漫画やドラマ、映画の中の恋愛って、正直誇張しすぎって思う。

あんなの、現実にある訳ない。

好きな人が出来たら優しくなれるとか、好きな人を想いすぎて幸せだとか、不安で辛くて泣くとか。


人を好きになるって、そんなに大事(おおごと)ですか?

大事にしてんのは、本人だけ。

大変なのは、ソイツだけ。


そんなのツイッターでツイートしたって、第3者からは「わかるー」とか返って来るかもしれないけれど


心の中じゃ 「お前だけ自分の世界に酔いしれてんじゃねえよwwww悲劇のヒロイン乙wwwwww」 とか思われてるのに気付かない。

でも、実際・・・こういう馬鹿は乗せ易くて、扱いやすい。


・・・同調・理解・共有・プラス思考な言葉で・・・簡単に心を許してくれる。

あとは、上手く誘導してあげたらいいだけ。


人付き合いは面倒だけど、私のお仕事みたいなもの。

ご利用の際は、計画的に、なんてね。


人付き合いは、大切にしなくちゃ。


そんなの間違ってる?自分の本当の気持ちは、どこにあるのかって?


いやいや・・・自分の感情だけで生きてたら、損するよ?


本音は隠して、目の前の人間が欲しがってる餌をあげなきゃ、こっちにも利益なんか来ないんだから。


人生は短いんだからさ・・・得な道たくさん選ばなきゃ。

人の気持ちを考えて〜とか説教臭いこと言うやつだって、結局最終的に大事にするのは、自分自身。

最初から、中途半端な優しさを振りまくよりも、そうして下さいって感じ。


だからさ・・・人を信じて、愛を信じて、真っ直ぐに生きてるって感じの、朝ドラのような女なんかがね・・・


私、大嫌いなの。




 [ 続・それでも彼女は赤の他人 その2 岸本梢 編  ]




初めて付き合ったのは、中学生の頃かな。

みんな、そういう系の話が好きだし、私も嫌いじゃなかったし。

先輩と街で遊んでたら、ちょっとレベルの高い大学生の人達と遊ぶ事になって・・・ええと、あとどうしたっけ。

あ、そうそう。

カラオケでお酒少し飲んで・・・目の前に残ってた、いかにも優しいお兄さんが、私だけに妙に優しかったんだっけ。

ああ、コイツ私に気があるんだなって思って・・・で、なんか付き合いたい、みたいな事言われたんだっけ。


で・・・あ、そうそう。

私は、そこで思ったんだ。


”私の初セックスの相手は、コイツでいいや”って。


結構、初体験の話ってネタ的にも大事だなって思ってた所だったし。

遅かれ早かれなら、乱暴で変なプレイもしなそうだし、スペックも良いし、コイツでいいやって思ったから付き合う事にした。


話すなら、その日の内に運命みたいなもん感じて即ヤリました〜・・・よりも

付き合った上で距離縮めてからヤリましたって方が話的には、マトモな恋愛した感じ出るでしょ?


・・・どっちも、そんなに変わんないのにね。


で、ヤッてみたけれど、やっぱり漫画とかドラマ、他人の経験談は、誇張しすぎでしょって感じだったかな。

大学生の狭くて少し埃っぽくて、男臭いベッドで、私は性行為ってヤツをした。


教われるままに、ちゃんと咥えたり、ジッとしたり、声も抑え気味には出したり、義務は果たしたんだけど。


終わってから、大学生の人は

『そんなに良くなかった?』とか少し落ち込んでたっけ。


自分はあんなに気持ち良さそうにしてたクセに、そんな事言われる意味がわかんなくって聞き返したら


『なんか、梢ってあっさりっていうか・・・年の割に冷めてるなぁって思ってさ。こういうの、あんまり好きじゃないの?』


って、言われた。


ああ、ちょっと本心バレたなって思いながら、私は制服を着た。

そんな事ないよって、誤魔化すようにキスをした。


あとは、1ヶ月ももたなかったなぁ。


なんか、興味失せちゃって、自分の彼女扱いしてきて、メールが頻繁に来てウザくなったから。

最後・・・なんて言われたっけ?


『俺は、恋愛対象じゃなくて、お前の踏み台か?』とか、なんとか・・・キモイよね。


ヤレたんだから、いいじゃん。踏み台は、どっちだよ。

ていうか、利益共有したんだし、お互い様でしょ?


大体、初恋とか初体験の相手と長続きする方がキモイんだよ。


初めてだから、何?

そんなもの、後生大事にしなくちゃいけないものですか?


ずっと、そのまま続く訳ないじゃない。

色々経験して、大人の女になるんでしょ?

だったら、初めての相手だけで終わらせるのは、もったいないじゃない。

初めての女の子に色々自分が教えたい、とか言うやつ、結構いたよ・・・実際、言われると、サムいよね。



感情なんか加えるから、初めての相手といる事を貫かないで色々試しただけの女を”ヤリマン”なんて呼ぶんでしょ?

処女(新品)だの、中古だの、うざいよ。

膜なんかで、一喜一憂できるなんて、頭の中、おめでたいんじゃない?


だいたい、自分だけに思い入れなんかをそうそう抱かれると思ってもらっちゃ、こっちが困るわ。


私の身体だけじゃなくて、時間も、心も欲しいって?

それはね、それ相応の人間が言う台詞なの。


選ぶのはね、あなたじゃなくて・・・私。



ああ、こういう考え方が・・・一般的に、冷めてるって事?






「こんにちは。」

「あ、いらっしゃいませ。」


私のおじさんが経営してる、喫茶店・オレンジ。


店の規模は小さいし、古いし、流行のスイーツも置いてないけれど、パンケーキだけは美味しい。

親戚だから、500円ぽっきりでいいしね。

おじさんは無口だし、私にどうこう言ったりしないから、時々お金が無い時はここにいる。

カウンターの席に鞄を置いて腰掛けると、カウンターの中から、最近バイトで入った女子大生がいつも通り笑いかけてきた。


感じ良い接客。

服のセンスも良いし、いいお姉さん。


「いつもの、パンケーキとカフェオレのセットで。」

「生クリーム多め?」


知り合って間もないけれど、すぐに彼女とは打ち解けた。

なんというか、話しやすいんだよね。頭良いんだなって感じ。


「うん。・・・おじさんのぎっくり腰、まだダメなんだ?」

「お昼、マスターがコーヒー豆を挽こうとしたら、またやっちゃったって、今、上で寝てるわ。」


お姉さんは、この古い喫茶店の他にもバイト掛け持ちしようとした矢先、おじさんがぎっくり腰。

奥さんは、実家のお母さんの面倒を見に帰ってる。


・・・そんな訳で、お姉さんは、強制的にほぼフルタイムの労働。

もう、お姉さんのお店だって勘違いされちゃうかもね。


「年取ると大変ね。豆挽くのお姉さんにやらせれば良いのに。」

「ふふ、じゃあ明日やってみるから、飲んでくれる?味がわかるように、ブラックで。」


「ふふ、やだよ。私、お姉さんのパンケーキ目当てなんだから。」

「あ、やっぱり奥さんの焼いたのと近いの?」


私の言葉に、表情がぱっと明るくなった。

こういうところ、結構可愛いなって思う。


「近いっていうか・・・前以上に美味しいよ。すっごいふわふわしてるもん。」

「それは、実験パンケーキ3号ね。マスターは4号が奥さんの味に近いって言ってたなぁ。」


奥さんの焼いたパンケーキを再現して欲しいって言われて、お姉さんはバイトなのに頑張ってる。

日に何十枚も焼く。

今や喫茶店の中は、コーヒーよりもパンケーキの匂いの方が濃くなってる。


「あれは、おばさんの味には確かに近いけれど、薄すぎだよ。私、厚くてふわふわしてる方が・・・」


そういうと、カウンターの中から白い皿に厚めのパンケーキが見えた。


「・・・こんな感じ?」

「あ、すごい!3号より、厚みあるね。」


思わず身を乗り出して見てしまう。

2週間前にココに来たばかりなのに、お姉さんは器用にこなす。パンケーキだって、4日前に始めたばかり。


「今日は、ベリー系のトッピングね。あと・・・生クリーム。」


見た目は、海外から出店してるパンケーキと比べても劣らない。

赤い苺と白い皿に弧を描く赤いソースと、添えられる生クリームの山。美味しくない訳がない。


「パンケーキっていうより、スフレっぽくなりました。どうぞ。」


フォークでパンケーキを切って、口に運ぶ。

ふわふわしていて、生クリームの甘みとベリーソースの酸味が、口に広がる。


「・・・・・うん、コレ一番。最高。天才。」


私がそう言うと、お姉さんはとても嬉しそうに笑った。


「ありがとう、梢ちゃん。」


その笑顔がつくから、私は思わず褒めてしまうのかも。

でも、本当に、貴女が作るものは全部美味しかったんだよ。


家のお母さんのよりも、自称・料理好き男子のよりも・・・美味しかった。


見てるだけでもなんとなく、退屈しないで、食べて、こんなにほっとする事なんか、今まで無かった。


始めは、年取ったのかなって思ったけれど。

これが、安らぎの一時なんだって、後から気付いた。


お姉さんなら、気を遣わなくても過ごせた。

何を演じたり、言葉を選んで好感度あげようとか、そんな作業必要なかった。

何を言っても、彼女は笑っていてくれるから。


なんとなく、だけど。


私とお姉さんは似ている気がする。


最初は、全然違うと思ってたけれど・・・なんとなく、感じるものがあって。


私らしくない、とは思う。そんなものを感じて、どうこう考えて、動くのって。


だけど、気付いたらお姉さんの近くに来ている。


「・・・お姉さん、彼氏いないの?」


私はフォークの生クリームを舐めながら、聞いた。


「前も言わなかった?いないわよ。」

「へえ・・・でもさ」


私の言葉を遮るように、低いバイブ音が聞こえた。


「あ・・・ちょっと、ごめんね。」

「・・・・・・。」


お姉さんは、ガラケーのケータイをぱかっと開いた。

スマホにしないのって前にも聞いたけれど、面倒だし、お金がかかるし、消したくないデータがあるからって笑ってた。


ふっと、彼女が笑った。

メールの文章を読んで、少し力が抜け、安心したように・・・。


そういう表情をする女のメールの相手は決まってる。


(・・・やっぱり、彼氏いるんじゃない・・・。)


お姉さんが、私に向ける笑顔とはまた違う笑顔を向けるヤツって・・・誰なんだろう。

ガラケーを閉じて、お姉さんはカフェオレをいれ始めた。


携帯から、コアラのお菓子のストラップが揺れていた。

それはあまりにも子供っぽくてお姉さんの趣味じゃないって、思った。


・・・誰?きっと、お姉さんに、合わないよ。ソイツ。



「はい、カフェオレです。」

「・・・ありがとう・・・ねぇ。」


「ん?」

「お姉さんって処女?」


私の質問に、お姉さんは一瞬驚いて、目をパチパチさせて、またいつも通り笑って言った。


「ふっ・・・いきなりヘビーな話題ね?」

「ごめん、下ネタはやっぱりNGか。」


私がそう言って笑うと、やっぱりお姉さんはいつも通り笑い返してくれた。

こういうぶっちゃけ系の冗談も結構通じるから、ホント話しやすい。


「経験が無いって訳じゃないわよ。」

「へえ、その相手とは、初めて?今も続いてる?」


「・・・どう思う?」


そう言って笑ったままのお姉さんの答えで、私は思った。

この人の中には、他の誰かがいるって。


「質問に質問で返すのはどうかと思う。」

「だよね。」


そう言って、お姉さんはコップを拭き始めた。


その指を掴めるヤツがいるんだ。

その顔に唇をつけて、歪ませたり、悦ばせたりするヤツがいるんだ。


その身体に手を出して、その心も、時間も全部・・・手に入れるヤツが・・・いるんだ・・・。



でね・・・そこまで考えたらさ・・・・・・私は、そこで、こう思ったんだ。



”この人の中から、余計なソイツを消してやろう”って。



だって・・・要らないじゃん?

お姉さんには、ソイツの存在って悪影響だもの。

そんなの必要ないじゃん。

私がソイツを上手く消したら、お姉さんは、その時、泣くのかな?

その時の顔もちょっと見てみたいな。


そこまで考えて・・・これって、結構、面白いと思ったんだよね。


初めてのセックス相手を探すより、ずっとずっと、面白そうだって思ったの。


泣いたお姉さんに私が声を掛けるシーンを想像して、私は思わず笑いが零れた。


「・・・ねえ、その携帯のストラップ・・・可愛いね。」


「あ、そう?」


その時は、知らなかったんだ。


彼女の相手が・・・”ただの男”だったのなら、奪うのだって、もっと簡単な筈で、すぐに私の興味も失せたかもしれなかったのに。



だから調べて、相手が解った時、正直、ビックリしたよ。



・・・同じ学校で・・・同じ性別の・・・


お姉さんと同じ血を身体に流してる、妹だったって・・・知った時・・・。


あの女が、隣で笑うと・・・お姉さんが力が抜けたように笑ったから。

私には向けない笑顔を、同じ女なのに妹なんかに向けるから。


すぐ、わかったよ。

私ね、そういうの鋭いんだ。


ねえ、恋愛における障害は少ない方が良いでしょ?

同性ってだけでも、かなりハードル上がってると思うし。



女が好きならさ、別に・・・私でも良いじゃん。



・・・そうでしょ? 藤宮さん。




「うん、可愛いよ。・・・だからさ、それ・・・頂戴?藤宮さん。」



頂戴。


藤宮さん。




貴女の事、私に頂戴。





 ― 続・それでも彼女は赤の他人 その2 岸本 梢 編 ・・・END ―