短い劇「どんぐりいじめと山猫」
クラスみんなで演じる15分の劇
2017.1.25

【まえがき】
最近、学校行事がますます削られているようです。劇をする機会も少なくなっています。 発表の機会が設けられていても、時間が制限されていて、なかなか充実した劇を演じることが できないという声も聞きます。
舞台で劇を演じる経験がないままに学校を卒業してゆく生徒も多いのではないでしょうか。
劇を演じる貴重な体験は、座学では決して得られないものです。
時間の制約があるなかで、どのような劇が成り立つのかを考えて、この脚本を書き上げました。
上演時間は15分から20分程度です。
劇の内容は、ほとんど宮沢賢治の童話『どんぐりと山猫』そのままです
賢治がこの童話に込めた思いを踏まえて、そこにいじめの問題を重ねてみました。
そもそも賢治のメッセージは、人と比べることの愚かさといったところにあると思われます。
いじめもまたそこに源を発するものではないでしょうか。
一郎はクラスのみんなからいじめを受けて、登校拒否になっています。みんなが彼を無視している 中で二郎だけが、一郎に寄り添っています。
その一郎に山猫からてがみが来るというのが物語の発端です。
それからどんなふうに進行してゆくかは、見てのお楽しみ。

【登場人物】
ナレーター
一郎
二郎
栗の木
笛吹きの滝
きのこ
りす
馬車の御者
やまねこ
どんぐりA、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、……
   計 21名〜(三角、四角のどんぐりなど増やすことも可能)

【では、はじまりはじまり】
(一郎と二郎が舞台そでにあらわれる。)
ナレーター 「一郎くんは、クラスの中でいじめられていました。 べつに理由があるわけではありません。東日本大震災の後で、お母さんといっしょに 引っ越してきたのです。はじめはみんなもめずらしがって、はなしかけてきましたが、 そのうちにむしされるようになりました。それで、一郎くんは、いまは学校を休んでいます。 みんながむしするなかで、二郎くんだけが、話をしてくれました。 ときどきは、家に訪ねてきてくれました。 そんな一郎くんのうちに、ある土曜日の夕がた、おかしなはがきが届きました。 二郎くんが日曜日に遊びに来たので、一郎くんは手紙を読んで聞かせました。」
一郎 「読んでみるよ、
    かねた一郎さま 九月十九日
    あなたは、ごきげんよろしいようで けっこうです。
    あした、めんどうなさいばんしますから、おいでください。
    とびどうぐをもたないでくださいね。
            やまねこ より     これだけ……二郎くんはどう思う?」
二郎 (一郎からはがきをとって)「どう思うときかれても…… この字、へったくそやな。」
一郎 「でも、読めないことはないやろ。」
二郎 「まあ、読めるけれど、……このさいばんてなんだろう?」
一郎 「さあ、わからないなあ。」
二郎 「きのうはがきがきたのなら、あしたというのは今日のことか?」
一郎 「そうだよ。だからこれからでかけるんだ。いっしょに行ってくれないかな。」
二郎 「いく、いく……えーと、やまねこさんの住所は…… (と、ばがきを見る)どんぐりの森としか書いてないな……」
一郎 「そう、どんぐりの森だ、さあ、行こう……。」
(ふたりでくねくねと歩いて、舞台真ん中で止まる。栗の木が立っている。)
一郎 「栗の木さん、やまねこがここをとおらなかったかい?」
栗の木 「やまねこさんなら、けさはやくばしゃでひがしの方へ飛んでいきましたよ。」
(と、栗のいがをぽとぽとと落として去る。)
(ふたりでくねくねと歩いてゆくと滝があらわれる。)
二郎 「こんにちは、笛吹きの滝さん、やまねこがここを通らなかったかい。」
笛吹きの滝 「やまねこは、さっき馬車で西の方に飛んで行きましたよ。」
一郎 「おかしいな。西なら今来た方だけど、……まあ、もう少し行ってみよう。ありがとう。」
(滝が去る。またふたりでくねくねと歩いていると、白いきのこがあらわれる。)
二郎 「きのこさん、やまねこがここをとおらなかったかい?」
きのこ 「やまねこさんなら、けさはやく、南の方に飛んで行きましたよ。」
一郎 「みなみはあっちだ。まあ、すこし行ってみよう。ありがとう。」
(きのこ、消える。歩いていると、りすがあらわれる。)
一郎 「りすさん、やまねこがここをとおらなかったかい。」
りす 「やまねこさんなら、けさまだくらいうちに馬車で南の方に飛んで行きましたよ。」
二郎 「また南か、おかしいなあ、でもまあもうすこし行ってみよう。」
(ふたりが歩いてゆくと、おかしな男が手にむちをもってあらわれる。)
一郎 「こんにちは、……ちょっとうかがいますが、あなたはやまねこをしりませんか?」
馬車の御者 「やまねこさまは、いますぐに、ここにもどってこられるよ。おまえは一郎さんだな。」
一郎 「そ、そうでうすが、どうしてそれを知ってるんですか?」
馬車の御者 (にやにやして)「はがきを読んだか?」
一郎 「はい、見ました。それで来たんです。」
馬車の御者 「あのぶんしょうは、へただったな。」
二郎 「ええ、へたで……」
一郎 「いいえ、なかなかぶんしょうがうまいようでしたよ。」
馬車の御者 「あのはがきはわたしが書いたのだよ。」
二郎 「あなたはなにものですか?」
馬車の御者 「わたしはやまねこさまのけらいの馬車のうんてんしゅだよ。」
(そのとき、風の音がして、やまねこがあらわれる。)
やまねこ 「こんにちは、よくいらっしゃいました。二郎さんもいっしょだね。 ……じつはおとといから、めんどうなあらそいが おこって、さいばんをしているので、あなたたちの考えを聞かせてほしいと思いましたのです。どうも、 まい年、このさいばんでくるしみます。」
(そこにどんぐりたちがたくさんあらわれる。)
やまねこ (どんぐりたちにむかって)「さいばんももう今日で三日目だぞ。いいかげんになかなおりをしたらどうだ。」
(どんぐちたち口々にはしゃべりはじめる。)
馬車の御者 「やかましいぞ。しずかにしなさい。」
どんぐりA 「いいえ、だめです、なかなおりなんかできません。 なんといっても頭のとがっているどんぐりが、いちばんえらいんです。こんなふうに。 (と、自分のとがった頭を見せる。)」
どんぐりB 「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。 いちばんまるいのはわたしです。 (と、まるい頭を見せる。)
どんぐりC 「いいえ、ちがいます。あごひげがりっぱなどんぐりがいちばんえらいんです。
わたしのように。」(とあごひげをなでる。)
どんぐりD 「ちがいます、ちがいます。むしくいのあなのあるどんぐりがいちばんえらいんです。虫さんは、おいしいのをしっているんです。」
どんぐりE 「いいえ、ちがいます。さんかくおにぎりみたいのがのがいちばんえらいんです。 わたしのように。」
どんぐりF 「ちがいますよ。このあごのしたのぼうしみたいのがおおきいのがいちばんえらいんです。おれのように。」
どんぐりG、H 「そうじゃないだろ。おれみたいにふたつつながっているのがいちばんえらいんですよ。」(とふたりが肩を組んで、いっしょにしゃべる。)
どんぐりI 「聞いてください。ともだちの青いどんぐりさんのことです。 青いどんぐりさんは、 去年、ひっこしてきた木の子です。農園に新しく植えられた樫の木に生まれたどんぐりさんです。 青いどんぐりさんは、からだにみどりがのこっています。 それで、みんなにからかわれて、いじめられました。いまは、学校を休んでいます。 どうにかしてください。助けでください。」
どんぐりJ 「あなたのはなしは、ここにいない青いどんぐりさんのことだから、 またあとにしたら……」
どんぐりK 「そうだ、そうだ。いまは、だれがいちばんえらいか、きめてもらうんだ。」
やまねこ 「ええい、やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれ、しずまれ。」(と、遠山の金さんの口調で。)
馬車の御者 「しずかにしろ、だまりなさい。」(と、むちをならす。)
やまねこ 「このとおりなんです。どうしたらいいでしょう。」
一郎 「そんなら、こう言いわたしたらいいでしょう。このなかでいちばんとんがってなくて、 まるくなくて、あごひげがりっぱでなくて、むしくいじゃなくて、さんかくおにぎりみたいじゃなくて、あごのしたのぼうしもおおきくなくて、ふたつつながっていなくて、 なんのとくちょうもないへいぼんなのがいちばんえらいとね。 ぼくが学校にいけなくて、家で勉強していたとき読んだみやざわけんじさんは そんなふうな考えです。雨ニモマケズという詩で、そんな、でくのぼうみたいな人にわたしはなりたいと 書いておられます。」
やまねこ 「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかでいちばんとんがってなくて、 まるくなくて、あごひげがりっぱでなくて、むしもくっていなくて、 さんかくおにぎりみたいじゃなくて、あごのしたのぼうしも大きくなくて、ふたつつながっていなくて、 なんのとくちょうもないへんぼんなのがいちばんえらいのだ。」
(どんぐりたちだまって顔をみあわせている。)
やまねこ 「どうもありがとうございました。これほどのひどい裁判を、 まるで一分半でかたづけてくださいました。お礼をいいます。」
二郎 「でも、まだ片付いていませんよ。さっき青いどんぐりさんがいじめられて学校を休んで いるという訴えがありました。」
やまねこ 「そうなんじゃ。まあ、こちらの方は、これからゆっくり考えようと思うとったが、……どうしたらよかろうな。」
一郎 「まあ、さっきのいいわたしで、とがっていても、まるくても、 あごひげやぼうしがりっぱでも、むしくいでも、 ふたつつながっていても、えらくないということがわかったでしょう。 どんなどんぐりも、みんなどんぐりはどんぐり。 青くてもどんぐりはどんぐりですから、青いからって、 もういじめたりしないんじゃないでしょうか。」
やまねこ 「そうであってほしいな。みんななかよくしてほしいものじゃ。できるかな?」
(と、どんぐりたちに問いかける。
どんぐりA 「はい、だいじょうぶです。わたしたちはとがっていも、まるくても、 ひげやぼうしがりっぱでも、むしくいでも、ふたつつながっていても、 えらくないということがわかりました。 だから、これからは他の人がじぶんとちがっているといっていじめたりしません。」
やまねこ 「そうか、そうか、まわりが変わればみどりさんも学校に来てくれるかもしれんな。もう少し待っていることにしようか。……それでは、お二人に今日のお礼ですが、 あなたたちは金のどんぐり一升と、塩鮭のあたまと、どっちをおすきですか?」
一郎 「金のどんぐりがすきです。」
二郎 「ぼくも、金のどんぐりがすきです。」
やまねこ 「それではどんぐりを一升ずつもってこい。はやく。」(と、御者に命令する。)
馬車の御者 「ここにちょうど一升ずつあります。」(と、どんぐりを持ってくる。)
一郎 「ありがとう」
二郎 「ありがとう」
馬車の御者 「さあ、おうちへお送りいたしましょう。」
一郎 「それでは、やまねこさん、どんぐりさんたち。これでお別れです。お元気で……」
二郎 「みなさん、また会いましょう。」
(手を振って舞台そでに移動。)
一郎 「二郎くん、オレ、明日にでも学校に行ってみるわ」
二郎 「ふーん、なんか考えるところがあったのかな、まあ、むりはしなくてもいいよ。 ……ほんとうに行けるんならいいけどね。」
やまねこ 「おーい、おふたりさん、また、こまったときははがきをかくからな。」
どんぐりB 「あー、もう日がくれはじめた。」(ということばで舞台がくらくなる)
どんぐりC 「くらくならないうちに馬車にのってください。」
どんぐりD 「では、さようなら。」(みんなで、さようならを叫ぶ)
一郎 「さようなら……」
二郎 「さようなら、お元気で……」
(やまねことどんぐりたち、手を振って、歌いはじめる。一郎と二郎も歌う。)

見上げてごらん 夜の星を
  作詞 永六輔
  作曲 いずみたく

見上げてごらん 夜の星を
 小さな星の 小さな光りが
 ささやかな幸せを うたってる

 見上げてごらん 夜の星を
 ぼくらのように 名もない星が
 ささやかな幸せを 祈ってる

 手をつなごう ぼくと
 追いかけよう 夢を
 二人なら 苦しくなんかないさ

 見上げてごらん 夜の星を
 小さな星の 小さな光りが
 ささやかな幸せを うたってる

 見上げてごらん 夜の星を
 ぼくらのように 名もない星が
 ささやかな幸せを 祈ってる

ナレーター 「わたしたちの劇をご覧いただきありがとうございました。礼……」
                         【幕】

【補注】
1、上演するのは、五、六年生を想定しています。
2、衣装、頭に着けるお面等はいたって簡単なものでいいと思います。
3、あらかじめ、『どんぐりと山猫』を読んでおくといいかもしれません。
4、この脚本を使われる場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。


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