温泉に行こう♪
「へぇ〜、ねぇねぇ、それってどこらへんなの?」
「森のちょっと奥のほうですわ。 …お湯がぶくぶく吹き出していて、とってもビックリしましたのよ」
魔道研究員のかたすみで、メイとディアーナが交わした、そんなささいな会話が、すべての発端だった。
「…温泉かぁ…、なんか懐かしいかも…」
ぽつりと呟き、メイはにやりと笑った。
「なんですって!?」
「…ですからー、温泉につかりに行くって言ってましたわ」
「つかる? あの森の湧き湯に? …何でそんなこと…」
「なんでも、メイのお国の風習だとか…」
キールにいきり立って問い詰められ、ディアーナはしぶしぶと答えた。
「…まったく、面倒ばかりかけやがって…、あの森は今、盗賊が出るってもっぱらの噂なんだぞ…」
ぶつぶつと呟くキールに、ディアーナはニッコリと微笑むと。
「それなら大丈夫ですわよ、メイの魔法のうではキールだってご存知でしょ。 盗賊の一人や二人…」
「…いや、そういうことじゃなくて…」
キールは額をポリポリと掻きながら言った。
…メイが、森へ散歩に行ったと言うのなら、そう心配はいらないだろう。
だが、話によると、入浴が目的だ。
静まりかえった森の奥で、若い女が一人で入浴なんてして、もし盗賊が現れたら…。
そこまで想像して、キールは顔を真赤にして研究員を飛び出した。
そんな様を、ディアーナはただキョトンと見つめていた。
「メイが、森で入浴を…」
「そうですの、…キールったら大慌てですのよ、そんなに騒ぐほどの事かしら…」
研究員に一人取り残されたディアーナは、つまらなくなり騎士団の訓練場に来て、シルフィスをつかまえ、先ほどの話をしていた。
何気なく話すその向こうで、ガゼルとレオニスが『メイ』の名に反応していることには、気がついていないようだ。
「…う〜ん、でも、やはり最近森は物騒ですし…」
シルフィスが苦笑いをしているその横で、
「…た、隊長、俺、もう上がってもいいですか?」
「あ、あぁ、…そうだな、今日はもう終わりにしよう…」
ガゼル、レオニスの二人は、いそいそと訓練道具を片付けていたのだった。
「あれ? 隊長、どちらへ?」
「…見まわりだ、…すぐ戻る」
一言言い置いて、レオニスはそそくさと訓練場を後にした。
「シルフィス、俺ちょっと出かけて来る、…晩飯とっといてくれよ〜」
少し離れた扉の方から、ガゼルの呼び掛ける声に、シルフィスは快く答えたのだった。
「二人とも…いきなりどちらへ行ったのかしら…」
「……心配、なんじゃないですか?」
最近、メイが騎士団に訪ねて来たときの、あの二人の反応を知っているシルフィスは、くすくすと笑いをこらえながら、そう答えた。
「もう、みんな、なんなんですの?」
ぶつぶつと呟きながら、ディアーナは宮殿の扉を押し開いた。
「おや姫さん、今お帰りかい?」
「…ディアーナ、お前、またお忍びか…」
「姫様〜、いけませんよ〜」
扉を開いた途端、見知った三つの顔に、ディアーナはげんなりとした。
「どうしたんだ姫さん? なんかいつもと調子が違うな」
「……それがですわね…」
尋ねてくるシオンに、ディアーナはメイの事を話した。
「なんだって、一人で森の奥で入浴?」
「……ま、あいつらしーっちゃ、らしいが…」
「………う〜ん」
シオンだけに話していたはずが、メイの名に、他の二人が耳をたて、3人共が同じような反応をしていた。
つまり、見るからにうろたえている。
ディアーナは、またキョトンとそれを見つめていた。
「…そ、その、私は少し急用を思い出した」
「おお、そーいや俺も!」
「で、では僕も〜…」
3人が続けざまにそそくさと城を出ていったのは、それから数分後の事だった。
「…っと、たしかこのへん…」
草薮をかき分け、キ−ルが森を進むと、唐突に人影が見えた。
「…おや、どうしたんです?」
「い、イーリス? なんでこんなところに」
「…確か、森の湧き湯はこのあたりかと…」
にこやかに尋ねるイーリスに、キールは面食らって、
「…なんでそんなこと…」
「先ほど、湖でメイに尋ねられましてね。 …このあたりは少々物騒ですし…様子を。 もしかして、あなたも?」
クスクスと含み笑いをして問うイーリスに、キールはバツが悪そうに俯いた。
「…たしかこのへん……わ、わぁ?」
「誰だ?」
「……た、隊長!?」
温泉の近くの藪で、唐突に出くわした人物に、ガゼルは驚きの声を上げた。
「…このへん…だったかな…。 …ん? 誰だ?」
続けざまに訪れた人影に、ガゼルとレオニスは二人揃って面食らった。
「……殿下」
レオニスは、搾り出すような声で、その名を呟いた。
「…まったく、なんでイーリスがこんなところに…ん?」
「おや、キール。 どうしたんですか〜」
「あ、兄貴?」
ぶつぶつ言いながら、イーリスと共に先を進むキールの目前に、唐突に現れたのはアイシュだった。
「なんで兄貴まで……ん!?」
「よぉ♪」
わき道からひょいっと顔を出したシオンに、キールは思わず頭を抱えた。
数分後、森の温泉のすぐ近くには、一同に会した7人の男性が、皆バツが悪そうに佇んでいた。
皆、ここへ来た理由には揃って口篭もっているのだが、それぞれが相手の思惑は見ぬいていた。
つまり、皆同じ理由でここへたどり付いたのだろう、と。
互いに何も言えずにつったっていると、木陰から温泉へ向かって、一つの人影が見て取れた。
「…メイ…」
呟いたのはキールだった。
「わぁお、案外いー感じじゃない♪」
一言呟くと、いそいそと服をぬぎ、いったいどこから調達したのか、服の下に着ていた水着姿となり、メイは気持ち良さそうにお湯へ飛びこんだ。
「…ん〜、極楽、極楽♪」
女子高性とは思えぬ呟きとともにメイが温泉につかっているのを、7人は固唾を飲んで見つめていた。
「………あの」
「…ん〜、やっぱり体型はまだまだだねぇ〜」
「……そうじゃなくて、シオン様、これってただの覗きじゃ…」
自覚のないシオンに向かって呟いた、キールの鋭いツッコミに、一同は揃って固まった。
「お、俺はそんなつもりじゃ…、ただ、盗賊がきたら大変だから、見張りを…」
顔を真赤に染め上げ、思わずメイから目をそらしながらガゼルは言った。
その声に反応して、温泉からメイがふとこちらがわを見る。
「まずい」
セイリオスがもらした呟きに、何故か一同はそろって見を隠す。
「…気のせいかな〜」
呟きながら、メイは再び視線を変えた。
思わず一同は胸をなでおろした。
「……ったく、いつまでこんな事をしてなくてはならんのだ…」
セイリオスはぽつりとため息を漏らした。
「殿下こそ、どうしてこんな所に…」
「…お前はどうしてなんだ?」
思わず尋ねるレオニスに、セイリオスが言うと、レオニスは何も言えずにくちごもった。
「…でも…盗賊なんてでませんね〜」
アイシュがもらした呟きに、静まりかえった森の静寂が、一同に重くのしかかった。
「…俺、もう帰ります…」
「おやおや、つれないね〜」
「何がなんです!?」
ケラケラとからかうシオンに、キールはジト目で答えた。
「…では自分も、…その、殿下、お送りします」
「…あ、ああ」
仰々しく言うレオニスに、セイリオスはバツが悪そうに答えた。
「…ったく」
ガゼルもまたバツが悪そうに頭をかきむしる。
「…隊長、俺も一緒に…」
言いながらレオニスのほうに駆け寄ろうとしたその時。
「うわぁっ!」
派手な音と共に、ガゼルはその場に盛大に転んだ。
「なに?」
茂みの向こうからした、大きな音に、メイは思わず声を上げる。
「まずい…」
誰かが呟いた。
いぶかしげに茂みを見つめるメイの耳に、明かに人の声が届く。
「誰!」
問い掛ける言葉に、誰も答えられるはずも無かった。
メイはしばしの沈黙の後、ふっと一つ含み笑いをすると。
「……答えられないってことは、ずばり悪役っ! …ファイヤーボール!!」
叫ぶ間もあればこそ。
一同のいた場所は、あっという間に焼け焦げた。
「…ったく。 このメイ様の入浴シーンをタダでのぞこーなんて、片腹痛いってモンよ!」
何やら胸を張りながら、どこへともなくつぶやくと、メイは再びお湯へ体を沈めた。
「あいつ…わざわざ心配することねーじゃん…」
ガゼルがぴくぴくしながら漏らした呟きに、一同は思わず頷いた。
「お兄様、どうなさったんですの?」
「……いや、これは…」
顔にばんそうこう、腕に包帯を巻いたセイリオスに、ディアーナが思わず問い掛け、セイリオスは困った顔で思わず目をそらす。
そんな態度に、ディアーナはいぶかしげに睨み付けた。
「隊長、…そのお怪我は? …ガゼルまで…」
「……何でもない」
「……ははは…」
レオニスがふいっと顔をそらすと、ガゼルは乾いた笑いをもらした。
「もー、キールったら、一体誰にやられたのよ、言いなさいって、あたしがとっちめてやるから!」
「…なんでも無いって言ってるだろ…」
メイはキールの肩を、乱雑に包帯で巻きながら詰め寄り、キールはバツが悪そうにそっぽをむいた。
「…あの…キール、救急用品、余ってます?」
「あれ、アイシュまで、どーしたのよ一体」
「よぉ。ちょっといいか?」
「シオンまで…」
アイシュとシオンが同時に尋ねてきて、しかも二人とも似たような怪我を負っていて、メイはますます不思議そうな顔をする。
「メイ、いますの〜?」
「あ、ディアーナ」
「あら、みなさんお揃いで…って、皆も怪我ですの!?」
「って、…もしかして殿下も、とか?」
「はいですわ」
ディアーナがこくっと頷き、メイは唖然とした。
「メイ、研究員で、余った薬とかあります…って。 ……どうしたんです? 皆さんも怪我ですか?」
「…もってまさか…」
メイが恐る恐る聞くと、シルフィスは微笑みながら。
「ええ、隊長もガゼルも…、あ、来る途中イーリス様も手に包帯巻いてました」
「………うーん…」
思わずメイは唸り出した。
「あ、ひょっとして、盗賊の仕業? あたし昨日温泉行った時、多分盗賊だと思うんだけど、なんかやっつけたのよ」
メイはぽんと手を打ち、やおらシルフィスに語り掛けた。
その言葉に、その場にいる男性陣は固まり付く。
「…やっつけたって、どんな風に?」
「え? ただ問答無用でファイヤーボール打っただけだよ」
シルフィスは『はは〜ん』という顔をする。
一同の怪我は、どれも火傷だったのだ。
「メイ、あまり軽はずみに危険な所に行かないで下さいね…。 皆さん体がもちませんので」
苦笑と共に言うシルフィスに、メイはただキョトンとしていた。
…キリ番7000を踏んでくださってさゆ様のリクエストの、「メイアイドル状態」なお話です。
ああ、それにしても、こんなへっぽこになってしまってスミマセン〜(××;
メイハーレムはいつかやってみたい話ではあったのですが…、7人って人数はかなりハードでした…(汗)
…みんなに愛され、自覚ゼロなメイは、私的にもツボなので、文才の無さが悲しいです(自爆)
…しかし、揃ってメイ入浴シーンを覗く、ファンタ男性陣一同って………、
なにやら怪しいモノを書いてしいました…(爆)
ちなみに、メイハーレムなネタは、実は他のカップリングネタの裏設定とかで、結構ストックしてあったりするので、
これからもぼちぼち出て来るかもしれません(笑)
ではでは、…こんなんになってしまって、ホント申し訳ないですが、
さゆ様、どうぞもらってやって下さい。m(_ _;)m
次のファンタ創作は、メイ×アルムの続きの予定です。 どうぞそちらもよろしくです