プチ狂言「きつねの幻灯会」ダッシュ(一幕五場)
−宮沢賢治の「雪渡り」−
               2013.2.13

【まえがき】
これまでに、プチ狂言と銘うって、「豆腐小僧は怖い? 怖くない」「箒縛り」の二本の脚本を 公開しています。
今回、おなじように狂言の形式を借りて、小学生を想定した脚本(台本)「きつねの幻灯会」 を書き上げました。話のもとになっているのは宮沢賢治の童話「雪渡り」です。
「雪渡り」もそうですが、何かを訴えるようなメッセージを込めた劇ではなく、 演じて楽しいものにしたいというのが、いっとう最初に考えたことです。 しかし、狙いどおりのものになったかどうかは、実際に舞台に載せてみないことには わかりません。
「雪渡り」は、四郎とかん子という幼い兄弟が、小狐紺三郎に狐の幻灯会に招待されるといった話ですが、 「きつねの幻灯会」もおなじような筋になっています。
クラス全員が一人一役で出番があって、短い時間で演じられるもので、できれば演じて楽しく、 観客に笑いを誘うような軽いものを、と心がけました。
登場人物は、
キツネの乙吉、乙女    2人
子供たち          5人
映写幕の係り        2人
腰折れ地蔵         1人
キツネのプラカード係り   1人
キツネ火係り        1人
キツネの受付        1人
キツネの先生        1人
キツネの観客(5〜7人)  5人〜7人
キツネのお母さん      3人
大人             2人
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 合計           24人〜26人
これだけの役があれば一クラス全員で演じることができます。
もちろんクラスの人数に応じて、増やしたり減らしたりすることは可能です。

では、そろそろ狂言の幕開けということに致します。
とざいとーざーい……。

【はじまりはじまり】
(舞台は、能舞台を模したもので、背景に松が描かれています。
大道具としては、お地蔵さんの祠(ほこら)くらいのものです。 狂言の本来の演出を踏襲するのなら、何もなくてもかまいません。
小道具としては、映写幕として使う布きれ、狐火をあらわすペンライトのようなもの、 懐中電灯の前面に模様を貼り付けた簡単な映写機と机、 バット、鍬、キツネの数だけキツネのお面、キツネの観客数と子供たちの坐るパイプいす、 受付の机、「つぎの日の夜」のプラカード、だんごと柏餅、お皿、そんなところです。
舞台は、少し暗めに。
舞台下手に揚げ幕があり、最初にそこから乙吉、乙女、布きれを持った二人の狐が登場します。
腰折れ地蔵さんは、舞台上手から祠を持って登場して、舞台上手に祠を置いて、その中に坐ります。)

【一場】
乙吉 「私は、この腰折れのお地蔵さんのあたりに住んでいるきつねのおときちです。」
乙女 「私は、妹のおとめといいます。」
乙吉 「さろそろ暗くなってきたし、これからあしたの幻灯会の準備をしようか。」
(舞台が、さっと暗くなる。)
乙吉 「では、コン太にコン子さん、幻灯を映す布きれを持ってくれますか。」
(コン太、コン子が布きれを開いて、さっとかかげる。)
コン太 「こんなんでいいかな?」
コン子 「あんまり動かさないで、じっとしていてね」
乙女 (映写機のスイッチを入れる。何かの模様が布きれに映る。)「これくらいで、どうかしら?」
乙吉 「いいんじゃないか、きれいに映っているし……」
乙女 「あしたの幻灯会、楽しみね。きつねのおやごさんたちみんな来てくれるかしら?」
乙吉 「だいじょうぶだよ、たくさん来てくれると思うよ。」
乙女 「じゃあ、片づけましょうか。」
(映写機のスイッチを切ると、舞台は暗くなる。乙吉、乙女、コン太、コン子、舞台の後ろにさがる。 お地蔵さんも、祠を持って、舞台の後ろに控える。)

【二場】
(子供たちが登場。サッカークラブの帰りで、ボールを持っている。)
たろう 「今日の練習はきびしかったな。いつのまにか暗くなったな。」
はなこ 「でも、楽しかったわ。ねえ、たろうちゃん」
たけし 「おれシュート三本入ったよ。見たか、はなこ」
はる 「見てたけど、二本はぐうぜんはいったみたい。」
かず 「キックのからぶりもあったしな。」

(みんなで肩を組んで、歌いながら踊る。)

子供たち 「キックキックトントントン、キックキックトントントン
あっちひょろひょろたろちゃんが、ボールを追って、だんごみたいに、くっついて、 ボールのよこを、かーらぶり
キックキックトントントン、キックキックトントントン
あっちひょろひょろたろちゃんが、ボールを追って、だんごみたいに、くっついて、ボールのよこを、かーらぶり
キックキックトントントン、キックキックトントントン」

たろう 「柏レイソルの田中みたいにかっこよくシュートできたらなー。…… あれ、向こうに見えるのはなに?」
(きつね火の係がペンライトを持ってゆらせる。)
はなこ 「あかりじゃない。」
たけし 「なんのあかりかな」
はる 「あれって、コショレの地蔵さんのあたりか?」
かず 「そうみたい。」
たろう 「じゃあ、あの光は、キツネの火か…。」
かず 「エー、キツネの火、こわー。」
たろう 「少し前に、おじいちゃんに聴いたことがあるよ。おじいちゃんが子供のころに、 コショレのお地蔵さんのところで、きつね火を見たことが あるんだって。」
はなこ 「私も聞いたことある、おばあちゃんが言ってた。むかしむかしよっぱらった人がだまされて、 気が付いたら田んぼの中を歩いてたって……」
たろう 「お地蔵さんに柏餅がそなえてあって、それを食べたら、 わらぞうりだったっていう話もあるらしい。」
たけし 「行ってみようか?」
かず 「だいじょうぶかな」
はる 「わたしこわいわ。」
たろう 「だいじょうぶ、みんなでいけばこわくないよ。」
(みんな、暗い舞台をゆっくりぐるっと一周する。かずが、ライトを持って後ろからついてくる。 みんなは舞台の前に出てくるにつれてますますゆっくりとまわる。 その間に、腰折れのお地蔵さんが祠(ほこら)を持って前に出てきて、その中に坐る。)

【三場】
はなこ 「このあたりは、村はずれで、街灯がないから、暗いわね。」
はる 「でも、かずくんの自転車のライトがあって助かったわ。」
たろう 「さっきあかりが見えたのは、たしか、このコショレのお地蔵さんの あたりだったよな。」
はる 「河川敷のグランドの堤防の上から東の方に見えたんだから、こっちよね。」
たけし 「あれっ、来てみたら、きつね火が消えてしまったような。」
はなこ 「いつのまにか見えなくなったわね。」
(と、まわりを見まわす。)
かず(お地蔵さんに向かってお祈りする。)「どうか、ぼくをキツネからお守りください。」
はなこ 「キツネって、そんなにこわくないでしょう。」
はる 「どうしてコショレのお地蔵さんって言うのかしら?」
たろう 「コショレっていうのは、ほんとうは腰折れのことで、 上から、木の枝がかぶさっていて、腰をおらないとお参りできないから 腰折れのお地蔵さんって 言うんだって、おじいちゃんに聞いたよ。」(と、腰を折ってお参りする。)
たけし 「こんなに木の枝がかぶさってるからな。」(と枝に回し蹴りをする。)
はる 「そんなことをするとバチがあたるわよ。」
かず 「たけしくんの回し蹴りじゃあ、どっちみち届かないよ。」
たけし 「何を……」(と、かずにも回し蹴りしようとする。)
かず 「ごめん、ごめん」(と逃げる。)
はなこ 「うちのおばあちゃんはちがうこと言ってた。 腰が曲がるくらい歳をとるまで、元気でいますようにってお地蔵さんにお祈りするから、 腰折れなんだって……。」(と、腰を折ってお参りする。)
かず 「ふーん、いろんな説があるんだね。」
乙吉 「コン、コン(と、言いながらあらわれる。)ちがう、ちたう、コショレっていうのはね、 コシャレがほんとうで、ぼくたちのことばで来てくださいっていうことなんだ。 そのコシャレがコショレになったんだって、キツネの学校の先生が言ってたよ。」
たろう 「ふーん、そうなのか……」
かず 「ほんとうかな?」
乙女 「ええ、ほんコンですよ。」
子供たち 「わー」(と、おどろいて逃げかける。)
はなこ 「あなたたちは何ものなの?」
乙吉 「おどろかないで……わたしたちは、このあたりに住んでいる小学生のキツネです。 オレの名前は乙吉といいます。よろしくね。コンコン。」
たけし 「えー、キツネ、……ふーん、キツネなんて、ほんとうにいたんだ。」
乙女 「そりゃあ、いますよ。コンあたりも家が建って、住みにくくなってきたけれど……」
はる 「あなたは、だれ?」
乙女 「そう、そうでした。わたしは、キツネの女の子で、乙女といいます。 コンれからもよろしく……。」
かず (キツネの二人をおがみながら)「おキツネさま、どうぞばかさないでください。おねがいします。」
乙吉 「いいえ、決してそんなことはありません。 あなた方のやうな立派なお方にわらぞうりなんか食べさせるもんですか。」
かず 「あー、さっき、おじそうさんにおいのりしたのを聞いていたんだ。」
乙吉 「聞こえてきたんです、おじぞうさんの後ろにいたので、……でも、わたしたちが人をばかす というのはうそです。 むじつの罪をきせられていたのです。」
はる 「そいじゃ、きつねが人をばかすなんてうそっていうこと?」
乙女 「うそですとも。めっちゃひどいうそです。ばかされたといふ人はだいたいお酒によったり、 夜くらいのでおくびょうでくるくるしたりした人です。」
はる 「ふーん、そうなのか……。言われてみれば、そうかもしれないわね。」
たろう 「でも、あなたたち、どうしてこんなところにいるの?」
乙吉 「明日の夜、ここでキツネの幻灯会をやるので、わたしたちその準備をしていたんです。」
たけし 「幻灯会って、何?」
はる 「スライドショーのことじゃないの」
たけし 「ふーん、そうか。おもしろそうだな。」
乙吉 「あなたたちも、その幻灯会に来てくれませんか? なつかしのスライドがみられますよ。 コンが招待券です。」(と、招待券を配る。)
乙女 「招待券のここに、キツネのことばで、幻灯会にコシャレって書いてあります。」
はなこ 「ふーん、よくわからないけど、招き猫みたいなキツネの絵が描いてある……」
たろう 「ありがとう。オレ、ぜったいに行く。」
たけし 「おもしろそうだな、オレも行く。」
はなこ 「私、明日の夜は塾があるんだけど……」
たけし 「塾なんか、休んじゃえよ。」
はなこ 「そうね、そうしようかな。」
はる 「私もいっしょにいきたいけど……」
かず 「ぼくも、どうしようかな?」
たけし 「かず、おまえも来いよ。オレが誘ってやるからな。」
かず 「わかったよ。じゃあ、みんなで行くことにする?」
(みんなうなずく。)
乙吉 「よかったです。コシャレ、どうぞコシャレです。お好きなおだんごや柏餅も出てきますから……、 それから、この招待券に書いてあるんですが、 幻灯会に招待する人間は、小学校の4年生までなんです。」
はなこ 「えっ? じゃあ、お兄ちゃんは六年生だからダメなんですね。」
乙女 「そうなんです。幻灯会のきまりですから。」
たろう 「わかりました。では、明日の夜……、バイチャ」
乙吉 「コンチャ、さよならです。」
(舞台、暗転)

【四場】
(舞台中央に腰折れのお地蔵さん、右手後ろに映写幕の係りの生徒が二人たって、腕をあげて布きれを持っている。 一場で出てきた懐中電灯の映写機が机の上に置かれている。実際の映写は、 舞台前面から教師が操作する。(注1)
暗転の間にキツネの観客がパイプいすを並べて坐る。舞台下手に受付の机。
舞台の準備ができるまでゆっくりと、「つぎの日の夜」のプラカードを持ったキツネが前を行き来する。)
キツネの受付 「こんばんは、おはようございます。入場券はお持ちですか?」
たろう 「持っています。」
(それぞれに切符を見せて入る。)
キツネの受付 「さあ、どうぞあちらの特等席へ。」
(と、正面の席に案内される。)
乙吉 (舞台奥から乙女といっしょにあらわれる)「こんばんは、よくおいででした。 きのうはしつれいしました。」
乙女 「やっぱり来てくれたのね。きっと来てくれると信じていました。」
はなこ 「きのうは失礼しました。それからこんばんはありがとう。このおいなりさんは、 みんなでお金をだして、コンビニで買ってきたの、みなさんであがってください。」
乙女 「これはどうも、おみやげをいただいてすみません。」
乙吉 「ありがとう。どうか、ごゆるりとなすってください。もうすぐ幻灯もはじまります。コンコンと、 ぼくたちはちょっと用事があるので、失礼いたします。」
(二人は、舞台奥に消える。)
(ピーと笛が鳴って、舞台が暗くなる。映写機に灯がともって、画面が照らされる。 画面の下から棒に刺した大きな札がかかげられる。 その札には、「人のおきゃくさまから、たくさんのおいなりさんをいただきました」と書いてある。 それを読んだキツネの観客からパチパチパチと拍手が起こる。)
キツネの先生 (舞台下手のあげまくから登場して、映写幕の前に立って、礼をする。)「私は、キツネの 学校の先生です。今夜は美しい天気です。お月様はまるで真珠のお皿です。お星さまは野原の露がキラキラ固まった ようです。(このセリフ、難しければ、簡単なものにする。)さて、ただ今から幻灯会をやります。 みなさんはまばたきやくしゃみをしないで目をまんまろに開いて見ていてください。 それから今夜は大切な五人のお客さまがありますから、どなたも静かにしないといけません。けっして お客さまの方へ栗の皮を投げたりしてはなりません。では、はじめましょう。」(と礼をする。 キツネの観客が拍手をする。)
(一枚目は『お酒をのむべからず』という大きな字が幕に映し出されます。)
キツネの観客 「お酒をのむべからず」(と大きな声をそろえて読みます)
キツネの先生 (書いたものを朗読する)「そうです。こんばんの幻灯会のお題は、「お酒をのむべからず」 です。みなさんは、お酒はのんではいけませんが、人の大人はよくお酒をのんでよっぱらいます。」
(カシャと音がして、二枚目のスライドが映ります。大人の男がよっぱらったようすで半分目をつむって、 お地蔵さんの見える田んぼの中をあるいています。)
キツネの先生 ありゃりゃ、コンれは、コンれはなつかしい。もう、50年もむかしの写真ですな。 たえもんさんが、よっぱらって道と田んぼをまちがえて歩いています。」
(たえもんさんが歩いているスライドは二枚あって、酔っぱらって右にひょろひょろ、と左にひょろひょろです。 最初は、一枚ずつ映されますが、つぎにそれらの写真が交互に映されて、左右によろけながら歩いているふうに 見えます。ここはあらかじめ動画で編集しておきます。 その左右によろけるリズムに合わせてキツネの観客がはやしたてます。)
キツネの観客 「キックキックトントントン」 (と、いすに坐ったまま足踏みをして歌います。)よってひょろひょろたえもんが、 道まちがえて、たんぼのなかを、ゆうらゆら。たんぼのなかを、ゆうらゆら。
キックキックトントントン、キックキックトントントン(繰り返し)」
(カシャとスライドがかわると、先ほどのたえもんさんが、今度はお地蔵さんの前に坐って、大きな木の葉のお皿から、 ワラぞうりの柏餅を食べようとしているところです。たえもんさんの前の大きな木の葉には、 木の葉で巻いた柏餅と石の団子が置いてあり、「かしわもち」「おだんご」と書いてあります。)
キツネの先生 ありゃりゃ、コンれは、コンれは、たえもんさんが、お地蔵さんの前で、 ワラぞうりをたべてます。」
(スライドは二枚あって、お皿からわらぞうりの柏餅を取るところと、 葉っぱをめくり食べかけているところ です。それらの写真が交互に映されて、たえもんさんの手がおかしい動きをします。ここも動画で 編集しておきます。そのリズムに合わせて、 キツネの観客がはやしたてます。)
キツネの観客 「よってひょろひょろたえもんが、もちと思って、わらのぞうりを、ばありばり、 わらのぞうりを、ばありばり。
キックキックトントントン、キックキックトントントン(繰り返し)」
(カシャとスライドがかわって、「おしまい」の文字が浮かぶ。)
キツネの先生 (朗読)「みなさん。今晩の幻灯はこれでおしまいです。今夜みなさんは 深く心に留めなければならないことがあります。それはキツネが人間をだましたりしないという 証拠の幻灯をかしこいすこしも酔わない人間のお子さんがいっしょに観てくだすったということです。 これでわるい評判もすっかりなくしてしまうだろうと思います。では、失礼します。またコシャレです。」 (と、先生が礼をします。拍手がしばらくつづき、やがて画面が消えて、舞台が明るくなります。)

【五場】
乙女 (子供たちの前に来て)「幻灯会は終わりました。これから、しばらくお休みです。 お母さんたちが作ったおだんごでもおめしあがりください。」
(と言うと、キツネのお母さんが、三人、お皿に団子と柏餅をのせて持ってきて、子供たちに渡す。)
キツネのお母さんA 「どうぞ、おたべください。」
キツネのお母さんB 「心をこめて粉をこねたんですよ。」
キツネのお母さんC 「ていねいにまるめました。」
(キツネのお母さんたち、退場。子供たち、それぞれの皿を持って立ちあがり、舞台の前に出て来る。)
たろう 「このおだんご、おいしそうだよな。」
たけし 「かしわもちもおいしそうだけど、だいじょうぶかな。さっきのスライドみたいに、 まさかわらぞうりじゃないよな。」
かず 「わらぞうりならまだいいけど、このおだんご、うさぎのふんだったりしたら最悪だよな。」
はなこ 「そんなふうにうたがったらキツネのお母さんに悪いわよ。」
はる 「わたしたち、よっぱらいじゃないからだいじょうぶよ。」(と、かずのほっぺたをつねる。)
かず 「いてって……」
はる 「ほらね、だいじょうぶよ。」
キツネの観客 (子供たちを見ながら)「食べるかな、食べるのよすのかなあ、 食べよかな、食べるのよそうかな。(もう一度、くりかえす。)」(と歌う。)
(子供たち、団子と柏餅をもりつけたお皿を、歌に合わせて顔の前にもってきたり、遠ざけたりを繰り返す。)
たろう 「ね、食べよう、キツネさんたち、見ているよ。ぼくは乙吉さんがぼくらをだますなんて思わないよ。」
はなこ 「そうだよね。だいじょうぶだわね。」
たけし 「いっただきまーす。」
(子供たち、おだんごやかしわもちを食べる。)
かず (他のものが食べるのを見てから、自分も食べる)「おいしいな。」
はる 「ほんと、ほっぺたがおちそう。」
たけし 「これまで食べたかしわもちのなかで一番うまいよ。」
はなこ 「ほんと、こんなおいしいだんご、たべたことないわ。」
はる 「レシピをおしえてほしいよね。」
キツネの観客 (席を立ってきて、子供たちの後ろで踊る。)
「人の子がうたがわないで、おだんご食べた、かしわもち食べた。
キックキックトントントン。
人の子がこわがらないで、おだんご食べた、かしわもち食べた。
キックキックトントントン。
幻灯会のきゅうけいで、おだんご食べた、かしわもち食べた、
キックキックトントントン。
わらのぞうりとうたがわないで、かしわもち食べた、かしわもち食べた、
キックキックトントントン」(と、歌う。)
(子供たちもいっしょに歌って、踊る。)
子供たちとキツネの観客、乙吉、乙女、腰折れ地蔵 「人の子がうたがわないで、 おだんご食べた、かしわもち食べた。
キックキックトントントン。
人の子がこわがらないで、おだんご食べた、かしわもち食べた。
キックキックトントントン。
幻灯会のきゅうけいで、おだんご食べた、かしわもち食べた、
キックキックトントントン。
わらのぞうりとうたがわないで、かしわもち食べた、かしわもち食べた、
キックキックトントントン」

(みんなでもりあがっているところに、大人二人が、あげまくから舞台にはしりこんでくる。)
大人A 「わー、コラッ、きつねども、よくもこどもたちをばかしたな。」
たろう 「おとうさん。」(と叫ぶ。)
(キツネの観客は、蜘蛛の子をちらすようにあちこちの方向にきえる。)
乙吉 「あなたは、誰ですか?」
大人B 「帰りがおそいと思ったら、こんなところでキツネにばかされとる。」
たけし 「あっ、とうちゃーん」(と叫ぶ。)
乙女 「わたしたちはばかしてなんかいません。」
大人A 「いいや、ばかしてる。それがしょうこだ。そのキツネ火がしょうこだ。 (と、まだ灯のついている幻灯機をゆびさす) みんな、目をさませ、こんなキツネ火にばかされてどうする。しっかりしろ。」
たろう 「ぼくたちは、キツネさんに招待されてきたんだよ。」
はなこ 「そうなの、幻灯会なのよ。」
たけし 「かしわもちもごちそうになったし……」
大人B 「かしわもちを食べたのか? それは、わらじかもしれん。口の中にわらが残ってないか?」
かず 「だいじょうぶだよ。へんなあじもしてないし……」
はる 「みんなでもりあがっているのに……」
大人A 「さあ、帰るんだ、お前たちは自分のうちに、キツネはキツネのうちに帰るんだ。」
大人B 「しっかりしろ、ばかされて道をまちがえるなよ。」
(大人二人が、それぞれ、バットと鍬で、子供たちをあげまくの中に追い込む。 乙吉と乙女は、舞台上手に退場し、地蔵さんは祠の中に坐る。)
                            【幕】


【注1】 幻灯機で二枚の写真を交互に映しておもしろい動きをさせるという操作は、 実際には、パソコンに写真を取りこんで、プロジェクターをつなげば簡単にできる。

【追補】
この脚本を使われる場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。



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