あれから、聖地では数ヶ月が過ぎていた。











彼女が、いや、彼女達が居なくなってからの聖地。
そこはまるで、火が消えたかのようで。




寂しさなどはあまり感じず、
ただ、虚しい。


だってそれは、あまりにも当たり前なことだったから。
毎日のようにあの笑顔を見て、共に過ごして、

試験という決められた期間のことなど、誰もが忘れるほど、
それは当たり前な風景になっていたから。







彼女は言った。
女王になると。

そして、もう一人の彼女は、補佐官に。





長い、長い夢が覚めたような、
そんな瞬間だった。














そしてほどなく、
空疎な空気に取り付かれた日々に、突然訪れたその日。





宇宙を揺るがす大事件よりも、

彼女の笑顔に再び出会えた事に喜びを感じてしまった自分が、
ひどく不謹慎に思えてならなかった。



だってそれは、
彼女を信じていたから。

彼女なら、絶対にこの危機を乗り越えられると。

だから、
心配はなかったから。
…心から、嬉しい再開だった。






それでも、

自分はこの宇宙の守護聖で、
彼女は新宇宙の女王で、

別れが訪れるのは、至極当然のこと。




あまりにも再開までが早過ぎて、感じる間がなかったから、
だから、今度も大丈夫だと、そう思った。

笑顔で彼女に約束と別れを告げ…























外界ではあれから、３年が過ぎたのだと聞いた。









最も、自分は守護聖だから、
聖地で過ぎた時間は、ものの数ヶ月。





だけど、正直。
それは、３年以上にも感じる日々だった。









皇帝との戦いの際、再開した彼女は、とても毅然としていて、
ちっとも変わってない、その意思の強い瞳に見入られた。
彼女こそが女王なのだと、深く、感じた。
だから、この選択は間違っていなかったのだと。


彼女は微笑んでいた。
少し頬を赤らめて、こちらを見つめてくれていた。


だから、大丈夫だと。





時を越え、
宇宙を越え、
離れ離れになっても、
この気持ちは、変わらない、と。

そして、この気持ちさえあれば、
また、彼女と出会うこともあるだろう、と。



大丈夫なのだと、信じていた。




けれど。




そうだ、
確かに、彼女は大丈夫だろう。
毅然として、あの笑顔を絶やさず、
素晴らしい宇宙を築いていて、
きっと、この想いも、忘れずに、いてくれるだろう。












…初めて気が付いた。

弱かったのは、自分だ。














彼女に会えない数ヶ月。
それが、こんなにも長いとは。

自分が守護聖であることに、これほど感謝したことはない。
だって、守護聖でなければ完璧に、
自分は彼女とは違った時間のなかにほおりだされる。

自分だけが年を取り、彼女はいつまでも、女王として宇宙を見守っている。
正直、想像しただけでも気分が悪くなる。









そう、

外界ではあれから、３年が過ぎたのだと聞いた。


自分の弱さを初めて知った、数ヶ月の日々。




















そして、

奇跡は、ある日突然、やってきた。



再開した瞬間は、とにかくバタバタとしていたから、よく覚えてはいない。
ただ思った事。

彼女もまた同じだけの時を過ごしていたと、改めて感じた。

少し大人びた顔で、少し長くなった髪をひるがえして、
それでもやっぱり、勝気な微笑みは変わらなくて。



綺麗だと、
極素直に、そう感じた。

そして思わずその瞳に見とれていると、
彼女は心おかしそうにクスクスとそん自分に笑顔を向けてきた。


「…なぁ〜んか、変わってませんねー、ルヴァ様って」
にこにこと言う彼女。
彼女こそ変わっていないと思うのだが。


「久しぶりにお会いしたら、なんだか皆様変わられてて、ちょっとビックリしちゃって」
そう言うと彼女ははにかむ。
「……だから、なんだか、…安心しちゃった」
静かな微笑を浮かべ、彼女は呟く。

その瞳の中に、少しばかり映った切なそうな光に、ルヴァははっとする。



時の流れ、
それを感じていたのは、自分だけではなかったのだと。



そう思うと、なんだか妙に、彼女が近く感じて、

ルヴァはアンジェリークに静かな微笑みを返し、
共に微笑み合いながら、二人はそっと、再開の喜びを噛み締めていた。



それは宇宙の非常事態のはずなのに、
その場にいる者は皆、
そんな二人の笑みに、しばらく時を忘れたかのように心を奪われていた。
















聖地では数ヶ月。
外界ではあれから、３年が過ぎ。




離れていた二つの物語は、静かに再び幕を開けようとしていた。