平等

 平等もまた、政策領域によって意味内容が変化する価値の一つです。

1.集団的戦略系

 集団的戦略系の政策における平等とは、戦略決定者選出に際しての、選挙権の平等として現われています。一人一票同価値の原則は、国民が、等しく政治的権利を行使できることを意味するのです(普通選挙)。この文脈において、この分野の平等は、民主主義と一体化しています。選挙権が、均等平等ではなく、財産の有無によって比例的に配分されていた時代もありました(制限選挙)。

2.内部調整系

 内部調整においても、平等は、戦略系と同じく選挙に際しての国民間の政治的権利の平等を意味しています。
 ただし、政策の内容に視点を移してみますと、この領域には、必ずしも平等原則に馴染まないものも少なくありません。例えば、農業保護政策や社会福祉政策といった弱い立場にある人々の保護は、平等原則をあえて廃して国民間の連帯性の観点から実施されています。国民の生活や所得水準、あるいは要求に違いがあるからこそ、この分野では、平等一辺倒ではなく、事業の公共性が問われることになるのです。
 その一方で、平等の原則は、国民の中にある利益対立を、一定の合意に導くための合理的な根拠に使われる場合もあります。例えば、税率や控除には、一律適用の均等平等の原則と所得額を基準とした比例平等が併用されています。ただし、これらの水準も人間が決定することですので、税率には、絶対的な数字は存在していません。
 なお、社会・共産主義では、”結果の平等”を唯一の統治の正当根拠とします。そこで、統制経済の国家では、平等は、国民から徴収された成果の均等配給を意味することになります。一方、自由主義国における社会民主主義系の政党は、所得の平準化のための累進課税の強化や補助金の増額を主張することになるのです(大きな政府への道…)。

3.秩序維持系

 秩序維持系における平等とは、まずは、”法の前の平等”です。全ての国民は、立場の強弱にかかわらず、また、財産の有無にかかわらず、その生命、身体、財産は、相互、かつ、平等に守られなくてはなりません。古今東西を問わず、かつては財産や身分による不平等があり、特権を有する人々がいる一方で、不条理な扱いを受けた人々もいました(現在では人権侵害として批判されます)。個人の自由と権利の空間が、相互に同等の範囲に保障されることによって、全ての国民は、他者からの侵害を案ずることなく、安定した生活を送ることができるようになったのです。
 また、市場の競争秩序を維持するためには、”機会の平等”を保つことは重要な前提条件です。市場のメカニズムは、新たな企業の参入や技術革新の成果の導入なくしては、発展の方向には働かないからです。

4.枠組系

 枠組系の政策領域にあって、”平等”という価値は、あまり積極的な意味を持ちません。なぜならば、国家の枠組みが存在する以上、国民と外国人との間には、国家の一員としての権利や義務において相違があるからです。この意味において、国民と外国人との間には、歴然とした区別があります。ただし、外国人には、それぞれ属する国家があるので、相互的な”区別”であって、”差別”とは言えないでしょう。
 しかしながら、秩序維持系の政策に関しては、外国人にも平等に法的な効果が及ぶ場合があります。それは、刑法や市場法などの分野です。戦略系と内部調整系、および枠組系の政策対象となる人的な枠組みと、秩序維持系の人的な枠組みは、一部ずれる可能性があるのです。


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