自由とは、民主主義以上に、文脈の違いによって多面的な側面を持ちます。 1.集団的戦略系 この政策領域にあって、自由とは、国民の政治的選択の自由を意味しています。この文脈において、民主主義と自由とは、表裏一体の関係にあります。国民は、国家の戦略を自由に論じ、戦略決定を行う政治家を自己の自由な意思に基づいて選ぶことができるのです。このためには、言論の自由や出版の自由など、付随する自由もまた保障されなくてはなりません。現代の憲法が、特にこれらの自由に言及するのは、かつて、国民には、こうした自由が保障されていない時代があったからです。 2.内部調整系 内部調整における自由もまた、民主主義と結びついています。国民は、自らの利益を政治の場に届けるためには、政治的自由が保障されている必要があるからです。仮に、為政者のみにこの自由があるとしますと、それは、国家の財産を全て我が物とし、国民の労力を搾取する独裁者となりまねません。政治的自由は、国民の合意を前提とした内部調整が行われるための前提であり、国家により一方的に課せられる奴隷的労役を防ぐことにもなるのです。 3.秩序維持系 秩序維持系の自由とは、相互に自己と他者とを隔てる境界線を踏み越えない限り、純粋な形で存在します。思想や信仰などの内面の自由は、この意味において不可侵です。ただし、内面の自由を超えて、イデオロギー集団や宗教集団が、他者の自由や権利を害して犯罪に加担するような場合は、この自由の保障は及びません。 経済分野にあっては、個々人の自由とは、職業選択、営業の自由、契約の自由、所有権の保障、などを意味します。これらの自由が保障されることによって、市場経済は、自律的な発展を遂げることができるのです。 この領域における自由の問題は、以上のように考えられるのですが、自由とは、近代政治学の発祥の地である西欧では、むしろ、教会権力や宗教的ドグマからの自由を意味していました。中世においては、社会秩序全体が、教会の管理のもとにあり、それは時にして、魔女裁判など、不条理な行為を認める場合もあったのです。この文脈における自由(Liberty)の意味内容は、他の領域の自由とは、いささか性格が異なっていると言うことができます。 4.枠組み系 枠組の維持において、自由は、国民が、自らの伝統や文化を保持する自由として理解できます。ただし、自らが生まれた国家の枠組みを出て、自由に外国に移住ができる自由や権利を無条件に人間が持っているか、という問題になりますと、そうではないようです。移住先の国家の枠組み系の政策との調整が必要ですし、また、国民国家体系自体の崩壊を招くかもしれないからです。 第4章へ戻る |