プチ落語台本「原発は忍者屋敷!」
 −放射能って何ですねん?−
2013.12.28

【まえがき】
原発を題材にしたプチ落語を考えてみました。小咄というにはちょっと長めですが。
【では、はじまりはじまり】
喜六 「ご隠居、いてはりますか?」
ご隠居 「あー、喜六やなないか、まあ、入ってんか、しばらくぶりやな。どうしたんや?」
喜六 「いや、ちょっと教えてもらお思うて来ましたんや。……」
ご隠居 「そりゃまあよう来てくれた、どんなことでも分かるいうわけやないが、 知ってることやったら、なんでも教えさしてもらうけどな……。せやけど、おまはんが 聞きたいちゅうのはめずらしいことやな。なんぞあったんかいな?」
喜六 「ご隠居はん、ご存じかご存じないか知りまへんが、ぶっちゃけさしてもらいますが、 うちのかかあはじつはきょうとうの出ぇなんですわ。」
ご隠居 「そら知らんかった。そういえば、おまはんとはちょっとことばが違うようやな。ていねいや。」
喜六 「そのかかあの親がまだきょうとうで生きたはるんですわ。丹後半島で……。」
ご隠居 「それはめでたいことじゃな。ええとこに住んだはるから長寿や。」
喜六 「ところがあそこは近くに福井の原発ちゅうやつがありまっしゃろ。どっさり並んで……。」
ご隠居 「そのようやな、あのあたりは原発銀座というくらい原発が多いところじゃな。」
喜六 「そこですわ。もしあの原発が福島みたいに爆発したらどうなるやろか、 年寄りの両親のことを考えとったら、心配で夜もおちおち寝れん、言いよるんですわ。 それで、ご隠居はんは何でも知ったはるちゅうさかい、原発ちゅうもんがどれほど怖いものなんか、 爆発したらどうなるんか、ちょっと聞いてきてくれ、言いよりますんや。 どうでっしゃろ?」
ご隠居 「まあ、何でも言うてもな、……原発ちゅうのはなかなかに難しいもんじゃ。」
喜六 「手に負えまへんか? 手に負えんかったら、さっさと帰ってきたらええがな、 とまあ、かかあが……」
ご隠居 「まあまあ、待ちいな。そんなにせっかちにならんでも、……」
喜六 「そらむずかしいちゅうのはわかりますわ。ワイでも……」
ご隠居 「いやぁ、原発というのもむずかしいが、なんと言うてもな、 それをお前さんに説明する方が難しそうじゃなと、そんなふうに思うたんでな。…… まあ、できる範囲で説明させてもらいましょうかな……。」
喜六 「たのんますわ……」
ご隠居 「福島の原発がどうなったかということは知っとるかな?」
喜六 「この前の大地震のとき、爆発したんですやろ。」
ご隠居 「ああ、そうや、爆発してたいへんなことになったな。テレビで水をかけてる様子をやってたが、 お前さんは見てたかいな?」
喜六 「自衛隊のヘリコプターとか、首のながーい消防車みたいなやつで水飛ばして……、 見てましたけど、何がどうなってるのやら、さっぱりわかりまへんでしたわ。 あれで放射能たらちゅうもんが飛び散って怖い怖いて言わはるけど、 どんだけ怖いんか、そこらあたりをたのんますわ……」
ご隠居 「そこらあたりちゅうのが、まあ、なかなかにむずかしい話や。どう言うたらええんか……」
喜六 「ワイにも分かるように、やさしゅう説明したってください。」
ご隠居 「そうやな。やさしゅうな。……まず、原子力発電所が難物やな。」
喜六 「電気を作るところでっしゃろ。」
ご隠居 「まあ、かんたんに言うたらそうやな。」
喜六 「どないして電気を作るんかはわからんけども、電気を作ってるちゅうことはわかります。」
ご隠居 「かんたんに言うたら、原子力で湯う沸かして電気をつくってるんやな。 ヤカンで湯う沸かしたら湯気がシューとでてくるやろ。 その力で大きな羽をまわして、自転車の発電みたいにして電気を作ってるんやな。」
喜六 「そうなんや、湯気で自転車のタイヤを回して電気を起こすんですな。…… ということは、何ていうか、部屋の中で自転車こいでるあれと同じでんな。」
ご隠居 「ああ、やせるための自転車な、まあまあ、そういうことやな。」
喜六 「原子力が自転車こいで電気を起こしとる、それは分かりましたけど、ご隠居、 放射能ちゅうやつが分かりまへんねん。 原発で仕事してはる人のあのカッコウは何ですか、白いペラペラの服とか、マスクとか? それに 何を食べたらあかんやら、原発の近くには住まれへんやら、……、みんなあの放射能とかいうもんのせいらしいけど、 あれはいったい何ですねん?」
ご隠居 「放射能な、これはなかなかむずかしいな。……まあ、こう考えようか?」
喜六 「そうしまひょか……。」
ご隠居 「まだ、何にも言うてへんがな。……原発の建物な、 あれが仮にやで、仮に忍者屋敷やったらと考えてみる。」
喜六 「ええっ、忍者屋敷でっか? あの四角い建家がねぇ、 ちょっとかけ離れすぎてて、なかなかむずかしいでんな。」
ご隠居 「それを承知してくれたら、話が進めやすいのでな、ムリムリにでも……」
喜六 「ちょっと待ってくだはいや、うーんときばったら、 セメントの壁に隠し扉が見えてきたような……」
ご隠居 「そうかそうか。意外と思うかもしれんが、もともと似ているんじゃからな。 敵から攻められたときに防げるように造ってある。難攻不落というやつやな。 扉は今風の隠し扉、中は思わぬところに梯子や窓があって、 通路はパイプの迷路で当て曲げになっておるな。」
喜六 「当て曲げて何でんねん?」
ご隠居 「突き当たる、曲がる、当たる、曲がる、道がそんなふうに迷路になっとるな。」
喜六 「へー、原発の中は、そんなもんでっか、……、何か、ご隠居さんに そんなふうに言われると、だんだんその気になってきましたで。 分かりました。原発は忍者屋敷で手ぇ打ちます。中で湯ぅが沸いとって、自転車こいでるんでっしゃろ。 それでどうなるんでっか?」
ご隠居 「忍者屋敷いうからには、忍者がいっぱいおって、手裏剣もいっぱいあるな。」
喜六 「そりゃ、あたりまえやわな。忍者屋敷ちゅうたら、忍者もウジャウジャおるし、 手裏剣もいっぱいたくわえとるわな。」
ご隠居 「屋敷の中で手裏剣の稽古をしとるけども、屋敷の壁が頑丈やから、 手裏剣が外に飛んで出るというような不始末はないわな。」
喜六 「ほんまにそうですわ。忍者屋敷の外歩いてたら、 突然手裏剣が飛んできたらびっくりしますもんな。」
ご隠居 「まあ、めったにそんなことはない。……ところが、 今回の地震で屋敷が爆発してしもうたからな。……」
喜六 「手裏剣が飛び出てきたんですか?」
ご隠居 「そうや。手裏剣も飛び出てくるし、 中に閉じこめられとった悪い忍者が外に出てきよったな。」
喜六 「悪い忍者??? それはどんなやつですか?」
ご隠居 「たとえばやで、名前を毒の雲えもんという。」
喜六 「毒の雲えもん、いかにも悪そうな名前でんな。」
ご隠居 「壊れた建物から雲みたいにモクモクと立ちのぼりよる。」
喜六 「雲みたいて、……煙みたいちゅうことでっか?」
ご隠居 「そうや、煙みたいにや。それからな、この雲えもんは手裏剣の使い手でな、 手裏剣を四方八方に飛ばしよる。風車みたいな手裏剣やけど、知ってるかな?」
喜六 「ばかにせんといてや、手裏剣のことなら何でも知ってますで、…… こう薄手のブリキをくりぬいたようなやつで、忍たま乱太郎にもよう出てくるんですわ。 あの乱太郎は、ワイの愛読書ですわ。」
ご隠居 「忍たま乱太郎が愛読書かいな、まあ、ええけどな。その手裏剣ちゅうのは、 薄うて透きとおっとって、ものすごいはやさで飛んできよるさかい、 目に見えへん。見えへんけどもピューと飛んできて、スーっと体を通り抜けてゆきよるんや。」
喜六 「痛うないんやろか?」
ご隠居 「いや、それがな、痛うも痒うもない、ないけどスーと通り抜けよるときに 体の中を傷つけていきよる。」
喜六 「おっそろしい手裏剣でんな。それで血ぃ出るんやろか?」
ご隠居 「それそれ、体の中で血が出ることもあるな。…… それであんまりたくさんの手裏剣がいっぺんに 体をつらぬいていきよると、内臓がグサグサになって、死んでしまうこともある。」
喜六 「怖いもんでんな、その見えへん手裏剣いうやつは……」
ご隠居 「そうや、見えへんだけに、よけい怖い。……この手裏剣のことを放射線言うとるんやな。」
喜六 「放射線でっか、やっと出てきよりましたな、待ってたんやで、放射線ちゃん、 これがよう分からんかったんやけど、 手裏剣やったんか。そうでっか、……それやったら、毒の雲えもんは、 手裏剣を飛ばす前に、『オレのほうしゃせん手裏剣を受けてみよ』って言うんやろか?」
ご隠居 「雲えもんは、いんけんなヤツやからな、だまって手裏剣で攻撃してきよるんや。」
喜六 「だまって、こういうふうにサッサッサッとでっか? (と、左掌の手裏剣を右手で連続して放つしぐさをする) 雲えもん、卑怯なりー。」
ご隠居 「毒の水べえというヤツもいる。これは建物に水をかけたやろう、 あの水に混じって出て来よるんや。」
喜六 「やっぱりいんけんに手裏剣を飛ばしよるんかいな?」
ご隠居 「そうやな。それで、いま原発で働いてる人は苦労してはるな。その他にもな、 原発が爆発したとき手裏剣使いの悪い忍者がいっぱい外に出てきたからたいへんなんじゃ。 世の中を恨んどるウランちゅうくノ一もいるし、手裏剣の使い方を、一子相伝、親から 伝えられとるセシウムちゅう忍者とか、 外人のプロレスラーみたいに強いストロングちゅう忍者とか、いろいろいとるんや。」
喜六 「いやあ、ようわかりました。せやけど、まさか放射線が手裏剣やとは思わんかった。」
ご隠居 「飛んでくる手裏剣も怖いが、こまい忍者を息といっしょに吸い込んだり、 食べ物といっしょに食べたりしたら、体の中で手裏剣を飛ばしよるから、これは気ぃつけんといかん。」
喜六 「そんなん危のうてやってられまへんな。」
ご隠居 「せやから食べもんに気ぃ付けたり、マスクをせんといかん。」
喜六 「体に入ったら怖いいうの、なるほど分かりましたわ。」
ご隠居 「もう一つ言っておくが、この手裏剣使いの忍者は、 やっかいなことにどないやっても消せへんのや。 百万年を生き延びると大口たたくヤツもいとって、それでみんなもてあましとる。 どないしても消せんとなったら、こりゃーやっかいやわな。」
喜六 「寿命が百万年でっか? そりゃたいへんや。付き合いきれんわ。」
ご隠居 「そんなヤツ、誰も付き合いきれるものはおらん。」
喜六 「そうでっしゃろ。だれがそんなことを言うてるんでっか?」
ご隠居 「忍者の親分、頭目や。濃紫(こむらさき)の衣装を着とってな、おこそ頭巾からのぞくげじげじ眉毛ににくそい目ぇ、……どっからみても悪(わる)の顔やな。 こうやって印を結んでやな(と、両手を合わせて印を結ぶ)、まわりの小者をにらんどる。」
喜六 「ああ、分かりました。その百万年いうのは大うそですわ。 まあ十万年くらいは生きるかもわかりまへんけど、……」
ご隠居 「何でそんなことが分かる?」
喜六 「忍者の頭目ははったり半蔵、はったりに決まっております。チャンチャンと……。」
ご隠居 「はったり半蔵か、あっはっは、うまいこと落としよったな。……」
喜六 「オチが決まったところで、お後がよろしいようでと……ご隠居、 だいたい分かりましたさかいに、かかあにも忍者と手裏剣のこと言うときますわ。 ほなこれで帰らしてもらいまっさ。」
ご隠居 「そうか、帰るか。……まあ、私は、いつでも暇やからな、なんぞ分からんことあったら、 またいつでも来たらええがな。」
喜六 「おおきに、ご隠居、ほな、帰りまっさ、さいならー。」
                              【完】

追補
この脚本を使われる場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。


トップに戻る。