ダグラス・ヨー クリニック見聞記

去る5月8日(土)救世軍本営の山室記念ホールにてボストン交響楽団のバス・トロンボーン奏者であるダグラス・ヨー氏によるミニコンサートとマスタークラスが行われた。クリニック開始10分前には、ほぼ満席状態になるほどの大盛況だった。詳細は次の通り。 

第1部 ミニコンサート

トロンボーン:Douglas Yeo

ピアノ:高良仁美       

Gordon Langford・・・・・・・・・・・Proclamation

G.F.Handel(arr.by Douglas Yeo)・Sonata in F major op.No.12

Eugene Bozza・・・・・・・・・・・・・New Orleans

Suite of Songs

J.Brahms・・・・・・・・・・Denn es gehet demMenshen wie dem Vieh

G.H.Stolzel・・・・・・・・・Bist du bei mr

R.Vaughn Williams・・・・・The Call

第2部 公開クリニック

松下智美(尚美短大2年)      ピアノ:利根川正子

 Alec Wilder ・・・・・・SONATA for Bass Trombone and Piano

有賀祐介(東京芸大1年)      ピアノ:渡辺 馨

 Aguilmant・・・・・・・・・・・Morceau Symphonique

山岸浩二(武蔵野音大3年)     ピアノ:鷲谷美香

  Alec Wilder ・・・・・・SONATA for Bass Trombone and Piano

ミニコンサートの開始。

30分程前から何やら動き回っていたようだが、口ならしは全くなし。しかし最初の音から品の良い、心地よいサウンドが響き渡った。もちろん、素晴らしいコンサートだったのは言うまでもない。

さて、後半のクリニックがはじまった。

受講した三人の方々の演奏は、それぞれに特長がありとても面白かった。まず一人目の松下さんは尚美短大の二年生。今日ただ一人の女性バストロ奏者だ。はじめの頃は緊張をしていた様子だったが最後の方では、見違える程のびのび吹いていたのが印象的だった。二人目の芸大一年生の有賀君は、確実なテクニックを持っていると感心した。特に音のコントロールが素晴らしい。これからたくさん勉強をして欲しいと思った。最後に、松下さんと同じワイルダーを吹いた山岸君は、待ち時間が長くて気の毒だったが、徐々に調子を取り戻し、勢いのある演奏を聞かせてくれた。三人に共通していたことは、ヨー氏のアドバイスで明らかに、音、そして音楽がのびのび、生き生きしてきたことだ。もちろん大きなジェスチャーで、彼等をリラックスさせていたからだと思うが、理論的で、即実行出来るアドバイスが効いていたと思う。ここで、三人のクリニックで、ダグラス・ヨー氏が熱く語った奏法についての役立つアドバイスを書いてみたいと思う。

 一 リラックスする

「聴衆の前で演奏することは楽なことではありません。聴衆のみなさんもきっとそうでしょう。そこで、本番を成功させるための、いくつかのポイントについて考えてみましょう。自然体を心掛けること、そして音楽のことだけをかんがえることです。」          

◎スライディングについて

右手に緊張があると演奏に悪影響がでる。手首、指をリラックス。ひじを動かしすぎない。常にさりげなく注意をはらう。

◎舌について

*舌をリラックスさせることが大切。Fの時音が堅くなるのは舌に力が入っているせいだ。

*我々は舌の先のことだけ意識しすぎて逆に力が入ってしまう。舌の根元の方をリラックスさせ る。息の流れをスムーズにさせるため。(例)あくびはリラックス。せきは堅くなる。つまり、あくびをイメージさせる。

◎呼吸について 1

自然体のままで力まない。(あまり考えすぎないで)。つまり、肩が動くのは自然ではない。

エアーは出来るだけたっぷり取ることを心掛ける。肺の底をめがけて息を吸うイメージ。例えばコップに水をためる時、底からたまる。それと同じイメージで。

◎呼吸について 2

息を吸って音を出す時のイメージ。

リングのあるようなイメージで、 止まらないように 。

◎エアーについて

自分の手のひらに息を吹きかけてみる。

*暖かく感じる息は warm air---スロー

*冷たく感じる息は cold air-----速い  

バストロはいつでもウォームエアーを意識することが必要だ。

◎姿勢について

ベルが下を向きすぎると、のどが締まるので注意。エアーがスムーズに流れない。

◎歌うことについて

歌うことはもっとも大切なことだ。そのために 

*曲でも練習曲でもイメージを働かせること。 

*表現をおさえると何も生まれてはこない。楽しいのか?悲しいのか?どっちなのか?(もちろんいろいろなパターンがあるが)。

*大きなフレーズを意識する。

*ダイナミックレンジを広げる。だいたいの人達は、Pが大きくて、Fが小さい。Pで練習をするこ とはとても重要なことだ。自信を持って演奏できるまでたくさん練習すること。

*客席のいちばん後ろの人に聞かせるつもりで! 

◎最後に

ボストン交響楽団のきつい日本ツァーの合間をぬってのスケジュールで、決して軽くはないプログラムを、さらりとこなしてしまう底力(体力+才能)には、ただただ脱帽だった。そして、ダグラス・ヨー氏からのメッセージを皆さんにお伝えする。

『細かいことを気にしすぎるよりも、音色、エアーに気を付けなさい。そして、最後はいつも楽しく、音楽し、歌うことです。』

ヨー氏はアメリカ生まれ。ニューヨーク大学卒業後、ボルチモア交響楽団を経て1985年よりボストン交響楽団に入団。現在に至っています。修士号を取得し、25を越える論文も発表している大変頭がきれると評判の方です。

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