ホリディ・シーズン
日本では連休といえば4月末から1週間のゴールデンウィークであるが,そこは桁の違う国アメリカ,ウィークではなくホリディ・シーズンというものがある.それはまだ秋と言うには早い9月第1月曜日のLabor Day(労働の日)からスタートし,10月第2月曜日のColumbus Day(注1)(新大陸発見記念日),10月31日のHalloween(諸聖人の休日前夜祭:ハロウィン),11月11日のVeteran's Day(敬老の日),11月第4木曜日のThanksgiving Day(感謝祭),12月25日のChristmas(クリスマス),そして1月1日のNew Year's Day(元旦)まで延々と続いていく.勿論,日本のゴールデンウィークのように休日を1週間の中にてんこ盛りにしてある訳ではないからイベントとイベントの間は日常の活動をする.しかし,とはいってもそこは人間のすること,ましてバカ騒ぎを愛するお茶目なアメリカ人達である.そう簡単には事は済まない.夏休みボケと残暑の残る労働の日の頃はまだ皆おとなしくしているが,ハロウィンが近づくにつれて街には異様な熱気が拡がっていく.ショッピングセンターでは馬鹿でかいオレンジ色のカボチャが売りに出され,ドーナツ屋の店頭には緑やオレンジの砂糖でコーティングされたハロウィンヴァージョンのドーナツが並びだす.そもそもハロウィンは休日ではないのに皆が休日気分で,2・3日前から当日夜の仮装パーティに向けて準備をしだす.そしていよいよ街のそこここで魔女や悪魔の格好をした連中を見かけるようになるのだ.いい年をしたバアさんがワインレッドのドレスに白のエプロンを着ておまけに髪をコウモリの翼のようにまとめていたり,大学のトイレから巻紙(注2)を巻き付けたミイラ男が出てきたり・・・.よくもまあ恥ずかしくもなくと思うが,みんなで渡れば怖くない.当日ともなるとSun Tran(注3)の運転手(注4)も朝から顔に髑髏のシールを貼ってわざとらしく無表情で運転し,Fiddly Fig(注5)のレジの女の子達も黒のガウンに身を包んで真っ赤な口紅の顔をこちらに向けてニヤリと笑う.そして昼過ぎになると職場から次々に人が消えていくのだ.夜になると子供達が玄関の戸を叩いてお菓子をねだり(注6),大人達は仮面の下の本性を顕にして仮装パーティの夜を過ごすのである.この熱狂は感謝祭からクリスマスで最高潮に達する.人々は数週間あるインタバルを次のイベントの準備に打ち込んでいく.七面鳥を焼き,樅の木を飾り,プレゼントを買って・・・.
アメリカという国はけっして不真面目な国ではない.彼らはそれぞれが自身の仕事にプライドと愛着を持っていて,けっして作業を手抜きしたりはしない.いい加減なやっつけ仕事(注7)などは日本の土建屋の専売特許であろう.その証拠に,たかがハロウィンやクリスマスの準備にこの熱意である.しかしエコノミック・アニマル(注8)と呼ばれる人達などから,かの国が生産性が低いと罵られてきたのは何故であろうか.しかるにこの4ヶ月の饗宴こそがその元凶なのではないか.人々は4ヶ月にわたって飲み,食い,遊ぶのだ.人生の3分の1をホリディ・シーズンにつぎ込んでいると言い換えてもよい.生産性が落ちていくのは当然の帰結だろう.ちなみに彼らの多くがデブなのもこの狂乱の日々によるところが大きいだろう.
今でも私の脳裏に浮かぶのは,この4ヶ月の期間中ずっと流れていたカジュアルレストラン(注9)「ココス(注10)」のテレビコマーシャルである.それは9月中旬から流れ始めたのだ.金髪で美形,そそられるようなボディでキュートなお姉ちゃんがそのセクシーな肉体をミニスカート(注11)に包んで現れ,"Let's begin!"と曰うといきなり脳天気にエアロビを始める.すると画面にはスターターメニュー(注12)が次々と踊るように現れる.続いてこのイケてるネーちゃんはやおらミニスカートの足を高く上げて,"Up! Up!"と大股開きを敢行する.すると白い大きな皿の上にステーキ(注13)やパンケーキ(注14)が何枚も(注15)積み上げられていく.そしてネーちゃんの吐息のようにねっとりとしたソースやメープルシロップが止めどもなくかけられていく.そして遂に息のあがりかけたこの脳天気娘はまるで絶頂に達したかのように恍惚とした表情を浮かべながら,"Big finish!"と叫びつつスピンをするのだ.そして画面では湯気の立つあつあつのアップルパイの上を乳脂肪100%のアイスクリームがとろけながら回るように滑っていく・・・.ああ,麗しのホリディ・シーズン.この幸せを誰が止められようか.
1月1日夜をもってこの狂乱は終了(注16)する.1月2日,人々は無事に職場へと復帰を果たし,何事もなかったかのように世の中は動き始める.そしてココスのコマーシャルは一新され,この春のテーマはヘルシー&ダイエットだ,と真面目な声で宣伝を始める.昨日までは夢.何事もなかったかのように.
そしてこの変わり身の早さ,潔さこそがアメリカを世界の一流国の中に留まらせているのだろう.経済においても,エンタテイメントにおいても.