プチ狂言「豆腐小僧は怖い?怖くない?」
(一幕一場、15分) 2011.11.29
−原発の放射能で給食は大丈夫?−

【登場人物】
豆腐小僧 破れ笠をかぶり着物を着て、豆腐を載せたお盆を持った妖怪。豆腐には、紅葉の印
(豆腐小僧がどんなものかは、インターネットで調べてください。)
妖怪風評 風評を振りまく妖怪。薄汚れた布を巻き付けて纏い、頭髪はモジャモジャ
太郎冠者 学校の生徒
次郎冠者 学校の生徒
花子 学校の生徒
先生 担任
栄養士さん 学校給食の栄養士さん。エプロンに調理帽
(人数の関係で、豆腐小僧を2、3人で、妖怪風評を2人で演じるといった演出も可能)

【まえがき】
豆腐小僧というのは、江戸時代にあらわれた、破れ笠を被り、いつも豆腐を載せた盆を持っている子どもの妖怪です。
詳しい風体は、インターネットで検索してみてください。
『豆腐小僧ハ化ものゝ小間使ひ』と川柳に詠まれたように、この豆腐小僧、根はいたってやさしく、 これといった 悪さもしないようです。自分が軽く見られていることを苦にして、何とか妖怪らしく、人に怖がられもし、 存在感を示したいと願っているのですが、なかなかそうはいいません。
そんな豆腐小僧が、震災後の世に豆腐を持って現れたのです。豆腐は、もちろん国内産大豆を使ったもの。 彼の豆腐を給食に使うとなると、やはり放射能検査を受けてもらわなければなりません。 妖怪風評も現れて、麻婆豆腐の給食を前に学校は大わらわ。
さて、どうなりますか。豆腐小僧の豆腐は、無事給食の食材となるのでしょうか。

【では、はじまりはじまり】
(場所は調理室を想定しているが、それらしい大道具は必要なし)
豆腐小僧 (橋がかりを通って登場。破れ笠を被り、両手に豆腐を載せたお盆を持っている。 豆腐には紅葉が付いている)
  「わたくしはこのあたりに住まいする妖怪豆腐小僧でござる。私が生まれたのは江戸時代。 水戸黄門さまが助さん格さんと全国を歩きまわっていたころであります。わたくし、 由緒正しい妖怪でありながら、パシリに使われるばかりで、ぜんぜん怖がられることもなく、 まあ、今の世で言えば、さえないゆるキャラみたいにちょっとバカにされてきたのです。 悔しいじゃないですか。どうしたらみんなに怖がられるのか、妖怪の風評さんにきいてみよう。 風評さんは、そういう怖がらせ、不安がらせのプロらしいから……。 妖怪の風評さーん(と呼びかける)」
(すると、ヒューと風の音がして、妖怪風評が登場する。妖怪風評は、布を巻き付けたような衣装を纏い、 頭髪はモジャモジャで、口を尖らせて、息とともに「ふーー」「ひょーー」と奇妙な声を発する癖がある)
妖怪風評 「ふーーひょうーー、何か、用かい(妖怪)、ここのか、とうかい、豆腐小僧」
豆腐小僧 「はやー、相変わらず風評さんは速いですね」
妖怪風評 「オレはどこにでもいるからね。近頃は忙しくて全国をかけまわっているよ」
豆腐小僧 「あなたは風の妖怪の一族で、あちこちに吹いていっては、 人の耳元で悪いうわさをつぶやいているんでしょう」
妖怪風評 「人聞きのわるいことを言うな。オレはみんなの不安をつぶやいているだけだ」
豆腐小僧 「まあ、いいけど……そんな風評さんだったら、 ぼくが怖がられるようにするにはどうしたらいいか分かっておられるでしょう。どうか教えてください」
妖怪風評 「こんなたいへんなときに何を間の抜けたことをいっているんだ。 オマエは、あの3.11の大震災のことを知らないのか?」
豆腐小僧 「知ってますよ。東北地方で大きな地震があったんでしょう。」
妖怪風評 「地震だけじゃないだろう」
豆腐小僧 「福島の原子力発電所が大変なことになったようですね」
妖怪風評 「よく知ってるじゃねぇか」
豆腐小僧 「NHKの夜7時のニュースはいつも見ていますからね」
妖怪風評 「詳しいはずだね。それじゃあ、話が早いや。あれ以来オレは大忙しよ。 特に原発が事故ってからは、忙しくて、忙しくて、ふーーひょーーなんだ」
豆腐小僧 「ふーん、よくわかんないけど、どうしてですか?」
妖怪風評 「原発の放射能があちこちに飛んでいったというので、みんなが不安になっているからよ」
豆腐小僧 「不安になると妖怪の風評さんがいそがしくなるの?」
妖怪風評 「そうだ、あっちへヒュー、こっちへヒューと吹いていっては、 耳元でつぶやくんだ。そんなことをしていたら将来病気になるぞ、 ……そんなものを食べて大丈夫か……、オレが行くところは風評被害がいっぱいだ」
豆腐小僧 「風評被害って、何?」
妖怪風評 「心配しすぎってことかな。もちろんその心配をかき立てているのは オレさまなんだけどな」
豆腐小僧 「ふーん、そうか、大忙しなんだね」
妖怪風評 「ひとごとじゃないよ。この風評被害、オマエにも関係ありだ」
豆腐小僧 「えー? ぼくと……」
妖怪風評 「そうだ。風評のおかげでオマエもいまでは怖れられるようになっている」
豆腐小僧 「ぼくが、怖れられているの?」
妖怪風評 「そうだ。それがオマエの望みだったんだろう」
豆腐小僧 「それはそうだけど、原発とオレが怖がられるのと何か関係あるのですか?」
妖怪風評 「関係あるもないも、おおありだ。」
豆腐小僧 「今まで通り、豆腐を持って立ってるだけでいいんだよ。そこへ、オレが出かけていって、 耳元でふーひょーーってやれば、いっぺんに怖がられるよ」
豆腐小僧 「ほんとうにそんなことで怖がられるの?」
妖怪風評 「信じないんなら、手伝ってやらねぇぞ、帰ってもいいんだぜ、オレは忙しいんだ」
豆腐小僧 「いいえ、それは困ります」
妖怪風評 「だったらそんなことを言うなよ。」
豆腐小僧 「分かりましたよ。……風評さんは、風の一族だから動きが速くてついていけないですね。 では、僕は少し行くところがあるので、待っていてください」
妖怪風評 「オレは忙しいんだぜ、どこへ行くんだよ」
豆腐小僧 「ほら、この豆腐、まだ放射能を計ってないので、計ってもらいに行くんです」
妖怪風評 「むだなことを、そんなことをしても怖がるものは怖がるんだけどな」
豆腐小僧 「栄養士さんに言われたんです。そんなふうに決められているそうです。 じゃあ、行ってきます」
(豆腐小僧、舞台をぐるっと回って元の位置に返ってくる)
豆腐小僧 「よかったです。放射能は出ませんでした。それで こんなお墨付きを貰ってきました。」(と、検査証を見せる)
(栄養士さん、登場)
栄養士さん 「豆腐小僧さん、放射能検査を受けてきましたか?」
豆腐小僧 「はい、受けてきました。豆腐を三丁もグチャグチャにして丈夫な容器に入れて、 ああもったいなかったなあ、と考えてたら、計るのに1時間かかりました」
栄養士さん 「結果はどうでしたか?」
豆腐小僧 「もちろん大丈夫でした。このマークをもらってきました。」
(と、手に持った盆をクルッと回すと、それまで見えていた紅葉マークが隠れて、STマークが現れる。)
栄養士さん 「そう、よかったわね。あっ、これね、これSTマーク、セイフティ・とうふ、 安全な豆腐っていう印ね。給食に使うには、これがぜったい必要なのよ」
豆腐小僧 「めんどうなことになっていますね」
栄養士さん 「ほんとうに、ご苦労様でした。それではさっそく調理にかかりましょう」
(最初に太郎冠者、次郎冠者が登場。少し遅れて花子、さらに遅れて先生も)
栄養士さん 「まあ、太郎くんに次郎くん、また給食を見に来たの、食いしん坊ね。 あれあれ、花子さんまで、あなたは……、まあ、先生まで、何ですか?」
太郎冠者 「教室までいい匂いが来るんだもの」
次郎冠者 「お腹がグーグー言うよな」
花子 「私は、今日、給食当番だから……」
先生 「三人でどこへ行くのかと思って後をつけてきたら、料理室だったのか…… たしかにこの匂いには惹きつけられるよな、 ぼくも、今日は朝飯抜きなんです。作るのがめんどうでね」
栄養士さん 「言い訳しなくってもいいわよ、要するにお腹がすいたってことね。…… 今日の給食は豆腐小僧さんがもってきてくださった豆腐で、 麻婆豆腐(まーぼーどうふ)を作ります。 みなさんも麻婆豆腐好きでしょう。」
太郎冠者 「オレ、麻婆豆腐大好きです」
豆腐小僧 「ありがとうございます。」
花子 「私も麻婆豆腐大好きだけど、私はお母さんの作ってくれた弁当を持ってきているから」
妖怪風評 「ふーーひょーーー、豆腐小僧のもってきた豆腐は大丈夫かなーー。もしかしたら怖いかも、 ふーーひょうーーーーー」(と、花子に近づいて、耳元でささやく)
花子 「お母さんが、給食はぜったい大丈夫だとは言えないから、食べないようにしなさいって…… 豆腐も怖いかも知れないし、お米も怖いかも知れないから」
妖怪風評 「ふーーひょうーーー」(と、花子の耳元で呟き続ける)
豆腐小僧 「風評さんは、ちょっとだまっていてくれよ」
妖怪風評 「何いってるんだ。オレはオマエを怖がらせるために風評を吹き込んでいるんじゃないか」
先生 「風評被害にだまされてはいけない。ここは科学的に考えないといけないよ」
豆腐小僧 「私が怖がられているのかと思ったら、何だ、違うのか…… 私の持ってきた豆腐が怖がられていたのか」
妖怪風評 「ふーーひょうーーー、みんな怖いと言ってるぞ。ふーーひょうーー」
(太郎冠者と次郎冠者の耳元で呟くが、二人は反応しない。風評、不審そうに首をかしげる)
豆腐小僧 「風評さん、もういいよ。どうして怖がられるのか分かったから、 もう消えてくれてもいいよ。忙しいんでしょう」
妖怪風評 「かってなやつだ。もう来てやらんぞ。ふーーひょうーー」(と、橋がかりの方へ去る)
太郎冠者 「風評のやつ、やかましかったな。やっと静かになった。でも、風評がいなくても、 ぜったい安心というわけじゃない。だから少しでも不安を与えるんだったら、豆腐小僧も、 その豆腐を輸入大豆で作ればいいじゃないか」
次郎冠者 「日本もアメリカから遺伝し組み替えの大豆をたくさん輸入しているって習ったけどな」
豆腐小僧 「ぼくの豆腐は、昔から国産大豆と決まっているんです。輸入大豆なんて使えません」
花子 「その方が安全なのに」
太郎冠者 「意外と頑固なんだ」
栄養士さん 「みなさんにおいしい豆腐を食べてもらおうとこれまで努力してくださってたのよ。 それがこんな問題が起こって、検査まで受けなければならなくなったの」
先生 「これは難しい問題なんだ。豆腐小僧の豆腐はちゃんと検査を受けて 放射能が検出されなかったんだ。 安全豆腐のマークも付いているし、ここに検査証もある」(と、検査証をみんなに示す)
花子 「でも、やっぱり私はお弁当を持ってきているので、お弁当を食べます。 メニュウはいつも給食と同じものなので、今日はお母さんの作った麻婆豆腐です」
先生 「それは、いいんだよ。でも、二つの考えがある。しっかり考えてみよう。 検査をして放射能は出なかったから安全だと考えるか、 出なかったとしてもやっぱり心配だからぜったい安心なものしか食べないと考えるか。 どちらかが正しくて、どちらかがまちがっているということはないんだ。 私は花子さんのような考え方も大切にしてゆきたい」
豆腐小僧 「ぼくは、これまでバカにされていたから、 どうしたら怖がられるかばかりを考えてきたんだ。 それが、こんなことで怖がられるようになるなんて想像もできなかった。」
(ひどく落ち込んだ様子)
太郎冠者 「おじいちゃんは、こんなときよく言ってたよ。 『豆腐の角に頭をぶつけて死んじまいな』って……」
次郎冠者 「豆腐の角にどうしたら頭をぶつけられるんだ? こうか?」
(と、頭を傾けて豆腐小僧の豆腐にぶつけるようなしぐさをする)
豆腐小僧 「そんなひどいことを言わないでください。」
 (と、左手で次郎冠者を押しやる)
太郎冠者 「豆腐を凍らせばいいんだ」
次郎冠者 「頭いい。凍ればかたくなるからな。グッドアイデアだ」
(と、太郎冠者の肩をたたく)
花子 「あなたたちバカね。豆腐を凍らせば、凍り豆腐になるだけよ」
次郎冠者 「そうか、凍り豆腐か……じゃあ、やっぱり中身はカスカスなんだ」
豆腐小僧 「からかわないでください。ぼくの豆腐をバカにしたら許しません」
(豆腐小僧の剣幕に、太郎冠者と次郎冠者「おおこわ」と言いながら逃げ出す)
豆腐小僧 (ふざけ半分で)「こら、逃げるな。待ちなさい。逃がさないぞ」
(豆腐をこぼさないように支え持って、二人の後を追う)
(先生、花子、豆腐小僧を追って橋がかりから退場)
栄養士さん 「みなさん、教室で待っていてくださいね。お昼までには、おいしい麻婆豆腐が できますからね。さあ、忙しい、忙しいわよ」(と言いながら、橋がかりから退場)
                             【完】


追補
この脚本を使われる場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。


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