童話「おじいちゃんのなぞなぞ」
−ふろく「なぞなぞのこたえ」−
2011.4.1
【まえがき】
みなさんはなぞなぞって知っていますか?
なぞなぞのれいを一つ見せますから、しっている人はこたえをかんがえてください。
しらない人は、なぞなぞをとくれんしゅうをしましょう。
「大きいかみをはさみできって、いしをつつんであそびました。なーんだ?」
こたえ、わかりましたか? かんたんですね。そう、こたえはじゃんけんです。
これがなぞなぞです。「なーんだ?」ときかれるので、こたえをかんがえるのです。
ではもう一つ、こんどはとびっきりむずかしいなぞなぞを出しますから、かんがえてみてください。
「いつもは足であくしゅ、さかだちしたら手であくしゅ、なーんだ?」
こたえはなんでしょうか? わかりましたか。
わかった人は、なぞなぞのめんきょかいでんです。なぞなぞはかせです。いばってください。
わからない人もくやしがることはありません。れんしゅうすればわかるようになります。
わかったらたのしくなります。
このなぞなぞのこたえはおはなしのさいごに書いておきますから、
そこへいくまでにかんがえてみてください。おはなしを読まないで、
まんなかをとばしてさいごを見るようなズルはしないでね。
このなぞなぞ、これからのおはなしのなかでもたくさんでてきます。といてみてください。
【では、おはなしのはじまり、はじまり】
春の朝のことです。
くまのくんたくんがとうみんからおきてきました。おとうさんはとっくにおきていて、
クマあなのいまで、とうみんにはいるまえに食べのこしたどんぐりの
かずをかぞえていました。おかあさんは、こそだてちゅうでまだおきていませんでした。
くんたくんは、おとうさんがすわっているソファのひじかけにちょっとこしかけて、
いつになくまじめなかおでたずねました。
「おとうさん、ゆめでかけられたナゾナゾはとけるのかな」
「目ざめるときにゆめでもみたのか?」
おとうさんは、じゅうぶんねむれたかどうかたしかめるように、くんたくんのかおを見なおしました。
「どうしてめざめるときってわかったの?」
「とうみんのねむりはふかくて、ゆめは見ないものだからさ。ゆめを見るのは、さめぎわにきまってるんだ」
「おとうさん、ぼくながーいゆめをみて、つかれちゃった」
「そうか、……でも、そんなのはながいゆめとはいわないよ。おとうさんは、とうみんしているとき、
1しゅうかんもつづくゆめを見たことがあるよ。
ながいゆめになると、ゆめのなかでせいかつしているようなものだ」
くんたくんは、そんなものかとうなずきました。ゆめのつづきを見てみたいようなきがしました。
「としをとったら、はやく目がさめるようになった。まだまださむいからもうすこしねてきなさい。
だれがなぞなぞをかけたのか、ゆめをたんけんしてきたら……」
おとうさんにいわれて、くんたくんはもういちどベッドにはいりました。
からだがまだとうみんしたがっているのか、すぐにねむりにおちてしまいました。
しばらくすると、ゆめのせかいのなかにいました。
ゆめのなかはよるのようです。まっくらでなにもみえません。
すこしはなれたところから、「ポーポー」というこえがきこえました。
ふくろうのみみずっくさんです。
まっくらのなかにまんまるの目だけがひかっています。二つの目がよこにクルックルッと
まわります。
ふくろうのみみずっくさんは、みみずくのふくろうさんとよんでもいいのです。ふだんは
みみずっくさんとよばれているのですが、たまにきげんがわるかったりすると、
ふくろうさんとよべということもあります。
それもきまぐれだから、ほんとうはどちらでもいいのです。
くんたくんのなまえが、ほんとうはくまたというのですが、くまたくんとはいいにくいので、
くんたくんになってしまったのとおなじようなものです。
「みみずっくさん、そこにいるんでしょう。
ぼくにはまっくらで何もみえません。あなたの目だけがみえるんです」
くんたくんがこえをかけると「ぽー」というへんじがかえってきました。
「きのう、ゆめのなかでぼくになぞなぞをかけたのは、みみずっくさんですか?」
「ぽー、ない、ない、けっしてない」と、ふくろうさんがこたえました。
「そうですか。……でも、あなたには、いまぼくが見えているんでしょう。だったら、
もりのおくにいく道をおしえてよ」
ふくろうさんは、「ぽー」とさけびました。ふたつの目がとじられました。くんたくんには、
なにもみえなくなりました。しばらくして、目がひらきました。
「では、なぞなぞをだしてやろう。もし、そのなぞなぞがとけたら、道が見えるようにしてやろう」
みみずっくさんはひくいこえでいいました。
「いいよ。ぼくはなぞなぞめいじんだから、できるだけむずかしいなぞなぞをだしてね」
くんたくんはうれしそうにさいそくしました。
「お空の上でおいかけっこ、どちらがかってもうらみっこなーしよ。なーんだ?」
「なーんだ。そんなのぼくにはかんたんだよ。こたえは、××××です」
「ピンポンです。すごいね。でも、どうしてわかったの?」
「ときかたはひみつです」
「うーん、まいった、まいった。……では、お月さんを呼んでやろう。森の中の道をてらすように」
みみずっくさんが「ぽー、ぽー」となくと、くもがきれてお月さまがかおをだしました。
くんたくんにも森の道がはっきりと見えました。ふくろうさんは、ぎょろっと目をむきました。
「ふくろうさん、ありがとう」
くんたくんは、お礼をいって、どんどん森へ入ったいきました。
ふくろうさんは、くびをぐるっとまわして、くんたくんを目でおいました。
くんたくんは歩きながら、ふくろうのみみずっくさんのなぞなぞについてふりかえっていました。
−−お空でおいかけっこしているのはあれとあれ、どちらかなっておもったら、うらみっこなしっていう
ヒントがあって、そうだ、うらが見えないのは、あれだってわかったんだ。
(これがおはなしをよんでいるみなさんへのヒントです。かんがえてみてください。)
そんなふうにひとりごとをいって、くんたくんは、とけたなぞなぞのことをすべてわすれてしまいました。
しばらくあるいたところで、しげみのおうちからのっそりとあらわれたいのししのいのっちさんとであいました。
「きのうのゆめでぼくになぞなぞをかけたのはいのししさんですか?」
くんたくんがききました。
「ない、ない、けっしてない、おれじゃない、おれはからだがかゆくてすなあびにいそがしかったからな」
「そうですか、いのっちさんじゃなかったんですね」
いのっちさんがブルブルッとからだをゆすってちがうちがうとこたえました。
「では、いのっちさん、おねがいがあるんですが?」
「なんのことかな」
「おしっこがしたくなったので、おトイレをかしてくれませんか?」
「トイレ、……オレは、せいけつずきなんだ。だからトイレをよごされるのはがまんできない」
いのっちさんは、ちょっとどうしようかとかんがえているふうでした。
「ぼく、ぜったいにトイレをよごさないから、おねがいします」
くんたくんがねっしんにたのみました。
「わかった。オレのなぞなぞをといたらつかってもいいぞ」
いのっちさんがけっしんしたようにいいました。
「わかりました。はやくだしてください。おねがいします」
くんたくんがあわれなこえをだしました。
「まえにしかすすめないワニ、なーんだ?」
「そんなのかんたんだよ。こたえは×××××」
「ほー、どうしてわかったの?」
「それはひみつです」
「うーん、まいった、まいった」
くんたくんは、いのっちさんの家のトイレをかしてもらいました。これまでくんたくんがゆめのなかで
はいったトイレはいつもよごれていたのですが、いのっちさんちのトイレは、
たしかにたいへんせいけつで
きもちのいいトイレでした。
くんたくんは、いのっちさんにお礼をいって、また森の奥に歩いていきました。
くんたくんは歩きながら、いのししのいのっちさんのなぞなぞについてふりかえっていました。
−−前にしか進めないものはいろいろあるけれど、ワニっていうヒントでわかったんだ。
ワニは、ワが二こっていうことだから、あれしかないよね。
(これがおはなしをよんでいるみなさんへのヒントです。かんがえてみてください。)
そんなふうにひとりごとをいって、くんたくんは、とけたなぞなぞのことをすべてわすれてしまいました。
しばらく歩いていくと、森のおくからオオカミのおかみさんがあらわれました。
「あっ、オオカミのおかみさん。きのうのゆめでぼくになぞなぞをかけたのはおかみさんですか?」
「ない、ない、けっしてない、そんなことないわよ」
おかみさんはブルブルッとくびをふりました。
「そうですか……。ところで、おかみさん、ぼくおなかがすいちゃった。やきおにぎりを
たべさせてくれませんか」
「わたしんところもしょばいだからね。じゃあ、こうしようか、なぞなぞがとけたら、やきおにぎり一個と
カラオケ一曲をプレゼントするわ」
「それは、すごい。おねがいします」
「それじゃあ、なぞなぞしょうぶよ」
と、おおかみさんはずるそうなひょうじょうでいいました。
「かおをみたこともないふたごのいもうとが、山のむこうにいる、なーんだ」
「そんなのかんたん、こたえは××××だよ」
「くやしいわね。どうしてわかったの?」
「それはひみつです」
「うーん、まいったわね」
くんたくんは、おかみさんのみせで、やきおにぎりをごちそうになって、カラオケで
「熊さんの歌」をうたわせてもらいました。
でも、どうしたことか、いつものようにはうたえませんでした。まるで、こわれたレコードのような
声になってしまい、おかみさんにさんざんわらわれてしまいました。
おかみさんのみせをでて、また森のおくに歩いていきました。
くんたくんは歩きながら、おおかみのおかみさんのなぞなぞについてふりかえっていました。
−−ふたごのいもうとがやまのむこうにいるんだから、山のこちらからさけぶと、
山のむこうからもこえがかえってくるかなぁってそうぞうしたらわかったんだ。
(これがおはなしをよんでいるみなさんへのヒントです。かんがえてみてください。)
そんなふうにひとりごとをいって、くんたくんは、とけたなぞなぞのことをすべてわすれてしまいました。
しばらくあるいていくと、がけにでました。
下を見るとふかいたにのそこに月のひかりにかがやくたにがわが見えて、ちいさい川音もきこえました。
くんたくんはおもいきってがけをむこうまでとびこえることにしました。
ちょっとうしろにもどっていきおいをつけて走ってきて、とびました。
とびこえたとおもったとき、後ろ足がむこうのがけにぶつかりました。両手で木をつかみましたが、
うしろあしはがけをずるずるとさがっていきます。ぜったいぜつめい、おちそうです。
かおをまわししたをのぞくと、目がくらみそうなたかさです。たにそこからひゅーとかぜがふきあげてきます。
−−ここからおちるのか、とかんねんしたとき、「キャッキャッ」という声がきこえました。
おさるさんのさるおさんが両手でつかんでいる木にだきついています。
「たすけて、さるおさん、たすけて」
くんたくんは、かすれたこえでちいさくさけびました。
「きのうのゆめでぼくになぞなぞをかけたのはさるおさんじゃないでしょうね」
そんなきけんなしせいでしたが、くんたくんはききました。
「ない、ない、けっしてない、おれはムーンウォークのれんしゅうにいそがしかったから」
とさるおさんはくびをふって、それからから枝の上でムーンウォークをしてみせました。
彼が歩くと木もゆさゆさとゆれました。
しかし、くんたくんがつかんでいたのは木のねっこのところだったので、手がはずれることは
ありませんでした。
「だったら、おねがいです。そこの木にまきついているつたをほどいて、ぼくの口にかませてください」
手のちからと口のちからでからだをひきあげようと考えたのです。
さるおさんは、「キャッ」と一声さけんで、「なぞなぞがとけたらたすけてやろう」といいました。
「かおのあかいのもみえるし、おしりのあかいのもみえる、なーんだ?」
「そんなのかんたんだよ。こたえは×××、おちそうでなかったら、もっとむずかしいのをだしてよって
いうところだよ」
さるおさんは、木にまいているつたをほどいて、くんたくんの口にかませてくれました。
くんたくんは、口で体重をささえ、さるおさんに枝をゆすってもらって、木のちからもかりて、
どうにかからだをひきあげました。あらためてたにそこをのぞいて、あまりのふかさにくんたくんは
ぞってしました。
「ふー、たすかったなぁ。さるおさん、どうもありがとう」
くんたくんは、ていねいにかんしゃのことばをいいました。
さるおさんは、「キャッキャッ」とさけんで、くんたくんがとんだ向こう側の木にとびうつって
すがたがみえなくなってしまいました。
くんたくんは、おねにそった道をあるいていきました。
くんたくんは歩きながら、おさるのさるおさんのなぞなぞについてふりかえっていました。
−−自分のかおやおしりをみるのにつかうものはなんだろうなぁってそうぞうしたらわかったんだ。
(これがおはなしをよんでいるみなさんへのヒントです。かんがえてみてください。)
そんなふうにひとりごとをいって、くんたくんは、とけたなぞなぞのことをすべてわすれてしまいました。
しばらくおねづたいにあるいていくとぽつんと一つあかりが見えてきました。
近づいてみると、ちいさな山小屋でした。
木のとびらはしまっていましたが、おすとぎーと音をたててあきました。
中に入っていくとおじいさんが、揺り椅子にすわっていました。
「おじいちゃん、どうしてこんなところにいるの?」
「ゆめでしかあえないからのう、おじいちゃんは、いつもここにいるよ」
「なぞなぞをかけたのはおじいちゃん?」
おじいちゃんは、みんなのように「ない、ない、けっしてない」とはいいませんでした。
「どんななぞなぞだったのかな?……ぼくは、目がさめたとき、なぞなぞをわすれちゃった」
「そうか、わすれたのか……」と、おじいちゃんはいつものくせで口をもぐもぐしました。
「おじいちゃんのなぞなぞはな、とけないなぞなぞじゃ」
「とけないなぞなぞなの?」
「そうじゃ……、それから、口ではいえないなぞなぞじゃ」
「いえないなぞなぞなの?」
「そうじゃ、それからもう一つ、それはけっしてわすれてはいけないなぞなぞじゃ」
「わすれてはいけないなぞなぞなの?」
「そうじゃ、わかったかな」
「わからないよ、そんななぞなぞ……もっと、まじめにだしてよ」
くんたくんは、おじいちゃんのうでをつかんでからだをゆすりました。おじいちゃんは、なにもいわずに、
ねむたそうにあくびを一つしました。
「ねえ、おじいちゃん」
くんたくんは、はらをたててさけびました。
さけぼうとしました。でも、大きいこえをだそうとすればするほど、はっきりとしたこえがでません。
口がじゆうにうごかないのです。
「ねー、おーじーちゃーん」
とこえがひくくくぐもっています。くんたくんはじれったくて、はらがたってきました。
おもいっきりおおきなこえをだそうと、口を大きくあけようとしたとき、ふわーと目がさめました。
くんたくんはベッドからおきあがって、一つ大きなのびをしました。パジャマのままいまにでていくと、
おとうさんはとっくにおきていて、
とうみんにはいるまえに食べのこしたどんぐりの
かずをかぞえていました。おかあさんは、こそだてちゅうでまだおきていませんでした。
くんたくんは、おとうさんがすわっているソファのひじかけにちょっとこしかけて、
いつになくまじめなかおでたずねました。
「おとうさん、ゆめでかけられたナゾナゾはとけるのかな」
おとうさんはふしぎそうにくんたくんのかおをみあげました。
【完】
ふろく「なぞなぞのこたえ」
おはなしのなかのなぞなぞのこたえ、わかりましたか。
まず、まえがきのなかのなぞなぞ。
「いつもは足であくしゅ、さかだちしたら手であくしゅ、なーんだ?」
こたえはかげです。
いつもはじぶんの足とかげの足がくっついてあくしゅしているけれど、
さかだちすると、じぶんの手とかげの手があくしゅします。
わかりましたか。すこしむずかしかったかな。
では、おはなしのなかのなぞなぞにうつります。
さいしょはふくろうのみみずっくさんのなぞなぞ。
「お空の上でおいかけっこ、どちらがかってもうらみっこなーしよ。なーんだ?」
こたえは、お月さまです。
お月さまとお日さんは空でおいかけっこしているし、お月さんは、うらが見えないから、うらみっこなし、
なんですね。わかりましたか。
つぎはいのししのいのっちさんのなぞなぞ。
「まえにしかすすめないワニ、なーんだ?」
こたえは、自転車です。
自転車は前にしかすすめないし、輪が二個あるからワニなんです。
つぎはおおかみのおかみさんのなぞなぞ。
「かおをみたこともないふたごのいもうとが、山のむこうにいる、なーんだ」
こたえは、やまびこです。「ヤッホー」てさけぶと、「ヤッホー」ってかえってくるやつですね。
こちらからさけぶと、山のむこうにふたごのいもうとがいて、こえがかえってくるから。
つぎはさるのさるおさんのなぞなぞ。
「かおのあかいのもみえるし、おしりのあかいのもみえる、なーんだ?」
こたえは、かがみです。
じぶんのせなかやおしりを見ようと思ったら、かがみをつかうしかありませんね。
さて、さいごにおじいさんのなぞなぞ。
「おじいさんのなぞなぞはとけないなぞなぞ」
「口ではいえないなぞなぞ」
「わすれてはいけないなぞなぞ」
さて、このこたえはむずかしいです。
だれかわかりましたか。
じつはこの童話をかいたわたしにもわかりません。
でも、とけなくても、口ではいえなくても、おじいさんのなぞなぞのことをわすれてはいけません。
たいせつななぞなぞだからです。たいせつにたいせつにかんがえつづけなければならないということですね。
わたしもずーとかんがえつづけますから、みなさんもよーくかんがえてみてください。
そして、もしこたえがわかったらおしえてくださいね。
【あとがき】
1、文中の「ない、ない、けっしてない」という返事は、
宮沢賢治の童話「狼森と笊森、盗森」からお借りしました。
2、先に逝くものは、生きているものになぞなぞをかけているように思います。
そのなぞなぞは、ことばではいいあらわせないなぞなぞ、けっしてとけないなぞなぞですが、
残されたものは、そのなぞなぞのこたえを考え続けなければなりません。
この童話で、そういったテーマを伝えることができればと、祈るばかりです。
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