クライン学園へようこそ♪
第一話
〜クライン学園七不思議?〜
その2
「暗闇の廊下」
―ぴっちゃん…。
どこからともなく響く水音が、人気のない校舎にめいっぱい響き渡る。
メイは、思わず水音に顔をひくつかせた。
つられて一緒に廊下を歩く、ディアーナ、シルフィスに、キール、アイシュ、そしてシオンは思わず彼女を注目する。
そしてまた一つ水音が響く。
一同は思わず顔を見合わせる。
はっきりいって、
これ以上ないくらいの怪談ムードが、そこには漂っていた。
「……ね、ねぇ…」
沈黙を破ったのはメイだった。
「…あたし、ちょっと思い出したんだけどさ…」
「な、何ですの」
場の空気に絶えられず、ディアーナは渡りに船といった感じで、必死にメイの話に耳を向ける。
そして、回りの一同も、何とはなしに聞き入った。
「前にね、先輩から聞いたんだ、この学校の七不思議の一つでね…」
メイがそこまで言った瞬間、一同の表情は見る間にどん底へと落ちていく。
「…あ、あのなーお前…、どーしてこーゆー時に、そーゆー話なんだよ…」
思わず皆で呆気に取られている中、絞り出したような声で、頬をひくつかせながら言ったのはキールだった。
「…だって、思い出したんだもん…」
「なら、黙ってろ。 …まったく、これ以上変なムードに拍車をかけるな」
「…でも、ホントに聞いたのよ、クライン学園七不思議の一つ、迷いの廊下!」
キールに突っ込まれながら、尚も話を続けるメイの口から出た言葉に、一同は思わず凍り付いた。
「……お前なぁ…」
キールは思わず頭を抱えた。
クライン学園七不思議、その壱、『迷いの廊下』
生徒も教師も出払った後、真夜中の学園を歩くと、
何故か、慣れているはずの道で妙に迷い、
気がつくとまた、最初の場所まで戻っている。
そして、何度となくそれは繰り返す。
それが迷いの廊下である。
その廊下に迷い込んだ者は、二度と元の空間には戻って来れず、
一生廊下をさ迷い続ける―。
「ん…きゃぁぁぁぁあ!」
「…わ! あぁ、ビックリしたー。 もーいきなり騒がないでよ〜」
メイが、迷いの廊下を事細かに説明して、話が実例その3、1年A組の鈴木さんの体験談にさしかかったところで、ディアーナの絶叫により話は中断された。
彼女の周りでは、思いっきり顔を青ざめさせたアイシュと、うんざりと肩を落とすキール。
そして平静を装いつつも、頬に冷や汗を一つたらしたシルフィスと、ぽけーっとなりゆきを見つめるシオンの姿があった。
「…もー、オーバーなんだから、ディアーナは」
「だってだって、メイが怖い事ばかり言うんですもの…」
ケラケラと笑いながら、メイはディーアナの肩を叩く。
「…まったく、こんな状況でンな話をするからだ」
「でもさー、さっきからずっと歩いてるのに、全然出口につかないしー、やっぱヘンでしょ、コレって」
うんざりと言うキールに、メイがケロっと言うと、ディアーナの表情はさらに悪化した。
「…ふぅ…。 ただ、あたりが暗いから迷っているだけだ。 この学園は生徒数のわりに校舎が広すぎるんだよ…」
ため息を漏らしながら言うキールの言葉は、あながち気休めばかりではなかった。
現にこの学園は不必要に広すぎる。
生徒数はやっと3ケタになるくらいなのに、千人は余裕で収納できる講堂や、座席数500はくだらない、ひたすらすらバカデカイ食堂やら…。
今歩いている廊下も、10人は楽にすれ違える幅はある。
実は昼間でも、学園内を迷う生徒は少なくなかったりするのだ。
まぁ、このあたりが七不思議の発祥の元なのだろうと、キールは納得していた。
「ま、とにかく方向は合ってるはずだ、このまま進んで見るしかないだろう」
言って、キールはスタスタと歩みを進めた。
「…なんか、キールずっとそのセリフばっかじゃん…」
ぽつりと呟くメイの言葉に、一同はのまわりにはまた暗い空気が落ちた。
「……以外に広いんだなぁ…」
月明かり以外照らす者のない廊下を進みながら、セイリオスは呟いた。
「ん?」
突然血相を変えて彼が睨み付ける先には、音楽室というプレートがあった。
だが別に、音楽室に用があるわけではない。
聞こえたのだ。
暗闇の音楽室から、物音が。
思わずセイリオスは息を呑む。
…そういえば。
セイリオスはこの状況に、かつてこの学園に通っていた頃に聞いた噂話を思い出していた。
―クライン学園七不思議、その四。
『異次元へ続く音楽室』
丁度こんな人気のない真夜中。
ふと音楽室から物音がして、
何かと思い部屋へ足を踏み入れると、
そこはすでに異次元であるという。
そして、そこへ足を踏み入れた者は、
二度と戻ってはこれない。
そして、異次元へと人が消え行く時、
何故かピアノが一音だけ鳴り響きくのだという。
「………まさかな…」
あざ笑うのを半分、恐怖を半分でセイリオスは音楽室の前を立ち去ろうとした。
―ガラッ!
「!!」
突然の物音に、セイリオスは思わずひきつった。
そして恐る恐る振りかえると。
「…おや、あなたは確か…財閥の当主の……、何故こんな所に…?」
呟きながら、イーリスは長い髪を一掻きした。
「き、君は、たしか音楽家の……」
「イーリス=アヴニ−ルです」
驚きのあまり人差し指を付きつけながら言うセイリオスに、イーリスは仰仰しく挨拶をした。
「…しかし驚いたな、世界をまたにかける天才マエストロの君が、まさかウチの学園で講師をしてるなんて…」
「後当主…あなたの父君のおはからいですよ。 …まぁ、講師と言っても1年のうち数えるほどしかいませんが…。 フフッ…給料泥棒もいいところですね」
言いながら、イーリスは笑みをもらす。
セイリオスが、財閥がスポンサーとなっている彼に会ったのは、これが2回目であった。
1回目は財閥主催のコンサートの時だ。
その才能に魅了されたことは記憶に新しい。
「…しかし、若君こそ…新任教師とは……」
「その若君というのはやめてくれ…、ここでは私の立場は伏せてあるのでな………ん!?」
「きゃあ!!」
イーリスと二人喋りながら、廊下の角に差し掛かった所で、激しい音と共に派手にぶつってきた人影は、そのまま転んでいた。
「…大丈夫ですか?」
イーリスが手を差し伸べると、その手を思いっきり振り払い、ひたすら偉そーにすくっとミリエールは立ち上がった。
隣りで、セイリオスが痛そうに肩を抑えている。 どうやらこちらの方がダメージは強いらしい。
「げ…イーリス先生? …じゃそーゆーことで…」
立ち上がり目が合ったその瞬間、そそくさと立ち去ろうとするミリエールに、イーリスは冷たい視線を投げかけた。
「…確かミリエールさん、でしたね。 …寮の門限はとっくに過ぎてますが…」
しれっと言うイーリスに、ミリエールは冷や汗一つ。
「この子、生徒かい?」
「ええ、中等部の」
やっと痛みから復帰したセイリオスが、イーリスに問い掛けた。
「…それで、…何をしてるんです?」
「……えっと…その…」
くちごもるミリエールに、イーリスはさらに冷たい視線を送る。
「…まだ、帰ってこない子がいて…それで…」
「え? こんな時間にですか? 一体誰です?」
イーリスは不思議そうに尋ねた。
「ええ、シルフィス様と…あと、あのババァ…じゃなくて、メイ=フジワラさんと、あとディアーナとかいう人も一緒だったような…」
「何!? ディアーナが!?」
突然身を乗り出すセイリオスに、ミリエールは思わずのけぞる。
「…それはおかしいですね…。 …分かりました、私も探しましょう」
「…私も動向してかまわないか?」
「ええ、ご自由に」
不安げに言うセイリオスに、イーリスはふっと微笑みながら頷いた。
「…やっぱり迷いの廊下の呪いよ〜コレ…」
同じ頃、セイリオス達からかなり離れた、別棟の廊下には、メイの叫びが響き渡っていた。
迷い続ける一行は、今だ出口にたどり付けるどころか、ここがどこかさえも分からずにいた。
一同、特にディアーナはもうへとへとになっていた。
原因は、メイの七不思議話その参『廊下を走る光の人影』の話を散々聞かされたせいだろう。
となりにいたシルフィスも、心なしか顔が青ざめている。
「大声を出すなよ…、…しかしおかしいな…、この廊下を真直ぐいけば、下駄箱前の階段に出るはずなんだが…」
メイの横で、キールは平然と呟いていた。
「ん?」
「な、なんですか〜?」
突然呟くシオンに、アイシュはビクっと振り向いた。
「足音だ…」
「ひ、光の人影!?」
「………」
シオンの呟きに、まともにのけぞるディアーナを横目に、キールはジト目でメイを見つめた。
「お〜い、シルフィス〜!」
「ガゼル?」
聞き覚えのある声に、シルフィスはその名を呟いた。
「…まったく、お前らこんな時間に何をしている…」
「…ゲ…」
「レオニス先生」
メイが思わず漏らした呟きと共に、キールはその名を呼んでいた。
「…よぉ、助かったぜ〜、こいつら自分の母校で道に迷うなんざマヌケなことしててな〜」
ケラケラと言いながら歩み寄るシオンに、レオニスはジト目で睨み付けた。
「…でシオン先生。 あなたは何故同行しながらも生徒を先導しないのです?」
「………」
レオニスにキッと見据えながら言われ、シオンは思わず言葉を失い、そそくさと後ろずさっていった。
「レオニス先生、本当に助かりました、道に迷ってしまって…どうしようかと思ってたんです」
シオンと入れ替わるように、小走りで近寄ってきたのはシルフィスだった。
レオニスに絶対の信頼をよせる彼女は、何よりも心強くなったようだ。
「…とにかく、先生たちが来た方ににいけば間違いなわけだ」
キ−ルはため息まじりに、安堵しながら言った。
「きゃ!」
「ん、どしたのディアーナ?」
「む、向こうでなにか光りましたわ!」
「え…、あ、ほんとだ何か見える…」
「外の光ですよ〜、ホラあちらは大きな窓がありますので〜」
ディアーナをなだめるように、アイシュは指差しながらいった。
「そういえば…クライン学園七不思議、その六!」
「……おい…」
「『グラウンドの発光物体』!」
ジト目で制するキールに目もくれず、メイは言葉を続けた。
「…人気の無くなった夜のグラウンド…、そこで蠢くナゾの発光物体。 …それを見た者は、その後不思議な力を宿らせると言う…」
「外に車か何かがあるんだろう…、行くぞ、もうすぐ下駄箱のあたりだ」
お化けのような手つきで、声まで震わせて言うメイを、あっさりたしなめ、レオニスは一行を先導して行った。
「……ちぇ…、あ、ちょっとまってよ〜、ん? わぁっ!? ……ってミリエール!??」
遅れを取りそうになったメイの前に,突然角からひょっこり顔を覗かせたのは、他でもない、ミリエールだった。
「あんたなんでこんなトコ……、って先生!?」
驚くメイの目の前には、イーリス、セイリオスの姿があった。
「どうしたんですの〜……………」
何気なく振り向いたディアーナの声が、突然固まる。
「ディアーナ!」
「お、おに〜……」
そこまで言って、ディアーナは思わず口をつぐんだ。
まわりでは、一同が不思議そうに二人を見つめていた。
…前回から、もう随分経ちましたが…やっとその2です(汗)
学園七不思議…ってことで、当初なーんも考えずにつけたタイトルに、ちょっと苦戦してしまったりもしましたが(爆)なんとか、書けました。
拙い文ですが、読んでくださってありがとうございます。
やっとこさ、その1で登場した一行を合わせることができました。 …も〜登場人物多すぎです。(汗)
一応、他に考えている学園ネタは、メイン3,4人くらいと思ってますが、一応第1話で、オールキャスト…と思ったのですが…。
アルムもリュクセルもレーティスもいませんね…(自爆)
とりあえず、この話は次回で終わる予定ですので…。
次からは1話完結とか、ちょっと短めのモノにしていこうと思ってます。
本気で趣味つっぱしりまくりですが、気が向いたらまたつきあってやってくださいな♪