黒権現で無理矢理系。18禁だと思います。
ちょっと改行大げさにして下げておきますので大丈夫そうだよ!っておひとのみお進みください。
















ちりちりと、背中に視線を感じる。
今日も三成は振り返らない。



三成が「終わり」を一方的に告げてから、数か月が経った。
今の家康に、身体を重ねていた頃のような陰りはない。
必要以上に近寄らないようにと心に決めて、遠くから眺める限りではすっかり元の生活に戻ったように見えた。
あの健康的な男が、どこかやつれて飢えたような目をしていた頃を微かな慙愧の念とともに思い出す。
離れたのを、何度も後悔した。
それでも少しずつ明るい笑顔を取り戻していくのを見て、これでよかったのだと自分に言い聞かせる。
いつのまにか惚れ込んで、我を忘れるほど溺れに溺れてこのままでは駄目だと自ら手放した男。
あの男はいまだ三成の心の一番深いところを占めている。

しかし今でも時折、背中に視線を感じることがあった。
あの妙に熱っぽいものではなく、ちりちりと膚の上を撫でる密やかな視線を感じるたびに
まだ好かれている、と喜ぶ自分がいる。だがそれも、時が経てば徐々になくなっていくことだろう。
心を残していることを知られないように、視線を感じている間は決して振り返らないと心に決めていた。



あたたかな陽気の中、気まぐれに部屋に活ける花でも見ようと庭に下りたところで。
「三成!」
聞き慣れた快活な声が三成を呼ぶのに足を止めた。
自分が家康を遠ざけたように、彼も三成を避けると思っていたので、
またむかしのように名を呼ばれたことに、嬉しさと一抹の怖れを感じながら振り返る。
「なんだ、家康。」
「どうしても、話がしたい。今からお前の部屋に行ってもいいか。」
「―――」
関わるなと言ったはずだ、話すことなど何もない。そう断ってしまえば良かったのだが、
何かを思い出させるような言葉に戸惑い、家康の顔をまじまじと見返した。
むかしのような変わらない笑顔。ずっと好きだと思っていた真っ直ぐな眼差し。
変わらない。変わらないように見える。

幾度となく熱に酔って浮かされ溺れたあの夜の残滓が、身体の奥をかすめて消えた。

だがあの夜は既に終わったのだ。日は高く、胡乱な夜の気配はどこにもない。
三成は黙って頷いた。それを見て歩き出した家康の後ろを追う。
歩いている間に家康の家臣たちの横を通り過ぎたが追ってくる視線はない。
そういえば、最近はあの冷ややかな視線を向けられなかったな、とちらりと思った。



白々と明るい、ひとりで歩きなれた廊下を、二人で歩くのに何やら違和感を感じた。
「なあ、三成。」
「なんだ。」
「―――ワシが怖いか?」
家康がぴたりと立ち止まった。三成も立ち止まって、背中を見つめる。
家康が振り返る。その顔にいつもの笑顔はなかった。
仮面のような無表情に冷たいものを感じて、三成はわずかに怯えた。
「怖いのか?」
うっすらと笑いながら顔をのぞきこまれて無意識にあとずさる。こんな表情をする男だったろうか。
答えられずにいる三成を見て目を細めると、ふふ、と小さく声を立てて、家康は笑った。
むかしのあの笑顔によく似た、違う笑みだった。



家康の部屋には良く訪れたが、自室に招き入れたのは数えるほどしかない。
珍しそうに部屋をきょろきょろと見回している家康をそのままに、手づから茶を淹れる。
碗を家康の前に置いて、座りしなに手首を掴まれて三成はびくりとした。
家康が不思議そうな顔でそれを見つめる。
「それで、何の用だ。」
家康は片手で三成の手首をつかんだまま、もう片方の手で茶を飲んだ。
「三成の茶は旨いな。」
「家康!」
答える気のない様子に、三成は声を荒げる。
碗を置いた手が三成の頬に伸ばされ、するりと撫でた。
「そう怒るな。そんなにワシは怖いか。」
「怖いか、だと? 何のつもりだ!」
掴まれた手を振り払おうとするが力を籠められて痛みに顔をしかめる。
いけない、このままではいけない。そう思うが逃げることも出来ない。
「細いな。気をつけないと折ってしまいそうだ。」
何かを潜めた声音に、ぞくりと、身体の奥で忘れかけていた熱が首をもたげる。
あの夜は終わったと思っていたのに。それとも終わったと思ったのは三成だけだったのだろうか。
そのまま手を引かれて床へと押し倒される。
「なっ……」
視界には見なれた天井と、自分に覆い被さる家康の姿。その顔は影で暗くなってよく見えない。
「何の、つもりだ。」
やっと押し出した自分の声は震えていて小さかった。
手首はそのまま床に抑えつけられていて、身動ぐことしか出来ない。
「三成は」
家康の見えない表情と硬い声が、三成の身を竦ませる。
「ワシがきらいか?」
「―――ああそうだ! わかったら手を放し」
突然大きな手のひらが口を塞ぎ、反射的に言いかけた言葉を遮った。
「なあ、三成。お前は嘘を嫌うのは良く知っている。」
手首を押さえていた手が離されて自由になったが、表情の見えないその目に射抜かれて動けない。
襟首を掴まれ、勢いよく肩をはだけさせられたところで恐怖に襲われた。
笑ってるけど笑ってない。この顔は笑顔じゃない。
「お前がワシに、嘘を」
違う、とは言えなかった。



何度も肌を重ねたが、こんな風に乱暴に触れられたことはついぞなかった。
「や、やめ……」
「三成、三成」
首や胸元にきつく痕をつけながら何度も名前を呼ばれる。
肩口を噛まれて思わず悲鳴を上げた。噛まれたことなど一度もない。
逃げようと身を捩るたびに押さえつけられて、のしかかられ動けない。

わたしはお前を解放したつもりだった。
しかし今見るその目は、あの頃よりも狂気に囚われている。

手が背中を滑り尻をすべり、さらにその奥に伸ばされる。
そのまま慣らされることなく最初に指が突き入れられて息が詰まった。
「っひ、や……いえや……すっ」
それでも身体は貫かれる快楽を覚えていた。
身体の奥が熱く疼いて指をきゅうと締め付けるのがわかり、その羞恥がさらに身体を熱くさせた。
「慣らさなくても良さそうだな」
耳元でくすくすと笑われて、さらに熱が上がった。
指が内の柔らかな肉を掻きながら引き抜かれる感触に、身を震わせる。
声をあげたくなくて、無意識に口元を押さえていた手を取られて床に押さえつけられて。
さっきまで指の太さを受け入れていた場所に、今度は比べ物にならない太さのものが宛がわれて
身体が期待と不安におののいた。

そういえば今日は前には触れられてない、と熱にうかされた頭でおぼろげに思う。
くちづけもない、ただ身体を繋ぐだけのこの行為。
腕は押さえ込まれてその背中にまわすことも出来ない。

奥を目指して、家康の質量を持ったものが容赦なく侵入してくる。
乱暴な行為が痛みと苦しさを伴いながらも、常にない熱と快楽とで脳を溶かしてしまいそうな心地がした。
ずぷ、と根元までしっかりと自分のものを飲み込んだのを確認して、家康は上半身を伏せると、
三成の耳元で気持ち良さそうに、はあ、と息を吐いた。
首筋に痺れるような何かが走って、痛みを忘れさせる。
触れたい、と三成は切実に思った。目の前の男に。その身体に縋りたい。首に手をまわして引き寄せたい。
そう思っても押さえつける手は強くて動かすことが出来ない。
やがて家康が動き出した。
耳元に感じる熱くて荒い吐息と、ぐちゅぐちゅと音を立てる下半身とが気持ちよくてとろけてしまいそうだ。
「みつなり……」
切なく呼ばれる自分の名前が耳に甘くて快い。

ぽつぽつと、三成の頬に何かが落ちてくる。
ああ、家康が泣いている、と思った。
またわたしは道を間違ったらしい。一体何が正しかったのだろう、どうすれば良かったのか。





上半身を起こして、しばらくぼんやりと放心していた。
乱暴な扱いに、身体の奥が終わった今も悲鳴を上げている。
部屋はすっかり暗くて、こんなに近くに居てもお互いの表情は見えない。
「何故だ?」
かすれた声でぽつりと問うと、ややあって答えがあった。
「三成は口ではワシに関わるな、と言ったが、目はそう言ってなかった。」
「……」
「いっときはそこまでして遠ざけたいほどに疎まれたかと思ったが、あの目は違うと」
「……」
「あの嘘はワシのためか。嘘を嫌うお前がワシのために嘘をついてくれたのか。」
どうだっただろうか。今となってはよくわからない。
家康に溺れる自分が怖くて、逃げるための言い訳だったような気もする。
「もうワシはお前に嘘をつかせるようなことはしたくない。」

「豊臣は……ワシはもう……徳川の軍は強くなった。今までは、お前がいるからワシは」
歯切れの悪い物言いでも何が言いたいかわかって、それを最後まで言わせまいと反射的に手が出た。
殴りつけようとした手を掴まれて、かっとなって怒鳴った。
「わたしは秀吉様の部下だ!何故わたしにそれを聞かせる!」
確かに家康は、三成の心の大部分を占めている。
だが三成にとっての豊臣とは、拠って立つべき土台だった。替えの利かぬ、失えないものなのだ。
「貴様は選べるというのか?貴様に付き従う全ての民と地を捨ててわたしを選べると?」
「…………」
「出来ぬのだろう、それと同じだ。わたしには選べぬ。
 秀吉様はわたしのかけがえのない主君だ、背くことは出来ぬ。」

家康が静かに問うた。
「ワシを切り捨てることは」
「――貴様は……っ、わたしに言わせたいのか! 貴様を切り捨てることも、もうわたしには出来ぬ!」

三成は、初めて家康を憎んだ。
この男は選ばない。
こいつは強欲に過ぎる。どちらかしか選べないもののどちらも手に入れようとする。
背負った民も、背負った責任も捨てないくせに、三成にも手を伸ばした。
そして三成には選ばせようとしたのだ。恋しい男と慕わしい主君を秤にかけろとこの男は言う。
「貴様が憎い、憎いぞ、家康。」
涙が溢れて、こぼれ落ちた。愛しくて恋しくて、その分だけ憎くてたまらない。
家康の指が頬に触れ、涙を拭うが止まらない。
「豊臣のために生きられぬというなら貴様が選べ。どちらを選んでもわたしは貴様を憎むだろう。」

「お前は選べないのだな。そうだな……」
家康は、すまぬ、と小さく呟いた。

薄闇の中で見えないが、きっと今この男はあの笑顔を浮かべているのだろう。
笑いたくもない時に笑うこの男が憎くて、愛しくて、そしてとても哀れだと、三成は思った。






(2010.09.23)