恋愛進化論






「物忌み?」
初めて聞くその言葉に、あかねは不思議そうに聞き返した。
「はい。ですから、明日神子様はお出かけになる事は出来ませんわ。誰かに文を書か
れたらいかがです?」
「うーん、解った。ちょっと待っててね。すぐ書くから。」
あかねはごそごそと、自分の持ち物を探り出した。
…紫苑の紙。
初めて得た、紙。
「これでいいかな…?」
花は、桜。
現代にも馴染み深い、薄い色…。
「相手は…。」
ふと、手が止まる。
紫苑が好きで。
桜の花が好きで。
そして八葉。
「…頼久さん…?」
どきん、と胸が高鳴った。
「まあ、いっか…。初めてだし、誰を呼んでもいいよねっ。」
そう自分に言い訳をすると、あかねは借りた筆を握り直した。

「頼久さんって…私の事を気遣ってくれる優しい人ですよね。」
「いえ…そんな事は…。」
照れてる?
あかねはちょっと不謹慎ながら、そんなことを思ってしまった。

そして、札を手に入れる日…。
「京の人間のために何をしてやる必要がある?平和を貪るしか能がない、下らないや
つらだというのに。」
「なっ…人を見下した言い方しないでよ!!確かにあなたが言うみたいに京の人たち
は鬼に冷たいけど、本当は優しい人たちだよ!一部の人達だけで、全員をそうだと決
め付けないで。」
間髪いれず、あかねはセフルに言い返した。
その様子に、天真も、頼久も驚いている。
「あなたたちがどんなに邪魔しようと、仲間が…みんながいるかぎり、私は絶対諦め
ないから。」
毅然とした態度。
ほんの少し一緒にいただけで、ここまで人は強くなるのか。
あかねと頼久の心には、まだ感じた事のない感情が浮かびだしていた。

心の強さ。
それが高まるたびに、きっと何かが変わっていく。
絆と、信頼。
そして、もう一つの感情。
…これはきっと、恋愛進化論。
少しずつ、ゆっくりと。
知っていこう?
二人で。