幻想月下







あかねと呼ばれる少女がやってきて、三日。
侍女となったは、初めて神子と呼ばれる少女に会う。
しかし、内心はあまり乗り気ではなかった。
異世界から突然やってきて。
重すぎる任務を一方的に背負わされている。
神子に仕えるなんて光栄な事。
そう思って自分を宥めても。
やっぱりその心境は消えなかった。
「神子様、ご在室でしょうか?」
「あっ…はい。」
「失礼します。」
は身を翻して部屋へと入る。
そこにいたのは神子と呼ばれるにはあまりにも普通の少女。
「貴方は?」
「神子様に仕える侍女です。名を、と申します。」
髪がさらりと流れる。
この少女に仕える事は、自分にとって幸運な事。
「はい。…あの、さんって呼んでも良いですか?」
「どうぞ。それでは私も名前をお教え頂けますか?神子様、と呼ばれたくなければお
名前でお呼びしますから。」
そのの言葉に、あかねは一瞬驚いた表情を浮かべた。
初めてだ。
自分を神子じゃなく見ようとしてくれる人物が。
自分に神子の力があっても、自分は…。
「あかね、です。元宮あかね。」
「…解りました。今度からはあかね様、とお呼びしましょうか?まあ…人前では神子
様、になってしまいますけれど。」
「はい!」
そして、あかねは。
初めて心から笑った。
の持つ言葉は、まるで魔法のようだ。
緊張を一つずつ消していく、そんな魔法。


。」
「はい?あ、友雅様。どうかなされました?」
あかねがやってきて、一ヶ月。
あかねはに随分と打ち解けたようだ。
翠蓮の京の話。
あかねの世界の話。
女の子の悩み相談。
八葉にすら見せない、素直な笑顔を見せていた。
もちろん、あかねは八葉にも笑顔を見せている。嘘偽りのない。
ただ、へ向けられる笑顔は。
友達としてのものだった。
「最近、随分と神子殿と仲がよいのだね。」
「あかね様の事ですか?ふふ、あかね様の住む世界はとても面白くて、つい聞き入っ
てしまいます。」
は子供のような笑みを浮かべ、友雅に話した。
「少し妬けてしまうね。」
「私に、ですか?でしたら私が…」
「いや。君にじゃなく、神子殿に、かな。」
その言葉に、の動きが止まる。
自分じゃなく、あかねに―――?
「…とっ…友雅様!!?」
「はは、それではね。」
悪戯っぽく笑う友雅に。
翠蓮は何もいえず立ち尽くしていた。


さん?どうかしたの?」
「あかね様。いえ、何でも。今日はどんなお話をしましょうか?」
怨霊などの闘いが終わった後のあかねの楽しみの一つ。
と話すことだ。
いつも自分の悩みなとせを親身になって聞いてくれる。
他の侍女は、話は聞いても神子が考えられる事です、と言って終わってしまう。
もそうは言うが、助けてはくれる。
『あかね様には、出来ない事だってあります。けれど、出来る事だって沢山あるで
しょう?まずは出来る事からやっていっては如何ですか?』
初めて救われた気がした。
だから…。
「えっと…さんはどうして私にそんな親身になってくれるの?」
「…親身に…というか…あかね様は、ご自分の意志で神子になった訳ではいでしょう
?確かに神子の力を持っていても、あかね様は『元宮あかね』という人なのですか
ら。私達他人が勝手に人の身分を決めるなんて、私はしたくなかったんです。」
その言葉を放つの瞳は、何処か遠くを見つめていた。
まるで、自分に嘘をつきたくないかというような。
「そうなんだ。ありがとう。」
「あかね様の役に立てて嬉しいですよ。もう夕刻なので失礼しますね。」
そう言って、は立ち上がり、部屋を後にした。


「良い事を言うね、。」
「友雅様?…!!もしかして聞いていらしたんですか!?」
「聞いたワケでは無いよ。たまたま通りかかったんでね。」
その言葉に、は顔が赤くなる。
友雅に聞かれたのが恥かしいのか。
「確かに…他人が人の身分を決めるなど愚かかもしれないね。…君のように。」
「!!と、友雅様!それはもういいのです!父様は私に愛情を注いでくださっていま
す、気にしてなどいません!」
翠蓮はかっとなって言い放つ。
自分は、父が初めて迎えた母の間に出来た子供。
私を生んだ為、元から強くなかった体を壊し、亡くなった。
その後後妻をとった為、は大臣の娘としての身分など持たない。
それでも、父も後妻も、自分に接してくれてる。
それだけで、自分には十分すぎるほど幸福なことだから。
「…これは失礼。私は君が身分を持っていたとしても興味を持っただろうがね。」
「え…?友雅様、それはどういう…?」
「君が気付くまで、それは問題としておくよ。それではね、。」
そう言って踵を返す友雅の後ろ姿を。
はただ立ち尽くして見送るしか出来なかった。


に別れを告げた友雅は、微笑を浮かべていた。
の反応は、あかねとは違った面白さだ。
考えも。
殆ど全てがまわりにいる女官や侍女と違う。
「…楽しくなりそうだ…」
そんな夜。
ただ満月だけが世界を照らし出していた。






橘司様より頂いた、創作です。
オリジナルキャラがとっても素敵で、私もとっても気にいってしまいました(^^
名前変換を出来たら…という要望にお答えして、というか自分も暴走して(笑)
JAVAにて変換してみたところ、なにやらホントにハマりますね、これは!(爆)
ちなみに、頂いたオリジナル設定では、このキャラクターは

名前/翠蓮(すいれん)
年齢/19歳
容姿/濃紺の髪と、銀色の眼。体付きは華奢。
性格/明るく、誰にでも訳隔てなく接する。
    鬼も恨んでなければ、あかねに対して龍神の神子ではなく接する。
(人前では流石に神子として振舞うが)
身分/大臣の娘だが、先妻の間に生れたとして身分を持たない。
    現在は帝の後ろ盾により、あかねの侍女となっている。

ということになってます。
オリジナルキャラと、という話も良いもんだなぁ、とひしひしと思う作品でした。
橘様、本当にありがとうございました!