漫才リレーによる落語劇「地獄借景」(脚色版)
−原発のゴミ処分場を地獄に?−
          2014.2.18

【はじめに】
この劇は、もともとは落語脚本「地獄借景」を脚色したものであり、二人、あるいは三人の会話を 柱にしているので、上演に際しては五組の漫才リレーといった演出を考えています。
漫才においては、脱線しなければ、アドリブおおいにけっこうです。
あまり例をみない試みですが、そういった作者の意図を念頭に読んでいただけたらと思います。
また、落語という想像の世界のできごとなので、舞台セットは使いません。 かわりに絵看板を手に人垣で背景を表す黒子の生徒たちを 登場させるなどの工夫が必要だと思います。

【登場人物】
 はじまり ナレーター
 一場   漫才コンビ『大臣室』  (大臣、秘書)
 二場   漫才コンビ『三途の川』 (喜六a、清八a)+渡し守、舟客(数人)
 三場   漫才コンビ『閻魔の庁』 (喜六b、清八b)+赤鬼、青鬼、閻魔大王、亡者たち
 四場   漫才トリオ『地獄の亡者』(喜六c、清八c、青鬼c)+地獄の亡者たち
 五場   漫才トリオ『最終処分場』(喜六d、清八d、青鬼d)
            合計 25人〜30人位

【はじまり】
ナレーター 「3.11の原発事故が起きて、原発ってこんなに怖いモンかと思いましたが、 そもそもウラニュウムたらいうもので発電をするちゅうことに、いろんなむずかしさが あるみたいで、その最たるものが、出てくる廃棄物の処分場がない、ということらしいですな。
最近になって、例の元首相も元々首相も、それが理由で原発ゼロを言うたはりますが、誰が考えてもそうなります。
最終処分場をどこにするか、もっていきどころがない。
どえらい金をつけて、立候補地を募集しましたが、一つもありませんでした。
もう、こうなったら思い切って、地獄にでも持っていくしかない、 そんなとんでもないことを考えた官僚がいたはったんですな。
ここからが、もし、という仮定の話になります。もしほんまに地獄に最終処分場を持っていったら、 どういうことになるのか。
そんな想定を劇にしてみました。
観て笑って、ちょっと考えていただけたら幸いです。
では、はじまりはじまりぃ」

【落語の出囃子】
♪♪♪♪♪(出囃子が消える)
【一場】
(大臣室)
(漫才コンビ『大臣室』の二人が登場)
大臣 「漫才コンビ『大臣室』の大臣でーす。よろしくお願いします」
秘書 「秘書でーす。よろしくお願いします」(と挨拶して、舞台奥に退場する)
(この場面は、狂言風にはじまります)
大臣 「えー、私は、この国の原発担当の大臣であります。
フクシマの事故があってから、原発のゴミをどうするかというのが、 大問題になっておりますが、むずかしいですな。まず処分場を引き受けてくれる市町村が ありませんな。
そのことについて、近ごろ頭を悩ませております。秘書に調べさせておりますが、 いっこうに返答がない。
どうなっているのか、聞いてみるとするか。ええい、秘書や、あるかやい」
秘書 「ハアー」
大臣 「おるか。おるか」
秘書 「ハアー」
大臣 「いたか」
秘書 「おん前に……」
大臣 「ああ、いつになくはやかったな。呼んだのはほかでもない、この前頼んでおいた、最終処分場のことだが、あれはどうなっているのかね。調べてくれたか?」
秘書 「調べましたが、行き詰まっております。どん詰まりもどん詰まり、 まったく動く気配がありませんな。……」
大臣 「懸賞金付きで調査地を募集してみたが、まってく立候補がなかったと聞いておる。 あれから動いとらんということか。……しかし、立候補がないとなると、 こちらから適当な候補地を探さんならんということになるが、 きみ、どこか心当たりがないのかね。再処理するにしろ、ゴミ処理をするにしろ、 最終処分場がなくては、原発を続けることはできんからね」
秘書 「はあ、大臣、国内ではもう無理かと思います。フクシマ以来ますます難しくなってきています。地震の心配がなく、岩盤が安定していて、地下水も漏れてこない、そんなところは、 もう国中くまなく当たってみましたがありませんな。 なにしろ十万年くらい埋めておかなければなりませんから…… もし仮にあったとしても、地元の市町村が受け入れないでしょう。あれだけの懸賞金をつけて 調査だけの募集をしても一つも申し込みがなかったんですから」
大臣 「きみ、そんなことはわかっとるんだよ、そこを何とかするのが、 君たち官僚の役目じゃないのかね。 最終処分場を探してくれば、その施設に十万年は天下りできることになるんだよ」
秘書 「はあ、分かっております。何とかしたいとは思うのですが、どうにも、 ……高レベルの廃棄物というのは、そんなに大層な量ではないんですがね。 国民一人当たりで換算した暇人がいましてね、われわれの仲間にですよ。彼によると一人当たりにすると サイコロ一個分でしかないそうです」
大臣 「なるほど、……しかし、きみ、そんな計算にどんな意味があるのかね。現物がサイコロ一個でも、それはむき出しでは危険なんだから、容器に入れたら そこそこの大きさになってしまうだろう……」
秘書 「さすが大臣、本質を見抜いておられますね。私もそいつにそんなふうに言ってやったんですよ。彼は舌を出していましたが……そういえば、大臣、そいつは ちょっと変わってましてね、実家が河内の有名なお寺だというんですが、そのことと関係があるのかどうか、前回の最終処分場検討委員会の最後に、奇妙な企画書を出してきましてね。 そのときはみんなの失笑を買っただけで、まったく無視されたのですが、あとで考えてみますと、 少しは検討の価値があるようにも思えるのです、……」
大臣 「ふーん、失笑をね、……それで、その場所というのは何処なんだね?」
秘書 「はあ……、ちょっと言いにくいところでして……彼は、 高レベル放射性廃棄物を埋めておかなければならない十万年という永さは、 人間の想像を超えている。人類が生まれてからも、 まだそんなに経ってないでしょう。十万年というのは、彼が小さい頃から学んできた 仏教的な時間そのものだと言うんです。 そういった永い時間にかかずらうのは仏さんか、菩薩さんか、 地獄の閻魔さんか、それくらいしかないだろうと……」
大臣 「ふん、たしかにそうかもしれんが、……それでどうだというのかね?」
秘書 「彼の名前は無量太といういかにもお寺さんの息子らしい名前なんですが、 ご存じですか、無量大数?」
大臣 「いや、知らん」
秘書 「教典に出てきまして、とてつもない数字のことなんですが、……」
大臣 「思わせぶりなことを言うなよ、その無量大数がどうしたんだ?」
秘書 「いや、無量大数は関係ありませんが、そんな、何十万年というお経にしか出てこないような時間を管理しなくてはならないとなると、 あそこしかないというのです」
大臣 「もったいぶるなよ。あそことは、どこかね?」
秘書 「地獄です」
大臣 「何? 地獄?」
秘書 「そうです。地獄。あそこなら、十万年もの間を十分に管理してもらえるだろうと、…… 十万年たって、もし人類が生き延びているなら、地獄はあるだろうし、 他の知的生命体に代わっているんなら、やっぱり地獄はあるだろう。 だから地獄なら最終処分場を十万年、管理できるだろうというんです。 彼の出してきた企画書の提案がそういうことだったのです」
大臣 「うーん」
(と大臣はうなり声を上げて、考え込んでしまう)
秘書 「閻魔さまに泣きついて、どうか最終処分場を引き受け手くださいとお願いするしかないと、そういうんですよ」
大臣 「そうか、閻魔さまにね、……しかし、だよ、われわれがそんなふうに願っても、 引き受けてもらえるのかね。閻魔さまを相手にお金にものを言わすわけにもいかんだろうし……」
秘書 「そこは、本気で頼むしかないというんですよ」
大臣 「本気でね。……しかし、仮にだよ、仮に引き受け手もらえたとしてもだよ、 どうして地獄の最終処分場まで核のゴミを運ぶのかね? 放射線マークを付けたトラックに積んでいく というわけにもいかんだろう」
秘書 「はい、そのことについても、彼は緻密に考えておりまして、 先ほどの話にもどりますが、高レベル廃棄物を国民一人当たりで計算しますと…… ちょうどサイコロ一個分くらいになる、という計算については、すでにお話ししました。 私たちは、原発のゴミを子や孫に残してゆきたくないと思っています。 できれば、自分たちの手で処分したいと。彼の考えではそれが実現するのです。 法律を一つ作るだけで済むのです。国民が死んだら、 その人にサイコロ一個分だけ核廃棄物を分け与える、それが条文です。 そのサイコロ一つを、六文銭の代わりに彼に託するのです。 子孫に迷惑をかけないようにするには、 いま生きているわれわれが死んだらサイコロ一個分の核のゴミを地獄にもってゆく、 それしかないというのが、彼のレポートの結論でした」
大臣 「うーん、うーん、きみ、これは、しかし、一考の余地はあるかもしれんが……、 うーん、どうすか、うーん……」
秘書 「なかなかすぐにサイコロ法案というわけにいきませんから、 とりあえず彼を室長に抜擢して、 もちろんマスコミには秘密にしてですよ、たとえば、高レベル放射性廃棄物 最終処分場地獄部会を発足させてはどうでしょうか……」
大臣 「うーん、うーん……」
(うなり声の響く中、暗転)

【二場】
(ここから地獄の場面になるが、舞台装置は必要なし。 黒子が絵看板をもって、並んで場面を表す)
(喜六a、清八b、登場。二人で漫才をやっている風情)
喜六 「漫才コンビ『三途の川』のキーやんこと喜六でーす。よろしくお願いします」
清八 「清八でーす。よろしくお願いします」
喜六 「せーやん、オレら、伊勢詣りにも二人で行ったな」
清八 「そうやな」
喜六 「旅はいつも清やんと二人づれやった」
清八 「何を言いたいんや」
喜六 「せやけど、死んで黄泉の国にいくのも、二人連れになるとは思わんかった」
清八 「それは、オレも同じや。喜ぃ公が河豚食うて死んだて、聞いたもんやから、 あわてて駆けつけて、葬儀万端を終わって、仕上げで鯖の刺身を食べてな、 ちょっとおかしいかなと思うたんやけど、エーイと食べたら、食あたりでコロッと逝ってもうた。 それでまたおまえと二人旅や」
喜六 「それはえらい世話かけたうでに巻き添えにしてすまんかったな。 それで、清やん、ちょっと聞くけど、 このサイコロは何やねん? かかあとお前が持たせてくれたんやと思うけども…… たしかおやじやおふくろのときは、三途の川の渡し賃とかいうて、 六文銭を持たしたように思うんやけど……」
清八 「昔はそうやった。けど、最近は違うんや。これはな、 放射能のゴミを固めたサイコロや、 何でも法律で決まったさかいに、六文銭の代わりにサイコロを持たせるように、 お寺さんにお達しがあったらしい」(と、懐からサイコロを取り出す。かなり大きくて、 客席からでも目が見える)
喜六 「それで、こんなサイコロを持たせられたんか。せやけど、放射能きついんやろ、 危なないんやろか?」(と、自分のサイコロを取り出して、眺める)
清八 「オレら、死んでもうてるんやで、何が危ないねん」
喜六 「そらそうや、死んでるの忘れとったわ、もう、何にも怖いもんなしや。 ふーん、せやけど、ようできたあるな。ちゃんと一から六までの目がついたあるわ、 地獄で博打してもかまわん、ということやろうか、お上のお達しやからな」
清八 「アホ言うな、地獄にいったら、そんな暇あるかいな。 閻魔さんに命令されて毎日こきつかわれるわ」
喜六 「地獄いうのは、そんなに働かされるところかいな」
清八 「いや、オレにもはっきりとは分からんけどな、そんなところらしいで……、 そうこう話している内に川に出たわ。はっはーん、ここが三途の川やな」
(黒子、三途の川の看板を持って立つ。渡し守、登場)
渡し守 「あんさんら、新しい亡者かな」
喜六 「お前はだれや?」
渡し守 「ワテは、三途の川の渡し守や」
清八 「ああ、それやったら、渡してもらおか」
渡し守 「渡し賃が六文やが、……」
喜六 「六文、持ってないがな。兄貴、どうする?」
清八 「最近は、お上からのお達しで、 六文銭の代わりにこのサイコロを持たせることになっとるんや。これで渡してもらえんやろか?」
渡し守 「どうも、最近は、六文銭をもった亡者が少ないと思うとったが、 サイコロかいな、……それやったら、しゃあないな、せやけどただ乗せたるいうのはおもろうない。 一つそのサイコロで博打でもして、ワシに勝ったら渡してやろう。どうじゃ?」
喜六 「どうじゃなと聞かれても渡してもらお思たら、やらなしゃあないわな、なあ、兄貴」
清八 「そやな……」
喜六 「ほなら、ちょうどサイコロが二つあるさかい二人分かけて丁半でいくか?」
清八 「せやな。(と、考えながら、サイコロを掌の上でそっと転がしてみる)」
渡し守 「ワシは、何でもかまわんぞ」
清八 「ほな、丁半博打で……、オレとあんさんと一発勝負ということで……」
喜六 「オレが壺振りやらせてもろてもよろしいか、ええなぁ、一回振ってみたかったんや…… というて、ここに盆をしくちゅうても、壺があらへんがな」
渡し守 「壺ならここにあるぞ」
清八 「うわー、おっきい壷やな、せやけど、ちゃんと準備してあるんや。 これまでも、よっぽどやってるらしいな」
渡し守 「ちょっと、サイコロを見せてくれんかな。(と、二つを掌に載せて見る) 重たいな、それに何かジワッと温うて、気持わるー、だんだん熱なってきた、あっつっつう (と、サイコロを喜六に抛るように渡す)、お前は熱うないんか?」
喜六 「職人の掌は分厚いからな。こんなときは便利やわ」
渡し守 「三途の川渡しもただ働きでは、ばからしいからな。 まあ、これくらいの楽しみがあっても誰にも文句言われへんやろ」
喜六 「どこで、やるかな……(と、周りを見回す。黒子が「三途の川受付」と 書いた机を持ってくる) ちょうどうまい具合に机があったわ。ここでやろか。……ほな、入らせていただきます。 よろしゅうござんすか(と、二人を交互に見て壺にサイコロを投げ込んで両手で振って「それっ」と 伏せる)どや? はい、はったはった、はって悪いはおやじの頭、さあ、はったはった……」
清八 「ワイから賭けさせてもらいまっせ」
渡し守 「おお、かまわんぞ、後でも先でも同じじゃ」
喜六 「清やん、賭けてんか……」
清八 「ほんなら、オレは、(つぶやくようにもごもごと)〈いちに〉の半や」
喜六 「何やて? よう聞こえんかったけど、とにかく半やな」
渡し守 「ということは、ワシは丁やな」
喜六 「はい、そろいました。お二人さん、ようござんすか? 勝負(と、壺を上げる) 五六の半」(と、客席に向けてサイコロを持って五と六の目を見せる)
渡し守 「ありゃりゃ、ワシの負けじゃな。しかたない。負けときまれば、 いさぎよう乗せてやろう。さあ、乗れ乗れ」
(黒子が机を片付けて、舟の形を持ってくる。そこに舟客が四、五人乗り込んで座る。 喜六、清八も乗る。渡し守は、棹を持って舳先に立つ)
渡し守 「お前たちで満杯じゃ、舟を出そうぞ、皆の衆、坐ってくだされ。 今乗り込んだそこのぼんくら、もやいの綱を 解いてくれんか。お前じゃ、お前、……さあさあ、縁を掴んでくだされや、倒れんようにご用心。 それ、やっとな」(と、棹を突いて、舟を出す。どどどと太鼓が水音を奏でる)
喜六 「清やん、さっきの五六の半、目ははずれたようやけど、半は当たってたわな。 あれ偶然か? それとも何ぞ勝つ秘訣でもあるんかいな?」
清八 「そのサイコロ、ちょっと振ってみい。(とサイコロを渡す)」
喜六 (掌の上で転がして)「なんもかわったとこあらへんで。ふつうのサイコロやけど……」
清八 「分からんか、ほんなら、この船べりでピンが出るように願うて振ってみい」
喜六 「ほら、ピンやでぇ(と、船べりの上でちょっと転がす)……と、 ピン出んと、六出よったで」
清八 (ささやくように)「もっとちっさい声でしゃべれ、あほんだら、 船頭にきかれたらどうするねん。六が出たやろう。 今度は二がでますようにて振ってみい」
(喜六、もう一度船べりで振る)
喜六 「清やん、やっぱりあかんわ。五が出よったわ」
清八 「わからんか? オレはさっきちょっと試しててわかったんや。このサイコロはな、 転がっとるときに願うと、その目が出んと裏目が出よるねん。 何しろ材料がウランたらいうぶっそうなもんやからな。 ピンや思うたらウラン目の六、二やったらウラン目の五が出よる。ほんなら、さっきみたいに〈いちに〉 の半を願うたらどうなるか分かるか?」
喜六 「裏目、裏目やから、六五で、やっぱり半……」
清八 「そうや、半の裏目はやっぱり半や。せやから、半ちゅうたら、その裏目の半がでよる」
喜六 「先に半ちゅうたほうが、勝ちか?」
清八 「どうや、分かったか」
喜六 「なるほどなぁ、ウランやからウラン目か……、やっぱり清やんは頭がええわ」
清八 「せやからな、先に賭けさしてもろうたんや」
舟客 「あんさんらは博打に勝って渡してもらわはったんでっか?」
喜六 「そうや、あんたも博打の裏目でこれに乗せてもらはった口ですか?」
舟客 「いや、ワイは博打やのうて、まあ、歌勝負ですな。狂歌をしかけてきはりました」
清八 「狂歌? それはまた何でんねん?」
舟客 「掛け合いで狂歌を作ってみぃ言うて、そこそこ付けたら渡してやろう ちゅうわけでんな」
清八 「どんな歌ですねん?」
舟客 「船頭さんは、『六文も持たで三途の川渡り』と詠まはりました。六文銭も持たんで、 三途の川を渡る言うのか、ときた。それに 下の句の七七を付けえちゅうわけですな」
清八 「ひゃー、こらむずかしいわ。ワイらにはとてもできん」
喜六 「清やんでもできんか。……ワイあったらぜったいむりやな。言いたい放題や……」
清八 「まあ、そう怒りないな。で、あんさんは、どう付けはったんでっか?」
舟客 「『折りて返せる道ならなくに』、死んでしもうて、 もう折り返せる道やないんやから渡してくれちゅうことでんな」
清八 「『六文も持たで三途の川渡り折りて返せる道ならなくに』か、なるほどその通りやわ」
舟客 「そうでっしゃろ、われながらようでけた、亡者のくそ力ですな。 渡し守さんもようでけたと誉めてくれはって、それで渡してくれることになりましたんや」
喜六 「ふーん、あの、船頭め、人を見やがったな。ワイらは見くびって博打勝負と ふっかけやがった」
清八 「せやけど、博打やから勝てたんやないか。まあ、そう怒りないな」
喜六 「そら、そうやけどな……清やん、話してるうちに、 もう向こう岸についたようやで」
清八 「三途の川というのは、一級河川やないんやな」
喜六 「船頭さん、おかげで三途の川渡れましたわ。おおきに(と、皮肉たっぷりに)。 ……これからも丁半でやらはるんやったら、亡者優先でたのんまっせ」
渡し守 「ああ、ワシは、いつもそうしとるがな。……お客さんは神さまやからな。 おい、そこの客人、降りたら、そこの道をまっすぐ まっすぐ行くんやで。そうしたら閻魔の庁や、……分かってるんかいな」
(みなが、黙って歩いてゆく後姿に渡し守の声が追いかける。暗転)

【三場】
(喜六b、清八b、登場)
喜六 「『閻魔の庁』のキーやんでーす。よろしくお願いします」
清八 「清やんでーす。よろしくお願いします」
(自己紹介が終わると、二人が歩いているふうに、足踏みをはじめる。
二人が足踏みすると、黒子二人が閻魔の庁の絵看板を持って、だんだん近づいてくる)
喜六 「清やン、話している内に、向こうに大きな赤塗りの門が見えてきたで」
清八 「あれが、閻魔の庁らしいな」
喜六 「閻魔の庁言うたら、閻魔さんがいたはるとこか?」
清八 「そうや」
喜六 「ここで裁かれるンやな。地獄に行くか、極楽か?」
清八 「アホ、何言うとるねん。ワイらは地獄に決まってるやろ」
喜六 (見上げながら)「そんなことわからへんがな。何もはじめから決めつけんでも……、 それにしても、立派な門構えやな」
(腕章を巻いた赤鬼、青鬼の整理員が登場して、道の両側に並ぶ。他にも大勢の人がいるテイで)
赤鬼 「おい、そう勝手に入ってはいかん、勝手に入ってはいかんというとるんじゃ。 四列に並べ、四列に。男はこっち、女はこっち、四列に並んで行くんじゃ。男はこっち、女 はこっち、……、静粛に入れ、静粛に。
日本人で娑婆から高レベルサイコロを託されてきたものは、そこのエコリサイクルのゴミ箱に放り込め、 閻魔の庁に持ち込んではいかん。サイコロを持ってきたものは、 いますぐにそこのリサイクルボックスに放り込め」
喜六 「使用済み核燃料サイコロって書いてたあるわ、な。清やん、 ここにサイコロ入れぇ、ちゅうことかいな?」
清八 「そうらしいな。ほな、入れまっせ」(と、入れる)
喜六 「暇なときにちょっとちょぼ一でもやれるかなと思うていたのに、しゃあないな。 まあ、放り込めっていうんやから、そらっ(と、投げ入れる)、 どうぞ極楽にいけますようにっと(掌を合わせる)」
赤鬼 「こら、そこのやつ、放り込めといっても、後ろから抛るヤツがあるか、 前の亡者にあたったらどうする、賽銭じゃないぞ、ちゃんとそっと入れるんだ」
喜六 「えらい、すんまへん」
(喜六、清八、舞台をゆっくりと回る。背景の壁に赤や青の色模様が揺れる。 遠くの方から罪人を責める音がかすかに聞こえてくる。
ピシッ、ピシッ……という音、キャーという声がエコーをともなって聞こえる。)
喜六 「清やん、あれ、何の音やろ……」
清八 「罪人が鞭で打たれてるんやな。気持わるいな。さすがに、 みんな黙ってしもうて、……」
(舞台奥にキラキラした光が見える)
喜六 「あのキラキラ光ってるのは、何やろ?」
清八 「子どものころぼんさんに地獄の様子を聞かされたことないか? あれは浄玻璃(じ ょうはり)の鏡やな、前に立つと生きとったころの悪行を映し出すそうや」
喜六 「悪行な……」
清八 「お前はだいじょうぶや。しれてるわ」
喜六 「そうやろうか……」
清八 「もっと悪(わる)がいっぱいいとるで……」
喜六 「ふーん、『お主もわるよのー』いうようなやつか……」
清八 「そういうことや。見てみい、怖いモンが他にもいっぱいあるで」
喜六 「ほんまや。あののこぎり血ぃついてるで。それに釘抜き…」
清八 「あの嘘ついたヤツの舌を抜くというやつや」
喜六 「その横に計り置いたあるで、……」
清八 「罪の重さを量ろうちゅうんかいな」
赤鬼 「こらっ、そこのお前たち、ヒソヒソと何をしゃべっておる。 ここは、お白洲であるぞ。静まれ。ただいま。閻魔大王さまのお出ましである。 一同、頭が高い、控えおろう」
(喜六、清八、土下座して『へへー』と頭をさげる。
そこへ閻魔大王がお出ましになる。 王といぅマークの付いた冠をかぶって、身には道服というやつを纏っている。 手にした笏を胸の前に立てて持つ)
閻魔大王 「いかに赤鬼(歌舞伎口調で)、亡者召し連れたか?」
赤鬼 「御前に控えさせましてござります」
閻魔大王 「本日の亡者、その数いかほどなるぞ?」
赤鬼 「その数は、えー、モジャモジャとまいっております」
閻魔大王 「モジャモジャではわからん。亡者戸籍簿を持ってまいれ。 なるほど……、ふーん、本日の亡者四千なにがし、男はこれだけ、女はこれだけ。 なるほど、なるほど……、いかに亡者ども、よーくうけたまわれ、 これより厳しく罪の次第を問いただし、地獄・極楽の送り先を決めるべきはずのところなれど、 本日は先代閻魔の一千年忌に当たるゆえをもって、格別の憐憫を持ってみな極楽へ通してつかわすぞ。 あとから赤鬼が名前を呼ぶ者だけは残れ」
喜六 「昔の閻魔はんの、今日は一千年忌やて、死なはってちょうど千年か、 そんなことあるんでんな。奇遇ちゅうやつや。 せやけど、オレらには幸せなこっちゃ、これで極楽に決まりや、な」
赤鬼 「あー、コラッ、私語をしてはならんぞ。今から名前を呼ぶ者はこれへ出ませ。 建具屋喜六、指物師清八、前へ出てこい、それへ座れ、この二人だけは残って、 他のものはみな、極楽へ通ってよろしい」
喜六 「何でおれらだけ、あかんのやろ?」
清八 「閻魔さま、お恐れながら、何かの間違いではございませんか、 私たち二人はごく平凡な職人で取り立てて悪いことをした覚えもございません。 何でこんなことになったのか……」
閻魔大王 「ええい、黙れ、胸に手を当てて懺悔するがよい。胸に覚えがあろうぞ。 この閻魔大王、浄玻璃の鏡によってすべての所行お見通しである。汝等二人は、一昨年、 伊勢詣りをしたであろうが」
喜六 「はい、二人で御伊勢さんに参りました」
閻魔大王 「その折り、道の石を田んぼにけり込んで、それが七度狐の頭にあたり、 えろう怒らせたために、さんざんだまされた」
清八 「はい、たしかに、そんなことがございました」
閻魔大王 「あげくのはてに汝等二人は、くだんの七度狐をなぶり殺すハメになってしもうた。 そうであろうが、いかに?」
清八 「はい、たしかに勢いあまって殺してしまいましたが、それは成り行きで そうなっただけで……」
閻魔大王 「ええい、なりゆきと申すか? ならば、 なぜになぶり殺すようなことをした? 狐とは言え、あまりに哀れ、 そのことに関してはお狐さまから訴えがまいっておる。 これをおろそかすることはできぬ。一千年忌の温情はなきものと観念いたせ。 これなる事情をもって二人に地獄行きを命ずる。 申し開きは聞かぬ。よいな、清八」
清八 「ははー、恐れ入ります」
閻魔大王 「喜六もよいな」
喜六 「ははー、恐れ入ります」
閻魔大王 「本来ならば、釜ゆで地獄を申しつけるところ、本日は一千年忌でもあり、 またおぬしらは日本人であることを考慮して、核のゴミ最終処分場の刑に処する」
喜六 「どんなお仕置きになるんでっしゃろか?」
閻魔大王 「防護服地獄じゃ、重い鎧を着て、 亡者が持参する高レベルサイコロを毎日最終処分場まで運ぶのじゃな」
清八 「何でワイらが、そんな責め苦を?」
閻魔大王 「放射能というのは、な、調べてみると、目にはみえないが、 確率というサイコロ遊びのようなもので人をなぶり殺すものじゃそうな。 そのむごたらしさをお前たちに知らせんがための責め苦である、そう心得い。 これにて一件落着、青鬼、この二人を処分場に引っ立てい」
青鬼 「ははー」
(と、青鬼が登場)
青鬼 「立ちませい。こっちへこい」
喜六 「そんなにじゃけんにひっぱらんでも……」
青鬼 「うるさいぞ、さっさと付いてこい」
(ピシッと鞭の音、「ヒェー、分かりました」という叫び、暗転)

【四場】
(地獄の風景。多くの亡者が苦しんでいる)
(喜六c、清八c、青鬼c、登場)
(三人が「トリオじごくのもうじゃ〜ズ」と適当なメロディで歌う。 音が合っていないし、バラバラ)
喜六 「喜六です」
清八 「清八です」
青鬼 「青鬼です。よろしくお願いします」
(自己紹介が終わると、喜六、清八の二人は、歩きながら地獄の風景を眺める)
喜六 「ウワー、清やん、これが地獄ちゅうもんか、はじめて見たわ」
清八 「みんな初めてやちゅうねん。見てみい、青鬼さん、笑たはるやないか」
喜六 「鬼が笑うとるけど、来年のこと言うたんとちがうんやけどな」
青鬼 「来年のことでなくても、面白かったら笑うがな」
清八 「そら、そうや。キーやん、一本取られたで。……それで最終処分場いうのは、 まだまだかいな」
青鬼 「もう少しだ。あちらに見える針の山の向こう側だ」
(黒子が針の山地獄の絵を掲げる)
喜六 「こんなとこに、あんなもんがあるとは思わんかったわ。なあ、清やん」
清八 「なあ、科学の最先端が地獄になあ、……」
喜六 「にあわんと思うけどな」
清八 「地獄に最終処分場ができたということは、娑婆で聞いたけど、 閻魔さんは、何で最終処分場ちゅうもんを引き受けはったんでっしゃろか?」
青鬼 「何故か、ワシら下っ端の鬼にはわからないが、 引き受けた後でこんな話をされたことがある。
『原発というもの、人間は愚かなモノをつくりよったもんだ。人間の浅智慧は、どうしようもない。 原発のゴミを処分する方法もわからないで、原発を動かし、ゴミがどうしようもないことが 明らかになってからも止めようとしよらん。 放射能というのは、所詮人間の手には負えんものなんじゃ。 人が十万年も管理できるわけがなかろう。 だからワシは、最終処分場を引き受けることにした。それだけの永きにわたって管理できるところなど、 地獄以外にないじゃろう。引き受けたのは慈悲の心からじゃ……』と」
喜六 「さすが、閻魔さんは、ご立派なもんや」
青鬼 「というて、閻魔大王の意向とはいえ、受け入れがすんなりすすんだわけではない。 当事者の亡者さんたち、というか地獄の利用者さんたちの反対運動もあった。 もしも地獄が放射能に汚染されたらどうなるんや、 地獄に住めんようになったら、極楽の門が開くんか、いうてデモもあった」
喜六 「亡者のデモでっか?」
青鬼 「そうじゃ、もじゃもじゃとたくさんの亡者が、閻魔の庁におしかけたんじゃ」
清八 「それで、どうなったりました?」
青鬼 「閻魔大王がおんみずからお出ましになって、人間界は、己の身の丈に合わないものに 手を染めてしもうた。十万年も管理するとなると、この地獄しかふさわしいところがないのだ、 と言うて、説得されたのじゃ」
喜六 「閻魔さん、えらいもんやな。袖の下でももろうたんちゃうかと疑ってたけど、 見直しましたで」
青鬼 「閻魔大王は、そんなお方ではない。だからして、閻魔大王なのだ」
清八 「それでさっき閻魔さんが言うたはった最終処分場の責め苦というのは、どんなもんでっか?」
青鬼 「付いてくれば、分かる」
(としばらく足踏み)
青鬼 「さあ、付いたぞ」
清八 「えっ、何にもありませんけど」
青鬼 「そこの崖に洞穴の入口があるだろう、上に放射能の黄色い標識が貼ってある。黄色といっても糞尿の黄色ではないぞ、黄色いパンダのようなマーク、……」
喜六 「ほんまに黄色いパンダでんな」
(黒子二人が入口の絵看板を持って立つ)
青鬼 「といっても、ここに黄色いパンダがいるわけではないぞ。 ここは高レベル放射能の最終処分場の入口じゃ。さあ、行くぞ。中に入るとエレベーターがあって、 それに乗って、地下800メートルまでくだるのじゃ」
(三人で洞穴の中に入り、別の場所から現れて足踏みする)
喜六 「ここが地下800メートルですか、えー、 まだ歩く? ここから遠いんですか?」
青鬼 「つべこべ言わんと、歩け。もう少しだ」
清八 「それで、ワイらの地獄というのは、どんな責め苦になるんでっか?」
青鬼 「そんなに知りたいか?」
喜六 「そらそうでっしゃろ、責め苦を受けるのはコッチなんやから」
青鬼 「先ほど、閻魔の庁で見かけただろうが、 亡者が娑婆から持ってきた核廃棄物のサイコロを入れる箱、 あの箱を毎日この処分場まで運んでくることじゃ」
喜六 「そんな簡単なこと」
青鬼 「そうじゃ、が、それがなかなかたいへんなんじゃ。 日本の亡者が毎日四千人ぐらいだから、 四千個のサイコロがあのエコボックスに溜まる、それをここまで運んでくるのだ」
清八 「四千個ちゅうても、たかが40kgくらいちゃいまっか? 二人で担いだら 一人あたり20kg、しれてまっさ」
青鬼 「それがそうではない、何しろあのサイコロは核のゴミなのじゃ。 放射能をまきちらしておる。とてもとても素手では持てんしろものじゃ」
清八 「というと、あの薄っぺらな白い防護服を来て、防毒マスクを着けて……」
青鬼 「察しがいいのう、が、ちょいとちがう。白い防護というのは、あのフクシマの原発で作業員が着ていたものを想像しているのだろうが、あれは放射能をもったチリが身体に付いて、 飲み込んだりするのを防ぐだけのものだ。ここのは少々違う。最終処分場だからな放射能が強い。 だからといって亡者にはどうってことはないが、一応防護ロボット服を着てもらう」
喜六 「それは、どんなものでっか? 何かロボットみたいな、鎧みたいなものでっか?」
青鬼 「まあ、そんなもんじゃ、それが重い。最新のものでも70キロぐらいあるから、 鎧の二倍くらいの重さかのう。そこがまさに責め苦じゃのう」
清八 「よろい二着を着込んだと思ったらいいわけですな」
青鬼 「それを毎日毎日繰り返す。運んできたら、まずは釜にくべる。 新鮮なゴミはまだまだ熱を出しておるから、地獄の釜の追い炊きに使っておるのじゃ。 温泉の湯を入れておるのだが、ぬるいときもあってな」
喜六 「釜ゆでの湯は温泉でっか、そりゃええわ。一回入れてもらお」
静八「何言うてんねん。湯がぶくぶくと沸いてるねんで」
喜六 「えー? 沸いてるんかいな」
青鬼 「ぬるいときは、追いだきして沸騰させております。最終処分場ができてからは、 真新しい使用済み燃料の熱を利用させてもろうておる」
清八 「抜け目ないもんやな」
青鬼 「ようく手順を覚えておけ、毎日、鎧を着込んで、二人で肥たごのようにサイコロの リサイクル箱を担って山道をのぼってくる、そして、五右衛門釜の焚き口にくべる、 そんな作業が毎日ずっと続くんじゃ、まあ、つらいと言えば辛いもんじゃろう。 二人で鎧を着込んで放射線という見えない敵と戦う地獄と思えばよかろう」
清八 「そういえば、放射能のゴミの捨て場がないのは、トイレのないマンションみたいなもんや、言われてたけど、ここで肥汲みの仕事をさせられるとは思わんかったな」
青鬼 「さて、そうこうするうちに処分場に着いた。 これが10万年間核のゴミを保存するところだ。地獄の最終処分場だ」
(声にきついエコーがかかり、暗転)

【五場】
(最終処分場の風景)
(喜六d、清八d、青鬼d、登場)
(三人が「さいしゅうしょぶんじょうホットブラザーズ」と適当なメロディで歌う。 音が合っていないし、バラバラ」
喜六 「キーやんです」
清八 「清やんです」
青鬼 「青鬼です。よろしくお願いします」
喜六 (あたりを見回して)「なんや、薄暗いでんな」
清八 「青白い光がどこかから射してるみたいやけど……」
青鬼 「それは、チェレンコフ光というてな、新しい原子燃料を水に入れると 発する光なんじゃ」
喜六 「ふーん、この中はその光だけでっか?」
青鬼 「そうじゃ、地獄にはロウソクはあるが、蛍光灯もLEDもないからな」
喜六 「そういうたらここに来て、青い光のせいで青鬼さんの姿が 見えにくうなってきましたで、青鬼さん、どこにいたはりまんねん?」
青鬼 「ここ、ここ、さっきからお前のよこじゃ」
清八 「処分場の青鬼さんとかけて……」
喜六 「ほいきた、処分場の青鬼さんとかけて、何と解く?」
清八 「定年後の亭主ととく」
喜六 「その心は?」
清八 「だんだん影が薄うなる」
青鬼 「くだらんことを言うな」
清八 「そない言うても事実は事実ですがな」
青鬼 「まあまあ、そうやが、……ここの光の中では、青鬼は影がうすうなるし、 赤鬼は黒鬼になる。だから、鬼連中はここで働くのを嫌がるのだ」
清八 「そりゃ誰でもそうやわな」
青鬼 「しかしな、少しでも光があるうちは、まだましだ。この青いチェレンコフ光というやつは、放射能が弱くなってゆくとだんだんくらくなるから、 10万年も経ったらこのトンネルはほぼ真っ暗になるだろうな」
喜六 「そうなったらワイら、こんなとこにようこんな」
青鬼 「特別な作業をするときは、ロウソクを使う、それで十分じゃ」
喜六 「そらそうやけど……、考えるだけでも怖いわ」
青鬼 「もう少しで最終処分場の管理事務所に着く。あっちの方だ」
(と、足踏みしていると、ポトン、ポトンと水の垂れる音が大きく響く)
清八 「ちょっと青鬼さん、向こうに地下水が漏れて、ポトン,ポトン垂れてまっせ。 その下に水晶のものさしみたいなんが立ててありますな、ほんでメモリが刻んだある……」
青鬼 「これは水漏れやない、水時計じゃ。ポトンポトンと地下水の雫が垂れて、 何百年とたつうちに、上と下に鍾乳洞のつららと竹の子みたいなものができてくる。 その長さで時間を計ろうというのだ。メモリの一刻みが一万年じゃから10メモリで十万年、 竹の子の芽が10刻みになるまで、この最終処分場は地獄で管理されるのじゃ」
清八 「おっそろしい長い時間の時計でんな」
青鬼 「そもそも地獄には春夏秋冬がない」
喜六 「そういえば、『地獄海峡冬景色』なんちゅう歌を聞いたことないわな」
青鬼 「そうじゃ、四季がなくて、まして800メートルの地下だ、1年もない、 10年も100年もないのじゃ、だから、鍾乳洞の竹の子の高さで千年、万年を計るしかない。 それに地獄にガイガーカウンターなどないからな、放射線がなくなってきたというのがわからんわけだ。 青い光が弱くなってきて、石の竹の子が10メモリになったら、もう放射能も大丈夫だろうと いうことで、最終処分場は取り壊されることになっている」
清八 「そういうことでっか、想像できまへんな。その十万年後というのは……」
青鬼 「そういうことじゃが、おまえたちに十万年付き合えというのではない、 とりあえずのお前たちの仕事は、さっきも言ったように、 日本から高レベル廃棄物がなくなる百年くらいの間毎日、閻魔の庁のリサイクルボックスから サイコロを運んでくることと、もう一つ、この水の始末もお前たちの役目だ。 最終処分場に水は禁物じゃからな。 下の岩の周りだけ、垂れた水を拭き取るのじゃ、ビチャビチャにしてはいかん、わかったかな」
清八 「わかりましたが、これも鎧を着てでっか?」
青鬼 「もちのろん、そういうことじゃ」
喜六 「地獄に来てまで、雑巾がけするとは思わんかったな」
青鬼 「もともとこの地獄に時間なのないのじゃが、最終処分場の関係で、 外にもう一つ十万年を刻む時計がある。それは、亡者の芸術家が作った ガラスの滝というオブジェで、この処分場の上の公園に設置されておる」
清八 「何でっか、そのガラスの滝ちゅうのは?」
青鬼 「お前たちが運んできたサイコロは追い炊きに使った後ガラスで固めるのだが、 そのガラスを使って滝のオブジェを作ってもらった。そのガラスにも目盛りが刻んであって 時計になっているらしい。十万年経つうちにガラスの滝は上から下にゆっくりと 流れ落ちるらしい。また、暇なときにでも見てきたらよかろう」
喜六 「ふーん、けったいなもんありまんなー」
青鬼 「さて、ついたぞ、ここが管理事務所だ。ここから横穴が八方に通じておる」
喜六 「トンネルにはマンホールの蓋みたいなものがいっぱい並んでますな。 蓋が上に丸う膨らんでるさかい、何やたこ焼きの鉄板にたこ焼きが並んでるみたいでんな」
青鬼 「バカなことをいうな。あのマンホールの下には、ガラスで固めた核廃棄物が ステンレスの筒に入って埋め込まれておるのじゃ」
清八 「なんか、まだ熱そうでんな。このあたりムッとしてるがな」
青鬼 「そうじゃな。……まだ、百度くらいはあるかもしれん」
喜六 「そうやろう、やっぱり熱々のたこ焼きや。……せやから、核廃棄物ちゅうのは、 たこ焼きの天かすみたいなもんでんな。……そんなこと考えとったら、 たこ焼き、食いたなってきたな、地獄にはたこ焼き屋おまへんのか?」
青鬼 「そんなものはない、妙なことを言うヤツだ。それより、 そこのマンホールの蓋を見てみるがよい。蓋には閻魔大王のマークの王という字が 刻まれておるじゃろう」
喜六 「そんなマークの入った人形カステラ焼き見たことあるで」
青鬼 「食べ物のことばっかりじゃの、食い意地のはったやつだ」
喜六 「そう言えば、何かいい匂いがしてますで、ほんまに人形カステラの匂いみたいや。 気のせいやろうか」
青鬼 「うん?(と、匂いを嗅いで)ああ、この匂いか、これはキャラメルの匂いじゃ。 事務所の隣の工場でキャラメルを作っておるのじゃ」
喜六 「キャラメルでっか? どうりで人形カステラと同じ匂いや、 ……せやけど、何でまた、キャラメルを?」
青鬼 「甲状腺がんを防ぐヨウ素入りのキャラメルだ、最終処分場を受け入れるにあたって、 もし事故が起こったときのためにということで、閻魔大王の命令でキャラメル工場を作ったんじゃ。 そうして、今いる地獄の亡者には、これができたときに一粒300ミリシーベルトの放射線を防ぐ キャラメルを三粒ずつ配ってある。それを毎日入ってくる新しい亡者さんにも配らんといかんので、 工場はずっと動き続けておるのじゃ」
清八 「何でまたキャラメルなんやろか?」
青鬼 「おう、それじゃ、わからんか? お前たちは聞いたことがないかもしれんな、 昔から、映画館では、『汚染にキャラメル』と言うじゃろうが、売り子が 『えー、おせんにキャラメル、アンパンにラムネ。』、放射能の『汚染にキャラメル』、ということで ……お後が宜しいようで」
(青鬼、舞台下手に退場)
喜六 「おい、おい、待てよ」
清八 「逃げるな、こら青鬼……」
(喜六、清八も後を追って退場)
                            【完】

【注】 閻魔の庁での裁きの場面は、何しろ私も経験がありませんので、 桂米朝さんの「地獄八景」の描写を参考にしました。 「先代閻魔の一千年忌」のエピソードも、そのまま使わせていただきました。

追補
これは、読む落語台本「地獄借景 −核廃棄物最終処分場異聞−」を脚色したものです。
上演される場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。



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