決戦前夜
「………大丈夫ですか、エルンストさん…」
「……え、ええ…すみません……ご迷惑をかけてしまって……」
だるそうに木に肩をもたれ、絞ったような声でとぎれとぎれに答えるエルンストに、アンジェリークの表情は心配の色を増す。
もうすでに暗がりになった森の中は、不安な心をますます増徴させていく。
少し離れた所では、腰を下ろしながらこちらを見守るパーティーの面々がいる。
…パーティーとはいっても、戦闘メンバーのみで、アンジェとエルンストの他は3人に過ぎないのだが。
…とある惑星で1夜の宿を取ったあと、森へ行こうと最初に言い出したのは誰だったか…、今では覚えている者はいない。
としかく、かねてからの戦闘メンバー一同の賛成で、散歩気分で5人で森へ繰り出したのが始まりだった。
少し森の深いところにさしかかったあたりで、突然のモンスターの出現に、即座に対応するのは困難だった。
兼ねての戦闘での疲れもとる前のことだったこともあり、戦闘は苦戦を極め、…結局命からがら何とか勝利を収めたものの、傷を負ったエルンストを助ける術はなく、一同はここに佇んでいるのだった。
「…まぁーったく、道具も魔法力も全部スッカラカンなんて、…ホントにどうしたらいいのか…」
木陰で腰掛けながら、オリヴィエが思わずグチをもらす。
「…仕方ないてオリヴィエ様、…俺もウカツやった、まさか回復アイテムのストック切らしとったとは…」
「…そうだよ、…大体あんた、ひみつ道具〜とか言って変なモンばっか出すくせに、肝心な時に役に立たないんだら…」
隣りで俯くチャーリーに、オリヴィエはますます落ちこむような事を言いまくり、チャーリーはクスンと木にうなだれる。
そんなさまを、セイランは少し離れた所にいるアンジェたちとを交互に見ながら、やれやれとした顔をしていた。
「…もう日が暮れてしまいます。 皆さんだけでもお帰りになって……ウッ……」
座り込む一同に目をやりながら、エルンストはアンジェリークに向かって苦しそうに訴える。
「何言ってるんですか、エルンストさん…、こんな状態のエルンストさんをおいて行けるわけがないじゃないですか…」
アンジェリークは思わず涙まじりに大きな声をだした。
その声に、他の3人は思わず彼女の方を注目した。
「……エルンストさん…わたしをかばったせいで、こんな……こんなケガをしちゃったのに……」
声を詰まらせながらアンジェリークは言った。
そんな彼女に、思わず見入った3人も表情を曇らせる。
そう。
エルンストは突然のモンスターの来襲にひるむ彼女をかばい、傷を負った。
…いや、今までも彼女をかばい彼が傷を負うことは珍しくはなかった。
その訳を、ここにいる一同は皆知っている。
それは今から少しだけ前のこと。
女王試験に時はさかのぼる。
あの試験の時、女王候補であった彼女と、研究員のエルンストが恋人同士であったことは、周知の事実であった。
僅差でレイチェルに勝っていたものの、、アンジェリークは女王を降りるのではないか、とずっとささやかれていた。
だが、
彼女は女王になった。
そして、彼女が新宇宙に向かう少し前、二人はしばしの時を共にした。
表向きは一応、研究員と新女王の情報交換なのだが、これが恋人同士である二人の、最後の安息の時だと、疑う者はいなかった。
二人の間に、何があったのか、知る者はいない。
ただ、新宇宙に彼女を見送る時、エルンストはこのうえもなく満足げな顔をしていたと言う。
そして、彼女は女王になる。
その後、こんな再会が待つとは、誰も、夢にも思わなかった。
セイランは回想からはたと我に返り、手近な木にもたれかかり、ふぅっとため息を漏らした。
辺りを見渡すと、オリヴィエもチャーリーも似たような表情をしている。
どうやら、皆考えていることは同じようなものらしい。
苦笑しながら、セイランはアンジェリークたちの方を見つめた。
「エルンストさん……」
アンジェリークは泣き出しそうな顔でエルンストを見守っていた。
「………アンジェリーク、……本当に日が暮れてからでは遅いです…、もしあなたの身に何かあったら…私は……」
苦痛に顔をしかめながらも必死に言うエルンストに、アンジェリークの顔は険しくなる。
しばし俯いた後、アンジェリークは涙を浮かべた目で、エルンストをキッと見据えた。
「バカッ……!」
「……え?」
「エルンストさんのバカッ!! …どうしていつものわたしことばっかり…、わたしだって、わたしだってエルンストさんに何かあったら…!」
そこで言葉を詰まらせ、アンジェリークは涙をこぼしながら、再び俯いた。
「アンジェリーク………」
そんなアンジェリークを見て、エルンストは思わず呟く。
「…でも、私は…、これ以外あなたの力になる術を知りません…」
「…エルンストさん…?」
「他の皆さんのように、力があるわけでも、強力な魔法を使える訳でも無い……、私は何の取得もない男ですから…せめてあなたの盾になれるなら…それで…」
エルンストの言葉に、アンジェリークは再び涙をこぼす。
「……バカ……、そんなことしなくても…わたしは……わたしは、エルンストさんがそばにいてくれるだけで……」
言葉を詰まらせ、アンジェリークはエルンストの胸でしばし泣き崩れた。
「…やれやれ、まったく見てられないね…」
唐突に声をかけてきたのは、セイランだった。
ふと気がつくと、他の二人も既にすぐ側まで歩み寄って来ていた。
「あ…」
アンジェリークは思わず顔を上げ、急いで涙をぬぐった。
「…ホントに、エルンストはん、あんたあいっかわず、オトメゴコロってヤツがわかれへんのやな〜」
「…あんたに言われるよ−じゃお終いだけどね…」
「………」
ひょいっと顔を出し言うチャーリーに、オリヴィエはすかさずツッコみ、チャーリーは言葉を失った。
「ま、とりあえず、自分の身をしいて人を助けるなんていう行動は、元々ナンセンスなことだ。 ただの自己満足にすぎない」
しれっとセイランは言い放った。
「……そういえば、セイランはんにかばってもらったこと一度もあれへんな……」
チャーリーはぽつりとジト目で呟いた。
「ま、それは理屈よりアイツの性格だろーけど…」
オリヴィエはチャーリーに向かってそう呟く。
そして、そのままオリヴィエはエルンストに向き直り、すこし真剣な顔をした。
「ともかく、あんたを置いて帰るなんて、あたしらだって絶対しないからね、アンジェのためにも…」
「…せやせや、帰ってから救助呼んだかて、もし間に合えへんかったら、寝覚めが悪うなるわ」
オリヴィエに続き、チャーリーもいつもの調子で言った。
セイランはちらりとエルンストと目を合わせた後、再びそっぽを向いた。
「皆さん……」
エルンストは思わず呟く。
アンジェとエルンストへの心配、というのももちろんだが、
今まで数十日にも及ぶ中、死線を共にしてきた者同士の絆が、そこには確かにあるようだ。
今まで、あまり友と呼べるものに縁のなかったエルンストは、何とも言えぬ気持ちに、涙さえこぼれそうな気がした。
「…でも、一体どうすれば…」
アンジェリークの漏らした呟きに、一同は口をつぐむ。
それが一番の問題だ。
皆で考えるか、唸りながらチャーリーはふと足元に目をやった。
「……こ、これや〜〜!」
「…一体何だい…いきなり大声を上げて…」
耳を抑えながら、セイランは迷惑そうに呟いた。
「チャーリーさん、…それ…そこに生えてる草…」
「せや、…地方特産の傷の良く効く薬草や! …まさかこんなえーもんが転がっとるとはな〜♪」
いいながら、チャーリーはせっせと薬草積みにとりかかった。
「…まったく、そんないいもんがあるなら、さっさと気付きなさいよ…ホントにもぅ…」
オリヴィエはチャーリーを横目にやれやれとため息をついた。
だが、その顔は少しだけ安堵しているようだった。
「…すみませんオリヴィエ様…」
オリヴィエの肩にもたれかかり、ずるずるとした足取りで進むエルンストは、申し訳なさそうに呟いた。
チャーリーの薬草が効いたのか、エルンストは何とか起き上がれるくらいには回復していた。
日が暮れる前にとにかく町に戻ろうと、一同は森を歩み出していた。
「いいっていいって、気にしないの。 チャーリーは薬草の加工でクタクタだし、…セイランは間違っても肩貸してくれるよーなタマじゃないっしょ…、なら私かいないじゃない」
ウインクさえしながら、オリヴィエは言った。
「…それより、さっきのはなんなのさ…」
「え…?」
「女のコ泣かすなんてさ…、あんたそれでも男?」」
「…それは…」
オリヴィエは毒づくように、エルンストをつつく。
エルンストは、困ったように俯いた。
「まぁ、確かにアンタは戦力としちゃー、ナンだけど…、あんたを足手まといだ、なんて思ったこと、私一度もないからね…、もちろん
アンジェだってそうだよ…」
「…オリヴィエ様…」
「勝手に自分を過小評価して、自暴自棄にならないこと、いいね」
「……はい」
答えたエルンストの瞳は、何故か笑みを浮かべているようにも見えた。
「…ん。 …あ、あとで忘れずアンジェに謝っときなさいよ、いいね」
言って、オリヴィエは再びウィンクをして見せた。
町へ戻ると、日は丁度西の空に落ちる間際だった。
心配していた一行が、森の入り口まで来ていて、エルンストはすぐに介抱され、そのままベットに運ばれた。
エルンストに付き添い、部屋へ共に行くアンジェリークを、皆はいとおしそうに見送った。
二人の関係を知らぬものは、ここにはいないのだから。
「エルンストさん…、具合どうです?」
「はい、メルの回復呪文が効いたようですね…」
「……ふふっ…、メルさんたら、泣きじゃくって何回も呪文言い間違えて、それでも一生懸命唱えてましたものね…」
アンジェリークが思い出して微笑むと、エルンストもつられてふっと微笑んだ。
さらさらと窓のカーテンが風に揺れ、心地よい夜風を運んでくる。
二人で微笑みあった後、しばし沈黙が部屋を支配していた。
「…なんか…思い出しますね…」
唐突に、沈黙を破ったのはアンジェリークだった。
「新宇宙に行く前の晩…、ちょうどこんな感じで、夜風に吹かれながら研究員にいましたね…」
窓の外に目をやりながら、アンジェリークは呟く。
その瞳は、思い出を見つめているようにぼんやりとして安らいだものだった
「…ええ、なんだか遠い昔のことのようです」
エルンストはアンジェリークを見つめながら言った。
「…本当に……、まだほんの少ししか経ってないはずなのに……」
いいながら、アンジェリークはエルンストを見る。
二人はしばし見詰め合い、そして微笑んだ。
「エルンストさん、…少し後悔してませんか…、私が…女王になったこと…」
「そんなこと…!」
ふっとアンジェリークが寂しげに呟いた。
エルンストは驚き彼女を見据える。
「私は……、すぐに後悔しました」
「……」
「……新宇宙に行って、すぐ、もう会えないんだって思ったら、涙が止まらなかった…」
「……アンジェリーク…」
エルンストは思わず彼女の名を呟く。
彼もまた、同じような気持ちだった。
彼女を送り出したすぐ後、…仕事が手につかないなどというのは、生まれて初めての経験だった。
「…でもね…、しばらく新宇宙で暮らして、…だんだん、これで良かったって、思えるようになったんです」
「…そうですか」
エルンストは安堵のため息と共に言った。
「新宇宙がわたしを求めてくれているのが、とってもよく分かるんです、それを感じるようになってから、不思議と後悔は消えて行きました。 …女王になって良かったって、…今ならはっきり言えます」
凛とした彼女の表情に、エルンストは静かに微笑んだ。
やはり、自分は間違っていなかった。
彼女を見るとそう思える。
彼女に女王になることを進めたのは、他でもない彼だったのだ。
それが一番良い事だと、信じて疑わなかった。
自分が彼女を想うのと同じく、宇宙も彼女を求めている、そして、彼女もまた…、それがわかったからだ。
だが、彼女がいなくなってからというもの、後悔は日増しに強くなる一方だった。
女王の座など捨てさせ、彼女を連れ去ってしまえばよかったと、何度思ったか分からない。
だが今、彼女の顔を見て確信できた。
やはり、これで正しかったのだ、と。
自分が宇宙から彼女を奪い、連れ去っていたら、今彼女にこんな表情をさせることなどできなかっただろうから…。
いつのまにか、二人はふたたび見つめ会っていた。
「……でも…」
アンジェリークはぽつっと言った。
「……それでもずっと…、会いたかった……、会いたくて会いたくてたまらなかった…」
「私もです…、アンジェリーク…」
涙を浮かべたアンジェリークを、エルンストはそっと抱きしめていた。
翌朝、
全快したエルンストは、いつものメンバーと共に前線をきって一同は出発した。
ふいに、アンジェリークと目が会うと、二人はふっと微笑みを交わす。
この戦いが終わり、宇宙に平和が戻ったその時、二人には再び別れが待っている。
だが、今は精一杯宇宙のために戦おう。
昨夜二人はそう誓った。
そして、もうひとつ。
「…エルンストさん、実は一つお願いがるんです…」
「なんですか?」
「このあいだレイチェルが、新宇宙にも研究院を作ろうって言っていて…、それでもしよかったら…」
「あなたの御指名なら喜んで…、女王陛下…」
さわやかな風が吹き抜ける惑星を後にして、
一行は決戦の場へと赴いて行った。
……というわけで、初の天レクネタでした。
それにしてもタイトルセンスなさすぎですね(爆)
…しかし、初EDはセイランと、あれだけのたまわっておいて、何故エルンスト?ってかんじですが(笑)
何か、エルンストってネタになりやすいですね〜(考えて見れば短編創作は、キリ番除いてエルンストしかない(爆))
今回は、なんとなく、天レクやってて思った、スペシャル2のデータを引き継げないかなぁ…といのうのがきっかけのネタです。
…「2」のうほうで築き上げた人間関係のまま、天レクってのも、やってみたいきがします☆
でも、女王ED以外の引継ぎはダメってことで。
ハナっから、ハーレム状態でスタートの天レクってのもいい気がします〜。
まぁ、それじゃ、ゲームとしてはつまらないかな(笑)
それと、日頃すぐアンジェを取りあってしまう彼らですが、公認カップルとして、応援されるっていうシュチュエーションも、ちょっと憧れます。
今回はライバルのレイチェルが未登場なワケだし、他人の恋を応援する彼らもまた、いいんじゃないかと♪(爆)
…ま、そんなわけで、妄想だけがつっぱしってしまいましたが、読んで下さって本当にありがとうございます。
天レクネタは、まだイロイロやってみたいので、またよろしくです♪
ではでは、次は一応続きモノの予定です(汗)