養護学校生徒のための吉本風新喜劇
「ぼくたちはざしきぼっこダッシュ」


【まえがき】
これまで高等養護学校の生徒たちが演じるための脚本を主に書いてきました。 しかし、昨年、劇団『座・ゆめ音』公演、「いつか王子さまが」を観て、 障害がより「重い」生徒たちのための脚本を書きたいという思いが募ってきたのです。 高等養護学校の生徒たちを想定した脚本と、養護学校高等部の生徒たちを想定した脚本とは、 やはりおのずと違ってくると思います。以前から障害がより「重い」生徒たちのための 脚本を書きたいという思いはあったのですが、やはり実際にその現場にいない ということからくる躊躇がありました。それが「いつか王子さまが」を観てふっきれたというか、 積年の思いが再燃しはじめたようなのです。
あらすじは「ぼくたちはざしきぼっこ」と決めていました。 ざしきぼっこというのは、ざしきわらしのことです。「ぼくたちはざしきぼっこ」は、 数年前に私が勤務する奈良の高等養護で、さらに昨年福岡の高等養護で上演されていて、 それなりに演出の押さえどころがわかっているということもあります。また 劇そのものに即して言えば、 筋立てが単純で演じる生徒たちにもわかりやすいこと、また養護学校の生徒たちをそれぞれの家庭の ざしきぼっこになぞらえる考え方は、 障害の重い軽いにかかわらずあてはまるといったところがあげられます。 読めばお分かりいただけると思いますが、彼らが自分の家のざしきぼっこであるとともに、 また大きく言えば地球のざしきぼっこでもあると、 劇にはそんなメッセージも込められていて、それは観ていただく観客にも共感してもらえる のではないかと期待しています。また、この劇を演じた生徒たちが、 その後で自分たちのことをざしきぼっこになぞらえて、 少しでも肯定的に考えてくれるようになればというひそかな願いも隠されています。
つまり、この劇には生徒たちが「ざしきぼっこ」を演じる必然性がある、ということです。 「桃太郎」をやっても、「白雪姫」でも、そこに必然性はありません。 しかし、「ぼくたちはざしきぼっこ」には、生徒たちをざしきぼっこになぞらえる ということに由来する必然性がいくぶんかなりともあると思うのです。 (「賢治先生がやってきた」も同様です。) この必然性というのはとても大切なことだと考えています。
いろいろ理由はあるのですが、とにかくそういったことで内容は決まり。 題は「ぼくたちはざしきぼっこダッシュ」ということにして、 まずは脚本を書く方針を立てました。 セリフが少々わからなくてもびくともしないくらいに大枠、大筋は単純でわかりやすく すっきりしていること、セリフで意味を伝えるということにあまり過大な期待を持たないこと、 だからセリフは、あくまでも詳細に書き込むのではなく、 生徒たちの個性や特技を発揮できる余地を残す、等々です。 しかし、いざ取りかかってみると、ついついしっかりと 書き込んでしまったり、また賢治先生が狂言回しをする大筋もちょっと難しくなってしまったりと、 思惑通りにはいきませんでした。もし、ほんとうに上演してみようと思われる奇特な先生や 生徒さんがおられたら、だいたいこういったセリフで、たいだいこういった筋で、 とかなりいいかげんな演出でいいのではないかと思います。 配役には特に配慮が必要だと思います。ナレーターと賢治先生はボランティアに頼むとしても、 ざしきぼっこのセリフはまだまだ生徒には負担になるかもしれません。自閉傾向があってセリフを 覚えるのが得意な生徒に役をふるか、教師が黒子で付くか、あるいはボランティアの ざしきぼっこを一人加えてセリフを軽減するか、そういった工夫がいるかもしれません。
「いつか王子さまが」の公演で劇団『座・ゆめ音』がやっておられたように、 生徒とボランティアがペアになって一人の役をやったり、セリフを言ったりする、 といったやり方も考えられます。
最初のざしきでカラオケの場面、あるいは最後のざしきぼっことのお笑い勝負の場面など、 生徒たちもたのしみながら演じてくれたらと願います。吉本新喜劇や水戸黄門は好きな生徒も多く、 やりようによってはもりあがること請け合いです。
まだまだ、むずかしいセリフが残っていて、もっともっと不必要なところをこそぎ落として いかなければならないと思います。もし、どこかで上演されることがありましたら、 そういったところも含めて感想もおきかせください。
【あらすじ】
養護学校の生徒、太郎の誕生日の祝いに友だちが集まってざしきでカラオケパーティー、 ところがそのざしきには、ふだんは姿を見せませんが、なんとざしきぼっこが住んでいます。 あまりのやかましさに姿をあらわしたざしきぼっこは、もうがまんできないと家を出ていく 決心をします。しかし、まわりをみまわすとうるさいのは何も太郎の家だけではなく、 そこら中騒音だらけ、ゴミだらけです。いったい地球のどこに静かな住みよいところが あるのでしょうか。こうなったら地球を出ていくしかありません。ざしきぼっこは、 パーティーにやってきた賢治先生にたのんで、銀河鉄道に乗せてもらって地球から 脱出しようとたくらみます。でも、ざしきぼっこに地球から出ていかれてはたいへん、 地球がビンボーになってしまいます。生徒たちは、いろんな人に応援をたのんで、 ざしきぼっこの地球脱出をやめさそうとします。太郎の家のざしきは大騒動です。 さてどうなることやら、あとは見てのお楽しみ……。
【では、とざーい、とーざい】

《まずは登場人物から》
ナレーター できればボランティアか、読むのが得意な生徒
ざしきぼっこ(兄、妹、もう一人ボランティアの人を加えて、 むずかしいセリフを分担してもらうか?) 顔に白化粧している
太郎
太郎の母
太郎の友だち(何名でもいいが、脚本では10名) カラオケ大好き生徒たち
賢治先生 セリフが多く、狂言まわし的な役目もあることから、教師かボランティアが、 帽子、マントの出で立ちで。帽子は、賢治のトレードマークの山高帽ではなく車掌の帽子

お巡りさん
ジャイアン
吉本新喜劇の島木譲二、チャーリー浜、桑原和夫
水戸黄門 助さん、格さん
孫悟空
その他 お笑い大好き生徒たち

生徒のざしこぼっこ(5名ほど) 顔の右半分に白化粧


【では、はじまり、はじまり】
【一場】
(幕が開くと、背景に床の間が見えて、座敷のしつらえ)
生徒(声のみ) 座敷でカラオケをしようよ。
生徒(声のみ) みんなで太郎くんの誕生日のパーティをもりあげよう。
生徒(声のみ) カラオケの機械を持っていくから手伝って……。
(三人でカラオケの機械を押してくる)
生徒 よいしょ、よいしょ
生徒 よいしょ、よいしょ
生徒 よいしょ、よいしょ
(機械がセットされると、みんなが登場する)
太郎 (マイクスタンドを持ってあらわれる)あー、あー、では、ただいまよりぼくの誕生日の カラオケパーティをはじめます。なんでも教えるふしぎな賢治先生は、あとで来られます。 歌いたい人は、どんどん歌ってください。

(生徒たち、次々にマイクの前に立って、歌や踊りを披露する。一人一人、歌い終わると 「ざしこぼっこ、ダッシュ」と叫んで舞台狭しと走りまわる。舞台上のみんなが(観客も)、拍手で声援する。 カラオケは10分くらい続く)

太郎の母 みなさん、すこし休憩されませんか? 歌ってばかりではのどもかわくでしょう。 あちらの食堂にジュースをいれましたから、どうぞ、飲んでください。
太郎 じゃあ、すこし休んで、ジュースを飲もうよ。
生徒 おばさん、すいません。
太郎の母 それで、みんなで何人いるのかしらね。
生徒 何人だろう。えーと、太郎くんのところにぼくたちお客さんが10人来ました。 だから、太郎くん、1と……(ここで1のプラカードを持った人が出てくる)、 お客さんが10人だから……(さらに、+と10と=のプラカードをもった人が登場)、 えーと、1+10ですね。いくらになるでしょうか?(と、客席に問いかける)
観客 11です。
生徒 はい、1と10で11です。大正解です。
生徒 じゃあ、ほんとうに11人いるかたしかめましょう。
生徒 そうね、では、数えてみましょう。みんな並んでください。
(みんな舞台正面に並ぶ)
生徒 1、2、3、4、5、6、7、8……(と、数えていく。5のところで、 白塗りのざしきぼっこの顔が後ろからのぞいて、それも数える。9で白塗りの顔が舞台袖から 覗いてそれも数える)9、10、11、12、13……あれっ、13人? おかしいわね。 11人のはずなのに。
生徒一同 (みんなの顔をみくらべながら)ひとりも知らない顔がなく、 おなじ顔もなくて……、
生徒 1、2、3、4、5、6、7、8……(と、数えていく。5のところで、 白塗りのざしきぼっこの顔が後ろからのぞいて、それも数える。9で白塗りの顔が舞台袖から 覗いてそれも数える)9、10、11、12、13……あれっ、やっぱり13人?  おかしいわね。どうかしてしまったのかしら。
太郎 もしかしたら、むかしおじいちゃんが言っていた……ざしきぼっこが出た。 (と、叫んで舞台袖に走り込む)
生徒 わー、おばけだ。
生徒 ようかいだわ。
(と、口々に叫んで舞台袖に駆け込む)

(みんなが舞台袖に駆け込むのと入れ違いに、ざしきぼっこ兄妹がほうきをもって登場。 白塗りの顔、ほうきでみんなを舞台袖に掃き込むような振りをしながらあらわれる。 サーサーというほうきで掃く音が大きく響く。みんなを掃き込んで、さて客席に向かって あいさつをする)
ざしきぼっこ(兄) ぼくは、この家に住んでいるざしきぼっこです (と、ほうきを構える)。よろしくな。
ざしきぼっこ(妹) わたしは、この家に住んでいるざしきぼっこの妹です (と、ほうきでしなを作る)。よろしくね。
ざしきぼっこ(兄) あー、やかましかった。
ざしきぼっこ(妹) ほんとうに、めっちゃやかましくて、耳がおかしくなりそう。
ざしきぼっこ(兄) ざしきは、カラオケをするところですか?
ざしきぼっこ(妹) ざしきはもっとしずかな部屋ですよ。
ざしきぼっこ(兄) そうだよ。やかましすぎる。(と、腹立ち紛れに、 ほうきの柄でぽんと床をつく。そこで暗転)
(ナレーターが舞台に登場。スポットライトが照らし出す)
ナレーター (舞台に登場する)あれー、みなさん、いま声が聞こえましたか?  姿も見えたかな? なんか怒っていましたね。だれなんでしょうね。何て言っていたのかな? (と、客席に問いかける)
(客席から、「『ぼくは、この家に住んでいるざしきぼっこです』って言ってたよ。」 と声がかかる)
ナレーター そうですね。二人とも白い顔のへんな姿であらわれて、 ざしきぼっこだよって言ってたよね。みなさん、ざしきぼっこさんて知っていますか? 知らないでしょうね。いまどきは、ざしきも知らないこどもが増えていますからね。 ざしきというのは知っていますか?(と、ふたたび客席に問いかける)
(客席から、「いい部屋」とか、声がかかる)
ナレーター そうですね。ざしきというのは、むかしの家で、奥のいっとういい部屋で、 畳敷きで、床の間があって、それがざしき。そこに住んでいるのがざしきぼっこっていうんです。 住んでいるって言っても、いつもいつも姿がみえるわけじゃないんです。でもたまには、 さっきみたいに姿が見えることもあります。そして、『ぼくは、この家に住んでいる ざしきぼっこだよ』って、声がするんですよ。声はするけれども、姿は見えない、 まるであなたは……。
生徒一同(声のみ) ゆうれい?
ナレーター いえ、いえ、幽霊じゃありません。でも、似たようなものでしょうか。
生徒一同(声のみ) じゃあ、ようかい?
ナレーター そうね、妖怪かもしれませんね。だって、ざしきぼっこがいると その家のみんなは幸せになるし、家からいなくなると、その家はたちまち貧乏になってしまう という言い伝えが東北地方にはあるんです。こわいはなしですね。では、ざしきぼっこさんに 登場してもらいましょう。またまたさっきみたいに姿がみえるかなー……(と、舞台を覗き込む)

【二場】
 (暗い中でザワッ、ザワッとほうきで掃く音がする。突然、スポットライトがざしきぼっこを 照らし出す)
ざしきぼっこ(兄) あーあ、うるさかった。耳ががんがんするよ。
ざしきぼっこ(妹) ほんと、ざしきで1時間もカラオケされたらいやになっちゃう。
ざしきぼっこ(兄) ちょっとおどろかしてやったら、やっとしずかになったな。
ざしきぼっこ(妹) おかしかったね。
ざしきぼっこ(兄) オレは、もうがまんができない。この家から出ていくぞ。
ざしきぼっこ(妹) どこにいくのよ。日本国中どこにいってもやかましいわよ。
ざしきぼっこ(兄) そうだな。では、どうしたらいいかな。 そうだ、地球から出ていこう……。
ざしきぼっこ(妹) やめてよ、そんなこと……。
ざしきぼっこ(兄) いやいや、これはグッドアイデアでござる。 でも、どうすればいいかな。
ざしきぼっこ(妹) そんなことをしたら、地球がビンボーになってしまうわ。
ざしきぼっこ(兄) そんなことはしらんぞ。そうだ、もう少ししたら賢治先生が くるっていってたから、賢治先生にたのんでみよう。賢治先生にたのんで、 銀河鉄道にのせてもらえばいいんだ。
ざしきぼっこ(妹) 兄さん、やめて、わたしたちがいなくなったら地球が たいへんなことになってしまうわ。
ざしきぼっこ(兄) そんなこと知るか……、それより銀河鉄道で、うーん、 そうだ、それがいい、そうしよう。
賢治先生(声のみ) こんにちは、こんにちは……。
(ざしきぼっこ兄妹、あわてて舞台袖に隠れる)
太郎の母(声のみ) はい、いらっしゃいませ。どうぞ、おあがりください。
(賢治先生、太郎の母、登場。賢治先生は車掌の格好で)
太郎の母 さっきまでざしきでカラオケをしていたんですよ。
賢治先生 それはにぎやかだったでしょうね。
(一同、登場)
太郎 あっ、賢治先生だ。賢治先生が車掌さんになってる。
賢治先生 やあ、太郎くん、誕生日おめでとう。
生徒 賢治先生、さっき、ざしきぼっこが出たんですよ。
賢治先生 ざしきぼっこ?
生徒 はい、みんなで11人なのに、13人いたんです。
生徒 だから、ざしきぼっこが二人でたんです。
賢治先生 ざしきがあんまりやかましいので、出てきたのかな。
生徒 賢治先生、どうして遅れたんですか?
賢治先生 いやあ、銀河鉄道の発車の準備をしていたんでね、遅くなってしまった。 みなさん、銀河鉄道環状線がもうすぐ発車します。月とか星とかを回ります。 お乗り遅れのないようにお願いします。(と、車掌の口調)
生徒 銀河鉄道は、どんな電車なんですか?
賢治先生 はい、はじめは遊園地のお猿の電車みたいにゴトンゴトンと発車します。 つぎにジェットコースターみたいにだんだん速くなって、ゴー、クルクルと回って、 空に向かって切れている線路からドドーンと飛び出して、その勢いで夜空をぐんぐんのぼって いきます。
生徒 乗ってみたいな。
生徒 おれ、ジェットコースターはいや、こわいから……。
生徒 わたしも。
賢治先生 それがふしぎなことにちっともこわくないんです。 フワーと気持ちいいんですよ。みんなで、『ほしめぐりの歌』なんかを歌っているうちに、 星についてしまいます。(『ほしめぐりの歌』が流れる)
(ざしきぼっこ兄妹、突然あらわれる)
ざしきぼっこ(兄) 賢治先生、おれもつれていってくれー。やかましくてきたない 地球がもういやになった。おねがいだ。いっしょにつれていって……。
(こんどは「矢切りの渡し」の音楽が流れる。カラオケで歌える人がいれば、歌うのも一案)
ざしきぼっこ(妹) 賢治先生、つれていってはだめですよ。ざしきぼっこの兄さんが 地球から出ていったら、地球がビンボーになってしまいます。
ざしきぼっこ(兄) えーい、うるさいな。ぼくは、もうきめたんだ。地球から出ていく。
ざしきぼっこ(妹) そんなことを言わないで……。
ざしきぼっこ(兄) じゃまするやつはぶっとばすぞ。(とほうきを構える)
生徒 そんな乱暴な……。
生徒 やめてちょうだい。(と、ざしきぼっこにくらいつく)
生徒 おねがいだ、ざしきぼっこ、やめてくれ。(と、先の生徒のお尻にくらいつく)
生徒 出ていかないで、もうざしきでカラオケはしないから。(と、さらに先の生徒の お尻にくらいつく)
ざしきぼっこ(兄) うるさい。もうておくれだ。くらいつくな。(と、ふりはなそうと、 列を揺さぶる)
生徒一同 やめてくれー。(と、次々にお尻につながって、長い列になる)
ざしきぼっこ(兄) えーい、じゃまだ。こらー、はなせー。よーいしょ (と、列をひっぱる)
生徒一同 出ていかないで、よーいしょ(と、ひっぱり返す)
(ざしきぼっこ(妹)は、うろうろするのみ)
ざしきぼっこ(兄) 出ていくと決めたら、よーいとこら (と、「よいとまけの歌」の調子で)
生徒一同 地球のためなら、よーいとこら。
ざしきぼっこ(兄) うるさいやつらだ、よーいとこら。
生徒一同 はなすもーのか、よーいとこら。
ざしきぼっこ(兄) しつこいやつらだ、よーいとこら。
生徒一同 もひとつおまけに、よーいとこら。(と、ひっぱったところで)
ざしきぼっこ(兄) それ、よいしょ(と、列をつきはなす)
生徒一同 (勢い余って「わー」と声をあげながらしりもちをつく)
生徒 だめだ。ぼくたちでは、負けてしまう。
生徒 応援をよびましょう。
生徒 ここにどこでもドアがありました。(と、生徒二人が大きなドアを押してくる)
生徒 力もちのジャイアンをよんできましょう。
(以下、次々にどこでもドアから登場)
ジャイアン (ジャイアンのテーマ曲で登場。一同歓声と拍手で迎える) オーレはジャイアン、ガーキ大将。ジャーン、おれはジャイアンだ。ざしきぼっこ、 地球から出ていかないでくれ。えーい(と、取っ組み合う。ざしきぼっこ(兄)の武器はほうき。 ジャイアンはすぐにはねとばされて退場。一同「ハー」と嘆息。以下その繰り返し)
お巡りさん (どこでもドアから登場)何ですか、この騒ぎは?
生徒 あっ、おまわりさん。実はこのざしきぼっこさんが、 地球から出ていくというんです。
生徒 だから止めてください。お願いします。
お巡りさん ああ、なるほど。わかりました。では本官もお手伝いしましょう。
生徒 もっと強いすけっとを呼ぼう。ケンカが強いといえば吉本ですよ。 パチパチパンチの島木さんをよんでください。
生徒 もう、チャーリー浜さんも、桑原さんもみんな 呼びましょう。 おまわりさん、お願いします。
お巡りさん (携帯をもったふりで)もしもし、グランド花月さん。 パチパチパンチの島木譲二さんとチャーリー浜さん、桑原和夫さんの派遣をお願いします。
(三人、吉本新喜劇のテーマ曲にのってどこでもドアより登場)
島木 おー、わいがパチパチパンチの島木や。なに地球から出て行くんやて、 みんながこれだけたのんどるんやないけ。やめたらんかい。
ざしきぼっこ(兄) パチパチパンチ、そんなの知らんな。
島木 なに、吉本のパチパチパンチを知らん? なめとったらあかんで。 よう見とれや。(と、パチパチパンチをして、「パチパチ」と叫びながらかかっていくが、 ざしきぼっこの持っているほうきで掃き寄せられて、どこでもドアのなかに逃げ込む。 一同、嘆息。以下同様パターン)
チャーリー浜 ごめんくさい。これまたくさい。(で、一同ずっこける)
桑原 こんにちは、どなたですか、桑原です。おはいりください。 しつれいします。(で、一同ずっこける)
ざしきぼっこ(妹) (二人のギャグにずっこけかけるが立ち直る) また、わけのわからない人が出てきたわよ。気をつけて。
(二人、かかっていくがほうきで吐き出されてしまう)
お巡りさん やっぱりお笑いはだめだ。オレのすきな水戸黄門さまを呼ぼう。 TBSですか? 黄門様一行をお願いします。
(テーマ曲とともに黄門一行が現れる)
水戸黄門 助さん、格さん、とんでもないやつだ。地球を出ていくなんて、 このざしきぼっこめ。すこしこらしめてやりなさい。
助さん、格さん ご隠居、承知しました。(と、刀を抜いてかかっていくが、 ほうきで受けとめれら、はねとばされる。すぐに立ち上がって)
助さん ええい、控えろ。控えろ。この紋所が目にはいらぬか。
格さん 頭が高い、控えおろう。(と、印篭をみせる) ここにおわすおかたをどなたと心得る。先の副将軍水戸光圀公にあらせられるぞ。 頭が高い控えおろう。
お巡りさん ははー(と、一人だけ控える)こらっ、みんなも控えて、控えて……。
(一同、控えかけるが)
ざしきぼっこ(兄) それ、なんですか。そんな印篭なーんもこわくないでござる。
水戸黄門 こりゃいかん。ききめがないわい。(と、退散する)
(このように、相撲取り、アメリカ大統領等々、生徒が喜びそうな面々が次々登場するが、 すぐにやられてしまう)
お巡りさん ドラゴンボールの孫悟空さんをお願いします。
孫悟空 イヤー(と、叫びながらどこでもドアから現れる)オッス!オラ悟空。 こいつか、そのざしきぼっことかいうのは、地球ほど美しい星はないのに出て行くってか、 とんでもないやつだ。いっちょうやったるか。(と、拳法で攻撃するがほうきで受けられて やられてしまう)うーん、ほうきを使うとはひきょうなやつだ。それではとっておきの カメハメ波を受けてみよ。(と、隠し持っていた金紙をまぶしたソフトボールを両掌の間で こね回して「カメハメハー」とざしきぼっこめがけて投げかけるが、ねらいははずれ、 ボールは舞台の床に落ちてゴロゴロところがってしまう。はじめはたじろいでいた ざしきぼっこもこの様を見て悟空をなめてかかるようになる)
ざしきぼっこ(兄) そんなへなちょこカメハメ波なんか、へいきのへいざだ。 三年はやいは。出なおしてこい。
孫悟空 おじゃましました。(と、ひきさがる)
ざしきぼっこ(兄) もうおじゃまむしのたねもつきたようだな。 では、賢治先生、そろそろ銀河鉄道の発車の時間です。いっしょに連れていってください。
(と、そこに顔の右半分に白塗りをした生徒たちが五人舞台上手から一列に前のものの肩に 手を置く形で並んで現れる。左半身を見せているので、白塗りは見えない)
生徒たち まってください、まってください。
太郎 学校の友だちも応援にきてくれた。
生徒P ざしきぼっこさん、どうしても、地球から出て行くのなら、 ぼくたちもつれていってください。
(五人が連なって、ざしきぼっこにすがりつく)
ざしきぼっこ(兄) ええい、いまさらなにを……、きみらに罪はないけれど、 もう手遅れだ。
生徒Q おねがいです、つれていってください。
ざしきぼっこ(兄) それは、だめだ。
生徒R いいえ、だめじゃありません。
ざしきぼっこ(兄) どうして?
生徒S だって、ぼくたちもざしきぼっこになってしま いました。 (と、いっせいに上手側を向いて白塗りを見せる)
生徒T だから、いっしょにつれていってください。
生徒U おねがいします。ざしきぼっこさん。
他の生徒たち ぼくたちも行きます。(と、並ぶ)
生徒たち (みんなで『ぼくたちはざしきぼっこ』を歌う。演歌調の悲しい盛り上がり)

  ぼくたちはざしきぼっこになる
  くらいざしきにいるだけで
  人をしあわせにする
  そんなざしきぼっこになる
  ひとりも知らない顔がない
  ふたりと同じ顔がない
  さんざん数えて一人が多い
  数のマジシャン
  ざしきぼっこになる

  ぼくたちはざしきぼっこになる
  しずかなざしきにいるだけで
  地球をしあわせにする
  そんなざしきぼっこになる
  ひとりも知らない顔がない
  ふたりと同じ顔がない
  さんざん数えて一人が多い
  地球マジシャン
  ざしきぼっこになる

賢治先生 そうなんだ、もともときみたちはざしきぼっこだったんだ。 だから、君たちが地球を出ていってしまったら、大変なことになるよ。 たちまち地球がビンボーになってしまう。みんなの心がまずしくなって、 心がビンボーになってしまう。
ざしきぼっこ(妹) 兄さん、生徒さんの気持ちをわかってあげて。
ざしきぼっこ(兄) (泣きながら)わかった。わかった。 君たちの気持ちはようくわかったよ。やっぱり地球脱出はやめることにしよう。
生徒P ほんとうですか。
賢治先生 ざしきぼっこさん、そうしてくれますか。 あなたはどうしても地球に必要な大切な人なんですよ。
ざしきぼっこ(兄) それがようくわかりました。
賢治先生 では、みなさんともお別れです。わたしは、車掌の仕事にもどりましょう。
生徒 (背景を振り返って)あっ、よるー。(と、指さして叫ぶ。 すると仕掛けが施されていて、座敷の背景がさっとめくれて星空にかわる)たちまち夜になった。
生徒 星空がとってもきれい。もう銀河鉄道の発車時刻なのね。(汽笛がなる)
生徒 向こうだ。二階の窓から銀河鉄道が発車して行く……。
(大きな汽笛に続いて蒸気音が迫ってきて、舞台からギャラリーに張り渡された ピアノ線をつたって、電灯を付けた銀河鉄道が煙を吐きながらのぼっていく)
生徒 賢治先生、さようなら。
生徒 また来てください。
生徒 銀河鉄道に乗せてもらえなくて残念だけど、こんどは絶対に頼みます。
生徒 さようなら。
生徒 さようなら。賢治先生、また会いましょう。
 (銀河鉄道が去ってしまう)
生徒 やれやれ、ざしきぼっこさんがいかなくてよかったな。
生徒 あれっ、ざしきぼっこさんがいないよ。(ざしきぼっこがいつのまにか 姿をかくしている)
生徒 どこかにかくれたんだ。
生徒たち (みんなで)
  ひとりも知らない顔がなく
  おなじ顔もまったくなくて
  ふしぎなことに一人が多い

(みんなで、今度はラテン風にアレンジされた『ぼくたちはざしきぼっこ』の歌を歌い、 ポリバケツにガムテープを張った太鼓を打ち鳴らし歓喜の乱舞。ざしきぼっこも、 ほうきをギターのように抱えてひょいと現れたりして、混乱のうちに幕)
生徒たち (みんなでラテン風『ぼくたちはざしきぼっこ』を演奏し歌う。)

  ぼくたちはざしきぼっこになる
  くらいざしきにいるだけで
  人をしあわせにする
  そんなざしきぼっこになる
  ひとりも知らない顔がない
  ふたりと同じ顔がない
  さんざん数えて一人が多い
  数のマジシャン
  ざしきぼっこになる

  ぼくたちはざしきぼっこになる
  しずかなざしきにいるだけで
  地球をしあわせにする
  そんなざしきぼっこになる
  ひとりも知らない顔がない
  ふたりと同じ顔がない
  さんざん数えて一人が多い
  地球マジシャン
  ざしきぼっこになる


生徒一同 ぼくたちの劇を応援していただいてありがとうございました。

                 【幕】


「ぼくたちはざしきぼっこ」はオリジナルで、 池田洋子さんに作曲していただいた譜面もあります。
「楽譜のページ」には、こちらからどうぞ。


追補
この脚本を使われる場合は、必ず前もって作者(浅田洋)(yotaro@opal.plala.or.jp)まで ご連絡ください。


トップに戻る。