短い劇「賢治花壇」(クラスみんなで演じる10分の劇)
−賢治の花壇はいじめを見てる−
2014.4.15

【まえがき】
最近、学校行事がますます削られているようです。劇をする機会も少なくなっています。 発表の機会が設けられていても、時間が制限されていて、なかなか充実した劇を演じることが できないという声も聞きます。
舞台で劇を演じる経験がないままに学校を卒業してゆく生徒も多いのではないでしょうか。
劇を演じる貴重な体験は、座学では決して得られないものです。
時間の制約があるなかで、どのような劇が成り立つのかを考えて、この脚本を書き上げました。
上演時間は10分から15分程度です。
宮沢賢治が、設計書を残している花壇を、クラスのみんなで作る、というそれだけの筋です。
【賢治が残した花壇(Tearful eye)の設計図】
もう少し詳しく説明すると、一幕もので、舞台は学校農園、理科の授業が始まるまでの休憩時間のことです。 生徒たちが家で育ててきた花の鉢(造花?)を教室から持ってきて、会話を交わしながら、 前の週に作ったレンガの輪郭の中に並べます。 花壇が完成したところに先生が登場して、花壇の説明をして、みんなで歌を歌って終わりです。
それだけの筋でも一応劇としてなりたつように考えました。
大道具としては、舞台の中央前に、ベニヤ板を農場の斜面に見立てて、少し斜めに置いておきます。 そこに、花壇の設計図に基づいて、発泡スチロールのレンガで、目の形が縁取られています。 小道具は、生徒たちが持ってくる花の鉢。これは、プラスチックの植木鉢に造花で間に合いますが、 並べたら目の玉や白目に見えるように、花の色は注意が必要です。服装は、普段の学校のままです。
舞台下手から登場したとき、あるいは花の鉢を並べながら生徒たちが交わす会話は、 一応40人分ありますが、一部の会話を除いて、 自由に変えても差し支えありません。
鉢を置いた生徒は、舞台の後ろに回って先生を待つのですが、立ち話に興じたり、ふざけあったり、 ぼんやりとたたずんでいたり、うずくまったり、とにかく休憩時間の自由な雰囲気が出たらと思います。 ただし、並べている生徒の台詞がありますので、声は 出さないようにしなければなりません。
花壇が完成したら、客席から見えるようになっていることが肝要です。
最後に先生が登場して、花壇の横に立ち、賢治の花壇を作った意味を少し説明して、 その後「賢治花壇の歌」の指揮をします。
歌い終わったら、みんなで礼をして幕。これだけの劇です。
短いものですので、興味のある方は、一度読んでみてください。

【では、はじまり、はじまり】
(最初、教室から「雨ニモマケズ」を朗読する声が聞こえてくる。)
生徒の朗読
「雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病氣ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稻ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイゝトイヒ
北ニケンクワヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ」
(チャイムが鳴る。)
先生の声 「雨ニモマケズを朗読していたら、ちょうど時間になりました。賢治の詩はこれでおしまいです。賢治さんは、苦しんでいる人や悲しんでいる人がいたら、いっしょに苦しんだり、悲しんだりしてくれるような人なのね。それさえわかればいいのよ。 では、つぎは理科の時間ですから、農園に出て賢治さんの花壇を作りましょう。先週は、土手のところにレンガで花壇の目の形を作ったでしょう。今日は、家から持ってきた花の鉢を並べましょう。」
生徒たちの声 「はーい。」
生徒の声 「起立、礼」
(騒がしい声がして、生徒たち植木鉢を持って、舞台下手よりつぎつぎに出てくる。)
生徒A 「さあ、賢治さんの花壇を作ろうか……。」
生徒B 「早いもの勝ち?」
生徒A 「うううん」(と、否定する)
生徒C 「周りの下の方から並べていかなくちゃあ。」
生徒D 「そうね。だったら、白目のところから……。」
生徒E 「目の白いところは、ヒメコスモス。」
生徒F 「私の鉢は花がいっぱい。」
生徒G 「おれの鉢はまだ花が開いていないよ。」
生徒F 「水遣り、さぼってたんじゃないの?」
生徒G 「そんなことないよ。毎日、咲きますようにって、お願いしながら、水やってた。」
生徒F 「ほんとう?」
生徒G 「ほんとう、誓います。」
生徒H 「私のは、もう花が咲いて三日ぐらい。」
生徒I 「おませなんだよ。」
生徒H 「ほっといてよ。咲いてればいいんだから。」
生徒J 「わたし、きのう清水くんちに行ったの。清水くんは出てこなかったけど、お母さんの話では、やっぱりあしたも学校には行かないだろうって言うから、鉢をあずかってきたの。まだ花は咲いてないけどね。」
生徒K 「でも、ほら(と鉢の花をさぐって)、ここにつぼみがあって、もうすぐ咲くわよ。」
生徒J 「ほんと、もう、すこしね。お母さんの話では、清水くん、水はやってたんだって……お母さんが、買い物に行ってる間とかにこっそり出てきてやってたらしいわ。」
生徒K 「ふーん、やってたんだ。それでつぼみつけたんだね。」
生徒L 「黒目の周りは、ヒメコスモスの藤色、まあるく植えるのよ。」
生徒L 「真ん中の黒目のところは残しておいてね。」
生徒M 「わかってるって……。」
生徒N 「うめっちの花、えらいすみっこにばっかりはえてるな」
生徒O 「学校で苗もらって植えたとき、プロレスごっこしてて、鉢の土をこぼしたやろう。あれでかたよったんや。」
生徒N 「あのときか……、悪かったな。プロレスごっこも、うめっちがあんなに嫌がってるなんて、知らんかってん、ホームルームで話し合いしてはじめてわかったんや。ごめんな。」
生徒O 「ええねん、えんねん、たいしたことないから、わかってくれたらええねん。」
生徒P 「黒目のところは、パンジーの黒ね。いくつだったっけ?」
生徒Q 「四株よ。まるく並べましょう。」
生徒R 「おれのは、ヒメコスモスの藤色だから、ここらあたりかな。」
生徒S 「真ん中の黒目を壊さないでよ。」
生徒T 「わかっているよ。ここに置いとこう。」
生徒U 「藤色は、あといくつ?」
生徒T 「さあ……」
生徒V 「わたしのも藤色。ちょっと白っぽいけど……。」
生徒W 「ほんと、ちょっとまぎらわしいから、境目に置いといたら……。」
生徒X 「ヒメコスモスの白、ここに置いとこうかな。」
生徒Y 「白、白、はやく並べてよ。」
生徒Z 「ヒメコスモスの白さんは、もういませんか?」
生徒a 「ごめん、オレで最後かな。」
生徒b 「あとは、まつげ。まつげはほうき草ね。お待たせ。さあ、置いてちょうだい。」
生徒c 「ここらあたりかな。」
生徒d 「オレのは、ちょっとカールさせてきたよ。」
生徒e 「ほんとね。むりに曲げたの?」
生徒d 「ああ、毎日、曲がれ、曲がれって……。」
生徒e 「ふーん、曲がるものなんだ。」
生徒f 「さあさあ、並べてくださいよ。」
生徒g 「はいよ、ほうき草。」
生徒h 「このカールしているの、やっぱりおかしいわね。一本だけ変な曲がり方してるもん。」
生徒d 「いいじゃねぇか、よかれと思ってやったことだ、なんか文句あるのかよ。」
生徒i 「けんか、しないでよ。」
生徒j 「でも、こんなまつげは格好悪いよ。」
生徒d 「気にしない、気にしない。」
生徒k 「じゃあ、最後は、涙さんね。置いてちょうだい。」
生徒l 「この涙の鉢、家のベランダに置いといたら、猫が二回ひっくりかえしよって、もうすこしで枯らしてしまうとこやった。」
生徒m 「そんなことなったら、みんなに攻められてそれこそ涙目になってしまうで……。」
生徒l 「うまいこと言うなあ。でも、白い花、一つ咲いてよかった。」
生徒m 「先生が言うてたように、午後二時ごろに花開くってほんとうやった?」
生徒l 「ほんとうやと思う。学校から帰ったころにはもう咲いてたからな、ようわからんけど。」
生徒m 「オレのは、花二つや。栄養剤をちょっと垂らしてやったからな。」
生徒l 「ふーん、そうなんか。そんなのもありなんや。」
生徒n 「はい、完成でーす。先生が来る前にできちゃったよ。」
(ここまで、A〜Z、a〜nの40人分の役を割り当てたが、 適宜、持ち台詞を増やして人数を減らすこともできます。
また、J、Kの会話、N、Oの会話、l、mの会話を除いて、その他の台詞は自分で考えて変えることもできます。)
(授業開始のチャイムが鳴る。先生が、下手から登場する。生徒たちが花壇の後ろに並ぶ。)
先生 「はい、では、理科の授業をはじめます。授業はもうはじまっているみたいだから、 挨拶は省略します。あなたたち、もうすこししたら卒業です(あるいは、進級してクラス替えです)。 このクラスもみんなばらばらに分かれていきます。それで、みんなで話し合って、最後に花壇を作ろうということになりました。どうせ作るのなら、国語で勉強した「雨ニモマケズ」の宮沢賢治が設計した花壇がいいな、ということに決まりました。その設計書には、『ティアフル・アイ』『涙の目』という名前が付いています。涙のしずくが二つある大きな目の花壇です。私たちのクラスには、かなしいことが二つありました。「雨ニモマケズ」の詩を暗唱できるようになったあなたたちは、これから宮沢賢治さんといっしょに歩いて ゆくようなものです。きょうあなたたちが作ったこの花壇の目は、 あしたからあなたたちの後姿を見守っていてくれるだろうと思います。」
生徒 「では、最後に賢治花壇の歌を歌います。聞いてください。」
(先生が指揮をして、みんなで合唱する。)

 「賢治花壇の歌」
     (曲はつけていません。募集中です。)

賢治は こどもを 見てました
花壇の まなこの 涙目で
こどもの こころを 見てました

けんかや いじめを 見てました
一人じゃ ないよと よりそって
こどもの 悲しみ 見てました

賢治は 風の音(ね) 聞きました
どどうど どどうと 叫ぶ声
りんごを 案じて 聞きました

ひでりの ときには 涙目で
寒さの 夏には おろおろと
稲穂の さわぐを 聞きました

賢治は 手帳に 書きました
雨にも 風にも 負けないと
遺言 がわりに 書きました

ほめても もらえず 苦にされず
デェクノボーめと 呼ばれても
それでも いいなと 書きました

賢治は こどもを 見てました
花壇の まなこの 涙目で
こどもの こころを 見てました

けんかや いじめを 見てました
一人じゃ ないよと よりそって
こどもの 悲しみ 見てました

生徒 「ぼくたちの劇をご覧いただき、ありがとうございました。」
                   【幕】

【補注】
1、私は作曲ができませんので、「賢治花壇の歌」に曲はつけていません。ボランティアで 作曲してやろうという方を募集中です。
上演に際して、もし曲がつけられないようなら、「あめふり くまのこ」のメロディーでも 歌うことができます。

2、歌詞の「けんかや いじめを 見てました」というところは、 最初は「こもりや いじめを 見てました」 となっていたのですが、ひきこもりとなると、気にする生徒がいるかもしれないと考えて、 このように変えました。これでいいのかどうか、いまだに迷いがあります。

3、この劇のテーマは、J、Kの会話、N、Oの会話、l、mの会話と「賢治花壇の歌」に 込められていますが、それぞれの会話に手を加えれば、変えることもできます。クラスの1年を振り返ると、悲しいことが二つくらいあってもおかしくないわけで、それを劇にもりこむこともできます。

4、須賀川市立稲田小学校で上演されたときの、名古谷敦先生による福島弁の朗読劇台本「賢治花壇」 をpdf形式で読むことができます。
   福島弁による「賢治花壇」(pdf形式)
5、賢治花壇については、
ホームページ「賢治花壇」
(http://homepage3.nifty.com/field1/subg30.htm)
で見ることができます。

6、この脚本を使われる場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。


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