private room
レイ・ザ・バレルの朝は早い。
朝、と言っても、それは起床時間を指す単語であって、必ずしも朝ではないが。
己の配置時間よりも余りある程の余裕のある時間に、目覚まし1つかけることなく目覚める。
同室の住人の寝息を横に、顔色1つ変えずにシャワールームへ行き、
人並みより幾分か長めの入浴時間を要しても、まだまだ余りある時間内であり、
何一つ焦ることもなく髪を拭い、ラフなスタイルのまま部屋に装着されていた端末へと向かう。
パスワードを入力すれば、いつものメールが来ている。
ギルバート、そう記された送信者名を見て、レイは静かに頬を緩める。
返信を済ませる頃には、すっかり髪は乾いていた。
クローゼットからインナーを取り出し、それから制服。
丁度その頃、不愉快な電子音と供に、側で響いていた高いびきが止む。
振り向くといつもの姿。
レイは何故か、この瞬間が一日のうちで一番安らぎを感じているような気がしていた。
シン・アスカの朝の時間の密度は濃い。
計算に計算を重ねてセットした時間に目覚ましが鳴ると、瞬間的に飛び起きる。
元々寝起きは良い方だったから、ギリギリまで睡眠をとるのは彼としてはとても効率の良いことらしい。
起きた瞬間、クローゼットからインナーを取りだし、持ったままシャワールームの手前の洗面台まで向かう。
洗面台前でさっさと着替えると、そのまま洗顔。 片手で雑に顔を拭きながら、もう片方の手はブラシを持っている。
元々いじることを諦めているクセの強いハネた髪の毛を数回とかしながらクローゼットへ、
先程使っていたブラシをベットにほおり投げながら、制服を取りだし、慌しく身につける。
この間、要する時間はざっと3分。
横を見ると、何故か微笑混じりにため息を付いてこちらをみる同居人。
「何やってるんだよ、レイ、朝メシ、先に行ってるからなー」
ベルトを締めながら言うシンの手は、すでに扉を触れている。
彼の朝の行動に、何かと兼ね合わせていないものは無いような気がする。
レイはそう思うと、少しだけ関心もする。
だが、べつにだからと言って、シンの朝のスタイルを見習う気は全くないのだが。
「なーんか、腑に落ちないのよねー」
「な、なんだよルナ、いきなりしみじみと人の顔見て…」
揃って食堂に来て並んで食事をするレイとシンをまじまじと見つつ、ルナマリアはぽつりと呟いていた。
となりではメイリンが黙々と食事をしている。
「だって、シンはともかくよ、この、朝食ギリギリタイムにいっつもレイまで一緒っていうのが不思議で不思議で」
微妙に嫌な気もしつつ、シンは食事を口に運びながら面倒くさそうに肩を落とした。
「別に示し合わせてやいないよ、単にいつも、たまたま一緒なだけだ」
「だから、そこが不思議なんだってば」
つまらなそうに答えるシンにルナマリアはつっかかるように言った。
事実、レイとシンは自室の外での行動時間が一致していることが多い。
この二人の性格の相違は、艦の誰しもが伺い知るところであり、
その二人がルームメイトとして、なんら問題無く過ごしていることも謎ならば、
こんな風に同じパターンの行動をしていることも、ミネルバの大きな謎だった。
「何せ、ミネルバ七不思議のひとつだからねー、レイとシンの関係って」
「…なんだそりゃ…」
ルナマリアの言葉に、シンは思わず青筋立てて呟いた。
「だって、レイはいっつも、冷静沈着でクールで、完璧じゃん。 艦内女子人気、言っちゃナンだけど高いんだよ」
ルナの言葉に、シンは思わず眉をひくつかせる。
…艦内女子人気。 その言葉は少し気になった。 気にした事はなかったが、やはり男として多少は興味があるものだ。
「でも、シンの方は、なんかこう、雑で、ガサツで、適当で、キレやすくて、…言っちゃナンだけど…、」
「なんだよ」
口篭もったルナマリアに、シンはジト目を向ける。
「いやいや」
しどろもどろに誤魔化すルナマリアに、シンはつまらなそうに食事を再開した。
「ンな二人が、なーんで何も違和感無く同室で生活出来てるのかって、
…二人の部屋って、ちょっとしたミステリーゾーンなんだから」
言いながら、ルナマリアも食事をパクつく。
シンはそんなルナマリアを横目に食事を口に運びつつ、ちらりと隣のレイを見る。
レイは淡々と食事をして、…そろそろたいらげてしまいそうだった。
考えたこともなかった。
レイとは同じ部屋だけど、レイの行動に関心なんて、持ったことはない。
いや、気にならないと言うのが正しいのだろう。
そう、
側にいても、何も気にならない。 気を使うことも無い。
でも、存在だけは、やっぱり感じている。
「別に、どうってこともないって」
食事を終えトレイを持ち立ち上がるレイを横目に、シンはルナマリアに言った。
「んー、でもさ、あたしとメイリンは同室でも、家族だからいいけど、ルームメイトが合わない人だったらとキツそうだって思うことあるよ」
ルナマリアの言葉に、シンは思わず目を細めて微笑む。
「合うとか合わないなんて、関係無いって」
シンは食後に飲み物をすすりながら言った。
レイはさっさと食堂を出て行くところだった。
挨拶もないけれど、ちらりとこちらを見た姿をシンは横目で確認する。
「合わせようなんて、最初から思ってないから。 俺も、レイもさ」
「…は?」
シンは言いながら飲み干したカップをトレイに乗せ、立ち上がる。
「おい、ちょっと待てよー、レイ」
言いながら、シンは駆け足でトレイを戻しつつレイの後を追った。
ルナマリアはやれやれと、やはり不思議そうな目で二人を見送った。
レイは追ってきたシンに、振り向きもせずにそのまま歩みを緩める。
並んで歩いていると、周りからは確かに少し不思議そうな視線を感じる。
でも、
これは何を示し合わせたわけではなく、
したいように、した。 それだけの結果。
気の合わない相手を、疲れると思ったことはない
ただ、合わないことを、合わせる事は、疲れると思う。
だから、それをしていないこの関係は、
なんだかとても、心地が良い。
「シン、腕に食事カスがついているぞ」
「うわ、ヤベッ」
ぱたぱたと服をはたくシンを、レイはやれやれと横目で見つめる。
「もっと余裕を持って行動すれば、食事を急いでとることもない」
「俺は、レイみたいな、じじむさい早起き生活はゴメンだねー」
「俺も、お前のような生活はごめんだが」
そんなことを言い合いながら、ブリッジへと急ぐ。
いつも通り、ふたり一緒に。
そして、
配備の時間が終わると、やはり並んで戻る。
レイは部屋に帰ると、シャワーか端末へ。
シンはそのままベットに倒れ込む。
シンがひとしきりぼんやりとして、立ち上がった頃には、レイはさっさと自分の布団へもぐっている。
朝が早いぶん、レイの夜は結構早い。
シンいわく、じじむさい、というのはこのへんのことだ。
シンはようやく制服を脱いで、立ち上がると端末へと向かっていた。
モビルスーツの性能情報のチェックから、単なる気晴らし、シンの端末に向かう時間は長い。
すやすや寝ているレイを横目に、シンは目を細める。
シンは何故か、この瞬間が一日のうちで一番安らぎを感じているような気がしていた。
ふたりの自室での生活スタイル妄想話でした(爆)
なんだか久々に衝動的にレイシン発作が起こりまして(謎)
なんら気が合わないながら、供にいて心地よい、という感じの二人を書きたくなったわけですが…、
でもホント、全然気が合わないけど、でも一緒に居て気楽な間柄というのが、この二人の魅力なような気がします。
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