その夢の続き
〜6〜
「……思い…出したの!? …頼久さん!」
恐る恐る聞くあかねに、頼久はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。
今までの記憶は、無論ある。
こちらの世界での、自らの立場も記憶もある。
そして、
京での記憶も。
「……申し訳ありません…、神子殿…」
言葉がそれしか浮かばず、そのまま俯く頼久に、あかねは思わず抱き着いていた。
しがみ付くように抱きしめながら、しばらくの間、うめくように涙を流していた。
ふと、近くの廊下に、どうやらあかねを探していたらしい天真の顔が見えた。
近づこうとしたその足が、二人の様子を見た途端に止まる。
向けられた、頼久の気まずそうな瞳に、天真は全てを察していた。
「……ったく。 …世話かけさせやがって…」
ぽつりと言った天真の表情は、とても晴れやかなものだった。
「……頼久さん、頼久さんだよね…。 本当に憶えてるんだよね、あたしのこと…」
泣きじゃくりながら顔を上げる瞳に、頼久は小さくはいと答えた。
…ずっとずっと、…本当はとても…つらかったの…。
ぽつりと洩らされた小さな呟きに、頼久は思わずあかねを支える手の力を強めた。
力強い感触に抱かれ、あかねはだんだんと気を落ち着かせていた。
ずっとずっと、欲しかったもの。
戻ってきてから、一日だって想わない日はなかった。
何度夢に見たかも分からない。
そして想う。
頼久の心が、自分から離れていることを感じてから、思ったこと。
改めて気付いた、こんなにも強い、彼への想い。
そう、
龍神は確かに、願いを叶えてくれた。
遥かに離れたこの場所で、
気がつけば、再び彼に恋をしていた…。
「ねぇ頼久さん、…今までのことって、覚えてるの?」
大分落ち着きを取り戻した後、あかねはふといたずらっぽく問いかけてきた。
頼久は戸惑いながらも頷く。
「……正直、不思議な感じなのです」
頼久はふと呟いた。
「源 頼久としての記憶と、源頼久としての記憶。 そのどちらも、やはり自分の記憶だと感じる。 …やはりこれは、龍神の御力なのでしょうか…」
頼久は小さくため息を洩らした。
「…でも、正直、これで良かったと思っているのです」
呟かれたその言葉に、あかねは頼久を見つめた。
「…右も左も分からぬ異世界で、本当に神子殿をお守りできるのかと、…実際のところ、とても不安でした」
その言葉に、あかねは思わず顔をみはる。
そうか、
そうだったのか、と。
今までの時間は、全て、彼に与えられた、いわば猶予期間。
慣れない土地で、突然与えられた記憶。
それを受け入れる為与えられた時間。
あかねはようやく理解した。
あかねの、心からの望み。
彼が、頼久が幸せであれば、と。
答えが、ようやく分かった。
そして、あかねは再び、頼久の胸に飛び込んでいた。
あかねを強く抱きとめながら、頼久は瞳を閉じ、思っていた。
彼女が再び顔を上げたら、何と言って伝えようかと。
おぼろげな記憶を胸に、
この、遥かに離れた場所で、
何も知らぬまま、
気がつけば、
もう一度、あなたを想っていた、そのことを。
ふと頭上を見上げれば、
いつかのように、大きな桜の木が二人を包むように立っていた。
P,S
「ねぇねぇ、あかねって、警備の源さんと一体どーゆー関係なのよ?」
とある昼休み、ふいに訪ねられた級友の言葉に、あかねは思わず戸惑った。
「……ど、どうって…」
言葉に詰まるあかねに、級友である少女はふっとため息を洩らし、
「だって、付き合ってんでしょ、あんたら」
あっけらかんと言われた言葉に、あかねは思わずむせかえった。
「…な、なんで、知ってんの!?」
うろたえまくるあかねに、まわりにいた少女たちもやれやれという顔をする。
「…気付かないわけないっしょ…」
その言葉に、あかねは痛いほど心当たりがあった。
「神子殿、おはようございます」
「…もぅ、だからミコドノじゃないってば…」
「…あ、すみません、あかね殿」
「……だから、殿も…」
「あ、お荷物お持ち致しましょうか?」
「……い、いいよ恥ずかしい…」
「そうですか、…あの、」
「ん?」
「今日の夕方、お時間は空いていますでしょうか?」
「あ、…うん」
…毎朝、そんな感じである。
守衛として、朝校門に立つことが日課になっていた頼久は、
あかねが登校するたび近寄ってきて、こんなやり取りを交わす。
大抵共に来る天真と蘭は脇でクスクスと笑って、
お先に…、とか何とか言ってさっさと行ってしまう。
正直、かなり恥ずかしいのではあるが…。
なんというか、
くすぐったいほど、嬉しい。
彼と出会った、彼の生まれ育ったその地からは遥かに離れたこの土地で、
こんな風に過ごせるのは、
多分とても幸せなことなのだろうと、あかねは強く感じていた。
しかし、…こんな風に問われると、一体どう説明して良いのか、戸惑うのも実際のところ。
でも、
この世界に来てから、2度目の彼への想い。
それを語ればよいのかなと、ふと思った。
龍神がくれた、
掛け替えの無い、大切な日々。
きっといつまでも、忘れないだろうと、
あかねは目の前の少女たちに笑顔を向けながら、
そっと思っていた。
……唐突に書きたくなったネタであります…(汗)
そのわりに長引きまくって、気がつけば6ページにまでわたってました。
…長編全話同時UPは、以前2度とやらないと胸に誓った気もするのですが(爆)
こんな長い話を、わざわざ最後まで、ありがとうございます。
…某4コマカーニバルにて、現代人としての記憶を持った友雅さんの話を見て、…あぁそういうのも有りかぁ…、とか思ったのが始まりだと思います、多分。
現代ネタとしては、何か暗めかもしれませんね。
何せ、ハッピーエンドの後日談だってのに、ひどい仕打ちです(苦笑)
…甘さ100%のほのぼの話は向いていないのかと、ちょいと考えてしまう今日この頃。
でもまぁ、なんとかかんと収拾がついて良かったです。
書いてる最中、いきなり天真との三角関係に縺れ込み出した時は、自ら焦ってしまいました(←ヲイ)
ので、そのへんはちょいと尻切れトンボでもあるのですが…。
とりえあず、なんとか終わってほっとしています。
全話UPは、やはり楽しいですがハードですね(^^;
また気が向いたら、…やるかも、やらないかも…ですね(笑)
ではでは、
次回は、今書いてるシリーズあたりでしょうかね…。