短い劇「戦争とカボチャ」
−クラスみんなで演じる20分の劇−
2019.1.28

【まえがき】
最近、学校行事がますます削られているようです。劇をする機会も少なくなっています。 発表の機会が設けられていても、時間が制限されていて、なかなか充実した劇を演じることが できないという声も聞きます。
舞台で劇を演じる経験がないままに学校を卒業してゆく生徒も多いのではないでしょうか。
劇を演じる貴重な体験は、座学では決して得られないものです。
時間の制約があるなかで、どのような劇が成り立つのかを考えて、この脚本を書き上げました。
上演時間は20分程度です。
この劇の舞台は小学校です。学校の倉庫を掃除していると戦争中の国民学校の古い写真のアルバムが見つかりました。そのアルバムの中にあった三枚のカボチャの写真、劇は、そのそれぞれにまつわる話を年代順に並べたオムニバス形式になっています。
最初は、南京陥落のときに学校で行われたナンキンみこしの話、二つ目は、B29が学校の運動場に落していったどでカボチャの話、三つ目は、戦争が終わって最初の運動会でどでカボチャを腹いっぱい食べた話。
何しろ短時間のオムニバス形式なので、そんなに突っ込んだ内容ではありませんが、戦争の被害と、加害というより戦争への加担について考えてもらう端緒になればと願って書いたものです。
登場人物は、一人に一つのセリフを与えれば三十数人、セリフを適当にまとめれば十数人となり、クラスの全員で演じることができるようになっています。

【登場人物】
〈一場〉
ナレーター
みこしをかつぐ生徒1〜6
校長・ 戸田先生
生徒A・ 生徒B
写真屋 (二場、三場も同じ)
〈二場〉
ナレーター
生徒(太郎)・ 生徒(二郎)・ 生徒(三郎)・ 生徒(花子)
島田教頭・ 校長・ 村田先生・ 賢治先生
〈三場〉
ナレーター
水田先生
生徒C・ 生徒D・ 生徒E・ 生徒F・ 生徒G
生徒H・ 生徒I・ 生徒J・ 生徒K
(以上で約三十人、セリフを合わせたり、分けたりすれば、人数は調整できます)

【では、はじまりはじまり】
ナレーターT 「いまから八十年くらい前、日本は中国と戦争をしていました。その戦争が4年くらい続いて、そのままアメリカやイギリスとの戦争になだれ込んでゆきます。
その頃の古い写真が図書倉庫に残っていました。 大掃除で倉庫の整理をしていたとき、ホコリをかぶったアルバムが見つかりました。そこにはセピア色の写真がたくさん貼り付けられていました。司書の先生とアルバムをめくってゆくと、卒業生が並んだり、競技をしている写真ばかりの中に、大きなカボチャを真ん中にした写真が三枚も見つかりました。どうしてそんな写真を撮ったのか、ふしぎに思いました。それで、その三枚の写真が写されたわけを先生といっしょに調べてみました。」
(舞台の背景に三枚の写真が投影される。)
【一場】
ナレーターT「一番古そうなのはこの写真です。」
(カボチャみこしを真ん中に生徒や先生が集まった写真が大きく映される。)
ナレーターT「今から80年くらい前、1937年、昭和12年のことです。日本はそのころ中国に軍隊を送り込んでいました。
その軍隊のいざこざから中国との戦争がはじまりました。 宣戦布告をした戦争ではなく、小競り合いがだんだん大きな戦闘になり、 日本軍は中国内部に攻め込んでいったのです。
戦闘は7月にはじまったのですが、12月にはそのころ中国の首都だった南京(ナンキン)を占領しました。 日本中が浮き立って、12月14日には東京でちょうちん行列がおこなわれました。。 この学校では、生徒たちが張りぼてのカボチャで子供みこしをつくって、街に繰り出して南京占領のお祝いをしました。関西では、かぼちゃのことをナンキンというので、 中国の南京を占領したことを「ナンキンを取った、ナンキン取った」と叫びながら、カボチャみこしのお練りをしたのです。」
(舞台、明るくなる)
(生徒みこしが登場し、うちわをもった先生や生徒がまわりについている)
みこしをかついでいる生徒たち 「わっしょいわっしょい、なんきんとった、わっしょい、わっしょい、なんきんとった。わっしょい、わっしょい、なんきんとった」
(みこしは、舞台をゆっくりと巡る。見ている生徒たちや先生たちもうちわを持ってみこしに掛け声を合わせる。やがて、舞台のまんなかで止まる。)
みこしのリーダー (うちわで中止の合図をしながら)「ちょっとしんどくなってきたな。このあたりでやすもうか……はい、みこしをおろして、ゆっくり、ゆっくり……」
みこしの生徒1 「ああ、しんど……、このはりぼてのカボチャもけっこう重たいわ」
みこしのリーダー 「じゃあ、しばらく休憩します」
(みこしが舞台の真ん中に置かれる。みこしのまわりに距離を置いて生徒や先生が座る。)
みこしの生徒1 「ああ、しんど……、こたえたわ。見かけ以上にしんどい。掛け声だけなら楽やろうけど……」」
みこしのリーダー 「こんなことでしんどいしんどい言うてたら兵隊にはなれへんぞ」
みこしの生徒2 「日本の兵隊さんはそんなやわとちがうわ。4ヶ月で南京まで陥落させてしもうたんやから、すもうの電車道言うやつや」
みこしの生徒3 「でも上海での戦いは苦労してたみたいやで……」
みこしの生徒2 「中国もそこはがんばったみたいやな。せやけど、日本軍が11月に後ろに回り込んでからは、電車道を走って寄り切り、南京占領や」
みこしの生徒4 「うちの家族も大喜びで、赤ご飯炊いてお祝いするって言うとる。……東京ではちょうちん行列やて……」
みこしの生徒5 「昼は旗行列、夜はちょうちん行列って聞いたけど……」
みこしの生徒2 「ちょうちん行列はきれいやで……」
みこしの生徒1 「みこしをかつぐより、ちょうちんを持ってあるく方が楽やろうな。やっぱりみこしはしんどいわ」
みこしの生徒6 「兵隊さんのこと思うたら、なんてことあらへんよ」
みこしの生徒1 「まあ、そりゃそうだけど……」
校長 「戸田先生、先生の婿さんは上海のあたりでしたね。いま、どこらあたりにおられるんですか?」
戸田先生 「はい、ときどき手紙をくれるんですが、部隊がどこで戦っているかは書いてありません。手紙やはがきには検閲済みの赤いハンコが押してあって、そんなことは書けないのだと思います。」
生徒A 「先生のだんなさんも、南京に向かっておられるかもしれませんね」
戸田先生 「もしかしたらそうかも……上海のちかくにいたのは確かですから」
校長 「苦労されているんだ。……君たちも、まだ学生だからといって、のほほんとしていたら兵隊さんにもうしわけないぞ。銃後の国民も戦争しているのと同じような気持ちでいないと……。」
生徒B 「裁縫の時間に慰問袋を作ったりしています」
戸田先生 「慰問袋は兵隊さんも喜んでいるって、主人も書いてくれていました。」
(そこに写真屋さんが、三脚つきのカメラを持って登場)
写真屋 「では、みなさん、集まってください。カボチャみこしの記念写真を撮りますよ。」
(と、三脚を立てて準備をする)
写真屋 「いいですか? カメラの方をみてください。(と、箱型カメラにかぶせた黒い布に頭を突っ込む)写しますよ。はい、カシャン」(と口でシャッター音、その瞬間生徒の何人かがピースを出す。)
写真屋 「いまのチョキは何ですか。昭和十二年には、そんなことはしません。もう一度、やりなおしです。(と布をかぶる)はい、チーズ、カシャン」
生徒A 「写真屋さん、昭和十二年に、ハイチーズはないんじゃないですか?」
写真屋 「おー、これはうっかりしていました。もうしわけありません。では、もう一枚、カシャン、念のために、もういっちょう、はいカシャン。どうもありがとうございました。」
(暗転)
ナレーターT 「しかし、私達がナンキンみこしで浮かれている時、中国の人たちがたくさん犠牲になっています。どれほどの人たちが亡くなったのかは、またみなさんが高校生になったら調べてみてください。日本は、中国でたいへんな迷惑をかけていたのですね。だから南京を占領されても中国の人々はなかなか降参しませんでした。」
【二場】
ナレーターU 「中国との戦争がながびくなかで、日本はアメリカとの戦争をはじめます。1941年昭和16年のことです。ハワイの真珠湾に停泊していた軍艦を不意打ちしたのです。戦争がはじまった最初の頃は日本軍も勢いがよかったのですが、アメリカが体制をととのえてくると形勢が逆転しました。
アメリカ軍にどんどん攻められて、軍艦が沈められ、飛行機も撃墜されて少なくなり、やがてB29という飛行機が日本の空にとんでくるようになりました。空襲と言って、その飛行機から爆弾がいっぱい落とされるようになりました。
つぎの写真はそのころのものです。先生方や生徒がおおきなどでカボチャを囲んでいる写真です。」
(舞台が暗くなり、二枚目の写真が映される。)
(と、突然、真っ暗な中に飛行機の爆音。サイレンが鳴り渡り、「空襲警報、空襲警報」の声。 しらたくして爆音の中ヒューという飛来音がして、ドスンという大きい音が響きわたる。スポットライトの光が揺れて、舞台中央のおおきなカボチャを照らし出す。)
(明転)
(島田教頭と本田先生が登場)
島田教頭 「ありゃあ、ばっ、ばくだん……」(と、いったん本田の腕を取って逃げかけるが、爆発する気配がないので、恐る恐る近づく)どでかあ、こんなん落としていきよったんか、なんやこりゃあ、B29が落としたんやから、ばくだんやわな。……」(と、声をふるわせる。)
村田先生 「バクダンですかね。どうみてもどでかいカボチャに見えますが……」
(そこに、生徒(太郎)、生徒(二郎)、生徒(花子)があらわれる。)
生徒(太郎) 「本田先生、こんなん落としていきよったんですか?」
村田先生 「ふたりともあぶないから、もっとさがって……」
島田教頭 「あっ、太郎、近づいちゃ、いかん。みんな、さがって、さがって、……B29が落としていったということは、爆弾かもしれんからな。」
生徒(二郎) 「じゃあ不発弾ですか?」
島田教頭 「いま、見つけたばかりじゃから、ワシらにもわからん。」
生徒(花子) 「でも、大きなカボチャみたい。……」
島田教頭「見かけはどでカボチャでも、ほんとうは安心させておいて、みんなが集まったところで、ドカンとくるかもしれん。太郎、二郎、お前たち、校長先生を呼んできてくれ。校長室だ。本田先生は生徒が来たら、近づかないように、頼みますよ」
(生徒(太郎)と生徒(二郎)が、校長室に行こうとしたとき、校長が現れる。一同、かぼちゃを遠巻きにして立つ)
校長 「教頭先生、これですが、さっきのドカンという音は……」
島田教頭 「そうなんです。みかけはあんまりばくだんらしくないのですが……」
生徒(太郎) 「なんで、こんなどでかかぼちゃを落としていきよったんやろう?」
校長 「まて、まて、かぼちゃとはかぎらんぞ。教頭先生、ちょっとそのかぼちゃに耳を当てて、何か音がしないか聞いてみてください。不発弾でなければもしかして時限爆弾かも……、しかし、それなら時計の音とか聞こえるはずだから……」
島田教頭 「私がですか? 近寄ったときにドカンときたら、……」
校長 「ワシが行くわけにもいかんのだから……」
島田教頭 「分かっています。もっと離れていてください。犠牲は私一人でじゅうぶんですから……」(と、恐る恐るでかかぼちゃに近づいて、皮肌に耳を当てて物音を聞く)「何もきこえませんな。時限爆弾ではなさそうですよ。」(と言いながら、さらに皮を撫でて、爪でちょっと皮を削り取ったりする。)「どうも、ほんもののカボチャのようですな。もしこれが偽装爆弾とすれば、アメリカさんの技術はすごいもんですな。う?(と、底の辺りに何かを発見する。)「なんだ、こりゃ?」 (と、ベリッとラベルをはがして、仔細に眺める。)
校長 「なんですか、それは?」
(島田教頭は、そろそろとかぼちゃを離れて、校長先生にラベルを手渡す。)
島田教頭 「こんなものが貼ってありました。英語でアトミック・ボンと書いてあります。」
生徒(花子) 「どういう意味?」
校長 「原子の爆弾ということかな。しかし、ほんとうなのかな。理科室に行って賢治先生を呼んできなさい。彼は農作物にくわしいから、カボチャなのか、爆弾なのかぐらいはわかるかもしれない。」
(生徒(太郎)と、生徒(二郎)が走って舞台袖に消える。)
島田教頭 「いやあ、もし爆弾だとすれば、あちらさんも手の込んだ細工をしますなあ。わざわざアトミック・ボンのラベルを貼るなんてね。……」
校長 「警察に届けた方がいいな。どちらにしろB29が落としていったものだからな。そのまえにみんなが近づかないように、ここのまわりにロープを張っておいたほうがよさそうだ。教頭先生、体育倉庫から運動会用のロープを取ってきてもらえませんか。花子さんもいっしょに行って、教頭先生を手伝ってくれるかな。」
生徒(花子) 「はい、わかりました。」
(島田教頭と生徒(花子)が去る。入れ替わりに生徒(太郎)、生徒(二郎)がもどってくる)
生徒(太郎) 「外の黒板に『下の農園にいます』って書いてあったので、そっちに行ってきました。」
(賢治先生がゆっくりと登場)
校長 「ごくろうさん。……賢治先生、さっきB29が上を飛んでいったでしょう。」
賢治先生 「はい、芋穴のところにいたの伏せたら頭の上を過ぎてゆきました。」
村田先生 「よく狙われませんでしたね」
賢治先生 「ええ? 大丈夫でした。気にもとめてないようでした……」
村田先生 「カボチャ爆弾を落とすのに必死だったのかもしれませんね」
賢治先生 「このどでかいカボチャを落としていったのか、ドンという音がしたから、何か落としたとはおもったけど…」
校長 「それで、賢治先生に来てもらったのは、ほかでもない、B29が落としていったこのカボチャ、ほんとうのかぼちゃなのか、それとも爆弾のたぐいなのかを見てもらおうと思って、……賢治先生は農学校の出身のだからわかるかもしれないから……」
賢治先生 「いやあ、こんなカボチャは見たことがありませんが、…… そういえば、以前にアメリカから取り寄せた雑誌に、こんなふうな 巨大なカボチャの写真が載っていたな。たしか動物の飼料ですよ。牛とか馬の……」
生徒(三郎)  「しりょうって食べ物ってこと?」
賢治先生「そうやけど、しかし、B29が落としていったものとすれば、爆弾でしょうが……そんなどでかカボチャをわざわざ落としてゆくはずがありませんからな。」
校長「教頭先生が、さっきこのラベルを見つけたんですが。」
賢治先生「アトミック・ボンね。ふーん、どうなんでしょうね。これがほんとうに原子爆弾ということはぜったいにありえないから、……もしかしたら、ですよ、原子爆弾はこれくらいの形と重さだから、原子爆弾を落とす予行演習かもしれませんね。」
校長「何か、そんな噂をきかれたことがありますか?」
賢治先生 「はい、アメリカが原子の爆弾を研究しているという話をどこかで聞いたことがあります。とてつもない威力をもっていて、どでカボチャくらいの大きさのもの一発で一つの都市を全滅させてしまうって、どこかの雑誌に書いてあったような……。」
校長 「おろそしいことですな。それなら、やっぱり警察にははやく届けた方がいいですな。賢治先生、私は自転車で交番まで行ってきますので、村田先生と二人で見張っていて、このどでカボチャに子どもたちをちかづけないようにお願いします。教頭先生には、周りに張るロープを取りに行ってもらいました。もうすぐ来ると思います。おねがいしますよ。」
賢治先生 「では、爆発しないただのカボチャだと思うので、警察が来る前に、記念に写真を写しておきましょう。」
村田先生 「それがいいですね。賢治先生、こんなことはめったいないことだから……はい、みなさん、集まって……」
(島田教頭と生徒(花子)もロープを持って戻ってきて、みんながでどでカボチャを遠巻きにして並びはじめると写真屋が現れる)
写真屋 「はい、並んでください。警察が来たら困りますから、はやくお願いします。カメラを見てください。写しますよ。(と、布をかぶり)はいポーズ、バター、カシャン。」
写真屋 「おっと、これは寅さんのパクリでした。では、念のために、もういっちょう、はいポーズ、バター、カシャン」
(暗転)
ナレーターU 「ふしぎですが、現代から、振り返ってみると、このどでかいカボチャは、どうも原子爆弾の練習のそのまた練習だったように思われます。 原爆のそっくりさんのパンプキン爆弾、日本語で言うとカボチャ爆弾の、そのまたそっくりさんのどでカボチャをとりあえず投下してみたというのが、真実だったんじゃないでしょうか。
その後、広島と長崎に落とされた原爆ではたくさんの人達がなくなりました。そのそっくりさんのパンプキン爆弾は、原爆投下の予行演習のために日本のあちこちに落とされました。このそっくりさんは本当の原爆ではありませんでしたが、火薬をつめたれっきとした一トン爆弾でしたから、爆発をそてたくさんの人がなくなりました。でも、原爆のそっくりさんのパンプキン爆弾のそのまたそっくりさんのほんもののどでかぼちゃでなくなった人がいたかどうかはわかっていません。」

【三場】
(天皇の玉音放送)
ナレーターV 「パンプキン爆弾で練習していたように、B29によって原子爆弾が8月6日に広島に、8月9日に長崎に投下されて、戦争が終わりました。ふたつの原爆でどれほどの人々が亡くなられたかは、またみなさんがこれから勉強する中でわかってくると思います。
戦争は終わって、生き残った兵隊さんたちが帰ってきましたが、田畑は荒れはてていたので、 食べるものがありませんでした。 みんなほんとうに飢えていました。その日に食べるものがなかったのです。
それで、学校の運動場を耕して畑にしていもやカボチャをつくりました。
私達の学校でも、生徒たちに食べさせるために、運動場に落とされたパンプキン爆弾のそっくりさんのどでカボチャの種をその畑に植えました。すると大きなカボチャができました。 賢治先生はアメリカでは牛のエサだと言っていましたが、牛が食べるものなら人間も食べられるだろうと、おそるおそる食べてみました。お腹がすいていたので、味なんかどうでもよかったのです。とりあえずお腹がいっぱいになりました。戦争が終わった年、収穫した後の畑で運動会をすることになりました。 耕して畑にしていたので、走りやリレーは畑の周りの畦をまわるものでした。その他に綱引きや どでカボチャのころがし競争をしたのですが、そのときの写真が三枚目の写真です。」
水田先生 「校庭で作ったこのかぼちゃ、おいしいやろう。大なべで炊くとあのどでカボチャでも十分に食べられる。応援に来られている保護者のみなさんや隣近所の方々にもたくさん食べてもらったらいい。君たちもどんどんおかわりをしなさい。」
生徒C 「いただいてますよ。でも、今日の煮付けは、あんまり味がせんぞ、しょっぱいだけで」
生徒H 「まずいんならたべなくてもいいわよ」
生徒C 「いただきます。いただいてますけどね。とつぜん、そんなに怒らなくても……昨日、じいちゃんにカボチャのことを言うたら、『いもたこなんきん』言うて、女の子はカボチャが好きなんやって。井原西鶴という人がそんなことを書いてるらしい」
生徒D 「それって、弥次喜多道中を書いた作家か?」
生徒C 「ちがう、ちがうと思う……詳しくは知らんけど、とにかく江戸時代の流行作家」
生徒H 「それは封建的な考え方……。芋たこなんきんが好きなのは男子もいっしょでしょ。おいしいものはおいしい。男子も女子もありません。」
生徒E 「そうですよね。オホホ、……」
生徒F 「気持ちわるい笑い方せんといて。食べたカボチャを吐いてしまいそうやわ」
生徒G 「腹がすいていて、こんなふうにみんなで食べるとなんでも食べられる。……だから、しょっぱいなんて、そんな贅沢を言わんと……」
生徒C 「わかりました、はい、わかりました。いただきます。おいしいです。…… もともとこのどでカボチャはアメリカでは、牛の食べ物なんだろう、だから、牛になったような気持ちで食べればいいんだ。もーもーもーもー」
生徒H 「また、そんな嫌味なまねをする、もう料理してやらないわよ。」
生徒C 「ごめんごめん、あやまります。またカボチャの煮付けおねがいします。」
生徒I 「勝負ありですね」
生徒J 「なんだか戦争にまけてから、やけに女がつよくなったよなあ」
生徒K 「来年くらいには男女共学になるんでしょう。同じ教室になるんやから、仲良くせんと……」
水田先生 「午後の部がはじまるぞ。みんなはやく食べてしまいなさい。もう少ししたら集合がかかるから、……そうだ、その前に、運動会の記念にこのカボチャを入れて写真を一枚撮っておこうか。おーい、集まれ、ここに集合」
(生徒たちと先生がどでカボチャのまわりに並ぶ。 写真屋さんが出てくる)
写真屋 「はい、私もカボチャの煮つけ、はらいぱいいただきましたよ。では、みなさん、並んでください。写しますよ。カボチャのお礼にいい写真を撮りますよ。ハイポーズ、1+1は?(生徒が2と叫び)カシャ」
(生徒の何人かがピースをするが、写真屋さんはかまわず写す。)
写真屋 「では、もういっちょう、はいポーズ、カシャン、ありがとうございました」
(暗転)
(三枚目のかぼちゃの写真が映される。その間にみんなが舞台に並ぶ。)
(『三まいのカボチャの写真』の歌をみんなで歌う。)
(「おべんとうばこのうた」のリズムで)

これっくらいの カボチャ写真
ほこりを ほこりを ちょいとはらい
ナンキンみこしに うちわを持って
学生さん 先生さん 教頭さん 校長さん
まつりはちまき ハイポーズ
ねんのたーめに もういっちょ

これっくらいの カボチャ写真
ほこりを ほこりを ちょいとはらい
パンプキンばくだん とおまきにして
学生さん 先生さん 教頭さん 校長さん
こわごわならんで ハイポーズ
ねんのたーめに もういっちょ

これっくらいの おべんとばこに
やきいも やきいも ちょいとつめて
くきのおしたし  ごましおふって
がくせいさん  せんせいさん もとぐんじんさん おぼうさん
みんなおんなじ いもべんさん
せめてかぼちゃの にーつけ

ナレーターV 「何をぜいたく言うてるの、べんとう作らへんよ」
全員で 「はい、すみませんでした。」
ナレーターV 「食べられるだけで、幸せですね。……わたしたちの劇をご覧いただきありがとうございました。礼……」
                         【幕】

【補注】
1、上演するのは、小学校6年生や中学生を想定しています。
2、南京占領やパンプキン爆弾、戦後の飢えなど、鑑賞後に勉強する必要があるかもしれません。
3、この脚本を使われる場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。


トップに戻る。