あなたとめぐり会うまでは
〜5〜
「……ぅわぁ……、いいお天気ですね〜」
森の湖にて、アンジェリークは元気いっぱいに手を伸ばし、空を仰ぎながら叫んでいた。
約束の日。
ルヴァはなんとなく落ち着かなくて、実は前日からあまり睡眠をとれてはいなくて、
少しばかりぼーっとしながら、ここまでアンジェリークに連れてこられた。
この湖は、確か釣りが禁じられているから、
いつもはつり竿さえ垂らしていればよかったのに、
ならば今日は、何をして一日過ごしたら良いだろうと、
ルヴァはあれやこれやと考えまくってはいたのだが…。
楽しそうにはしゃぎまわる彼女を見ると、
そんなこと、考えるほどのことではなかったなと、すこし悔やまれる、
だって、
たとえそこで何をしていたって、
彼女さえ居れば、関係無いのだから。
たとえそこが何処だって、彼女が微笑んでさえいれば。
それで、良いのだから。
静かに微小を浮かべるルヴァに、アンジェリークはふと気付いた
そして、すこしばかり申し訳なさそうに照れ笑いを浮かべ、
「…すみません、ここって釣り禁止って、私知らなくて」
良いながら頬を掻く姿に、ルヴァは思わず胸を高鳴らせる。
そんな彼の様子を知ってか知らずか、
アンジェリークはきょろきょろとあたりを見まわしていた。
そして、一通りあたりを見て、またルヴァを見つめ、アンジェリークは少し困ったようにはにかんだ。
「…えっと、…何しましょうか?」
その問いには、ルヴァもしばらくは、沈黙しか返すことが出来なかった。
「……あ、え〜と、…とりあえず、座りましょうか…」
ルヴァがおずおずと言うと、アンジェリークはにっこりと笑みを返し、
二人は木陰に腰をかけた。
木漏れ日が何とも心地よく、
せせらぎの音と風の音、
時折響く小鳥の声。
それだけが辺りを支配する空間。
ここが、恋人達の場所と呼ばれる理由が、何となく分かる気がした。
アンジェリークはふと、横目でルヴァを見てみると、同じようにこちらを見ていたルヴァと思わず視線が合い、
二人とも慌てて目を反らした。
…なんか、調子が狂う…。
それが、アンジェリークの正直な感想だった。
まぁ、彼と居て,調子が狂わなかったことなんて、今までなかったのだけど。
たとえば、こんな静かすぎる森のなかで、さして何もせずにぼーっと座っているなんて、
まったくもって、調子は狂う。
でも、
なんだろう。
悪い気はしない。
いや、むしろ。
たまらなく、心地良い。
ずっと、こうしていたいとまで、思う。
アンジェリークは、分かっていた。
この気持ちの名前が。
そして、その想いが、どんな意味を持っているのか。
ふと、意を決したように、アンジェリークは立ちあがった。
そして、おもむろににっこりと微笑むと、
「…ちょっと、登って見ません?」
微笑みながら出した指は、真っ直ぐに頭上の木を指していた。
「の、登るって…、この木を…ですか!?」
「実は何度か登った事あるんですよ、あたし」
うろたえまくるルヴァに、アンジェリークは内心クスクスと笑う。
…いままでの静かな一時は、彼の時間。
なら、
これからは、自分の時間。
だから、めいっぱい、彼のペースを狂わせて、
そしてそれから…、
アンジェリークに促され、手を借り助言を受け、
結局、二人はかなり高い位置まで、その大木を上って来ていた。
「……うわぁ……、随分来ましたね…。 これは降りるのも一苦労ですね〜」
おろおろと言うルヴァに、アンジェリークはウィンク交え、
「今から降りる事なんて、考えなくていいじゃないですか」
にっこりと笑って見せるその顔に、ルヴァも思わず、それもそうだな、なんて思ってしまう。
調子を狂わされっぱなしなのに、
木登りなんて、絶対に好んでするようなことじゃないのに、
どうしてだろう、こんなにも楽しい。
「ほら、見てください」
アンジェリークの声に、ルヴァが振り向くと、
そこには、雄大な聖地の景色が広がっていた。
「…気持ち良いでしょう。 私のとっておきのビュースポットなんです」
笑顔で言うアンジェリークに、ルヴァも笑顔を返す。
「これは、すごいですね〜」
ルヴァは心からそう思った。
自分では、絶対に見つけられないものだろう。
だから、余計に思った。 凄いと。
彼女といると、驚きの連続で、
でもそれは、決して嫌なものじゃなくて、
むしろそれは、とても心地よくて、
そう、
この気持ちの名前くらい、彼は知っていた。
「……本当に、…あなたは凄いですね…。
私なんかじゃとても見つけられないような、色んな宝物を知っている」
突然しみじみと語り始めたルヴァに、アンジェリークは少し驚き、振り向いた。
今度は、交差した瞳を反らすことはなかった。
「本当に、あなたは、…女王候補なんだなぁって、思うんです。
…あなたならきっと、素晴らしい宇宙を作れると」
ルヴァは少し寂しげに言った。
「でも、」
ぽつりと言った後、ルヴァは表情に真剣見を増し、アンジェリークを見つめた。
「……私は、時々……思うんですよ。 あなたが、その…女王候補でなければ…と」
段々に染まるルヴァの顔に、アンジェリークははたとルヴァの真意に気づき、はっとなった。
「女王は、……全ての命に等しく接するもの、でも……私は……」
「す、ストップ!!」
「は、はい!!?」
突然アンジェリークの発した奇声に、ルヴァは思わず間抜けな声を上げた。
「な、なに勝手にどんどん話進めてるんですか〜。 ここで、あたしから、ルヴァ様に言うはずだったんですよ!」
顔を真っ赤にしながら、アンジェリークは少し泣き声で叫んだ。
「……も〜、計画めちゃくちゃ…」
くしゃくしゃと髪を掻き、アンジェリークは思わず頭を抱えた。
「あ、あの、言うって…何を…ですか?」
おろおろと、思いっきり的外れなことを言うルヴァに、アンジェリークは真っ赤な顔のまま、
「…だから、……告白です!」
ムッとしたまま、ヒステリックに言った言葉に、ルヴァ一瞬呆然としただけだった。
「………も〜〜、調子狂いまくり……」
うずくまったまままだ頭を抱えて顔全体を紅潮させている姿に、ルヴァは思わず微笑んで、
そのまま、ふとアンジェリークの肩に手を乗せていた。
ふいに乗せられた手に驚き、アンジェリークはやっと少しだけ我に返る。
振り向いた先にあるルヴァの微笑みを見て、アンジェリークは心底ほっとして、
静かに二人は微笑を交わしていた。
そしてしばし、
木から降りながら思った事は、やっぱり、
この人といると、調子が狂う、ということだった。
そして、木から降り終わり、
「でも、…どうして、私が女王候補じゃいけないんですか?」
あまりにも自然に、アンジェリークはルヴァに問いかけてきた。
「……え…、ですからそれは…」
なにやら言おうとするルヴァを尻目に、アンジェリークはふと空を見ていた。
「女王は、訳隔てなく、全てを見守るって、私も聞きましたよ」
ルヴァが言おうとしたことを、アンジェリークは先に言ってしまい、ルヴァは思わず口篭もる。
そんなルヴァに、アンジェリークはふっと振り返った。
「でも、それって、誰かを好きになっちゃいけないってことじゃ無いと思います、私」
意思の強い、真っ直ぐな瞳。
射貫かれたように、ルヴァは沈黙した。
「…だって、ルヴァ様への気持ちと、あの宇宙を、愛しいと思う気持ちは、全然違うもの」
言いながら、アンジェリークは、決して瞳を反らさなかった。
「女王には…なりたいです。 だって私、女王候補だもの、その為にここに来たんだもの。
でも、…ルヴァ様とも、一緒に居たい」
力強い瞳に、ルヴァは思わずふっと息を洩らす。
本当に、彼女には、
かなわないと、そう思った。
「……私、…ワガママですか?」
アンジェリークは静かに問いかけた。
「……いいえ」
静かに言った後、ぽつりと、
「…とっても、あなたらしいです」
言いながら、ルヴァはにっこりと微笑んでいた。
それからほどなく、
新しい宇宙は、初めての女王を迎えることになる。
すぐ横には、金の髪の超有能補佐官が、にっこりと笑顔を浮かべ、
栗色の髪の女王は静かに勝気な微笑みを返す。
即位式の時、
別の宇宙の守護聖である彼は、静かに微笑みながら、その姿を見守っていた。
……ま、そんなわけで、ルヴァ×勝気ちゃんシリーズだったわけですが…。
実はコレ、続きます(爆)
いえ、なんか書いていて、勝気ちゃんなら、恋の為に女王の座を捨てたりしないだろうなぁとか思い初めてしまいまして(汗)
あと、トロワが比較的温和寄りなアンジェなので、勝気版トロワな話も書いてみたくもなりまして、
なら、いっそのこと、続けてしまおうかと…。
ので、近いうちに、ルヴァバージョンの〜 blank 〜を書いてみて、それから
トロワバージョンのルヴァ×勝気ちゃん話へと続けていけたらなぁ、と。
ま、とりあえず、女王候補アンジェとルヴァのお話として、これはこれでひとまず最終回なんでありますが。
一応、私的にはハッピーエンドだと思ってます。
なんとなく、全てを捨てて恋に…というより、こういうほうが私としてはハッピーかなぁと思ったりもするのですが。
しかも、コレットは女王になってもしっかり恋愛できてますしね。(苦笑)
ので、これから勝気女王様なお話に突入する予定ですので、(←その呼び名はどうかと)
どうぞまたよろしくして下さると嬉しいです♪