(うわ・・・!)


最初それを見た時、『ああ、嫌なもの見たなぁどうしよう。』って思った。

単に、それ以上関わらなきゃいいだけなんだけどさ。



(・・・いや、それでも・・・)



話いきなり変わるけれど、あたしの友達の男にさ、頭は良いんだけど、ガリガリに細くって色白なヤツいるの。

ハッキリ言って、彼女いないしね。でも、まあ良い所もあるわけ。悪いヤツじゃないんだよ。浮気はしないだろうし。


でもね、”ああ、コイツはモテねーだろな”、と思ってたら本当にそうなんだよね。

友達としてはアリなんだろうけど、付き合うってなったら、話は別なのよ。


ソイツ、結構親しいヤツには割とズケズケとモノを言うんだ。

ハッキリとモノを言うだけなら良いんだけど、時と場合があるじゃない?


・・・まあ、そいつはね、デリカシーがね、とことん無いのよ。


「あれ?太った?俺、もっと肉つけたいんだよね〜」、とか女の子の前で平気で言うんだよね。あり得ないでしょ?


でもさ、あたしがソイツの中で最も無いなって思ったのがね。


『・・・俺さぁ、面倒くさそうな事には、余計な首を突っ込まないタイプなんだよね。こじれて、巻き込まれるのだけは嫌だし。

それが要領よく生きてくコツだよ。平和が一番。』


って、笑いながら言った事。

話し相手が悩み相談しようとしてるかもしれないのに、さ。


うん、まあ・・・言ってる事はわかるし、実際、あたしだって巻き込まれるのは嫌なんだけれどさ。

でもでも!そんなの、あたしに話してどうするの?余計なトラブル持ってくんなって、遠まわしに言ってんの?って思った。


それで、あたしさ、「ああ、コイツはきっとイザとなった時に頼りにならないし、してもいけない」って思ったんだ。

だって、友達やってたら大なり小なり、トラブルはつきものじゃない?

つまり、俺の元にトラブルを持ってくるな、俺を頼るなっていう、予防の柵をあたしの前にソイツは立てたわけ。


でー・・・思ったんだ。


ああ、コイツにとってあたしは”助けたくない位置にいる人間(友達)”なんだって。

そいつにとって、あたしは、その程度なんだなって。

そいつがそういうつもりで言ったんじゃないって言っても、もうあたしはそいつを信用できないし、頼りたくない。


あー言っておくけど、あたしソイツの事好きじゃないから。むしろ、その一言のせいで嫌いになったから。


まぁ、それでもね、気持ちはわかる。トラブルとは無縁でいたいって気持ちはね。


でもさ・・・あたしは、思うわけよ。


生きてく要領の良さとか、面倒とか、人を助けるのにさ、そんなくだらない事イチイチ考えてたら、やってらんないじゃん。

そう、一度関わったら面倒だってのは承知の上。


・・・あたしさ、要領とか頭の容量も無いもんだから、そういうの我慢できないんだよね。


あたしは、友達を”助けてやろう”なんて思った事は無い。

力を貸して、一緒に乗り越えていく・・・それが、結果的に助けるって事なら、そうなんじゃない?

あたしは好きでやってるから、よくわかんないけど。


あ、勘違いしないでよね、あたし空気は読めるよ?

ただ・・・空気を読まなくてもいい時や空気ぶち壊さなきゃいけない時は・・・トコトンやっちゃう。


やれるヤツが、あたししかいないんだって思ったら・・・やってしまう。


・・・ああ、こういうのが、お節介って言われるんだろうね。



現に、今もあたし・・・お節介街道真っ只中な行動やってるし。






 ― 続・それでも彼女は赤の他人 その4 野原 望実 編  ―







「・・・あれ?」


最初は、見間違えかと思った。

街中の人ごみの中、チラッと視界の中に入ったやけに背の高い女。

目で追うと、やっぱり見知った人物だった。


正真正銘・・・藤宮優貴さん。


(わ、久々!しかもなんたる偶然!)


相変わらず、ストレートの黒髪に、薄手のロングシャツの下からは細い身体のラインが見えてる。

横断歩道を歩くショートデニムパンツからスラリと伸びる長い足。

見かけたのが嬉しくって、ついあたしは後を追ってしまった。


(うーむ。しばらく見ない間に色香が増したなぁ。)


悠理の腹違いのお姉さん・・・の割に、まったく似てない。

感情丸出しのわかりやすい悠理に対して、優貴さんはミステリアス。

二人はそれでも一応、姉妹・・・だった。


(お?)


優貴さんが、駅前近くの噴水公園の前で止まり、周囲を見回した。

(んーデートの待ち合わせかな?それにしては、軽装すぎるっていうか・・・)

そこで、あたしは我に返る。



悠理と優貴さんは・・・付き合っていたんだった。

女同士で、腹違いの姉妹で・・・なんてスキャンダラス!と衝撃を受けた。

普段の悠理からはそんな事するなんて考えられなかったし、相手の優貴さんだって、そんな風には見えなかったんだ。


優貴さんの目的は、悠理の家を崩壊させる事だった。

復讐なんてドラマみたいな事を優貴さんは本当にやってのけて・・・その為に、悠理は色々傷ついた。


結局、二人の関係がお父さんにバレて、色々あって優貴さんは悠理の家を出て、二人の関係は・・・


(あ、そうだ・・・別れたんだっけ・・・。)


なんで忘れたんだろう?悠理が、あんなに傷ついたのを見たのに。

そういえば・・・いつの間にか元気になってたなぁ・・・

まるで何も無かったような感じで、ケロッと。

違和感はあったけれど、悠理が元気になったんなら、それで良かった。


ふと、優貴さんが携帯を耳にあてて、笑っているのが見えた。

腹違いの妹の家を壊しかけた人とは思えない笑顔。


(あれ?今、唇が・・・”ゆうり”って動いた・・・?)


また、動いた。


”ごめんね、ゆうり”


やっぱり、電話の相手は・・・悠理だ。


二人共、連絡まだ取り合ってたんだ・・・ん?つまり・・・どういう事?


優貴さんの唇が、また動いた。


”だいじょうぶ?あした は とまれる?”


とまる・・・とまる?・・・と、泊まる!?

悠理が優貴さんのところに?泊まるの?


ま、待って・・・もしかして、悠理と優貴さん・・・元鞘に!?

いやいや、望実早まるな。そうと決まった訳じゃあ・・・



「藤宮さん!」


向こう側から、優貴さんの苗字を呼びながら手を振ってやってくる女子高校生が来た。

うちの学校の制服着てる・・・あれ?


確かにうちの制服を着ている女の子だったけど、やって来たのは悠理じゃなかった。


「お待たせ、藤宮さん!ごめんね!」

「全然待ってないよ。」


やって来たのは、岸本 梢・・・!?

最近、何故か悠理にちょっかい出してて、瑞穂がすげえ怒ってたっけ・・・。

それにしても、あの性格ブスが、なんで優貴さんと待ち合わせ?


・・・あれ?あれれ?どーなってんの!?


大なり小なりの問題を抱えた顔見知りが、眼の前で二人揃った。


共通点は、どちらも瀬田悠理の関係者って事。


「藤宮さんから誘ってくれるなんて思わなかったなぁ。」


岸本は、さも当然のように優貴さんの腕をとった。


「お互い、丁度時間も合うし、今日がチャンスだと思ってね。」


そう言って、岸本を誘ったらしい優貴さんは笑った。


「ふふ、そうだね。たまにはお姉様に甘えちゃおうかな?」


岸本は優貴さんの腕に身体をぴったりとくっつけて、甘えたような声を出した。


(うわ、キモ・・・。)


岸本梢の本性を昔から知っているあたしは、思わずえづきそうになった。

関わりたくないから、あんまり知らないって事にしてるけれど。


・・・何も知らない人が見たら、ちょっと似ていないだけの姉妹に見える。


だけど、あたしは知っている。

目の前の二人が姉妹じゃない事も知っている。



あたしの目は、自然と二人の後を追って、ついには足も動いてしまう。


「藤宮さんってさ・・・女の子にも好かれそうだよね?」


腕を組んだまま、梢がそんな事を言った。

いやいや、確かにそうなんだけど、優貴さんは男女共に結構好かれてたんだよなぁ・・・。


「・・・そうね・・・でも、それって・・・もしも私が好きになる人が、女性だったら凄く嬉しい事だよね?」


優貴さんは、そう言って意味有り気に笑った。

実際、妹とどうこうしちゃった優貴さんが言うと、実に生々しい台詞。


「あれ?藤宮さん、女もイケちゃう系?その反応、まんざらでもないね?」

「んー?どう思う?」


「なんか、藤宮さんなら、イケそう。」

「そう?・・・私に、イって欲しいんじゃないの?」


「そこまで、言ってないし。」

「可愛いくて素直な子なら、ちょっと冒険を考えてもいいかなぁ。」


「へーマジで?」

「ふふ。」


なんつーか。

街中で、なんつー話をしてんだか。


しかも、その会話の白々しさというか・・・腹の探り合いっていうのかな・・・見ていてゾッとした。

梢は・・・見慣れてた、というか・・・相変わらず、ああやって他人を少しずつ探って、自分の領域に引き込んでいく手法は変わってなかった。


でも・・・問題は、優貴さん。


悠理と一緒にいる時と同じ。

優しくて、少し変わってて面白くて、控えめだけどオシャレで美人で、大人の・・・理想のお姉さん。

でも、ちょっとした不意打ちに似た、冗談なのか本気にしていいのか、受け取り手に色々考えさせるような・・・そんな強烈な台詞を放つんだよね。

ああいうのは、素直に受け取って、深く考えたら、負け。


・・・悠理は現に落ちゃったみたいなんですけど。


「今日、大丈夫?岸本・・・あ、ねえ」

「ん?親なら平気。友達と勉強するって言ってあるからさ。」


「ううん、”梢”って・・・呼んでいい?ちょっと、馴れ馴れしいかな?」


多分、梢が欲しい言葉を優貴さんはどんどん呟く。

砂糖のような甘さだけど、すぐに消えて・・・また欲しくなるような・・・そんな、クセになるような・・・


「な、何言ってんの。良いに決まってるじゃない。」

「良かった。名前で呼ぶと、距離が縮んだ感じがして良いね。梢みたいな妹、私、欲しかったの。」


優貴さんの視線は、しっかり岸本を捕らえたまま、微笑は優しく岸本だけに向けられていた。


「い、妹・・・。」

「あ、ごめんね。最近、私・・・妹とちょっとゴタゴタしててね・・・素直な女の子と久々に話せた気分。

前はもっと色々話せたんだけれど、最近会えないし、会っても、なんか話してて・・・ちょっと・・・

あ、ゴメンね?関係ない話しちゃって。」


一瞬表情に影を落としてから、優貴さんは再び笑った。


「ううん、良いよ。藤宮さんみたいなお姉さんなら、私歓迎。」


岸本が優貴さんの台詞に乗って、フォローに回り出した。


「ふふ、今日は、色々教えてね?」

「そ、そんな世代違わないじゃない。流行だって、藤宮さんならわか」


「ううん、そうじゃなくて。梢のこと。」

「え?・・・あ・・・うん・・・いいけど・・・。」


少し戸惑った様子の岸本の返事をきくと、優貴さんは岸本の手を握った。


「良かった。」


藤宮さんは、極上の微笑みを浮かべていた。


大抵の人間なら・・・多分ここで落ちる。

客観的に、今まで色々な人間を見てきたあたしの個人的な見解だけれど。


岸本はそこから一気に静かになった。

ぽうっとして、優貴さんの話にあわせて頷き出した。


それを見た時、『ああ、嫌なもの見たなぁどうしよう。』って思った。

単に、それ以上関わらなきゃいいだけなんだけどさ。



・・・嫌な予感が、したんだ。


・・・お節介だって言われるかもしれないけれど・・・あたし・・・


そのまま、二人の後をつけた。





 ― 続・それでも彼女は赤の他人 野原 望実 編 ・・・END ―