒く目立たない服を着ているだけに…

妙に、納得がいかないな…


「…オイ…呆けてないで、さっさと盗むよ。コクリコと合流するまで時間がない。」


そう言って、ロベリアが手を掛けたのは…


「…これが…グラン・マの…絵…!?」

「そうだ。」


その絵は、金縁の額の中に飾られていた。

なんというか…どこからどう見ても…


『幼児が書いた黒猫…のような生き物…っぽい…絵?…いや、シミ?』


・・・絵なのか?あれは、絵なのか?


単なる、落書きじゃないのか?



「・・・なんだ、この絵は・・・!?」


私は、思わずロベリアに聞いた。

芸術に関して、私はある程度目利きがある。

それは、元泥棒のロベリアも同じはず。


「なんだ?って、コレがアタシらの母親が描いた

 最高傑作…

 ”巴里の夕暮れにやさぐれた端くれの女の抱く黒猫の傍の
 
 巴里の夜明けに負けを認めようとしない負け犬男の傍に佇む貴婦人”

 ・・・の、絵だ。」


「・・・・・・は?」


「だからー…

 ”巴里の夕暮れにやさぐれた端くれの女の抱く黒猫の傍の
 
 巴里の夜明けに負けを認めようとしない負け犬男の傍に佇みつつ

 苦笑いを浮かべ踊る貴婦人”
 
 ・・・の、絵だ。」


「・・・なんだと?」


「だから…っ!!

 ”巴里の夕暮れにやさぐれた端くれの女の抱く黒猫の傍の
 
 巴里の夜明けに負けを認めようとしない負け犬男の傍に佇みつつ

 苦笑いを浮かべ踊りながら、カフェオレを5リットル飲み干す貴婦人の憂鬱”
 
 ・・・の、絵だっ!…はぁはぁ…!」


「も、もう一度…頼む。」


「だーかーらーっ!!

 ”巴里の夕暮れにやさぐれた端くれの女の抱く黒猫の傍の
 
 巴里の夜明けに負けを認めようとしない負け犬男の傍に佇みつつ

 苦笑いを浮かべ踊りながらカフェオレを5リットル飲み干す

 貴婦人の憂鬱と共に走り出す何かの汁”
 
 ・・・の、絵っ…ゲホゲホっ!?…はぁ、はぁ…さ、酸素が…!」

「・・・なんか、どんどんタイトル増えてないか?

 そして、結局…あの絵は、”貴婦人の絵”なのか?”謎の汁の絵”なのか?」

「…そんなもん、し、知るかよ…はぁ…はぁ…それより、絵のタイトルは、もう聞くんじゃないよ。

 なんか、疲れた。」


「そんなに、長いタイトルをつけるほど、深い絵には…とても、見えぬが…」

「…そこが良いんだろ?まるで、ガキがポテトチップス食いながら、適当に描いたような大胆なタッチが、さ。」


「・・・なんか、ますます、情けなくなってきた・・・。」


「とにかく、この絵で…最後さ。」

「…うむ。これで、最後の…」

謎の汁の絵(という事に勝手に決めたグリシーヌ)に手を掛けた瞬間。



「…そう!あなた達の最後です!フレンチ・キャッツ!」


「「―!!!」」

石像の中から、突如出てきたのは…

「じゃじゃーん!エリカでーす♪」

エリカと警官複数。

それに反応して、ロベリアが小さく呻く。

「・・・げ。」

・・・という事は・・・


「今日こそ捕まえますよ…フレンチキャッツ…!」


(葵…!)

…私は、思わず手で顔を隠す。

ロベリアはすかさず、腰に巻いていたスカーフで、顔を隠す。

「…ほォ…石像がどうのと言っていたのは、これの事かい…」

ロベリアは、手をかざした。

(炎を出す気か―ロベリア!!)

「…ふふ〜ん!そのスカーフを剥いだら、どっちかが、ロベリアさんです!」

「…エリカ刑事…ロベリアさん探しは、捕まえてからです!!」



「フンっ!捕まってたまるかよ!!」

ロベリアは私に目配せをした。

『早く、ズラかろうぜ…』

私は、頷くと素早くスカーフを顔に巻きつけ、絵に手を掛けた。

炎は、貴賓室を包んだ。

「…くっ!させるかっ!”風来”っ!!」

炎は葵の風に打ち消される。

「…チッ…やっぱ、結婚がかかってると、スンナリとはいかせてくれないね…!」

「…な、何故それをっ!?」


(葵…どうか、許して欲しい…)


「エリカだって!ロベリアさん捕まえたら…

 あんなことしたり!こんなことしたりっ!!」

「・・・お前、刑事のクセに、欲の塊だな…エリカ…」


(…これで…最後だ…

 だから…

 だから…!!)


「…フレンチキャッツ…覚悟っ!!」

「飛び降りても、ここの下にも、警備の人間はいますからね〜!」


私は”祈り”に近い思いで、心の中で叫ぶ。


(だから・・・どうか、正体がバレませんように!!!!)


「…フン…そんなチンケな罠でアタシを捕まえようだなんて…

 甘いんだよっ!」


ロベリアが、手をかざし、狙いを定める。

…狙いは……天井!

「うわっ!?」

「全員、避けて!!」

私とロベリアは、天井のシャンデリアが、落ちるのと共に出口に向かって、駆け出した。

警官達は皆、体を床に伏せている。


「ヘタに豪華な造りにしたのが、災いしたな!」


”謎の汁の絵”を抱えて、私とロベリアは走った。

貴賓室を出て、廊下を走る。

「待て―!」

(…葵…!!)

後ろから追いかけてくるのは、葵とエリカだ。


「待てと言われて待つ馬鹿が、どこにいるっ!!」

ロベリアが、そう言い放つと

「え〜!エリカは待ちますよ〜?」

エリカがあっけらかんと答える。

するとロベリアは叫んだ。

「…じゃあ、待ってろ!!」

「はーい♪」

エリカは、ぴたっと足を止めた。

「…あー!もうっ!エリカさん走ってっ!!」

葵が、慌ててエリカをぐいっと引っ張り上げる。


・・・あのコンビは、刑事としては不適格なコンビのようだな…。


「チッ…エリカはともかく、葵は、さすがに撒けないか…!」


ロベリアが、炎をかざしながら、遅れて走ってくる。


脱出予定の窓を開け、私は後ろを振り返る。

しかし、後ろにいたはずのロベリアが、こちらへ来る様子が無い。

「…オイっ!」

私が叫ぶと、ロベリアがやっと向かってきた。

「待てー!」
「逃がしませんよー!!」

ロベリアの後に、エリカと葵が、他の警官は見当たらなかった。

「しつこいね…このッ!!」

ロベリアは、炎をかざし続けながら、目で合図を送る。

『行け。この先の窓から逃げな』

「オイっ!!悪党…!!」

『悪党は、お前もだろ?だが、今夜で最後だ…!

 だから、行け!グリシーヌ!!』


(…ロベリア…!!)



”謎の汁の絵”を抱えて、私は…斧を構えた。


「…馬鹿っ!何やってんだ!行けよ!」

「出来ぬ…」

「あぁ!?」

「我らは悪党姉妹、なのだろう…?

 母上も、きっと…我らの幸せを願って、この絵を残したはず…

 だから…離れてはいけないっ!!」

「…チッ…カッコつけやがって…!」



”ガシャーン!!”


「…姉さんっ!!」


「「コクリコ!?」」

コクリコが、脱出予定だった窓を蹴破り入ってきた。


「ズルイよ!ボクが一所懸命…誘導してたのにさ…2人だけ、カッコつけちゃってさ…!

 3人揃って、3姉妹でしょ!?逃げる時も、一緒っ!」


「コクリコ…!」

「フン、ガキもガキなりに成長したか…!!」


所詮は夢。

だが、我らは…誰一人として欠けてはいけない。


「エリカだって、負けませんよー!今日は、絶対に捕まえてやるんですからー!!!」

(…マズイ!あれは…エリカのマシンガン!!)

”ガガガガガガガガ!!”


「ちょ、ちょっと!エリカさん!!犯人に当たりますから!乱射は…危ないっ!」

「…っ!?」

私に向かって葵が突進してくる。

その勢いで…

スカーフが、ゆっくりと、解け、風に流されていく。

「…しまった…!!」

葵が私の上に覆いかぶさる。

コクリコとロベリアは、エリカの弾丸を避け、床に伏せていた。


「…グリシー…ヌ…さん…?」

「葵…!」


(…葵に…顔を見られた…!!)


マシンガンの音が止み、エリカは勝ち誇ったように、言った。

「…ほーら!神様の言うとおりっ!!3姉妹は、フレンチキャッツです!

 ね?ロベリアさん!!(ぎゅ♪)」

「…ボク、コクリコ。姉さんはあっち。」

嬉しそうに抱きつくエリカに、コクリコは力なくロベリアを指差し言った。

「…あ、通りで小さいと思いました♪ね?ロベリアさん!!(ぎゅ♪)」

「・・・あー…ウザ。」

ロベリアも力なく、そう言った。


「…そんな…グリシーヌさんが…!」

「…許せ…葵を、騙すつもりは、なかった…」

「…嘘…嘘でしょ?何かの冗談、でしょ…?これ、変装の、マスク・・・」

葵は、私の頬をつねり、その感触が皮膚だとわかると、絶望にも似た目で私をみた。

その表情を私は真っ直ぐに見つめて、言う。


「…逮捕せよ。葵…貴公の…仕事であろう…?」


夢の中とはいえ、この私が…


窃盗罪で捕まるとはな…


だが、何故だろう…


不思議と、後悔はない。


貴女の前で、もう自分を偽る事はしなくても良いのだから…


「……グリシーヌさん…


 解りました…。貴女方3名を…



 『公然わいせつ罪』で逮捕します!」




「「「・・・・・・・え゛?」」」




「…エリカさん、時間は?」

「えーと…午前1時24分です♪

 主よ、夜更かしをお許しください…でもエリカ頑張りましたっ♪」


私は、思わず手を上げて発言する。

「あ、あのー…葵?あの…我らの罪状は、窃盗罪では、ないのか?」

葵はキッパリと答えた。

「公然わいせつです。」

それに続いて、ロベリアが慌てて付け加える。

「いやいや!ちゃんと、レオタード着てるだろ!?

 どこがわいせつなんだよ!?それに、絵盗んでるし!!」

「い〜え♪公然わいせつです♪ロベリアさん♪」

エリカがにこやかに、バッサリと斬り捨てる。

「…もしかして、ボクらの罪軽くしてくれるために、窃盗罪は無しにしてくれるとか?」

コクリコの問いにも、葵とエリカは、きっちりと答える。


「いいえ。最初から…不法侵入先での連続公然わいせつ事件の犯人として、フレンチ・キャッツを追ってましたよ。」

「そうですそうです♪」



「「「いや、だから!盗みの件は!?」」」



「…全っく関係ありません。誰がどう見ても、幼児がチョコパイ食いながら、描いた絵でしょうに。

 価値なんかありませんよ。」

「全ては!そのぴっちりエロスなレオタードが、罪なんですっ!

 ・・・大体、そろいも揃って、恥ずかしくないんですかぁ?」


ぴ、ぴっちり、エロス…だとっ!!?


「グリシーヌさん…貴女を…信じていたのに…」


やめろ…葵…その、悲しそうな目で…私を見るなあああああああ!!!



「待ってください!葵刑事!!」

そう言いながら、走ってきたのは、私の親友、花火だった。

「・・・お前は、花、火…?」

花火は、私を悲しそうな目で見ていた。

いや、それよりも何よりも!!

「花火!ひ、額に…カードが刺さっているぞ…!」

花火の額には、シャノワール印のカードが深々と刺さっていた。

・・・死んでる、ぞ。普通は…。


「あ、ゴメーン♪それ、ボク。」

ニャハハと無邪気に笑うコクリコ。


「笑い事で済むか!!は、花火!大丈夫か!?」

私は、花火のカードに手を伸ばした。

カードはするりとあっけなく取れた。


…ホッ…とした次の瞬間!!



”ぶっしゅーーーーーー!!!!”


花火の額から、大量の血液が噴出した!!


「グリシーヌ…そんな事よりも…どうしてこんな事に!?」

花火は、気にもせず、悲しそうに私に語りかけてくるが、私は目の前の状況に焦るばかりだった。

「…いやいやッ!どちらかと言うと、お前の方が、大変な事になっているぞッ!?

 し、止血だ!花火!」


慌てる私をよそに、花火は両手を胸の前で組み、話し続ける。


「グリシーヌ…貴女達がどうしてこの屋敷に入ったのかは、知っています…」


”ぶっしゅーーーーーー!!!!”


「いやだから!花火、私の話を聞け!血がっ!血が!!」

「それ、亡くなったお母様の絵…なんですってね…」


・・・どうやら、出血は、気にしなくていいようだ・・・。


「でも言ってくれれば…私、協力しましたわ!

 だって…私達、親友でしょう…!?」


”ぶっしゅーーーーーー!!!!”

花火の額の出血は、止まらない。


「…花火…す、すまない…!」

(…あと、お前を直視できない私を許せ、花火…)


「あの、刑事さん!3姉妹は我が屋敷のパーティーの余興でフレンチキャッツの仮装をした…

 それで良いじゃありませんか!?」


「「「…!!」」」


「北大路さん…何を!?」

「グリシーヌたちは…何もしてません!

 そうでしょう!?」


”ぶっしゅーーーーーー!!!!”


「…花火…!(どうでもいいが、もうそろそろ止血しろッ!)」


しかし、花火…なんと心優しき言葉だ…!

…そんなお前の前で、全身ぴっちりエロスのレオタード姿をさらすとは…

…夢で良かったが…なんか、嫌…。


「グス…良いお話ですねえ…葵さん…(びーん)」

「…エリカさん、私のスーツで鼻かまないで下さい…

 花火さん、貴女のお気持ちは、解りました。しかし、仮装だとしても、公然わいせつ罪に変わりは無いですよ。」


葵の言葉に、我ら3人は、がっくりと肩を落とす。

(((・・・ガーン・・・。)))


…フレンチ・キャッツが、ただの公然わいせつの集団として、捕まるとは…情けない限りだ。


「グス…ええ…それに、この仮装を許可したとして

 花火さんも罪に問われますけどぉ宜しいんですかぁ?…

 グスッ…(びーん)」

「…ああ…エリカさん…それ、私のネクタイ…」


すると、花火の額の出血はピタリと止まった。

そして、ニコリと笑いながら言った。


「…グリシーヌ…罪、サクッと償ってね♪」


(…変わり身早っ!?夢の中の花火、軽っ!!)

立てた親指が、一層、その軽さをあらわす。

「あ、それから…葵刑事…結婚して下さい…ぽっ♪」

「花火ィ―!なんだ!その軽くて突然のプロポーズは!!」←(グリシーヌ渾身のツッコミ)


「・・・喜んで。(あっさり)」


「うおおおおーい!!葵!喜ぶなああああああああ!!」←(グリシーヌ一生に一度の大ツッコミ)


「じゃ♪連行しまーす♪軽犯罪者3名様ご案内〜♪」


エリカの一際明るい声に、私は叫んだ。


ふざけるなああああああああああああああ!!!!!!




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「・・・んん・・・」


「居眠りなんて、珍しいですね?グリシーヌさん」

葵が、私を見下ろしている。

優しい、いつもの笑顔で。


「…夢…か…私は、何時間程寝ていたのだ?」

「2時間ほどです。」

私が目覚めた場所は、シャノワール。

いつも葵が仮眠をとっている部屋だった。

長いソファで、私はいつの間にか眠り、葵はその隣で本を読んでいた。

「そんなものか……葵…」

「はい?」

私は、起き上がり、葵の襟を掴んで引き寄せ、たずねた。

「…お前と私の関係は、なんだ?」

「ど、どうしたんですか?急に」

「いいから答えよ!!」


「…巴里華撃団…た、隊長と部下、ですけど…?」


・・・どうやら今度は本当に、現実らしいな・・・


「そうか…」

「現実に近い夢でも見たんですか?」


…随分と軽く言ってくれるものだな…葵。


「…お前が花火に乗り換える夢を見た。」

と私が言うと、葵は困惑したような表情を浮かべた。

「…ず、随分、微妙な夢、見たんですね…グリシーヌさん」

「確かに、非ッ〜常ッに!不愉快な夢だった。だが、所詮は夢…覚めれば何の事は無い。」


そうだ。

所詮は、夢だ。


「…なんだか、うなされてた、というか…何かに、ツッコんでたというか…

 見ていて、面白かったので起こさなかったんですけど…。」

と、のん気に笑う葵。

…私は、眼光鋭く、葵を睨みながら言った。

「・・・今度から、遠慮はいらんから起こせ…いいなっ!葵!」

「は、はい!す、すみませんっ!」



「…全く…ん?…葵、お前何を持っている?」


葵の手元には、一枚の絵が。


「あぁ…コレですか?

 これはですね…(すーはーすー…)


 ”巴里の夕暮れにやさぐれた端くれの女の抱く黒猫の傍の

  巴里の夜明けに負けを認めようとしない負け犬男の傍に佇みつつ

  苦笑いを浮かべ踊りながらカフェオレを5リットル飲み干す

  貴婦人の憂鬱と共に走り出す何かの汁が起こす奇跡の夢”


 (はぁはぁ)…の、絵葉書…です。


 グリシーヌさん…これ、何の絵か、わかります?

 貴婦人の絵なのか…謎の汁なのか…奇跡を描いたのか…何がなんだか…」


「…それは…単に…幼児が、プリンを食べながら適当に書き上げた絵だろう…。」



グリシーヌは言い終わると、それ以上何も言わず、ただ葵に抱きついたまま、何時間も動こうとしなかったという。